行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

報告書の提出命令について

このページの目次
報告命令(報告徴求・報告聴取)の位置付け任意調査報告の聴取と検査虚偽報告等への罰則報告命令の類型報告義務の追加特定条件を満たした場合の報告命令個別業者への調査目的の報告命令報告命令その他行政処分の時効

報告命令(報告徴求・報告聴取)の位置付け

金融庁及び財務局は、金融商品取引業者、登録金融機関、適格機関投資家等特例業務届出者及び金融商品仲介業者等、金融商品取引法に基づき規制される者を多数監督しています。当局が、こうした監督下の者に対し、事業報告書等の法令に基づく定期的な報告事項及び届出事項以外の事項を調査したいと考えている場合、いくつかの手法があります。

以下、本記事では基本的に、金融商品取引業者及び登録金融機関関連(金融商品取引法第56条の2)及び適格機関投資家等特例業務届出者関連(金融商品取引法第63条の6)、海外投資家等特例業務届出者関連(金融商品取引法第63条の14)に対する報告の徴取及び検査を主な念頭において議論します。

なお、以下ではこれらを総称して便宜的に「金商業者等」といいます。これに対して「金融商品取引業者等」は金融商品取引業者及び登録金融機関の意味であるため使い分けに注意してください。

他にも、同様に金融商品取引法に基づき当局の監督下に置かれている自主規制団体、金融商品取引所、指定親会社、金融商品仲介業者、信用格付業者、高速取引行為者、認定協会、投資者保護基金、指定紛争解決機関などをはじめとする非常に多くの類型の者に対して報告の徴取や検査制度が存在します。

さらに、無登録営業をする者に対しても報告命令が及びますし、資金決済法に基づき暗号資産交換業者も同様の規制に服しています。金融庁の権限が及ぶあらゆる者に、基本的に本議論は妥当しますが、全てを混ぜて議論すると話が複雑になるため、実務上、登場頻度が高い者に議論を絞ります。

なお、当記事は、金融庁、財務局の監督手法に関して、金商業者等も制度を適切に理解し、監督当局の求める義務を的確に遂行する一助となることをその目的としております。当事務所として、個別の事業者に対して、当局の監督手法の効率性を低下させるような義務潜脱や虚偽又は不適切な報告に加担することはありませんので、その点はご留意ください。

任意調査

はじめに挙げられるソフトな調査手法として、任意のヒアリングや資料提出依頼があります。こうしたヒアリングや依頼は、法的強制力を伴わないものです。

一般に、こうした依頼は、日常の規制監督の延長線上での参考情報や、潜在的な問題点発見のための予備的調査の性格が強く、当然ながら直ちに行政処分に直結するものではありません。

とはいえ、こうした任意調査を発端として、後述する法的強制力を伴うより公式な調査に移行することも珍しくありません。こうした任意の調査であっても、緊張感をもって、金融商品取引法を理解したうえでの適切な報告をすることが求められます。

報告の聴取と検査

法令上の強制力を有さない任意調査以外に、法的に強制力のある調査の手続きも存在しています。そのひとつは、金融商品取引業者等の営業所等に立入検査を実施する、いわゆる「臨店検査」です。臨店検査の拒否や虚偽資料の提出等は検査忌避として刑事罰があります。

また、金商業者等の監督において、臨店検査と並ぶメジャーな監督当局の調査の手法として、金商業者等に対する報告命令(「報告の徴取」や「報告徴求」とも呼称。)があります。例えば、金融商品取引業者等(前記の通り「金融商品取引業者及び登録金融機関」のことを指します。)に対しては、金融商品取引法第56条の2に以下のように報告の徴取及び検査の定めが置かれています。

金融商品取引業者等以外にも、取引をする者、委託先等の業務関係者も、一部義務の対象に含まれています。適格機関投資家等特例業務届出者等の他業態にも、金融商品取引業者等に対するのとほぼ同等の報告の徴取及び検査の定めが存在しています。

(報告の徴取及び検査)
第五十六条の二 内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、金融商品取引業者等、これと取引をする者、当該金融商品取引業者等(登録金融機関を除く。)がその総株主等の議決権の過半数を保有する銀行等(以下この項において「子特定法人」という。)、当該金融商品取引業者等を子会社(第二十九条の四第四項に規定する子会社をいう。以下この条において同じ。)とする持株会社若しくは当該金融商品取引業者等から業務の委託を受けた者(その者から委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。以下この項において同じ。)に対し当該金融商品取引業者等の業務若しくは財産に関し参考となるべき報告若しくは資料(当該子特定法人にあつては、当該金融商品取引業者等(登録金融機関を除く。)の財産に関し参考となるべき報告又は資料に限る。)の提出を命じ、又は当該職員に当該金融商品取引業者等、当該子特定法人、当該金融商品取引業者等を子会社とする持株会社若しくは当該金融商品取引業者等から業務の委託を受けた者の業務若しくは財産の状況若しくは帳簿書類その他の物件の検査(当該子特定法人にあつては当該金融商品取引業者等(登録金融機関を除く。)の財産に関し必要な検査に、当該金融商品取引業者等を子会社とする持株会社又は当該金融商品取引業者等から業務の委託を受けた者にあつては当該金融商品取引業者等の業務又は財産に関し必要な検査に限る。)をさせることができる。
2 内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、金融商品取引業者(第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者に限り、外国法人を除く。以下この項において同じ。)の主要株主(第二十九条の四第二項に規定する主要株主をいう。以下この項において同じ。)若しくは金融商品取引業者を子会社とする持株会社の主要株主に対し第三十二条から第三十二条の三まで(当該金融商品取引業者を子会社とする持株会社の主要株主にあつては、第三十二条の四において準用する第三十二条第一項若しくは第二項、第三十二条の二第一項又は第三十二条の三第一項。以下この項において同じ。)の届出若しくは措置若しくは当該金融商品取引業者の業務若しくは財産に関し参考となるべき報告若しくは資料の提出を命じ、又は当該職員に当該主要株主の書類その他の物件の検査(第三十二条から第三十二条の三までの届出若しくは措置又は当該金融商品取引業者の業務若しくは財産に関し必要な検査に限る。)をさせることができる。
3 内閣総理大臣は、第一項の規定による場合を除き、第三十六条第二項の規定の遵守を確保するため必要かつ適当であると認めるときは、特定金融商品取引業者等(同条第三項に規定する特定金融商品取引業者等をいう。以下この項において同じ。)の親金融機関等(同条第四項に規定する親金融機関等をいう。以下この項において同じ。)若しくは子金融機関等(同条第五項に規定する子金融機関等をいう。以下この項において同じ。)に対し当該特定金融商品取引業者等の業務若しくは財産に関し参考となるべき報告若しくは資料の提出を命じ、又は当該職員に当該特定金融商品取引業者等の親金融機関等若しくは子金融機関等の業務若しくは財産の状況若しくは帳簿書類その他の物件の検査をさせることができる。
4 内閣総理大臣は、第一項の規定による場合を除き、第四十四条の三の規定の遵守を確保するため必要かつ適当であると認めるときは、金融商品取引業者の親銀行等(第三十一条の四第三項に規定する親銀行等をいう。以下この項において同じ。)若しくは子銀行等(第三十一条の四第四項に規定する子銀行等をいう。以下この項において同じ。)に対し当該金融商品取引業者の業務若しくは財産に関し参考となるべき報告若しくは資料の提出を命じ、又は当該職員に当該金融商品取引業者の親銀行等若しくは子銀行等の業務若しくは財産の状況若しくは帳簿書類その他の物件の検査をさせることができる。

金融商品取引法第56条の2

虚偽報告等への罰則

報告命令は、法令に基づく正式な命令であり、また、報告命令に対して報告若しくは資料を提出せず、又は虚偽の報告若しくは資料を提出すると、金融商品取引法に基づき、1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する罰則があることに担保された制度です。

よって、規制当局が重大な事案でありオフィシャルな形で回答を得たいと考えている場合、金商業者等に対して、通常「報告書の提出について」や「資料の提出について」などのタイトルで、命令番号(「〇財証〇第〇号」という形式)が付された命令書が発送されることになります。

命令書には、通常「本命令に関し、報告若しくは資料を提出せず、又は虚偽の報告若しくは資料を提出した場合には、法に基づき処分されることがあるので申し添える」等と記載されています。これに加えて、疑惑が深くより厳格な報告を命じたいと考えている場合、上記の罰則があることや、不回答の場合には社名公表がなされる可能性についても追加的に申し添えがなされる場合があります。

報告命令の類型

報告命令には実務上、いくつかの類型があります。すべての報告命令が個別の金商業者等に対する行政処分に直結するような重篤な内容ではありません。

コンプライアンス担当者には、金商業者等に届いた命令が、重大な不利益処分が予想される内容なのか、はたまた単なる形式的な調査なのか、正確に見極める眼力が求められます。

報告義務の追加

報告命令の類型のひとつに、当局として定期的又は一定の条件の下に事業者から報告を受けたい事項に関して、一律に命令を出す場合があります。これは、事実上の命令による立法であり、一定の条件を満たす金商業者等に対して原則として一律の報告義務を課すこととなります。

例えば、第一種金融商品取引業者クラウドファンディング業態第二種金融商品取引業者などでシステム障害が発生した場合に提出することが義務付けられている障害報告書は、もともとは報告命令を根拠とするものです。

また、毎年の5月末までに一定の業態及び規模の事業者に求められている「取引実態、並びに、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の実施状況等に関する報告事項」(ギャップ分析等)に関しても、報告命令を法的根拠としています。

その他にも、金融商品取引法や金融商品取引業等に関する内閣府令等の成文法には定めがないにも関わらず、金融商品取引業者が実務上提出を求められている定期、不定期報告事項は実務上、複数存在しています。こうした命令に基づく定期報告事項は、第一種金融商品取引業者に係るオフサイトモニタリング、(中間)決算状況票など、第一種金融商品取引業者に多いイメージです。

また、定期的ではないものの、各業者の対応状況等の確認等、当局が一律に関係事業者に特別に報告を求めたい事項がある場合にも、アンケートではなく報告命令の形式が取られる場合があります。例えば平成27年に第二種金融商品取引業者に社内規程の整備義務に係る法改正が施行された際、当局が第二種金融商品取引業者に対して一律に整備状況の報告を求めた例があります。

特定条件を満たした場合の報告命令

報告命令の中でも、一定の発動条件を満たした事業者に対して、一律に出される命令があります。

例えば、第一種金融商品取引業者や第二種金融商品取引業者などの、顧客資産の預かりがありうる業態の金融商品取引業者が廃業等の公告の届出を行うと、当局から登録取消しの事由の有無、弁済見込み、簿外債務がないことの確認等を求める報告命令が来ることとなります。

これは、なんらかの行政処分が念頭にあるというよりは、特定の手続きに紐付いて、事業者から法定事項以外にも正式な申告を受けておく必要があると認められる事項に関して、当局が報告命令を発している例です。命令を受けたからといって、基本的には睨まれているというわけではありません。

また、正式な報告命令ではありませんが、適格機関投資家等特例業務において事業報告書の提出遅延の際の督促に関しても、特定条件を満たした場合、機械的に送付されている可能性があります。これは、経験的には、当局に睨まれた結果の個別性のある依頼ではなく、特定時点で特定の期間遅延している適格機関投資家等特例業務届出者を一斉に行政処分するための手続きの可能性が高くなっています。

こうした類型は、前記の「報告義務の追加」のうち、定期調査の性格を持っている報告命令の類型と比べると、その後の不利益処分が念頭に存在している点で、慎重かつ適切に対応する必要があります。

しかしながら、後述の個別の調査を目的とする報告命令と比べて、過度に神経質になる必要はなく、金融商品取引法に基づいて求められていることを粛々と適切に遂行して報告すれば問題ない事項であることが多いといえます。

個別業者に対する調査目的の報告命令

報告命令のうちでも、とくに「報告徴求」という通称を使用する場合には、個別業者に対する調査というニュアンスを含んでいる気がします(非常に微妙な語感なので必ずしもそうではないという異論もあることは承知しています。)。

特定の事案の調査を目的として、特定の金商業者等及びそれに関連する者(金商業者等と取引をする者等)に対して発される報告命令は、その先に何らかの行政処分等の不利益処分が想定されるケースが多くなっています。

また、直接的に命令を受けた者に対しては嫌疑がかかっていない場合でも、調査対象になっている事項に関連する第三者に対して、不利益処分が想定されるケースもあります。

例えば、適格機関投資家等特例業務届出者がファンドに関して法令違反を行っている場合で、そのファンドに対して出資を行っていた適格機関投資家に対して、「適格機関投資家等特例業務届出者と取引をする者(金融商品取引法第63条の6)」として、報告命令が発せられる場合もあります。

こうした場合、当該適格機関投資家が金商業者等であればさておき、そうでない場合には通常、適格機関投資家に対して当局による何らかの不利益処分が行われることはありません。よって、この場合は適格機関投資家等特例業務届出者側への行政処分が念頭にあっての関係者への反面調査ということになります。

ただし、こうした場合、適格機関投資家であれば何をやっても問題ないわけではありません。虚偽報告には罰則がありますし、関与の程度があまりに悪質な場合には「公表」という奥の手はあります。

なお、報告命令に回答した後、その内容を受けて追加報告の命令がある場合もあります。また、報告命令の内容を踏まえ、検査権限の及ぶ者には必要に応じて臨店検査が実施される場合もあります。

なお、行政処分で「業務改善命令」を受けた後の改善の状況に関連し、業務改善命令に基づく改善報告書の提出から一定の時間が経過した場合には、新たな報告命令が発せられ、業務改善の進捗状況の報告が求められる場合もあります。

報告命令その他行政処分の時効

報告命令は、行政手続法上は、名宛人にとって、強制力を伴う行政処分です。また、より一般的に「行政処分」と呼称されている業務改善命令や業務停止に関しても、行政手続法上は同じく行政処分です。

こうした手続きは、刑罰法規によるものではありません。よって、行政処分に違反したことをそのものをもって、直ちに刑事処分に付されることはありません。当該行政処分に違反した際に刑法上の罰則が予定されている行政処分であっても、行政刑罰とは異なりますので、改めて検察官による公訴提起がなされない限り、違反したことそのものをもって、直ちに刑法犯になることはありません。

しかしながら、実務上、これを突き詰めていくと行政処分のほうが刑事よりも恐ろしい面があります。

第一に、黙秘権が保証されないことです。当局への質問への真実の回答義務及び依頼された資料の提出義務があります(法学を学んだ者であれば全員知っているであろう「川崎民商事件」参照)。自己の不利益な事実であっても法的にはありのままにこれに答えないと、検査忌避罪で逮捕、起訴される可能性があります。

第二に、時効がないことです。刑事訴訟法で明確に時効が定まっている刑法犯と異なり、行政処分には時効がありません。金融商品取引業の監督実務では、財務局の書類保存年限を超える一定以上の過去の事案はよほどの悪質性がない限り原則として不問とする実務慣行はありますが、殊更の悪質性がある場合や、現在進行形の法令違反と直接接着する過去の事案では、その限りではないとみられます。

なお、こうした事案を実務で見聞きするに従い、少なくとも金融商品取引業のフィールドでは、小狡く悪さをするよりもマトモに運営するほうがずっと合理的だとわかってきます。実際、当事務所の経験では、他人を欺いて不正をする焼畑農業的事業者より、誰に何を言われても問題ない公明正大な運営をするモンスーン農業的事業者の方が、長い目でみればずっと儲かっている気がします。

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