行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

暗号資産交換業と資産の国内保有命令

2022/11/12

当然ながら、ビジネスには業界毎の個別性があって、世間が混乱していても、特定の業界では安定した秩序が続く時代もあれば、世間が安定していても、特定業界のみ混乱が続く場合もあります。

令和4年現在、動きが大きいのは、世界からワンテンポ遅れつつも我が国が国策として注目するweb3.0関連です。

2022年の暗号資産業界は、新たな混乱の時代になりました。2014年のMt.Gox事件、2017年のビットコインバブルに続き、2022年、暗号資産業界は新たな受難の時を迎えています。

仮想通貨市況の暗転

新型コロナウイルスの感染拡大に対応した、各国中央銀行の大規模な金融緩和を背景に、急激な上昇を続けたビットコイン価格は、2021年11月9日には1BTC770万円超の最高を記録しました。

FRBによる利上げの遅れもあって、2022年に入って顕著になったインフレ傾向を受けた金融引き締めの動きにより、ビットコイン価格もまたピークアウトしました。とりわけ今年の夏からは長期間にわたり低迷が続いています。

さらには、漏洩により関連会社の財務情報が報じられたことが端緒となり、今月に入って経営危機に陥っていた大手の米国某社が、今週の金曜日についに連邦破産法に基づく破産申請(いわゆるchapter11)したと報道されています。これを受けて、ビットコイン価格は本日時点で1BTCあたり233万円台まで下落しています。

関東財務局による行政処分

こうした状況を受けて、関東財務局は、破産申請に先立つ令和4年11月10日付で、当該某社に対して、1か月間の暗号資産交換業(現物仮想通貨)及び金融商品取引業(暗号資産関連デリバティブ取引)業務停止命令及び業務改善命令を発出しています。

注目されるのは、同時に関東財務局(証券監督第1課)から、金融商品取引法第53条の3に基づき「貸借対照表の負債の部に計上されるべき負債の額(保証債務の額を含む)から非居住者に対する債務の額を控除した額に相当する資産を国内において保有すること。」を命ずる業務改善命令が出されていることです。

(資産の国内保有)
第四十九条の五 金融商品取引業者は、内閣府令で定めるところにより、金融商品取引責任準備金の額、損失準備金の額及びその全ての営業所又は事務所の計算に属する負債のうち政令で定めるものの額を合計した金額に相当する資産を、国内において保有しなければならない。

(資産の国内保有)
第五十六条の三 第四十九条の五に定めるもののほか、内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認める場合には、金融商品取引業者に対し、その資産のうち政令で定める部分を国内において保有することを命ずることができる。

金融商品取引法

資産の国内保有命令は、日本に支店や日本法人を有する外資系の金融グループが破綻したときに一般的に出される命令です。

関東財務局は「信用不安となっている旨の報道がなされており、当社との資本・取引関係を踏まえれば、速やかに投資者の新たな取引を停止させるとともに、当社の資産が国外の関連会社等に流出し、債権者及び投資者の利益が害されるといった事態を招かぬよう」と目的を説明しています。

とはいえ、報道では暗号資産が米国等の外国で管理していた場合には法令の適用関係が不明確であるため、利用者財産が全額返還されるかは不透明であるとされています。

資金返還と法令の適用関係

金融商品取引法の規制対象である差金決済取引(暗号資産FX)である暗号資産関連デリバティブ取引に係る資産は、信託保全されているため、おそらく資金は返ってくるでしょう。

他方で、暗号資産交換業において、顧客から預かっていた現物暗号資産に関しては、「履行保証暗号資産の保有」と「分別管理」は法令で義務付けられているものの、肝心の暗号資産の保有が海外でなされていた場合には、これを日本の利用者が回収できるのか、はっきりしません。

法令の限界

資金決済法を確認する限り、保有する現物暗号資産の国内保有義務はもちろんのこと、有事の際における、監督当局から業者に対する資産の国内保有命令権すら定められていないようです(現時点での条文レビュー結果に基づきますので暫定。)。

実際、関東財務局金融監督第6課が所管する暗号資産交換業に係る行政処分には、資産の国内保有命令は盛り込まれていません。

海外での暗号資産保管は、法令が想定しておらず、利用者保護上の盲点であったことが今回の一連の事態で明らかになったといえるかもしれません。

制度改正か

今回問題になっている某社は暗号資産交換業と金融商品取引業の双方の登録を有する事業者でしたので、金融商品取引法に基づき「貸借対照表の負債の部に計上されるべき負債の額(保証債務の額を含む)から非居住者に対する債務の額を控除した額」というカバー範囲の広い命令を出すことが可能でした。そのため、暗号資産交換業における資産の国内保有命令の不在は問題になりませんでした。

本件は、これからどのような展開になるかはわかりません。しかしいずれにせよ、今後を見据えて、外資系の暗号資産交換業者の現物暗号資産の保有に関しては、クロスボーダー規制を見直す必要がありそうです。

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