行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

適格機関投資家とは

適格機関投資家とは

このページの目次
定義届出要件適格機関投資家のリスト届出手続期限と更新適格機関投資家に対する監督等メリットデメリット適格機関投資家等特例業務ファンドとGPはどちらが適格機関投資家か

定義

適格機関投資家は、金融商品取引法に定められた、いくつかの「プロ投資家」の類型のうち、もっとも上級のプロ投資家の概念に分類されます。制度上、適格機関投資家は、銀行や証券会社等の金融法人や、それに準ずる判断能力と資産を有する者と想定されています。

プロ投資家には、他に「特定投資家」、「適格投資家」及び「適格機関投資家等」概念があります。また、セミプロ投資家として「特例業務対象投資家」並びに金融庁所管法令以外では、不動産特定共同事業における「適格特例投資家」及び商品先物取引業の「特定委託者」及び「特定当業者」等、複数の定義があります。

しかしながら、「適格機関投資家」概念は、「特定投資家」と並んで、いわゆるプロ投資家の中でもメジャーな位置を占めています。

英語ではQualified Institutional Investorと呼称されることから「QII」との略語が使用されます。外国法に置き換えると、米国法のQualified institutional buyerや欧州のMiFID2のQualified investorsに近いといえます。Accredited InvestorやSophisticated investorsは、本邦での特定投資家に近い概念ですので、適格機関投資家はそれよりも上位です。

これと同時に、適格機関投資家は、金融実務上、ホールセールの対象となり得る、いわゆる「機関投資家」や、PB業務における「ハイネットワース」に近いといえます。とはいえ、金融庁の適格機関投資家に関するページに詳しく説明されている通り、その概念は複雑に入り組んでいます。

届出要件

適格機関投資家の要件は、上記リンクの金融庁のサイトで網羅的に記載されていますが、その中には、独立行政法人や政府系金融機関等の事実上の政府機関から、投資事業有限責任組合のように、登記さえすれば、ある意味で誰でもなれてしまう適格機関投資家まで幅広く存在します。

もっとも、投資事業有限責任組合の適格機関投資家該当性に関しては、後述のように、適格機関投資家であったとしても、実態に乏しい組合の場合、適格機関投資家等特例業務を行う上での適格機関投資家としての実益がないように、法令により手当されています。

小規模な投資事業有限責任組合が適格機関投資家であったところで、本来はできない業務が何かできるようになることは法令上ありません。むしろ「プロ投資家」扱いになるため、証券口座を開設する証券会社等の金融商品取引業者側での各種行為規制の免除等があります。各種の法令上の保護が受けられなくなり、投資者保護が弱まります。

適格機関投資家のリスト

適格機関投資家には、適格機関投資家の届出をすることにより適格機関投資家になることができる投資家と、届出を要せずに適格機関投資家に該当する投資家が存在します。

金融庁のホームページには、リストが掲載されています。

金融庁のサイトの「適格機関投資家の届出を金融庁長官に行った者」だけを見て、届出を要せずに適格機関投資家に該当する適格機関投資家に分類されている「特定の某投資家が、適格機関投資家のリストに載っていないがなぜか」と聞かれることがあります。

金融庁のサイトをよく読み見ましょう。

リストは、適格機関投資家の届出を金融庁長官に行った者、適格機関投資家に指定された農協等 、届出を要せずに適格機関投資家に該当する者の3種類から構成されています。銀行や証券会社等は当然に適格機関投資家ですので、「適格機関投資家の届出を金融庁長官に行った者」には出てきません。

しかも、「届出を要せずに適格機関投資家に該当する者」のリストからは、以下の種別の適格機関投資家も除外されています(同リスト末尾参照)。金融庁のサイト全体をよく読まないと、適格機関投資家の全体像は把握できません。

① 投資信託及び投資法人に関する法律第二条第二十五項に規定する外国投資法人
② 投資事業有限責任組合契約に関する法律第二条第二項に規定する投資事業有限責任組合
③ 他省庁等の所管する政府系金融機関(株式会社商工組合中央金庫、株式会社国際協力銀行、沖縄振興開発金融公庫、株式会社日本政策投資銀行)、株式会社地域経済活性化支援機構、株式会社東日本大震災事業者再生支援機構、年金積立金管理運用独立行政法人、財団法人民間都市開発推進機構、企業年金連合会、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第十条第一項第九号に規定する農業協同組合連合会のうち金融庁所管以外のもの、共済水産業協同組合連合会
④ 適格機関投資家として金融庁長官が指定している農業協同組合及び漁業協同組合連合会
⑤ 財政融資資金の管理及び運用をし、並びに財政投融資計画の執行(財政融資資金の管理及び運用に該当するものを除く。)をする者

届出を要せずに適格機関投資家に該当する者(金融庁ホームページ)

届出手続

適格機関投資家の届出は、毎月の末日締めの翌々月1日に効力発生となります。よって、例えば1月15日に適格機関投資家の届出を行ったとしても、適格機関投資家に移行できる日は3月1日となります、後述のように適格機関投資家等特例業務が絡む場合、この時差が実務上強く意識されます。

適格機関投資家の届出では、一定の外国所在の届出者の委任状の添付義務を除いて、添付書類が詳細に定められておらず、一定の類型の適格機関投資家の届出要件である有価証券の保有額や基準日、住所又は所在地、氏名又は商号等の基本情報は、基本的に自己申告ベースで受付されます。

実務上、届出時にエビデンスや本人確認書類の提出等は求められていません。もっとも、当事務所がかかる手続きを受任する際には、事実関係の確認のため、届出者の本人確認書類の当事務所への提出をお願いしております。

なお、有価証券を10億円以上保有するものとして届出を行った法人又は個人(個人は取引経験1年以上又は全組合員の同意を得たファンドの業務執行組合員等)等にかかる有価証券の保有額の評価方法等の詳細は、こちらの記事でも詳述しております。

自己申告ベースでの届出はできてしまいますが、実際には適格機関投資家として金融商品取引業者や適格機関投資家等特例業務を行う者と取引を行った場合、これらと取引を行うものとして、当局の報告徴求の対象になります。そのため、虚偽、実態のない届出をする者は、実務上ほぼ見ません。

なお、外国証券会社に関して適格機関投資家の届出の代理権を有しない者が、その代理人として虚偽の適格機関投資家の届出を行ったケースでは、当該事実が官報に掲載されたうえ、当該届出の効力がなくなった例を見たことがあります。

期限と更新

また、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第10条第6項により、届出により適格機関投資家となった場合には、「適格機関投資家に該当することとなる期間は、当該届出が行われた月の翌々月の初日から二年を経過する日までとする」とされています。つまり適格機関投資家の届出の効力が2年間であることに注意が必要です。

適格機関投資家の更新の手続きは存在せず、効力の延長を希望する場合には、期限切れ日を新たな効力発生日とする形で、改めて適格機関投資家の届出を行う必要があります。

なお、適格機関投資家等特例業務の実務上、適格機関投資家等特例業務届出者及び適格機関投資家の双方が、2年間の適格機関投資家の有効期限を認識しておらず、結果的に期限切れにより適格機関投資家が不在となるケースを散見します。

そうした場合、法的には無登録営業を構成するとともに、適格機関投資家等特例業務届出者は、適格機関投資家等特例業務に該当しなくなった旨の届出及び届出事項の変更届出を行う必要があります。

実際には、こうした期限切れは過失によるものが殆どであって、それだけで厳しいペナルティーが科される可能性はあまりありませんが、合理的期間内に新たな適格機関投資家を確保できない場合には、主として有価証券又はデリバティブ取引を行ういわゆる自己運用業務(15号業務)を行っている場合、合理的な期間内に既存のファンドを清算して、適格機関投資家等特例業務を廃止する必要が出てきます。

他方、理論上は、自己私募業務のみを行う事業型ファンドの運営者は、当初の私募が適法であったことには変わりなく、その後の運用行為は金融商品取引業又は適格機関投資家等特例業務を構成しないと解されますので、新たな私募をしなければ、従前のファンド継続が法的には可能と解されます。

適格機関投資家に対する監督等

適格機関投資家になったところで、金融商品取引業者等のように金融庁、財務局の監督の下に入るわけではありません。つまり、適格機関投資家の届出を行った者はあくまでプロ投資家、つまりプロの顧客であり、金融事業者ではありませんので、当然ながら当局の検査や監督等はありません。

もっとも、適格機関投資家等特例業務届出者と通謀し、自らを唯一の適格機関投資家として、投資者保護上の問題ある不適切な適格機関投資家等特例業務を遂行させた適格機関投資家に対しては、一定の結果責任が問われます。それ自体に直罰規定があるわけではありませんが、報告命令等を通じて経緯の詳細等を問われることになりますし、その経緯に違法性があれば法的責任を問われます。

適格機関投資家は、不適切な適格機関投資家等特例業務届出者への出資は見合わせる道義的責任があると考えるべきでしょう。もっとも、法規制強化に伴い、現代ではこうした適格機関投資家による不適切な適格機関投資家等特例業務届出者への出資はほとんど見られなくなっています。

メリット

適格機関投資家に移行するメリットは、適格機関投資家等のプロ投資家のみに開かれた金融商品へのアクセスが可能になることと、自らが出資する少人数プロ向けファンドが、適格機関投資家等特例業務の対象になること(つまり、他者に少人数プロ向けファンドを開業させることが可能になること。)であると考えられます。

有価証券の特定投資家私募及び適格機関投資家私募等、プロ向けの私募の対象になることにより、通常一般投資家にアクセスできない金融商品へのアクセスが可能です。適格機関投資家は、当然に特定投資家であり、かつ、一般投資家に移行することはできませんので、特定投資家向けのサービスは、適格機関投資家である限り、必ず享受できます。

また、外国為替証拠金取引等では、適格機関投資家向けの店頭デリバティブ取引の提供は、そもそも金融商品取引業の登録を要さないとされています。よって、海外FX業者に口座を開設して、FX取引を行ったとしても、適格機関投資家自身はもちろんのこと、海外FX業者側も法令違反を構成しません。

さらに、適格機関投資家としてステータスを獲得することにより、取引のある証券会社から機関投資家としてのサービス(プライム・ブローカー業務等)が提供されたり、または、有価証券を保有する上場企業等と、機関投資家としての対話の門戸が開かれる可能性がある面に着目して適格機関投資家の届出をする例もあります。

デメリット

適格機関投資家の届出をすることによるデメリットは、主に投資者保護上の行為規制の多くが適用対象外になることから、法的保護の度合いが低下することです。

訴訟等になった場合にも、一般投資家と適格機関投資家を比較すれば、適格機関投資家は、当然ながら投資に関する知識・経験がある者と取り扱われますので、説明責任違反等に基づく賠償請求訴訟では、金融商品を販売した金融機関に対して請求が認容される可能性が低下すると解されます。

それでも、金融商品取引法の適用対象取引の場合には、虚偽告知の禁止等の最低限のルールは、特定投資家相手にも適用されることを通じて、適格機関投資家相手であっても適用されます。

しかし、適格機関投資家がそもそも金融商品取引業の規制対象外になっている海外FX取引等では、一切の行為規制が存在しなくなりますので、金融商品取引法の投資者保護は一切受けられなくなります。

また、法的な部分とは異なる事実上のデメリットとして、適格機関投資家は、金融庁のホームページで、法人であれば商号・所在地、個人であれば氏名と居住自治体が公開されます。とりわけ個人の場合には、各種商材や寄付金等の勧誘等の対象になる恐れがあり、セキュリティー上の課題があります。

そのため、適格機関投資家として届出されている個人は、世界でわずか149人(令和4年11月現在閲覧)です。顕名、匿名があまり関係なくなっている半ば公人、すなわち業界では誰もが知る有名人が多いように思います。

適格機関投資家等特例業務

適格機関投資家等特例業務は、通称「少人数プロ向けファンド」と呼称されます。

適格機関投資家等特例業務は届出のみでファンドの勧誘と運用ができる、プロ向けのファンド業務の名称です。

勧誘の相手方が、適格機関投資家(プロ投資家)及び少数の特例業務対象投資家(セミプロ投資家)に限定されている私募及び自己運用業務を行う場合、一定の要件の下に、事前届出により金融商品取引業の登録義務が免除されます(詳細はこちらをご覧ください)。

本来は、ファンドの勧誘には第二種金融商品取引業、ファンドの運用(主として有価証券又はデリバティブ取引による運用)には投資運用業の登録が必要なところ、適格機関投資家等特例業務を利用すれば、事前届出により、こうした登録義務が免除されます。

そもそも特例とは何の特例なのかという論点は、令和の今では実務者にもあまり意識されていませんが、「特例業務」とは、何の「特例」かといえば、結局のところ、第二種金融商品取引業及び投資運用業に「登録しなくてもいい特例」です。

第二項有価証券の私募の範囲である権利者の総数499人に収まり、かつ、適格機関投資家等特例業務の要件である適格機関投資家が1名以上及び特例業務対象投資家が49名以下に収まる限り、少人数プロ向けファンドを組成、運用することが可能です。

適格機関投資家が出資することにより、ファンド業者は、適格機関投資家等特例業務の制度を利用できるようになります。かかる制度の詳細は、適格機関投資家等特例業務の記事を参照ください。

ファンドとGPはどちらが適格機関投資家か

金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令で、明確な適格機関投資家の地位を与えられている投資事業有限責任組合を除いて、集団投資スキーム型のファンドは適格機関投資家になることができません。

金融庁はパブリックコメントで「業務執行組合員等が銀行や金融商品取引業者等であることにより、そもそも適格機関投資家である場合には、同項第23号又第24号の規定による届出を行う必要はな」いとし「民法組合等の組合自体は法人格がないため、民法組合等の組合自体は適格機関投資家になることはできない」と解説しています(平成19年パブリックコメント P25 No,32)。

よってファンドは、原則としてGPが適格機関投資家に該当するのであり、投資事業有限責任組合を除いて、ファンド自体は適格機関投資家になることができません。

FoFで適格機関投資家等特例業務を行う場合、適格機関投資家たる出資者が、投資事業有限責任組合である場合を除き、適格機関投資家として届出書に記載すべきは、ファンド名ではなく業務執行組合員等(GP)名になります。

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