2022/10/07
令和4年10月4日付の日本経済新聞は、Web3で利用されるデジタル資産に関して、金融庁が取引に関する指針を作成すると報じました。かかる指針では、金融庁の規制対象外のデジタル資産と、規制対象である暗号資産や有価証券の差異に関して線引きが示されるとみられます。
資金決済法に掲げる暗号資産の定義は下記の通りです。
法令の定めはやや曖昧であって、その暗号資産の定義は、金融商品取引法に掲げる有価証券概念に比して、歴史的な解釈の積み上げに乏しく、法律上その周縁が必ずしも明らかではありません。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
デジタル資産と暗号資産
金融庁は既に、2022事務年度の金融行政方針で、暗号資産とデジタル資産の違いを定義するガイドラインを作成する方針を示しています。さらに、今回持ち上がったデジタル資産と暗号資産の違いを定義するうえでの実務上の目線の中心は、おそらくNFTにあるとみられます。
Web3関連の近年のバズワードのうち、DAOやメタバース・トークン等は基本的に業規制の論点です。一般論として、DAOトークンは、セキュリティー・トークンか、暗号資産に該当することはほぼ確実と見られます。これらを金融規制に服さないデジタル資産と見るには無理がある気がします。
古くは、The DAO事件で多大な投資者被害を生じさせた実績のあるDAOに対する、投資者保護上、有効な規制は、運営に関連する多段階のレイヤーに対する一定の業規制であるとみられます。
同じく業規制上、監督すべきコアが存在しない規制上の問題を有するDefiとあわせて、こうした自律分散スキームに対する実効的な規制は、業規制では重要な論点です。
とはいえ、規制上の思想ベースとなる金融商品取引法(及びそのエッセンスを取り込んだ資金決済法)では、規制は「開示」、「業規制」、「不公正取引」の三要素から成り立っています。DAOやDefi等関連業者に対する規制は「業規制」であって、デジタル資産が有価証券や暗号資産に該当するかという、「開示」理論の論点とは、直接的に繋がっていません。
真のNFTは金融規制外
収益分配性ないし仕組み性があるブロックチェーン関連資産と異なり、NFTは、ネットゲーム内アイテム・トークン等と同じく、暗号資産に原則として該当しないと解されています。
そのため、現在多くの事業者がこれを金融規制上は、無登録で取扱っています。実際、絵画等の交換価値はあるものの、流動性に乏しく、また、収益配当性のない現物資産を原資産とするNFTは、金融規制の対象から外れる可能性が高いスキームです。
他方で、NFTは規制がないという話を断片的に聞いた事業者が、収益配当性のあるNFTを発行して資産証券化の計画を立てる例を散見します。しかしこれは、募集又は私募に第二種金融商品取引業の登録が必要な、集団投資スキームのバスケット規制概念を理解していない発想といえます。
NFTで特定の資産を流動化させたり、特定の投資有価証券持ち分を流動化させたいというような構想を仄聞することがありますが、かかるブロックチェーンベースでの収益配当性がある権利は、金融商品取引法上、「電子記録移転有価証券表示権利等」としてセキュリティー・トークン扱いであり、顧客に提供(投資運用業含む。)するには変更登録を要します。
政治の動き
金融庁は、同4日に「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第7回)議事次第を公表しました。ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等の推進や、セキュリティートークンに関する制度整備等は、同議事次第でも改めて引用されています。
また、金融庁以外も複数の動きが出てきています。
自民党のweb3プロジェクトチームや、保護育成の色彩が強い経済産業省、デジタル庁の動きなどもあり、最終的な規制の在り方がどうなるか、金融庁の動きだけ見ていてもわかりません。政府の重点政策に位置付けられていることもあり、非常に政治的な状況にあります。規制動向から目を離せません。