行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

投資関連新資格の導入と新機構創設

2022/12/01

令和4年11月28日付の日本経済新聞は、政府が、資産形成に新資格制度を設ける方針と報じています。この方針は、11月25日に新しい資本主義実現会議の資産所得倍増分科会の資産所得倍増プラン(案)で示されたものです。

また、同プランは「中立的なアドバイザー制度の創設」を求めるとともに「官民一体となった金融経済教育を戦略的に実施するための中立的な組織として、既述のとおり、新たに令和6年中に金融経済教育推進機構(仮称)を設立する。その際、日本銀行が事務局を担う金融広報中央委員会の機能を移管・承継するほか、運営体制の整備や設立・運営経費の確保に当たっては、政府・日本銀行に加え、全国銀行協会・日本証券業協会等の民間団体からの協力も得る」としています。

現在の法制度では、FP等の資格があっても、投資助言・代理業の登録を受けない限り、個別の商品に関して投資助言ができません。

そこで、中立的なアドバイザー制度の創設と並行し「助言対象を絞った投資助言業(例えば、つみたて NISA やiDeCo における投資可能商品に限定)の登録要件の緩和を、必要な監督体制の整備と併せて検討する」としています。

自主規制団体の活用

新組織及び新資格制度とは、思わぬ話が出てきました。

販売会社や投資顧問会社等の既存事業者の中立性に疑義があることが、新制度の創設の要因とされていますが、一般社団法人日本投資顧問業協会をベースとした制度改革もありえたように思えます。

とはいえプラン案でも「全国銀行協会・日本証券業協会等」と言及されているように、投資運用業及び投資助言・代理業の自主規制団体である一般社団法人日本投資顧問業協会は必ずしも前面には出てきていません。

一般に当局は、全銀協や日証協との信頼関係は厚いものの、それ以外の自主規制団体とは一定の距離があるとも聞きます。さらに、投資助言・代理業者の協会への加入率が必ずしも高くないことと関係していると思います。

それもあってか、資産運用ビジネスの規制変更は、第一種金融商品取引業第二種金融商品取引業で採用される自主規制規則の改正を通じた法令によらないソフトアプローチよりも、当局が自ら法令改正を行い、実定法により直接規制する傾向があります。

業界構造シフト

規制当局や協会に問題があるわけではなく、従来の投資顧問業界、とくに投資助言・代理業者の在り方に問題があったといえます。平成の時代には、投資顧問業者には今よりもずっと兜町・鉄火場色が強い時期がありました。長きにわたって、資産形成のアドバイザー機能が十分に果たせてこなかった面があります。

しかしながら、こうした制度改正論議に先立って、令和に入ってからの投資助言・代理業の新規登録例をみると、政府の求める中立的アドバイザー像に近い事業者の占める割合が既に以前より飛躍的に増えている感じがします。

資産所得倍増プラン(案)での税制議論

資産所得倍増プラン(案)では、その他も基本的に金融庁での従来の議論をなぞった政府方針が示されていますが、資産運用ビジネスに関して注目しておきたいのは、税制に関する議論です。

「国際金融ハブ」ついて、政府は「我が国は、香港やシンガポールといった国・地域とはそもそもの成り立ちが異なるものの、税負担が弱みとなっていることは否定できない。そのため、資産運用会社の役員報酬に係る税制上の扱いや外国人高度金融人材に対する相続税課税の見直しなどがこれまでにも行われているが、海外の高度金融人材・金融事業者からみて日本進出の障害とみなされている課題を始め、「国際金融ハブ」に向けた税制上の諸課題について把握し、必要な見直しに向けた対応を行う」と、さらなる税制上の取り組みを行うことを明記しました。

当事務所は、普段より多くの香港、シンガポール等の海外所在の海外資産運用業者から複数の対日参入の相談を受けています。しかし、対日マーケティング拠点創設ではなく、政府がやりたいような資産運用拠点自体を海外から誘致をするためには、明らかに所得税率、法人税率、キャピタルゲイン課税が問題となっています。

制度見直しの必要性

例えば、キャピタルゲイン課税を廃止し、所得税率と法人税率を香港並みに下げれば、多数の資産運用業者の運用拠点を対日誘致が可能であるとみられます。とりわけ、中華系資本には、グレーターチャイナ圏外に対するビジネス拠点の分散に関する巨大なニーズがあります。

実際には、租税の公平性等の政治的問題もありますので、こうしたドラスティックな改革は土台無理でしょう。しかし、漸進的な制度改革はいずれにせよ進めていく必要があると解されるところ、金融庁は従来より継続的に関連税制の見直しを行うことを掲げています。

税制改正要望等に反映されるであろう財政当局も関連する論点において、政府は「資産所得倍増プラン(案)」で、改めて継続的な税制の見直しに向けた対応をすることを確認しています。論点としては今更ではありますが、個人的には、これが「国際金融ハブ」の本丸と考えているので、ここで議論を取り上げました。

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