行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

適格機関投資家等特例業務届出者の行為規制遵守

2023/01/20

令和5年1月17日付にて、関東財務局から適格機関投資家等特例届出者3社に対する行政処分が発表されています。行政処分の内容はいずれも業務改善命令であり、関東財務局は各社に対し命令に対する対応・実施状況を令和5年1月31日までに当局に報告するよう求めています。

今回の行政処分は「事業年度ごとに事業報告書を作成し、毎事業年度経過後3か月以内に関東財務局に提出しなければならないにもかかわらず、事業報告書を提出していないことから、同項に違反する」ことが、各社に対する処分理由となっており、いわゆる手続義務の違反です。

一昔前によく見られた悪意の法令違反や詐欺的事案などの実質的悪質行為を契機とした行政処分ではありません。そのため、当局もここに至るまで、再三に渡り事業報告書の提出を督促し、また早期に対応することを慫慂してきたものと思われます。

テレビドラマ等の影響もあり、世間では、金融庁・財務局は法令違反に対して何でも行政処分を出すような印象を持たれていることがありますが、実際には行政処分まで至るケースには、そこに何らかの故意性、重過失、悪質性又は常習性のいずれかがみられる事案が殆どです。

軽微手続義務違反や一過性過失による事務ミスで行政処分に至る例は例外的です。

以前も書きましたが適格機関投資家等特例業務届出者に対するこの種の行政処分は、一定期間において、同じく一定の要件を満たす事業者に対し一斉に行われている傾向があります。おそらくは対象事業者については事業報告書の未提出期間が相応の長期に渡ったという背景があるものと推測します。

適格機関投資家等特例業務届出者への監督と検査

適格機関投資家等特例業務届出者に対して、監督当局は金融商品取引業等に対するのと同様の報告徴求命令臨店検査を行うことができます。

そのため、平成20年代の半ばには適格機関投資家等特例業務届出者に対する臨店検査が高密度に実施されていた時期がありました。

しかしながら、こうした状況は平成27年の金融商品取引法改正で、適格機関投資家等特例業務届出者に対する行為規制の導入及びファンド持分の取得勧誘が可能な顧客属性に大幅な制限が設けられたことに加え、直近5年間程度では金融行政が検査重視から、オンサイト・オフサイトを併用する総合的なモニタリングに移行したことにより大きく転換しました。

ここ数年は、適格機関投資家等特例業務届出者に対する検査は年間で0~数件程度と非常に稀になっています。実務ベースでも、このところ適格機関投資家等特例業務で詐欺的な投資者被害が生じたという話はあまり聞いたことがありません。

適格機関投資家等特例業務の落とし穴

当事務所が金融商品取引法施行時の適格機関投資家等特例業務の制度発足当初から継続的に関与してきて感じるところでは、適格機関投資家等特例業務はその参入の手続的容易さに比較して行為規制等の業規制が投資運用業者及び第二種金融商品取引業に匹敵するほど複雑であるがゆえに、届出者が法令等遵守を完全に実現するのは容易ではないと思います。

適格機関投資家等特例業務には金融商品取引法、犯罪収益移転防止法(AML/CFT含む)及び金融サービス提供法等の複数の法令が関係し、こうした法律に関係する政令や内閣府令等も膨大な量になります。

完全に把握してミスがないようにオペレーションすることは難しいことです。

その点、適格機関投資家等特例業務と同等の業務を行う第二種金融商品取引業者投資運用業者では、経験者である常勤のコンプライアンス担当者が求められます。しかし、適格機関投資家等特例業務届出者には人的構成要件がないことが、その傾向に拍車をかけています。

届出済みの適格機関投資家等特例業務届出者で、その行っている業務において何らの手続違反や法令違反がない事業者は非常に少数派であると思います。

業規制のソフトロー化

直近の適格機関投資家等特例業務届出者の行う事業で実際の投資者被害に至る事案が少ないことは、レギュレーション自体は有効に機能していることを示しています。

実際、適格機関投資家等特例業務の該当性等の根幹部分は厳密性のある規制として機能しています。適格機関投資家がいないファンド組成や、適格機関投資家や特例業務対象投資家以外の一般投資家を直接的又は間接的に出資者に取り込むような悪質な法令違反はほぼ行われていません。

しかし、制度の根幹部分以外の業規制に関連する詳細規制は、PDCAプロセスが社会として機能していないため「ソフトロー」化している現状があると指摘することは可能であると思われます。

もちろん頻繁に改正されている金融規制において、ノーミスのコンプライアンスを実現することは事実上不可能です。どれだけ大手の金融機関であっても軽重の差はあれ内部には故意又は過失による法令違反的事象が存在してるのが現実だと思います。

しかしながら、適格機関投資家等特例業務届出者にあっては自主規制団体もなく、外部から強制されるPDCAプロセスが必ずしも十分に機能していないことにより、実質的被害がいない状況ながらも、その傾向に拍車がかかっているように思います。

こうした規制動向は水物であり、適格機関投資家等特例業務届出者においては、規制当局等による外部的な法令等遵守圧力が必ずしも高くない状況においても、不断の内部管理態勢の強化に務め、法令上も社会的にも適切な業務状況を維持することが、長期的には企業価値の最大化及び事業の永続化に繋がると考えています。

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