組み合わせ取引(動産又は不動産の売買契約)
集団投資スキームの限界
金融商品取引法第2条第2項第5号及び6号に規定される「集団投資スキーム」にあたるファンドは、「出資者が出資又は拠出をした金銭等(金銭、有価証券、為替手形、約束手形等)を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利」と定義されています。
一方で、上記の「集団投資スキーム」に該当し、規制の対象となることを回避する手法として、動産又は不動産を投資家に販売し、同時に当該動産又は不動産を賃借又は運営を受託することにより、投資家への分配を確保し、事実上の投資資金を受入れをする、いわゆる「組み合わせ取引」といわれるスキームが存在します。これは、ほぼ集団投資スキームと同等の経済的性質を有する取引であり、これが規制対象になるかどうかは、まさに集団投資スキーム概念の限界の問題といえるでしょう。
もっとも、令和3年の特定預託法改正により、特定預託が原則として禁止となったことから、物品の預託を受け及び特定権利を管理する行為は、原則として行うことができなくなりました。よって、同法の施行後は、不動産によるスキーム並びに物品の預託又は特定権利の管理を伴わないスキームのみ適法となることになりますのでご留意ください。
限界事例のあてはめ
この問題は、理論的な問題にとどまりません。例えば、太陽光発電設備や、外国不動産、コンピューター関連機器等の介在するスキームにおいては、ファンド募集の形態をとらずして、事実上、出資金募集に近いことが、売買契約として世間で広く行われている実情があります。
さらにいえば、これを共有持分権とした場合にはどうなるのか、そしてそこに、動産又は不動産を青田売り(事業者が物の取得前に投資家に販売し、投資家資金で実際の物を取得する)する行為が組み合わさればどうなるのかと考えると、これはもう経済的には、集団投資スキームとまったく同じではないかと疑問が生じます。
実際、物の売買の形式をとっていても、実態として出資の受け入れ又は預り金に該当するものとして、出資法違反で立件される例は非常に多いです。
そして、なおも進んで考えれば、投資家に販売した上記のような動産又は不動産を、後日現物出資させて、匿名組合を組成してファンド化する行為すらも、金銭等の出資の要件にあてはまらないため、形式的には金融商品取引法の規制対象とする集団投資スキームに該当せず、不動産特定共同事業法に基づく許可はさておき、金融商品取引業の登録は要しないようにすら思えます。
なお、米国ではこうした場合、いわゆるHowey Testの基準等を考慮して証券たる投資契約であるを判断することとされており、組み合わせ取引や暗号資産等についても、日本よりも広い範囲で、証券と評価する場合があります。
事業スキームの解体的再評価
現在、金融商品取引法第2条の2で「暗号資産は、前条第2項第5号の金銭、同条第8項第1号の売買に係る金銭その他政令で定める規定の金銭又は当該規定の取引に係る金銭とみなして、この法律(これに基づく命令を含む。)の規定を適用する」とされています。よって、ファンドの出資金を暗号資産で払い込みさせる投資ヴィークルはファンドとして規制されます。
しかし、令和元年資金決済法等改正が施行された令和2年5月1日よりも前には、暗号資産によるファンドへの払い込みは、金融商品取引法の規制する集団投資スキームの定義に該当せず、暗号資産で払い込みをさせれば、形式上、金融商品取引法の規制対象外でファンドを組成することができました。
これに対して、金融庁は、平成30年の仮想通貨交換業等に関する研究会において「仮想通貨で購入されるが、実質的には、法定通貨で購入されるものと同視される」場合には、出資の払い込みが仮想通貨で行われても、集団投資スキームに該当するとの見解を示していました。
法改正以前であっても、はじめから現物の販売後に現物出資で匿名組合を組成することを前提とするような、上記の極端な設例では、実体としては集団投資スキームに該当するとして、販売には金融商品取引業の登録が必要となる可能性が高かったと解されます。
ただし、いずれにせよ法令では、金融商品取引法のファンド(集団投資スキーム)規制は、基本的に、「出資者が出資又は拠出をした金銭等(金銭、有価証券、為替手形、約束手形等)を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利」と定まっています。
それゆえ、とくに事業ファンドの設立を検討している事業者様に関しては、本当にファンドの形態(出資又は拠出)をとる必要があるのか、動産(物品の預託又は特定権利の管理を伴わないスキーム)又は不動産の販売の形態では事業遂行できないのかを再度検討する価値があると思います。
ちなみに、仮想通貨(暗号資産)による払込は、上記のように集団投資スキームに該当することを明示する法改正が行われましたので、改正金融商品取引法の施行後は、仮想通貨による払込は金融商品取引業の登録を要するようになっています。
限界領域に関する議論
原則として金融商品取引法の及ばない物の売買ですが、物の売買であれば常に金融商品取引法の適用対象外であると考えるのは早計です。スキームの組成に関しては、金融商品取引法が本当に適用されないのか、慎重な検討が必要です。また、出資法違反を構成しないか、特定預託法の禁ずる物品の預託又は特定権利の管理に該当しないかも同時に考慮する必要があります。
こうした取引は、少なくとも権利ではなく動産又は不動産の売買であり、形式的には出資又は拠出も存在しないように考えられることから、一見では集団投資スキーム規制の枠外となり、無登録でできるように思えます。しかしこの結論については議論が存在します。
平成21 年1月28 日の金融商品取引法研究会の議論によれば、事業者による物の販売とサービス提供が一体として行われ、かつ、その事業者が収益の配当あるいは財産分配を行う又はそれが予定されている場合は、事業者に対する物の代金の支払いをもって金銭出捐と考えて、出捐された金銭を事業者が事業に充当すること、また事業からの配当・分配可能性、これらのいずれの投資スキーム持分の要件も満たすと解することができるとの意見も委員から示されています。取引の実態次第では金融商品取引法の適用余地はあるといえます。
例えば、会社がサーバー機器を投資家に販売し、すぐに会社側がそのサーバー機器を賃借したり、または会社が運営を受託することにより、投資家に対して賃料や分配金を支払う契約をすることは、実態次第では集団投資スキームの販売に該当する可能性があるということです。
実際のスキームへの応用可能性
上記の議論を敷衍すると、投資用マンションの販売及び購入者へのサブリースサービスの提供という広く行われている行為は、場合によっては集団投資スキームの販売となり金融商品取引業に該当してしまうのではないのかというおかしな結論が導かれます。
当然ながら、こうした契約を明示的に集団投資スキームとして位置付けると、膨大な宅地建物取引業者を金融庁の監督下に置く必要が生じるなど、各方面に多大な影響を与えます。国土交通行政にも影響が波及しかねない問題であり、金融当局による実際の規制の適用はなかなか難しそうな印象があります。
実際、私どもの知る限り、こうした事例で金融商品取引法違反として財務局が無登録営業の警告を行った事例は今のところないように思います。とはいえ、こうした契約は、法的にきわめて微妙な判断が含まれます。
金融商品取引法、特定預託法及び経済実態次第では出資法の適用の可能性も視野に入れて総合的に検討する必要があります。
実際、モノの販売の形態であっても態様によっては出資法違反とする複数の判例があります。出資法に違反しないかは特に慎重な検討が必要です。こうした事業の実施を検討する場合には、弁護士の法律意見等もきちんと取得したうえで実施することが必要になると思います。