行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

少人数私募債を発行する

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少人数私募債を用いたスキーム少人数私募の条件勧誘制限証券会社への販売依頼通算規定通算ルールの計算法出資法の適用利息制限法の適用少人数私募債の利用少人数私募債の商品設計私募外債の発行疑似私募債及び金銭債権少人数私募債のその他留意点特定商取引法の適用

少人数私募債を用いたスキーム

デット性の資金調達や証券化では、少人数私募債がよく用いられます。少人数私募債とは、株式会社や合同会社などの会社が、会社法に基づき、金融商品取引法の定める一定の少人数の者に対して行う社債の発行勧誘です。

当事務所では、ファイナンス分野の専門事務所として、金融法人、投資会社及び大都市圏の中堅及び大企業様向けに、少人数私募債を利用した資金調達のドキュメンテーション及び各種手続き面での支援もいたしております。

少人数私募の条件

企業経営に関与している方であれば、「少人数私募債」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。なかには、その定義をなんかとなくご存知の方も多いと思います。こちらでは、「少人数私募」の形式で社債の発行を行う条件に関して説明します。

なお私募には、少人数私募だけではなく特定投資家私募及び適格機関投資家私募からなるプロ私募もあります。詳細は後述の通りです。

さて、少人数私募に該当する場合には、発行会社は自社の役職員による自己私募又は証券会社に私募の取扱を行わせる限りにおいて、金融商品取引業登録、有価証券届出書の提出、社債管理者の設置等を求められず、源泉徴収に関連する税務上の手続きを除き、特段の行政手続なしで社債の発行及び私募を行うことができます。

つまり、少人数相手に自社で社債を募集する場合には、特に許認可届出等はいらないということです。

なお、証券業界には「公社債」及び「私募債」という、雑な言葉がありますが、少人数私募社債は「公社債」のうち、「公債」ではなく「社債」であり、「公募債」ではなく「私募債」となります。

しかし、公社債、私募債という言葉は、その債券が金融商品取引法上、第1項第何号の有価証券に該当するか特定できないため、法的にはバズワードにあたります。ビジネスの場では、用語しての厳密性を欠くので、あまり使わない方がいいでしょう。

勧誘制限

社債の発行勧誘が、「少人数私募債」として認められるには、勧誘相手(声かけベース)が50人未満(3か月通算規程あり。旧6か月から改正。)であること、社債の発行総額が社債の一口額面の50倍未満であること、一括譲渡を除く譲渡制限を設けること等のいくつかの条件があります。

逆に言えば、もし総額1000万円以上の発行で、勧誘の声かけ人数が50人以上になる場合や譲渡制限を設けない場合には、金額に応じて1億円未満は有価証券通知書、1億円以上は有価証券届出書の提出が必要になります。

また発行総額が一口額面の50倍を超えると会社法に基づく社債管理者の設置が必要になります。その場合は、いわゆる少人数私募債の定義から外れ、一気に発行手続きのハードルが高まります。

なお、金融機関、機関投資家等のプロ相手には、別途、プロ私募(適格機関投資家私募(勧誘の相手方が適格機関投資家のみであり、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第11条に基づく適格機関投資家以外への譲渡制限があること)又は特定投資家私募)の制度もありますので、金融機関、機関投資家を相手方とする勧誘の場合には、適格機関投資家私募を利用することも多く見られます。

証券会社への販売依頼

自社で投資家を勧誘するだけではなく、有価証券業を行う第一種金融商品取引業者(いわゆる証券会社)は、日本証券業協会の社債券の私募等の取扱い等に関する規則を遵守したうえで、少人数私募社債の私募の取扱い(発行会社に代わる取得加入)を行うことができます。

ちなみに「社債券の私募等の取扱い等に関する規則」が制定されたのは、診療報酬債権等流動化債券(レセプト債)に関する偽計事件の発生がその背景にあります。

平成29年の同規則の制定当時には、私募の取扱者に対して綿密な審査義務を課すなど、かなり踏み込んだ規則のように感じられました。しかしながら、金融商品取引業に対する事前及び事後のモニタリング義務は実務上強まる一方です。

また、こうした動きとパラレルに、これに先立つ平成27年には、電子申込型電子募集取扱業務における発行体の審査義務が新設された他、事業型ファンドの問題頻発を背景として、通則規定として平成30年に制定された一般社団法人第二種金融商品取引業協会の事業型ファンドの私募の取扱等に関する規則でも事業型ファンドの審査及びモニタリングの義務が定められました。

詳細はこちらの記事でも解説しています。

社会のトレンドは、販売に関与した金融商品取引業に対して、より綿密な審査及びモニタリングを課す方向に向かっています。実際、メガバンク系某証券会社が上場主幹事になり、2010年に上場廃止になった某社の大規模粉飾決算について、2020年12月22日、最高裁は、賠償義務の免責を認めた東京高裁判決を破棄し損害額を算定するため審理を高裁に差し戻す判決を出しています。

事実上の結果責任に近い取扱者等の販売者の善管注意義務は、金融庁でソーシャルレンディングの更なる規制強化論議が進む現在では、概ね妥当な内容といえます。よって、金融商品取引業者が私募社債を取扱いする際には、その発行時の取扱い審査及び事後モニタリングには、相当のリソースを投入する必要があります。

通算規定

勧誘の人数の計算には通算の規定があります。(1)有価証券の募集(売出し)を開始する日前1年以内に同一の種類の有価証券の募集(売出し)をしている場合で、発行(売出)価額の総額を通算して1億円以上となるとき(2)有価証券の発行日以前3月以内(令和4年1月29日施行。従来の6か月から改正)に同一種類の有価証券を発行している場合で、勧誘の相手方の人数(延べ人数)を通算して50名以上となり、かつ、発行価額の総額を通算して1億円以上となるとき(3)有価証券の売付け勧誘等が行われる日以前1月以内に同一種類の有価証券の売付け勧誘等が行われた場合で、勧誘の相手方の人数(延べ人数)を通算して50名以上となり、売出価額の総額を通算して1億円以上となるときは、それぞれ有価証券届出書が必要となります。

通算の規定は、同一種類(概ね、利率、償還期、通貨が同一)の社債について行われます。つまり、投資家に勧誘をしていい人数は、「声掛け」ベースで同一の種類の社債につき、3か月で49人となります。

通算ルールの計算法

何をすると勧誘に該当するかという定義は、法令上は明確に定められていません。しかし例えばインターネットに募集要項を掲載して出資を募るだけでも、勧誘が1ユニークアクセスあたり1名に行われたと扱われる可能性もあります。金融商品取引法に違反しないよう、十分な注意が必要です。

本項では、浅い知識に基づき「何が勧誘か法令上ははっきりしません」といった、素人のようなレベルの低い議論をするつもりはありません。

しかし、そもそも、平成21年の金融法委員会の議論や、金融商品取引法に基づく第一項有価証券及び第二項有価証券の勧誘数の判定の違い、適格機関投資家等特例業務における当てはめの論理的矛盾その他の事情を総合的に勘案して、なおも勧誘該当性の明確な線引きを設けることは困難であると思われます。

通算基準は、利率、償還期、通貨が同じものにつき49人ですので、これらが異なる社債であれば、別途に独立して49人を計算することになります。よって、1法人につき3か月で49人という趣旨の制限ではありません。

なお、ここで、1億円以上の社債発行をする際には有価証券届出書が必要なのかという質問をよく受けます。しかし、1億円以上の募集が制限(有価証券届出書の提出)されるのは、同一の通貨、利率、償還期の社債に関して、49人以上に勧誘をした場合です。私募での1億円以上の発行は、旧証券取引法時代には異なる規定もあったとされますが、いずれにせよ現代の社債では、有価証券届出書は不要です。ただし1億円を超える発行の場合には、一定の事項の告知義務(私募告知)がありますので、注意が必要です。

出資法の適用

出資法第2条第1項で「業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。」とあり、同第2項で「前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。一 預金、貯金又は定期積金の受入れ二 社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの」と定められており、出資法上、不特定多数からの預り金と評価される態様※での社債の発行はできません。

※社債が金融庁の事務ガイドラインに定める以下の4つの要件に全て該当する場合、出資法2条の「預り金」に該当し、出資法違反を構成する可能性がありますので留意する必要があります。

・不特定かつ多数の者が相手であること
・金銭の受け入れであること
・元本の返還が約されていること
・主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること

よって、不特定多数の者に勧誘をするスキームで、利殖性が高く事業性(実業性)が低い案件は、社債を利用した資金調達を行うことはできません。なお、ここでの「不特定多数」の定義は複数の判例がありますが、総じて広く解される傾向があります。そのため、親族や既存取引先等の親密な縁故者以外に募集をかける場合には出資法の抵触性に関して慎重に検討する必要があります。

利息制限法の適用

社債に利息制限法が適用されるかという論点が存在しますが、従来は利息制限法が適用されるものとして、上限利息の枠内で発行されるのが一般的でした。しかしながら、東京地裁の令和元年6月13日判決では、社債に利息制限法は適用されないとしています。他方、同判決及び東京地裁平成30年7月25日判決では社債に名を借りた実質的には金銭消費貸借であれば利息制限法の適用があるとされています。

この論点に関して、令和3年1月26日、最高裁判所が社債に対する利息制限法の適用の有無について判断をしました。結論としては、社債の発行の目的、募集事項の内容、その決定の経緯等に照らし、当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの「特段の事情」がない限りは、利息制限法の適用はないと判示され、長年の論争に決着がつきました。

これによって、社債の利息は、出資法の刑罰利息である年109.5%(ただし、社債権者が業として金銭を貸し付ける者の場合には年20%)が上限となります。

少人数私募債の利用

当事務所では、事業資金調達目的の社債発行に限らず、証券化事業としての少人数私募債発行に関しましてもコンサルティングを行っております。機関投資家や金融機関を引受先とする私募社債の発行手続きの支援に関しても、多数の実績がございます。

不動産・再生可能エネルギー発電所等の証券化やフィクスト・インカム投資など、対象事業からある程度の固定的な収益が見込めるスキームの場合、出資法に違反しない様態での設計ができれば、ファンド形態を取らずに少人数私募債での資金集めも可能となります。そのため過去の関与実績としてはこうした案件での活用事例が多いです。

また適格機関投資家等特例業務や金融商品取引業の登録は検討しておらず、ファンドの形態を取る予定もない資金調達で、勧誘は親密な関係先を予定しており、公衆から広く資金を集めないときも、少人数私募債を用いたスキームが利用されます。

前述のように、役職員が自らが勧誘をする限りにおいては、少人数私募債の自己募集に該当し、金融商品取引業に該当せず、開示義務も負わないので、当局への業規制に基づく登録や報告を原則としてなしで行うことができます。

ただし、上述のように社債の取扱(代理販売のこと。親会社による子会社の社債の販売勧誘等も含む)は、第一種金融商品取引業に該当するので、金融商品取引業の登録を受けない限り行うことができません。よって、販売を証券会社の以外の代理店に委託したり、販売に対する業務委託費を払ったりすることは、違法行為となるのでできません。証券会社又は自社の役職員以外が社債の販売に関与しないように、厳しく律する必要があります。

少人数私募債の商品設計

社債の商品性に関しては、経済的にファンドに近い設計もできます。社債は原則として投資家に対して元利の満額の償還義務を負いますが、投資事業に少人数私募債を用いるにあたっては、社債の元利払いの財源を投資対象事業関連収益及び資産に限定し、ノンリコース(責任非遡及)型とすることが可能で、こうした社債は、責任財産限定特約付社債と呼ばれます。

ただし、こうした場合には、ノンリコース条項を発動させた場合の債務免除益の発生を考慮した設計が必要になります。なお設計の仕方次第では、債務免除益が課税されないスキームも存在しています。

さらに、社債の投資家への利払いは基本的に法人の損金と認められることから、ファンドのパススルー課税と類似の効果もあります。ただし、一部のオフショア地域で認められている「利益連動債(利益参加型社債)」に関しては、日本の会社法はこれを妨げる明文の規制はなく、定款に定めれば「法律上」は発行が許容されているとされていると解されています。

しかしながら、税務上は、課税当局が支払利息を損金として認めない可能性が高いと考えられていることから、実務上内国での発行は困難であると考えられています。

なお、同じく一部オフショア地域で発行されているMTN(ミディアムタームノート)のように随時発行をする社債を日本でも発行することができるかが、時に議論になりますが、会社法に基づき社債は発行の都度、募集の総額や払込日等を詳細に決める必要があるので、MTNに類する社債の発行はできないと考えられています。

MTN同様、必ずしも会社法の手続きを踏まずに随時発行されている社債を、一般相手に多く発行する事業会社を内国でも散見しますが、これは金融商品取引法だけではなく、会社法・出資法にも違反する可能性があると解されます。

私募外債の発行

会社法に基づく社債の発行に関する説明をしてきましたが、金融商品取引法では内国法人による社債も外国法人の社債も、ほぼ同様の勧誘規制としています。具体的には、外国法人が外国法に基づく外国社債を発行する場合でも、自己募集かつ少人数私募に該当する場合には内国法人同様、金融商品取引業登録も有価証券届出書の提出も要しません。

なお会社法第818条に基づき、外国会社は日本で登記をしない限り日本において取引を継続してすることはできないことに留意が必要です。また会社法第821条に「日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない」との定めがあります。外国社債の発行会社が擬似外国会社に該当しないかについても慎重に検討する必要があります。

さらに、社債の発行者たる外国法人そのものの、税務上の安定性もスキーム検討では考慮する必要があります。

例えば、外国法人の計算で各種の投資事業を行っているとしても、運用指図が国内からなされている場合には、当該事業が国内源泉所得に該当しないかという論点や、当該外国法人が、タックスヘイブン対策税制の外国関係会社に該当し、直接間接のエクイティーホルダーたる内国法人又は居住者が、外国子会社合算税制の納税義務者にならないか等、多面的な検討が必要です。

疑似私募債及び金銭債権

擬似私募債は、少人数私募債の形式に準じて発行される、金銭消費貸借契約にもとづく金銭債権です。社債が発行できない社団法人、財団法人や、NPO法人等も社債に類似した債券を発行できるため、資金調達の手法として利用される場合があります。こうした金銭債権のうち、流通性のある学校債は金融商品取引法上、みなし有価証券に位置付けられており、2項有価証券としての各種規制に服します。

それ以外の疑似私募債及び金銭債権は、金融商品取引法では有価証券に該当しないものとされています。なお、疑似私募債のうち、医療機関債に関しては、厚生労働省は、厚生労働省医政局長通知『医療機関債』発行のガイドラインについて」に基づきこれを発行するよう求めています。

他方、社団法人や財団法人の擬似私募債は、社団法人において、法人法の位置付けが明示された基金とは異なり、借用書同様、単なる借金の存在を示す証書を超える法令上の根拠はないといえます。

その他、金銭債権の関連では、ファクタリングは貸金業に該当しないため、真正なファクタリング債権の譲渡に関しては、有価証券としての開示規制・業規制に服せず、当事者間で特段の行政手続きを踏むことなく適法にこれを行うことができます。近年、新たな資金調達手段として、ファクタリング事業に注目が広がっていますが、具体的なスキームが、金融商品取引法の定める集団投資スキーム規制、貸金業法の定める貸金業規制及び出資法に違反しないかは、慎重に検討する必要があります。

なお、我が国と異なり、米国証券法は一部の金銭債権の証書も有価証券に位置付けています。個人的には、本邦でも流通性のある金銭債権に関しては、有価証券として規制の枠組みに取り込むことが望ましいと考えています。

少人数私募債のその他留意点

社債発行を行う際は、実質的にファンド的な経済実態にある「名ばかり社債」にならないように、手続き面でも実態面でも社債としての実質を担保し、取得者にも事前にきちんとしたリスクと事業内容の説明を行うなど、金融商品取引法や会社法を遵守した正確な手続きが求められます。

投資家に対する必要的私募告知や社債内容の法的な制限なども多々ありますので、違反することがないように細部まで注意が必要です。また、一般論として、社債は元本を保証してしまう性質を有するがゆえに、いままで再三述べてきた出資法への抵触性も、極めて慎重に検討する必要があります。判例や金融庁の事務ガイドライン等に十分配慮した設計が必要です。

特定商取引法の適用

平成29年12月1日からは、改正特定商取引法が施行されました。これに伴い、一定の社債その他の金銭債権や、一定の株式会社の株式、合同会社、合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するものが新たに特定商取引法の規制対象に位置付けられました。

社債を特定商取引法に定める訪問販売(事務所外の契約等)や電話勧誘等の形式で個人に販売するにあたっては、書面の交付、クーリングオフ等の特定商取引法に定める規制に服する必要があります。

当事務所では、どのような手続きと勧誘をすれば少人数私募社債の自己募集として適法に資金調達ができるかについての金融法人、投資会社及び大都市圏の中堅から大企業様からのご相談をお受けしております。

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