行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

投資詐欺の法令と被害

2022/07/29アップデート:某芸能人の投資トラブルの話題(記事内リンク)

投資詐欺の分類

詐欺の商材

いわゆる投資詐欺は、大昔からありますが、時代により流行りになる商材には違いがあります。IPOバブルに沸いた00年代には未公開株詐欺が隆盛でしたが、今では昔ながらの未公開株詐欺は、ほとんど見られません。

一昔前は、ファンド詐欺やFX自動売買詐欺、少し前は、仮想通貨詐欺、直近では投資型国際ロマンス詐欺など、そのトレンドは時代に色濃く影響を受けます。

特殊詐欺

こうした詐欺的投資勧誘を行っているグループにはいくつかの系統があって、振込詐欺に端を発したグループは、反社会的勢力と密接に関係している特殊詐欺性が強い属性です。こうした中には、出資金の受け渡しも現金やレターパックを利用するなどして、足がつかないようにするなど、その業態がほとんど振込詐欺と区別ができないグループもあります。

振込詐欺を母体とするグループの勧誘対象顧客層は、多くの場合、高齢者であって、いわゆる名簿リストを利用した電話勧誘や訪問で出資を勧誘する傾向が強いです。勧誘の際には、時に劇場型勧誘をし、また、電話や書面で名乗る事業者や事務所が実在しないことも多く、受け子が詐欺罪で現行犯逮捕されたりすることもあります。

こうした特殊詐欺系のグループは、第三者の目線で見ると、少しでも実態を作って事業をしていれば、ただちに違法とは言えない状況となるのに、なぜわざわざ、自ら進んで現行犯逮捕の対象になる完全な詐欺をするのは不思議に思うこともあります。

貧困者福祉としての犯罪?

実際にこうした特殊詐欺系のグループの実態を伝え聞くところ、経営は、ほぼ反社会的勢力が支配しており、従業員は、学校教育をほぼ受けておらず、場合によっては知的障害とのボーダーラインにいる者も多いとされ、社会に居場所がない若者の、事実上「セーフティーネット」になっているという実情もあるとされています。

似た議論は、一定の消費者及び従業者保護上の議論を伴う業態でも存在します。社会的に賛否がある商法であっても、事業者は一定のセーフティーネット機能を果たしており、取締りを厳格化することは、従業員の働く場を奪うとの主張です。

こうした意見には、一定の求心力はあるものの、いわゆる社会的「日陰」に属するあらゆる業態をごった煮にして、雑な議論をするわけにはいきません。他人の生命、財産及び尊厳を傷つける商売と、他人に迷惑をかけない商売は質的に異なります。

総じて、それにより生命、身体、財産を侵害される人がいない業態に関しては、自己決定権の範囲だと思います。勤労の美風や善良の風俗のような抽象的価値観を国が押し付けて法規制することは、パターナリスティックな制約に属すると考えます。

しかし、「被害者」がいる業態に関しては、上記と同様に考えることはできません。

詐欺集団から強盗団へ

令和に入ってからは特殊詐欺グループが「タタキ」と称される強盗行為を行う集団へと転換する例も増えています。主に歌舞伎町等の治安の悪い繫華街を拠点とし、振込詐欺その他犯罪収益により多額の現金を退蔵しているグレーな資産家の自宅に強盗に入り、情報提供者には強奪額の1割の謝礼を払うスキームが存在しています。

こうした犯罪スキームの存在は令和5年に発生したフィリピンを拠点とする強盗団の検挙事例でも改めて明らかになっています。

なお、実際に強盗に入って現金が存在せず、虚偽情報であると明らかになった場合には、情報提供者はただでは済まないと言われています。

こうした強盗団や情報提供者は社会悪そのものであって、徹底的な厳罰化により一刻も早い警察当局による根絶が待たれることは、論を待ちません。

MLM

ある意味で投資詐欺業界の底辺である特殊詐欺系業者に対して、MLM系のグループはそれよりも総じてマトモで、悪徳商法色が強いとはいえ、実態のあるオフィスと組織を備えている傾向があります。

MLM系のグループは、上位の役職者が高級車、高級時計、タワーマンション等の過度に瀟洒な生活を見せびらかして、また、SNSも併用して成功をキーワードに比較的若年の出資者を勧誘する傾向にあります。

MLM系の投資スキームの内容は、必ずしも完全な詐欺ではない場合も多く、場合によっては収益が出て配当がある程度続くケースも見られます。もっとも、資本コストという意味では、MLMは極めて効率の悪いスキームであって、モノの販売であればともかく、投資スキームでは、これが長期間、破綻せずに継続した例はほぼありません。

凡そ、仲買、卸、問屋、あるいは小売等の自ら主体的リスクを負う流通業者を除き、多段階の紹介料等の連鎖販売、MLMの特定負担を伴う事業スキームに、原則として商道徳上正常な事業は存在しません。

実際、金融商品取引業の手続分野のプロとしての自負を持つ当事務所でも、外部事業者の有償の顧客の紹介はまったく不要ですし、そうした集客の勧誘は冷笑の対象です。他方で、ご紹介する他の先生に対して、紹介料を請求することもありません。

金融商品取引業においては、登録IFA等の登録業者、節税目的のレバレッジドリースの紹介をする税理士等の正常事業者を除き、無登録で取引の間に入って寺銭を抜こうとする事業者にまともな事業者は皆無です。

個人的には、リスク負担やノウハウの提供、あるいは高度な学術的識見なしで、金融市場において長期金利を継続的アウトパフォームできると考えることがどうかしていると思います。

学識経験や職業経験に基づかない「自称トレーダ―」による、専門性に裏付けられない「ト占」師的な自称成功者は、証券業界では噴飯ものです。継続性に乏しく、また学ぶものがない唾棄すべき存在とすらいえます。

そうした占い師以下の素人に学ぶくらいなら、東大、一橋、阪大及び慶應等の経済学分野での一流大学の経済学部の聴講生として金融学を受講したり、あるいはウォール・ストリート・ジャーナルを講読したほうが1000倍コストが安く、かつ1000倍マシだと思います。

とはいえ、MLM系のグループの特徴として、若年層を中心とする他者の洗脳を存在の前提とするため、役職員に美男美女が比較的多く、顧客側も被害者意識が必ずしも高くないという特質があります。

そのため、数十億単位の高額なスキームが破綻した場合でも、逮捕者が出ずに終わるケースも多く、特殊詐欺やポンジスキームとは、質感において大きな差があることが注目されます。

ポンジスキーム

投資詐欺では、出資者への配当は、他の出資者からの出資金を充当する、いわば蛸配当の形式で運営されていることが多く、これをポンジスキームとも呼称します。被害額の大きい経済事件では、結果的にポンジスキームの形態で運営されていたことが後日発覚することが一般的です。

こうした業態は、MLMの形態で勧誘されるケースが多いです。総じて、代表者のカリスマ的な魅力に依存していたり、又は自動売買、アービトラージ、外国での運用等の素人を煙に巻くパワーワードがキーワードになっており、豪華なセミナーや海外を絡めた横文字スキームでの勧誘を行うケースが多くなっています。

さらに、ポンジスキームの派生形態として、そもそも主催者自体がポンジスキームであることに気付いておらず、合理的に考えて考えられない高利回りでの資金運用をしているとする自称トレーダーの主張や、偽造取引履歴を鵜吞みにして、投資者の資金を集めポンジスキームを運営する例も多く見られます。

そうした場合、主催者自体が騙されているため、刑事事件として立件される確率は低くなります。

とはいえ、いずれにせよ外国為替証拠金取引やバイナリーオプション取引等の実質的にゼロサムに近い投資商品であるにもかかわらず毎月安定的にプラスの運用実績があがるとか、長期間継続的に年間で二桁%の運用実績が上がるといった、数学的にあり得ないパフォーマンスを信用することには明らかな過失があり、民事上の賠償責任は不可避です。

もっとも、経験的に不動産や株式のように中長期的な値動きのモメンタムがある投資商品の場合で、かつ、相場に順方向で乗れている場合にはこうしたパフォーマンスが数年程度は継続的に上がる場合があります。また、経験的に株式オプション取引や日経平均先物等も、FXやバイナリーオプション取引よりは継続的にパフォーマンスが上がるケースが多いような気がします。

そのため、パフォーマンスだけでは真偽を測れないのが難しいところです。

先物系

MLM系以外に有力な勧誘スキームとして、当該業者は正規の登録をしていないものの、役職員のキャリアを遡ると商品先物取引業界出身である事業者が存在します。

こうした事業者は、業界用語で「マメ屋」とも言います。

商品先物取引業界の中でも、商品先物取引法制定までは、無登録で業務を行うことができた、いわゆるロコロンドン取引を手掛けていた業者は、総体的に問題がある事業者が多いとされます。こうした業態では、高齢者を主たるターゲットとして、いわゆる「リスト」を使って電話勧誘し、訪問で契約を取る業態が多くなっています。

総じて先物取引系の業者は、二酸化炭素排出権取引などのある程度適法性が検討されており、かつ、詐欺とまでは言えない一定の実態がある取引を提供することが一般的です。商品先物取引系の事業者は、金地金取引や訪問買取(押買い)のスキームも、多く用いる傾向にあります。

なお、商品先物取引業者としての許可や、金融商品取引業者として登録を受けている正規の業者は、こうした悪徳商法・詐欺的商法の概念には当てはまらず、正規の手続きを経て正当な事業を行っている事業者であることを併せて申し添えます。

詐欺性のないスキーム

単に出資金を返還できないだけの状態というだけでは、投資詐欺であると断定することはできません。実際に真面目に投資スキームが運営されていたとしても、結果的に全損となる場合も珍しくないからです。

出資者に損害を与えて、出資金が全損となったという意味では、かつてのJAL、そごう、ダイエーなども同じように出資者(株主)にはほぼ1円も返金できない破綻劇となりましたが、これを詐欺という人はいないでしょう。

投資スキームの適法性の分析方法

参考のため、我々業規制の専門家がこうした投資スキームの適法性を検討するうえで、どのような観点とチェックポイントから検討を加えているのか解説します。

なお、当事務所は消費者の相談は受けておりません。よって、以下の説明は事業者側のリーガルチェックをベースとする分析の目線です。

絶対的禁止事項

詐欺罪

出資対象事業の不存在の場合には、詐欺罪に該当すると考えられます。しかしながら、詐欺罪であることを立証するのは非常に難しく、金融商品取引法違反の無登録営業であったとしても、実際に出資対象事業を、例え出資金のごく一部であっても行っていた場合には、詐欺罪で立件できる可能性は相当に低くなります。

出資対象事業の成否に関わらず、実際に事業を行っていた事実はあって、また、数年などの比較的長期間にわたって配当が行われてきた場合には、詐欺罪で立件される例をあまり見ません。逆に言えば、出資対象事業が存在していなかったり又は著しく事実と異なる説明が行われていたり、運用が実際に行われていなかったりといった事業がない限りは、詐欺罪で立件される可能性は低いといえます。

破綻時点でのオーナーは全国の約7万3千人、負債総額が約4300億円の大型経済事件になった安愚楽牧場事件でも、元社長らは詐欺罪では不起訴となりました。同事件は、結局特定預託法違反に矮小化され、元代表取締役は2016年の控訴審判決で、実刑ながらもその刑期はわずか懲役2年6月に終わっています。

出資法違反

銀行や信用金庫等の預金取扱金融機関を除き、不特定多数から、元本を約して出資を募る行為は、出資法違反にあたります。元本と配当利回りを約して不特定多数から出資金集めをする事業者は、必ず悪質事業者です。

しかし、投資リテラシーの低い層には、しっかりとしているものの難しい投資商品よりも、シンプルで素人でも理解できる仕組みの投資商品のほうが売りやすいという構造的問題もあって、毎月の配当利回りと元本保証を謳う出資法違反の資金募集が後を絶ちません。

こうした出資法違反は、金銭消費貸借契約や社債の形態で行われることも多くなっています。出資法違反は下記のように如何なる名義をもってするか問わないため、金銭消費貸借、社債はもちろん、ファンドや社員権への投資契約の形態であっても、書面又は口頭で元本や利回りの保証を約して出資金を受け入れる場合には、出資法違反を構成します。

なかでも、金銭消費貸借形式での投資資金集めは、ある意味で投資詐欺の底辺です。知る限り、FX、バイナリー、トークン、看板設置、株主優待、メガバンク裏金等と形を変えつつ、20年前以上前から地方都市での雑な金集めや、歌舞伎町界隈の風俗営業従事者向けの詐欺的スキームで多用される傾向があり「新宿スキーム」と言ってもいいと思います。

(出資金の受入の制限)
第一条 何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。

第二条 業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。
2 前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。
一 預金、貯金又は定期積金の受入れ
二 社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの

業規制・開示規制

金融商品取引法違反

開示規制

株式や社債の発行者(すなわち、会社自身)による出資者を募集する行為は、金融商品取引業に該当せず、これを行っても、それだけでは金融商品取引法違反にはなりません(詐欺罪や出資法違反になるかどうかはまた別の話です。)。しかしながら、金融商品取引法は、こうした有価証券を一定以上の金額・人数から募集する場合には、有価証券届出書の提出を義務付けています。

これは、大人数に販売する有価証券は、その内容を予め国に届出して、関係者が予めその会社の財務内容を確認できるようにするための制度です。

有価証券届出書を出さずに私募できる条件は、株式、社債に関しては一定の条件を満たす同一の有価証券で3か月で49人になっています。発行金額が1億円未満の場合には、有価証券届出書は免除されるものの、いずれにせよ1000万円を超える場合には、有価証券通知書の提出義務があります。

合同会社社員権等の二項有価証券の場合は、有価証券投資事業権利等に該当する一定の場合に限り有価証券届出書の提出義務があります。私募の人数制限は総数で499人です。

有価証券により同一とみなす条件が決まっており、これを超える人数の募集をする場合で、事前に有価証券届出書又は有価証券通知書を出していない場合には、無届募集として金融商品取引法違反になります。

また、保有者の総数が一定の条件を満たす場合にも、有価証券報告書の対象になります。有価証券報告書を提出しない場合も、金融商品取引法違反を構成します。

原則として次に掲げる有価証券の発行者は、事業年度ごとに有価証券報告書を提出しなければなりません。

金融商品取引所に上場されている有価証券
店頭登録されている有価証券
募集または売出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券
所有者数が1000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券及び株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)、及び所有者数が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額が1億円未満のものを除く。)

関東財務局HP

業規制

無登録営業

金融商品取引法第2条第5号及び第6号は、民法に規定する組合契約、商法に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約、有限責任事業組合契約、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、出資者が出資又は拠出をした金銭等を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、一定の除外項目に該当しないもの及びで外国におけるこれに類するものは、すべて金融商品取引法の規制対象である「ファンド」であると定めています。

一定の除外項目とは、全員が事業に参加する場合(JV等)や、株式、社債、投資信託、社員権等の金融商品取引法ですでに別途の有価証券として定まっている場合です。

つまり、出資をして事業が行われ、それに基づく配当があるものは、株式や社員権等の法令で明確に適用除外が明記されている有価証券を除いて、すべて「ファンド」であって、その募集には第二種金融商品取引業の登録が必要になるということです。

よって、配当を約して無登録で出資金集めをしているケースでは、多くの場合、金融商品取引法違反(無登録営業)で立件が行われます。

ちなみに、民事的には無登録営業による未公開有価証券の売り付けは無効とされています。

一般に、取締法規違反の民事取引は行政法上の罰則の対象になっても、民事上の効力は否定されないと解されています。

しかし、金融商品取引法は、かかる場合も無登録業者による未公開有価証券の売付け等は、原則として無効であると成文法で定めています。

無登録営業を行う者にとっては、かなり厳しい規律になっています。

(無登録業者による未公開有価証券の売付け等の効果)
第百七十一条の二 無登録業者(第二十九条の規定に違反して内閣総理大臣の登録を受けないで第二十八条第一項に規定する第一種金融商品取引業又は同条第二項に規定する第二種金融商品取引業を行う者をいう。以下この項において同じ。)が、未公開有価証券につき売付け等(売付け又はその媒介若しくは代理、募集又は売出しの取扱いその他これらに準ずる行為として政令で定める行為をいう。以下この項において同じ。)を行つた場合には、対象契約(当該売付け等に係る契約又は当該売付け等により締結された契約であつて、顧客による当該未公開有価証券の取得を内容とするものをいう。以下この項において同じ。)は、無効とする。ただし、当該無登録業者又は当該対象契約に係る当該未公開有価証券の売主若しくは発行者(当該対象契約の当事者に限る。)が、当該売付け等が当該顧客の知識、経験、財産の状況及び当該対象契約を締結する目的に照らして顧客の保護に欠けるものでないこと又は当該売付け等が不当な利得行為に該当しないことを証明したときは、この限りでない。
2 前項の「未公開有価証券」とは、社債券、株券、新株予約権証券その他の適正な取引を確保することが特に必要な有価証券として政令で定める有価証券であつて、次に掲げる有価証券のいずれにも該当しないものをいう。
一 金融商品取引所に上場されている有価証券
二 店頭売買有価証券又は取扱有価証券
三 前二号に掲げるもののほか、その売買価格又は発行者に関する情報を容易に取得することができる有価証券として政令で定める有価証券

金融商品取引法

エージェント多段階構造

MLM系のグループは、エージェント、代理店等と称する多層構造の勧誘を行うことが多くなっています。金融商品取引法では、有価証券の私募の取扱い、売買の媒介等のいわゆる「代理店」業務は、金融商品取引業(有価証券の種別に応じて第一種金融商品取引業又は第二種金融商品取引業)に該当します。

株式、社債は、少人数相手に会社自身が募集している限り適法であり、また合同会社社員権の場合には、有価証券投資事業権利等に該当する場合には499人、該当しない場合にはこれを超えて不特定多数に取得勧誘しても、法令には違反しません。しかしながら、こうしたエージェントは、法令上会社自身ではなく、独立代理店による募集と見られますので、エージェントには金融商品取引業登録が求められます。

これを行わずに、MLM等で有価証券の取得勧誘が行われている場合には、金融商品取引法に違反していますので、金融商品取引法違反(無登録営業)で立件が行われます。

余談ながら、同じ無登録営業でも、海外積立型保険等の勧誘一次性が強い業者は、ダブルのスーツ(チョッキ)、高そうな時計(雲上時計)、オフショア等の「外資保険」的カルチャーがあるのに対して、MLM系の二次性の強い業者はカジュアルであり、BBQ、成功、経済的自由、全ての人に感謝等の経済文化に根差しており、両社には皮膚感覚に大きな違いがあります。

投資まがいビジネス

無登録で一般個人への投資商品の勧誘を行う利殖関連事業者は、正統派の金融業界とは、使用する単語は一見似ているようで、根本的に文化が異なります。その手の業者は、マルチ商法・自己啓発系、海外無登録系、ポンジスキーム系など、いくつかの系統がありますが、金融商品取引業との食い合わせは最悪です。

先行してこうして無登録で商品を取扱っていた事案で、その後事業の発展により、金融商品取引業者として正常に業務を運営する成熟した事業者に脱皮できた例は皆無です。

この手の事業者は、M&A等で金融商品取引業に参入しようとする例が多いですが、無事に開業にこぎつけ、かつ会社の経営が上手くいったという例は寡聞にして聞きません。

この手の投資まがいビジネスは、ある意味で薬物と同じであって、一度手を染めると、金融商品取引業とは相いれない文化に染まってしまい、帰ってこれないのだと思います。

金融は信用などと謳いながら派手な身なりをしている方が居ますが、例えばメガバンクの頭取や日銀総裁は、公の場で派手な装飾の金時計をしているでしょうか。

つまるところそれがすべてだと思います。

経済動向を読んで正確にビジネスをやった結果として金持ちになることと、それを顕示的に見せびらかして、富裕である事実状態を自己のアイデンティティとすることの間には、本質的な差異があります。

例えば各省庁幹部や裁判官等は給与所得者としては非常に高給ですが「自分が金持ちであること」は、彼らのプライドの源泉でしょうか。私にはそうは思えません。

とはいえ、そうした伝統的秩序から零れた者が正当な方法で称賛を浴びることは容易ではないことを考えると、下からの金融まがいスキームが湧き上がってくるのは社会の階級的な格差固定構造が背景にあるのかもしれません。

なお、無登録そのものが問題なわけではありません。投資スクールや売切りの自動売買ツール等、そもそも金融商品取引業登録を要さない業態で、金融商品取引業等に関して十分な知識経験をお持ちの方が誠実に事業をされているケースは、ここには当てはまりません。

資金決済法違反

業規制

無登録営業

暗号資産の売買、交換等は暗号資産交換業に該当しますので、いわゆる独自コイン、独自トークンの販売は、暗号資産交換業者に委託しない限りは、資金決済法に違反する無登録営業です。暗号資産交換業に登録せずに、海外発行等で暗号資産を居住者相手に勧誘できないかという相談を頂くことがありますが、外国暗号資産交換業者は居住者に対する勧誘は禁止されており、居住者向けの勧誘対象無限定の日本語サイトを開設する時点で資金決済法に違反します。

エージェント多段階構造

資金決済法でも、金融商品取引法と同じく、暗号資産の売買の媒介は暗号資産交換業に該当します。よって、暗号資産投資に関する代理店、エージェントも、暗号資産交換業の登録が必要になります。MLM形式で、各種暗号資産を販売しているエージェントは、基本的に資金決済法に違反していると考えていいでしょう。

銀行法違反

詐欺的スキームでは、集金者から、投資先へ資金を集約するため、多くの場合、銀行法に定める為替取引に該当する行為が行われます。これを察知した銀行による口座凍結を避けるため、独立エージェントである勧誘員が現金で資金を預かって、関連会社から最終投資先に資金を送金したり、海外投資スキームでは国際送金したりといった行為が多く行われています。

こうした行為は銀行法の規制する為替取引に該当し、銀行免許を受けるか、又は資金決済法に基づく資金移動業の登録が必要になります。

なお、海外事業を行う実態が不明の投資スキーム業者から、資金の決済手段を確保するために資金移動業の登録をしたいとの相談を受ける場合がありますが、財務局はそこまで愚かではありませんので不可能です。基本的に、怪しげなスキームを合法化するために登録業者を買収しても、当局はそうした業務を認めないので、買収資金は無駄になります。

特定預託法違反

上記は、「出資」させる契約形態での各種法令の適用を議論してきましたが、法令は出資ではなく、売買とその後の取引の組み合わせによる、実物投資スキームも規制対象にしています。豊田商事事件等を受けて、現在、貴金属や和牛などの限られた商品のみ、特定預託法で、事業者は情報公開、クーリングオフ、書面交付等が義務付けられています。

しかしながら、令和3年特定預託法改正で、原則として預託商法は禁止となることなり、令和4年6月1日以降はいわゆる現物まがい商法も広く禁止の対象となりました。

勧誘手法規制

特定商取引法違反

いわゆる訪問販売規制、連鎖販売規制等を定める消費者保護の法律である特定商取引は、投資詐欺の立件でも多く利用されています。

消費者庁、都道府県は不実告知、クーリングオフ妨害、書面不交付等の特定商取引法違反での立ち入り検査や行政処分を頻繁に行っており、また、警察も事件の捜査において、立証が容易な形式犯である特定商取引法違反や、場合によっては同じく形式犯性がある金融商品取引法違反を取り掛かりにして、詐欺的事業者の立件を行う場合があります。

特定商取引法違反や、見方によっては金融商品取引法違反も、いわゆる形式犯の色彩が強い犯罪です。また、これらは法定刑が軽く、立件に求められる高度な法令理解に比して、量刑はいわゆる「ションベン刑」しか期待できない犯罪として、それ単独の立件は避けられる傾向があります。しかし、その先に詐欺罪の成立可能性が見通せたり、又は特殊詐欺グループの関与が明白で、悪質性が強い場合には、捜査当局も積極的に刑事事件として立件する例が見られます。

某芸能人の投資トラブル

令和4年7月に入り、某お笑い芸人を巡る投資トラブルが話題になっています。報道によると、本人は投資先と2年前に知り合い、芸人、一般人含めて投資話を持ち掛けたとのことです。

投資先は2名で、出資対象事業は、それぞれFX(外国為替証拠金取引)と、不動産であったとされ、いずれも投資先と連絡が取れない状態とされます。現在は、投資実態を含めて調査中であり対応を弁護士に一任としていると報じられています。

報道では、金融商品取引法違反の可能性が再三指摘されていますが、素人考えるほど物事は単純ではありません。そもそも、現物不動産投資のための投資資金の受け入れであれば、金融商品取引業の無登録営業ではなく不動産特定共同事業の無許可営業ではないでしょうか。

不動産特定共同事業の無許可営業で立件されたという例はあまり聞いたことはありません。

また、この手の(くだらない)投資話で多いのは、元本保証の形態です。そうしたケースでは、契約書の内容が金銭消費貸借契約等のお金の貸し借りになっている場合があります。

金銭消費貸借契約形式での一般投資家からの金集めは、一般に、特殊詐欺ギリギリ手前の属性が行う、投資ヒエラルキーでも底辺の法形式です。しかし、他方、相手が不特定多数でない限りは、形式上合法にできるやり方でもあります。

その場合、金融商品取引法ではなく、出資法違反の問題となりますので、一般には金融商品取引法違反での立件は行われません。

もっとも、投資詐欺であることが明らかで、主催者も初めから法令を守る気がさらさらないスキームでは、そもそも投資委託契約書だとか、法令違反であることが一見明白な契約書を使って金集めをしている場合もありますので、そうしたケースでは金融商品取引法違反での立件も可能です。

とはいえ、上記のように金融商品取引法違反単独では量刑が軽いので、捜査機関はなかなかそれだけでは事件化しないというのが実情だと思います。

総じて、数億程度の金集めでは立件される方が少数派です。

いずれにせよ、こうした投資詐欺には辟易します。悪徳商法の業界土壌の撲滅のためには、投資者側の意識改革が欠かせません。好き好んで偽医者にかかる患者はいないのに、偽金融商品取引業者にはホイホイと騙される投資者のリテラシーもまた、批判的に問われるべきでしょう。

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