2022/12/23
早いもので、2022年も間もなく終わりを迎えます。
年末年始は、金融の規制監督の動向に関しても新たな話題に乏しくなります。
そこで本日は2022年に起きた重要な規制監督上の動向を整理してみます。
コロナ前の世界
リーマンショックの回復期からコロナショックまでの間、世界経済は順調に成長し、先進国、途上国ともに高い成長率を維持していました。それに対し日本経済は、震災の影響もあり2010年代の世界の中で圧倒的なアンダーパフォーム状態にありました。
他方で、2010年に日本を経済規模で上回った中国の存在感は年々増大し、これに対抗してトランプ政権が主導した米中貿易戦争は2010年代末には激しいものとなっていました。またこれに伴って香港の中国での位置付けも政治問題となりました。
さらに、好景気の持続による資源価格の高止まりは資源国の国際的な地位の相対的向上をもたらしました。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により世界は大混乱となり、続く2021年も感染拡大と無観客五輪の年となり、社会的には苦難の年でした。しかし金融市場は、各国中央銀行の大規模金融緩和を背景として、2021年後半に至るまで巨大バブルの様相を呈しました。
緩和バブル
ナスダック、暗号資産、絵画、ロレックス等のハイリスク資産やオルタナティブ資産が買い漁られ、日経平均株価もまた3万円を超えて1989年のバブル高値の回復すら意識され始めるレベルまで高騰。これに伴い、暗号資産交換業者も久々の高収益を記録するなど金融業界は一時的に大きく活性化しました。
しかし金融緩和によるバブルは、インフレを招来。インフレ対策の欧米による急速な金融緩和は、一気にバブル相場を萎ませる結果になりました。世界の株式は明らかにピークアウトしています。
暗号資産の価格低迷により、世界2位の仮想通貨取引所であったFTXはあっけなく破綻。創業者はバハマで逮捕され、アメリカへの身柄引き渡しが予定されています。
2022年の制度改正論議の背景とは
ここは経済コラムではないのでこれ以上市場の話はしませんが、我が国の金融規制の動向に関しても、こうした一連の世界の流れを踏まえたものであることを頭の片隅において把握したほうが理解が進みます。以下に順にみていきましょう。
資産所得倍増
昨年までの株式や不動産等のリスク資産に関する市場環境の良好さは、新しい資本主義実現本部資産所得倍増分科会での、NISAと金融教育を通じた国民の資産所得倍増計画に繋がっています。
仮にリーマンショック後、先進国及び途上国の株式及び債券を組み合わせて国際分散投資を行っていれば我が国の家計の資産所得は遥かに高い伸び率になっていたという、コロナ前に行われた政府試算が、資産所得倍増計画の背景にあります。
今年議論が持ち上がった、特定業態の投資助言・代理業の登録要件の緩和や一部の業規制の緩和、NISAの恒久化を始めとする制度改正議論はその延長線上にあると考えられます。
こうした流れのなかで、金融庁は本日付のパブリックコメントで、投資助言・代理業に関して以下の規制緩和を打ち出しています。
- 投資助言業務に係る登録の申請又は届出に係る使用人の見直し
- 投資顧問契約及び投資一任契約に係る契約締結前交付書面等の記載事項
- 投資顧問契約に基づく助言の内容を記載した書面に係る媒体の柔軟化
- 投資助言業務に関する貸付け等の禁止の適用除外の見直し
- その他所要の改正
いずれにせよ投資促進ともいえるこうした流れが政策として採用されていることは、基本的に昨年まで続いた市場環境の良さに一定程度まで裏付けられているとみるべきです。
国際金融センター構想
同じく政府の重要施策である国際金融センター構想に関しても、法規制及び税制の両面で、今年も促進策が継続して採用されています。
これは、リスク資産の長期的な堅調な推移に加えて、アメリカ政府が主導する2010年代後半からの米中経済のデカップリング政策と、それを受けた香港の地位低下を見越した、アジアの金融センター機能の東京への誘致構想が背景にあります。
他方、今年に入って、国際紛争により地政学リスクが意識されるようになり、経済安全保障や、閣議決定された国家安全保障戦略に基づく防衛費倍増もにわかに重要政策課題となっています。
これらの政策課題は資源価格の上昇や新興国の成長による世界のリバランスが共通する背景にあると見られます。
国際金融センター構想は、経済成長策であると同時に、西側世界の橋頭堡であるという我が国の地政学的な位置を反映した政策でもあります。税制の問題から必ずしも海外資産運用業者の集積が以前よりも進んでいるとはいいがたい現状ですが、長期的には意外と成果を収める可能性もあるように思います。
政府による金融ビジネスの活性化策を背景として、投資運用業者の新規参入促進が進められている一方で、今年は、既存の登録業者に対する善管注意義務や忠実義務に対する厳しい姿勢も目立っています。
資産運用ビジネスの高度化やプロダクト及び企業統治の改善を求める姿勢は、資産所得倍増計画と金融センター構想のインフラ、いわば土台となる資産運用業者に対して、高いスタンダードを求める当局の姿勢が反映されたものといえます。
デジタル資産関連
大規模な金融緩和により、昨年は、株式や債券などの伝統的資産や、不動産等の伝統的オルタナティブアセットに限らず、暗号資産等のよりオルタナティブな資産にも多くの資金が流れ込んでいました。
それを受けた昨年のデジタルアセットの資産価格の高騰を背景にして、政府は暗号資産、セキュリティートークン、NFT等のデジタルアセットをweb3.0の構成要素と位置付け、新たなる成長策として重視する姿勢を明らかにしています。
こうした流れの中で、10月には、金融庁がNFT等のデジタル資産に関して新たなガイドラインを示すとの方向性が報じられています。
注目度が高まると規制が強化される我が国の規制監督の先例に漏れず、暗号資産交換業者は新規参入に関しては抑制的な姿勢は続いており、暗号資産の自主規制団体による上場審査の緩和も、全面的な撤廃には至っていません。金融庁の研究会でもDeFiやDAO等の新しい業態的に対して否定的な見解が相次いで示されています。
他方で、主に大企業が主導するセキュリティートークンやPTSに関しては、これを促進する取り組みと調査研究が続けられており、4月には大阪デジタルエクスチェンジが開業しています。
さらに、ステーブルコインに関しても、デジタルマネー類似型のステーブルコインに関しては、今年の資金決済法改正により明確な法令上の位置付けと業規制が定まりました。また、アルゴリズム型のステーブルコインに関しても、引き続き当局で調査研究が継続されています。
マクロな環境と金融規制
こうしてみると、基本的には今年の政府の重点施策は、リスク資産の価格が高止まりすることがある程度その前提にあるように見受けられます。
資産価格の継続的上昇は、リーマンショックからの回復期から長期間継続し、なかでも新型コロナウイルスの感染拡大後の大規模緩和で一層進みました。
そして資産価格の上昇とパラレルに進行したリバランスによる地政学リスク増大も併せて政府の重点施策に影響しています。
さらにいえば、同じく今年議論された、第二種金融商品取引業のメジャー業態であるソーシャルレンディングに対する規制強化策も、その根本的な背景としては経済環境が横たわっています。
リーマンショック後の金融緩和の長期化による低金利により、高利回りを謳うソーシャルレンディングに対する個人からの投資需要が相対的に高まったにもかかわらず、それに見合った制度整備がなされていなかったことで、問題が噴出した経緯があるからです。
久々の本格リセッション?
こうした従来の経済環境は、今年大きな曲がり角を迎えました。
各国中央銀行の利上げ継続とリセッション入りが予想される来年以降の経済環境において、こうした規制監督の政策的の前提となる経済構造がどこまで維持されるかは大いに注目されることです。
年単位で動く法規制は、月単位、週単位で動く市場に置いてきぼりにされるのはある意味当然です。また家計の資産所得倍増を目指す政府方針は、より長い時間軸の資産形成を見越したものではあります。
しかしながら、仮に株価指数の低迷が長期化した場合、少なくとも短期的には逆風の中での投資促進政策となりかねません。
年末のご挨拶
大きな事件が起きない限り、ニュース記事の更新は年内はこれが最後の予定です。読者の皆様、今年も小稿にお付き合いを頂きましてありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。