行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

特定投資家制度

特定投資家制度の利便性

金融商品の販売や役務の提供の対象となる顧客として、主に機関投資家や富裕層を想定して業務を運営する場合には、特定投資家制度(金融庁HP参照)が非常に重要となります。

特定投資家制度は、投資家を一般投資家と特定投資家(プロ投資家)に区分し、特定投資家に該当する者には、金融商品取引業者側に課される説明責任や書類交付義務等の一定の行為規制を免除・緩和する制度です。

特定投資家に該当し、又は特定投資家とみなすことのできる一般投資家のみを相手方として業務を行う場合、一定の書面交付義務や広告規制等に服する義務が生じないので、金融商品取引業者内の事務処理の簡素化が可能です。

とりわけ、契約締結前交付書面及び契約締結時交付書面は、記載事項が法令で細かく定まっており、また記載の誤りが直ちに法令違反に直結することから、非常に煩雑です。一般論として省略可能であれば省略した方が金融商品取引業者にはメリットがあり、リーガルチェックのコスト等の削減も実現します。

特定投資家相手の場合適用されない主な行為規制

広告等の規制(金融商品取引法第37条)
取引態様の明示義務(同第37条の2)
契約締結前の書面交付(同第37条の3)
契約締結時の書面交付(同第37条の4)※
適合性の原則(同第40条第1号)
最良執行方針等記載書面の事前交付義務(同第40条の2第4項)
顧客の有価証券を担保に供する行為等の制限(同第43条の4)
保証金の受領に係る書面の交付(同第37条の5)※
不招請勧誘の禁止(同第38条第3号)
勧誘受諾意思の確認(同第38条第4号)
再勧誘の禁止(同第38条第5号)
※内容照会への速やかな回答体制整備を要件とする。

特定投資家に対しては、上記に挙げた行為規制が、適用対象外になります。ただし、行為規制のうち、顧客に対する誠実義務、名義貸しの禁止、虚偽告知の禁止、投資助言・投資運用にかかる偽計等の禁止、顧客情報の適正な取り扱い、標識の提示、社債の管理の禁止、断定的判断の提供の禁止、損失補てん等の禁止、分別管理義務等に関しては、特定投資家に対しても適用されます。

よって、書面交付義務が免除され、広告規制が適用されないといっても、その代わりに任意で提供するパンフレット等の各種説明書類や、顧客との契約書等に虚偽や誤りが含まれる場合には、法令違反を構成することになります。

特定投資家制度の適用関係

特定投資家制度との関係においては、投資家は、一般投資家に移行できない特定投資家、一般投資家に移行可能な特定投資家、特定投資家に移行可能な一般投資家、特定投資家に移行できない一般投資家の4種別があります。以下に特定投資家の定義をまとめます。なお、個人投資家の特定投資家移行要件は令和4年半ばに改正があり、拡大されました。

特定投資家(一般投資家に移行不可)

(1) 適格機関投資家
(2) 国
(3) 日本銀行

○特定投資家(一般投資家への移行可能)

(1) 特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人
(2) 投資者保護基金
(3) 預金保険機構
(4) 農水産業協同組合貯金保険機構
(5) 保険契約者保護機構
(6) 特定目的会社
(7) 金融商品取引所に上場されている株券の発行者である会社
(8) 取引の状況その他の事情から合理的に判断して資本金の額が5億円以上であると見込まれる株式会社
(9) 金融商品取引業者又は特例業務届出者である法人
(10) 外国法人

※「特定投資家以外の法人」や「一定の要件に該当する個人」(注)については、金融商品取引業者等への申出により、一般投資家から特定投資家への移行可能(金融商品取引法第34条の3・第34条の4、金融商品取引業等に関する内閣府令第61条・第62条)。

(注)「一定の要件に該当する個人」の範囲
(1) 匿名組合の営業者、民法組合の業務執行組合員又は有限責任事業組合の重要な業務執行決定に関与し自ら執行する組合員である個人(出資合計額3億円以上の組合、全組合員の同意取得が要件)
(2) 以下の要件のいずれかに該当する個人
①次の全てに該当すること
(ⅰ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、純資産の合計額が3億円以上と見込まれること。
(ⅱ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、投資性のある金融資産の合計額が3億円以上と見込まれること。
(ⅲ)最初に申出に係る契約の種類に属する契約を締結した日から1年を経過していること。

②次のいずれかに該当し、かつ、①(ⅲ)に該当すること
(ⅰ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、純資産の合計額が5億円以上と見込まれること。
(ⅱ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、投資性のある金融資産の合計額が5億円以上と見込まれること。
(ⅲ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、前年の収入が1億円以上と見込まれること。

③承諾日前1年間における1月当たりの証券・デリバティブに関する取引契約等の平均的な契約の件数が4件以上である場合において、①(ⅰ)又は(ⅱ)に該当し、かつ、①(ⅲ)に該当すること
※既に③の規定の適用を受けて特定投資家となった者は、その後、1月当たりの証券・デリバティブに関する取引契約等の平均的な契約の件数が4件以上である場合に該当しない場合であっても、その知識及び経験に照らして適当であるときは、当該件数が4件以上である場合に該当するものとみなす。

④特定の知識経験を有する者で、次のいずれかに該当し、かつ、①(ⅲ)に該当すること
(ⅰ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、純資産の合計額が1億円以上と見込まれること。
(ⅱ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、投資性のある金融資産の合計額が1億円以上と見込まれること。
(ⅲ)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、前年の収入が1千万円以上と見込まれること。
※「特定の知識経験を有する者」は、次のいずれかに該当する者
(ア)金融業に係る業務に従事した期間が通算して1年以上の者
(イ)経済学又は経営学の教員職・研究職にあった期間が通算して1年以上の者
(ウ)証券アナリスト、証券外務員(1種・2種)、1級・2級ファイナンシャル・プランニング技能士又は中小企業診断士のいずれかに該当し、その実務に従事した期間が通算して1年以上の者
(エ)経営コンサルタント業に係る業務に従事した期間が通算して1年以上の者その他の者であって、(ア)~(ウ)の者と同等以上の知識及び経験を有するもの。

事務処理の実務

法人に対しては、自身が希望すれば特定投資家に移行することができるという非常に低いハードルが定められているのに対して、個人に対しては、令和4年の制度改正前には、純資産・投資性金融資産3億円以上、当該業者での取引経験1年以上を満たすものであるという、高い特定投資家への移行ハードルがありました。

なお、投資性金融資産は、適格機関投資家等特例業務における特例業務対象投資家の判定要件の投資性金融資産と同じ概念であり、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条第1項第1号ロ(1)乃至(8)までに資産に限られています。

具体的には、有価証券、デリバティブ取引に係る権利及び特定預金(外貨預金等)等の投資性の強い金融資産に限られており、普通預金や不動産等の資産は含みません。

国際比較において超富裕層の数が少ないとされる我が国では、純資産・投資性金融資産3億円以上を保有している個人は、一般的には企業経営者等のごく一部に限定されていると考えられます。そのため、令和4年の制度改正で、上記のように個人の特定投資家該当要件が拡大されました。

とはいえ、法人であれば一律に特定投資家に移行可能な法人、個人間の制度格差は明らかであって、銀行や保険会社等の機関投資家のみを勧誘対象とする金融商品取引業者はさておき、富裕層などのいわゆる「機関投資家」ではない顧客を対象とする金融商品取引業者の場合には、顧客個人を相手方とするのではなく、顧客のいわゆる「資産管理会社」を相手方として業務を行うことも多いです。

その場合は、顧客は「法人」ですので、当該資産管理会社が金融商品取引業者に対して特定投資家への移行を希望さえすれば、特定投資家へ移行できるということになります。

証券スキーム等

証券化等の資産運用スキームで、自社に関連するSPCと投資一任契約や投資助言契約を締結する場合等があります。こうした場合、いわゆる最終顧客に対しては、第一種金融商品取引業第二種金融商品取引業としての行為規制に服して書面交付等は行うものの、投資運用業投資助言・代理業としてのアセットマネジメント行為については、直接的な顧客との契約はなく、自社関係エンティティーと金融商品取引契約を締結することになります。

こうした場合は、自社関係エンティティに書面交付をしても意味がないので、SPCが当然に特定投資家に該当しない場合、SPCを特定投資家に移行させたうえでセットアップするのが一般的です。

特定投資家への移行の勧誘等

金融商品取引業者の中でも、顧客層を特定投資家に限定している業者が多数存在します。顧客をプロ投資家である特定投資家に限定することで、行為規制の遵守及び体制整備ためのコストを削減できるためです。そうした場合、一般投資家に関しても、特定投資家に移行させることで、取引可能とすることが一般的です。

その点、一般投資家に対して、特定投資家に移行しない限り、取引ができないことを告げて特定投資家への移行の勧誘をすることが法令上問題ないのか、論点になりえます。

これに対して金融庁は「特定投資家に限定した商品を販売することに問題があるか。また、特定投資家に移行可能な一般投資家に対して、顧客が特定投資家に移行可能であるという事実を金融商品取引業者等から告げることに問題があるか」という問いに対して、金融商品取引業者等が、「特定投資家」向けに限定した金融商品を販売することは、特段妨げられないものと考えられます。また、「特定投資家に移行可能な一般投資家」に対して、「(当該顧客が)特定投資家に移行可能であること」を告げることも妨げられないと考えられますが、そのように「特定投資家への移行」の勧誘を行うことにより投資者の保護に欠けることとなるおそれがある場合には、適合性の原則(金商法第40条第1号)に違反することとなる点に、留意が必要と考えられます。」(平成19年パブリックコメントP207 No.63)としています。

このパブリックコメントを根拠に、無条件に許されるわけではないものの、特定投資家への移行を勧誘することは、基本的に法令上は許容されると考えられています。

適格機関投資家等

特定投資家制度以外のプロ投資家制度として、適格機関投資家等(適格投資家及び特例業務対象投資家)、適格投資家があり、特定投資家とは、それぞれ趣旨の異なる制度です。

金融商品取引業者の事務簡略化の観点からこれらを切り出すと、1名上の適格機関投資家を含み、かつ、適格機関投資家等のみを相手方としする集団投資スキームの自己私募、自己運用業務は、適格投資家等特例業務の届出をすれば、金融商品取引業登録を受けることなく業務を行うことができることが重要です。

ただし、適格機関投資家等に該当しても当然に特定投資家ではないので、適格機関投資家等のうち一般投資家に該当する特例業務対象投資家に対しては、書面交付義務等の各種行為規制に服する必要があります。

協会規則適用

適格機関投資家等に準じて定められている一定のプロ投資家のみを対象とする事業型のファンドは、第二種金融商品取引業者に適用される一般社団法人第二種金融商品取引業協会の「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」の適用対象からも除外されています。

同規則の審査・モニタリング義務は綿密に定まっていますが、事業型ファンドの組成・販売を行う上で、同規則の適用除外となれば、発行に係る事務処理の大幅な簡略化が可能になります。これは、事業型ファンドを販売する第二種金融商品取引業者の運営実務上は、非常に重要となります。

適格投資家

もうひとつのプロ投資家の概念である適格投資家は、金融商品取引法第29条の5第3項に「特定投資家その他その知識、経験及び財産の状況に照らして特定投資家に準ずる者として内閣府令で定める者又は金融商品取引業者と密接な関係を有する者として政令で定める者」と定義されており、適格機関投資家等と類似する投資家層が規定されています。

適格投資家のみを対象として運用財産額が200億円未満の投資運用業に関しては、登録要件が緩和された適格投資家向け投資運用業の制度の利用が可能です。適格機関投資家等特例業務と異なり、適格投資家向け投資運用業は、正規の金融商品取引業者として登録され、また、適格機関投資家等特例業務では行うことのできない投資一任業務、投信委託業務、投資法人資産運用業務等も行うことができます。

みなし第二種金融商品取引業

適格投資家向け投資運用業では、販売行為にも規制緩和が存在します。適格投資家向け投資運用業を行う金融商品取引業者が、投資信託財産の運用を投資一任契約に基づき行い、投信委託業務を外部の金融商品取引業者等に委託する場合は、かかる投資信託受益証券の発行者は投信委託者となります。そのため、投資一任業務を行う投資信託の運用者が投資信託受益証券の取扱いを行う業務は、本来、第一種金融商品取引業務に該当します。

しかしながら、上記スキームで適格投資家向け投資運用業と同時に行う場合に限り、こうした業務は第一種金融商品取引業ではなく、第二種金融商品取引業とみなすといういわゆる「みなし第二種金融商品取引業」の制度が存在します。

そのため、比較的少額の運用財産が見込まれ、かつ、投資信託等の形式でのファンドの組成を考えている場合には、適格投資家向け投資運用業は有力な選択肢になります。投資事務所は、適格投資家向け投資運用業の登録支援の実績も多数ございますので、是非ともお気軽にご相談くださいませ。

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