行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

暗号資産の審査、金融監督の動向等

2022/10/21

あまり総花的になると誰も読まなくなるので、平素よりニュース記事はできるだけ論点を絞って掲載しています。しかし今週は、金融商品取引業者であればフォローしておくべき項目が多くなっています。やや雑多な内容にはなりますが、仕方ありません。順に取り上げて紹介します。

暗号資産の上場審査の廃止

10月19日のブルームバーグの報道によると、かねてから問題になっていた、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)による暗号資産(仮想通貨)の上場前審査を原則撤廃する方針が決まったようです。

上場前審査を巡っては、今年6月の報道で既に撤廃方針が示されていました。金融庁は、JVCEAの上場前審査が長期間要して非効率的であることを問題視していたとされており、撤廃は既定路線通りです。報道によれば、早ければ年内に新ルールに移行するようです。

事前審査に代わり、上場する際には事前の協会への報告と、事後の定期報告の義務が課せられ、協会のモニタリングは事後となるようです。

もっとも、報道では事前審査の撤廃対象からは、暗号資産のICO、IEO及び国内初上場暗号資産を除くとしています。肝心の部分が骨抜きになっている感もあります。なお、記事では協会幹部が、将来的にこれらに関しても事前審査を廃止する方向性を示したとされています。

暗号資産の自己資本比率計算上の取扱い

金融庁は、令和4年10月19日付けで「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令」等の改正を公布しました。これは、従来禁止されていた信託銀行による暗号資産の信託の解禁にかかるものです。

改正監督指針では「銀行以外の信託兼営金融機関は、暗号資産を含む信託財産の管理又は処分を行う信託及び信託財産の管理又は処分において暗号資産関連デリバティブ取引を行う信託を営むことができないことに留意する(兼営法規則第3条第1項第6号)。

銀行である信託兼営金融機関は、管理型信託業に限定して暗号資産を含む信託財産の管理又は処分を行う信託を営むことができるが、信託財産の管理又は処分において暗号資産関連デリバティブ取引を行う信託を営むことができないことに留意する」と示されています。

また、公布にあわせて、金融庁は自己資本比率規制に関するQ&A等を更新し、信託銀行が保有する暗号資産の規制上の取扱いを明確化しました。暗号資産は、無形固定資産に準じる取扱いとして、当分の間、普通株式等Tier1資本に係る調整項目又はコア資本に係る調整項目として、自己資本比率計算の分子から控除(自己資本控除)することで確定しました。

業界団体との意見交換会

金融庁より、令和4年9月開催分の「業界団体との意見交換会において金融庁が提示した主な論点」が公表されています。日本証券業協会と投資信託協会に対して提示した論点は、金融商品取引業者にとって注目すべき規制監督の動向を示すものです。

日本証券業協会に対する論点

日本証券業協会に対する提示論点で注目されるのは「8.顧客本位の業務運営に関する「金融事業者リスト」の公表について」です。数年来、当局主導で取り組まれてた顧客本位の業務運営に関する原則に関し、金融庁ははっきりと既存の金融業界の取り組みは不十分という認識を明らかにしています。

金融庁は、日本証券業協会に対して以下の認識を示しています。なお、顧客本位の業務運営に関する原則の不徹底性に関する議論は、次節の金融審議会での議論とも繋がっています。

金融事業者からの報告や公表内容を確認したところ、原則の文言を形式的になぞるだけで「自らの取組方針とそれに対応した取組状況が十分に示されていない事例」や「取組状況を踏まえた取組方針の見直しが行われていない事例」が認められるなど、顧客本位の業務運営の重要性や「見える化」の趣旨が十分に理解されていないことが窺われた。

金融事業者が顧客本位の業務運営の「見える化」に取り組むことは、

・ 自らの取組みの差別化を示すことができるなど、顧客を含む様々なステークホルダーに対するPRになる、
・ 経営陣が営業職員の顧客に向き合う姿勢を検証できる、
・ 営業職員が日頃の営業姿勢を見直す良い契機にもなる、

と考えられるため、各社におかれては、その趣旨を理解の上、経営陣の十分な関与の下で、しっかりと対応いただきたい。

業界団体との意見交換会において金融庁が提示した主な論点 [令和4年9月 20 日開催 日本証券業協会

業界内では、「顧客本位の業務運営に関する原則」は、平成26年頃のフィデューシャリーデューティー論に端を発し、森元長官の肝煎りで制定された政策と理解されていましたが、法令としての拘束力を有しないことに加え、政権与党や金融監督当局の政策方針ひとつで、容易に転換されうるものとして、当初は必ずしも真剣に受け止められていなかったというのが実情だと思います。

しかしながら、岸田政権の資産所得倍増プランが、名実ともに我が国の重要課題になるにつれ、その先見性が明らかになるとともに、国民の「資産所得倍増」を実現させるためのプラットフォームとして、金融商品取引業者の社会的な重要性は飛躍的に高まっています。

こうした流れを受けて、「顧客本位の業務運営に関する原則」は、当初の業界側の懐疑的目線に反して継続性を持った、いわば「国策」の位置にまで高まっています。

投資信託協会への論点

令和4年9月 15 日開催の投資信託協会に対して提示した論点は、日本証券業協会に対するよりも多弁です。「顧客本位の業務運営に関する原則」に関して、日本証券業協会に対すると同じ見方を示す一方、投資信託協会に対しては「3.顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」において、「多くの販売会社においては販売態勢面での実践や、取組方針等の「見える化」に課題があり、その背景には顧客本位の業務運営を経営課題として取り組んでいない可能性があること」を指摘しています。

また「7.資産運用業の高度化について」では、経営体制、プロダクトガバナンス、目指す姿・強みの明確化、という3つの課題のうち、現状、「金融行政方針」にもある通り、特に「プロダクトガバナンス体制」重視するとの姿勢を示しています。

さらに、先日行われたREIT の資産運用会社に対する業務停止命令にも言及し「親会社との円滑な関係を構築することは、REIT の安定的な運営にとって重要な要素であるという実態がある一方、もっとも優先すべきは REIT 及び投資家の利益であるということを改めて認識いただく必要がある。」と結んでいます。企業グループ系投資運用業者の親会社との特殊な関係性そのものには一定の理解を示しつつ、利益相反管理の重要性を改めて示した金融庁のメッセージだと思います。

顧客本位タスクフォース議事録

令和4年9月26日に開催された金融審議会の「顧客本位タスクフォース」(第1回)議事録が公開されました。今後の金融庁の規制監督の動向を占ううえで、非常に示唆に富む内容ですので、ここで紹介します。

野尻委員からは、第一種金融商品取引業で約16%、金融商品仲介業で約1.8%しか、顧客本位の業務運営に関する原則を公表していないことに対して驚きを示すとともに、「金融庁としては、この公表していない大多数の方々に、その理由等をヒアリングされていらっしゃるのでしょうか。もしそれがあれば、どういったところが、この比率を上げていくかについての大きな示唆を与えてくれるのではないかと思いました。」と発言しています。

これに対して、日本証券業協会は「第一種金商業者の中におきましても、リテール向けのビジネスを行っていない社も含まれているのではないか」と指摘するとともに「第一種金商業者の50社が公表と資料に示されていますが、こちらは自社の取組方針等を公表しただけではなく、一定基準を満たしたとして当局の確認を経た事業者の数であると認識をしております。」としており、「基準を満たしたとは認められなかった社の中には、原則を咀嚼して、自社なりによく考えて、決して原則の文言を形式的になぞっただけではない取組方針を策定したのに、なぜ基準を満たしていないと評価されるのか、その理由が分からないという社もあるところでございます。」と現状の背景を説明しています。

審議会では顧客本位の業務運営に関する原則の制定等の義務化の論議すら登場しており、当局が想像以上に問題意識をもって、本気で取り組んでいることが明らかになりました。

FP権限拡大論

また既に報じられていた、顧客に対する資産運用アドバイザーに関しては、現状投資助言・代理業をはじめとして、複数の業態が並立しており、必ずしも十分に機能していないと認識されているようです。

とりわけFPに関しては、島田委員から「ファイナンシャルプランナーにおいても、つみたてNISAの対象商品ぐらいについては言及してもよいといったように、アドバイスの範囲を若干広げてさしあげる必要があるのではないかと考えております。」との発言があり、事前報道通り、FPの権限拡大についても議論の対象になっています。

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