法令と実務の隙間
第二種金融商品取引業者の行う募集又は私募の取扱業務(9号業務)に関しては、実務上の投資者保護の要請と、金融商品取引法の条文構造には、乖離があります。
募集又は私募の取扱業務は、あくまで新たに発行される有価証券の取得勧誘を行う行為です。そのため、金融商品取引業者の行う金融商品取引行為として、業規制に基づく投資者に対する各種責任を負うのは、基本的に「当初の販売時」のみです。
例えば証券会社が、上場している事業会社の公募増資の取扱を行う際に、これに応募、購入した投資家に対し、株券の販売後も継続的に、事業会社の経営内容の適切性を監視、説明する義務を投資家に対して負うのか、という議論がありえます。
販売の当初段階で審査義務を負うのは当然であって、2020年には最高裁がIPOに関連して証券某社の賠償責任を認めています。
しかしながら、仮に証券会社が過去に取扱をした有価証券に関して、無限にモニタリング義務、説明義務を追うとすれば、例えばその事業会社に、取扱時には生じていなかったスキャンダルが事後的に生じた場合、過去の主幹事証券も連座して行政処分されることになりかねません。
このように、株式市場の例で考えると、金融商品取引法の条文構造は、理論上も実務上も当然の内容といえます。
運営行為への規律の欠缺
ところが、第二種金融商品取引業が取扱う有価証券のうち、とくに集団投資スキーム持分(ファンド)に関しては、株式等の一般的な上場有価証券と異なり、発行者は、有価証券報告書提出義務者ではない場合がほとんどです。また、金融商品取引所等の外部規律も働かず、過去には、杜撰なファンド運営で、投資者資金の大宗を不正に費消してしまう例が多数発生しました。
それでも、主として有価証券又はデリバティブ取引により運用するファンドは、投資運用業者(12号ロ又は15号業務)もしくは適格機関投資家等特例業務(63条業務)によるファンド運用が求められるため、金融商品取引法の規律が働くのですが、運営行為に業規制が存在しない事業型ファンドには、この傾向が強く見られます。
また、自己私募又は自己募集(7号業務)のケースにおいても、同じく金融商品取引法の規制対象になるのは、本来、当初の募集又は私募行為のみであり、その後の運営行為は事業型ファンドであれば金融商品取引行為を構成せず、また、投資者への説明や開示に関しても、法令上何も定まっていない状況にありました。
実際、投資運用業者として運用されているファンドであれば運用報告書の交付義務が定められています。しかし、事業ファンドとして運営されている場合、募集完了後に投資家に対して何らかの定期報告書を交付する必要は、税法上の確定申告のための必要性はさておき、金融商品取引法上はありませんでした。
| 募集行為(募集又は私募、募集又は私募の取扱い) | 販売時のみ規制対象(金融商品取引業) |
|---|---|
| 募集行為及び運用行為 | 販売時 + 運用行為も規制対象! |
販売時の審査規律の欠缺
募集又は私募の取扱い、自己私募又は自己募集のいずれにおいても、当初の販売の際に、どういったファンドであれば販売することが可能で、どういったファンドは販売していけないのか、ということも具体的な基準としては定まってはいませんでした。
一般社団法人第二種金融商品取引業協会資料、事業型ファンドへの信頼性確保に向けた取組みを見ればわかる通り、金融商品取引法は、分別管理義務や金銭の流用が行われていることを知っている場合の取扱いの禁止を定めるほかは、問題のあるファンドに対して「出資対象事業に係る虚偽告知」「出資対象事業に係る虚偽表示」「信用リスクに係る重要事項誤解表示」でしか、処分をすることができていませんでした。
どれだけ杜撰で不適切なファンドでも、運用行為そのものや、事後説明義務を果たさないこと自体を罪に問うことはできないため規制構造に限界がありました。
分別管理及び金銭流用時の取り扱い禁止
こうした状況を受けて、ファンドを販売する第二種金融商品取引業者にも、当初販売だけではなく、その事後的な運営の適切性の確保に関しても措置を講ずることが、実務上求められるようになりました。
金融商品取引法の条文上は、販売時に金融商品取引業者として責任を果たせば、第二種金融商品取引業者はその後のファンドの運営責任は負わないはずですが、投資者保護上の要請に基づき、まずは平成26年に、従来の分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止に加えて、金融商品取引法第40条の3の2で金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止義務を新設しました。
この規定は、審査義務やモニタリング義務そのものではないのですが、第二種金融商品取引業者のファンドの販売業務に関して事後的モニタリングの要請を強化する嚆矢になりました。
金融庁は、同改正で「金融商品取引法第40条の3は、同条は、ファンドの規約等に分別管理についての記載がなされることにより分別管理が確保されていることを求めているにとどまり、分別管理が行われていることまで求めていない。実際に、一部のファンド販売業者が販売勧誘したファンド持分については、分別管理が行われておらず、資金の流用も行われ、投資者に損害が生じる事案が発生した。」「上記の問題事案を踏まえ、投資者保護の観点から、金融商品取引業者等が、ファンド持分等に関し出資された金銭について、出資対象事業に充てられていないことを知りながら、当該ファンド持分等の自己募集・売出し、募集等の取扱いをすることを禁止する必要がある。」と改正の趣旨を明らかにしています。
(分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止)
第四十条の三 金融商品取引業者等は、第二条第二項第五号若しくは第六号に掲げる権利又は同条第一項第二十一号に掲げる有価証券(政令で定めるものに限る。)若しくは同条第二項第七号に掲げる権利(政令で定めるものに限る。)については、当該権利又は有価証券に関し出資され、又は拠出された金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)が、当該金銭を充てて行われる事業を行う者の固有財産その他当該者の行う他の事業に係る財産と分別して管理することが当該権利又は有価証券に係る契約その他の法律行為において確保されているものとして内閣府令で定めるものでなければ、第二条第八項第一号、第二号又は第七号から第九号までに掲げる行為を行つてはならない。(金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止)
第四十条の三の二 金融商品取引業者等は、第二条第二項第五号若しくは第六号に掲げる権利又は同項第七号に掲げる権利(同項第五号又は第六号に掲げる権利と同様の経済的性質を有するものとして政令で定める権利に限る。)については、これらの権利に関し出資され、又は拠出された金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)が、当該金銭を充てて行われる事業に充てられていないことを知りながら、第二条第八項第七号から第九号までに掲げる行為をしてはならない。
貸付事業等権利に関する付加的規制
さらに、9号業務(取扱い)に限らず、第二種金融商品取引業者においては、自己私募又は自己募集(7号業務)業態においても、平成最末期以降、不適切な業務運営が複数判明しました。そのため、金融庁は、令和5年金融商品取引法改正で、貸付型ファンドに関して、抜本的な法改正を行っています。
具体的には、以下のように出資対象事業の状況に係る情報の提供を義務付けることとしました。
(出資対象事業の状況に係る情報の提供が確保されていない場合の売買等の禁止)
第四十条の三の三金融商品取引業者等は、貸付事業等権利については、当該貸付事業等権利に係る出資対象事業の状況に係る情報が、当該貸付事業等権利を有する者に提供されることが当該貸付事業等権利に係る契約その他の法律行為において確保されているものとして内閣府令で定めるものでなければ、第二条第八項第一号、第二号又は第七号から第九号までに掲げる行為をしてはならない。(出資対象事業の状況に係る情報が提供されていない場合の募集等の禁止)
第四十条の三の四金融商品取引業者等は、貸付事業等権利については、当該貸付事業等権利を有する者に前条に規定する契約その他の法律行為に基づき提供されるべき情報が提供されていないことを知りながら、第二条第八項第七号から第九号までに掲げる行為をしてはならない。ならない。
併せて、同改正では、金融商品取引業等に関する内閣府令第70条の2第8項で、出資対象事業を行う者に対して、投資運用業者の場合と同様、第二種金融商品取引業者等が、契約等により間接的に、権利者に対する忠実義務及び善管注意義務を負わせる義務があることが明示されています。
8 法第三十五条の三の規定により金融商品取引業者等(貸付事業等権利(法第二十九条の二第一項第十号に規定する貸付事業等権利をいう。以下同じ。)についての法第二条第八項第一号若しくは第二号に掲げる行為、同項第七号に掲げる行為(法第六十三条第一項第
一号又は第六十三条の八第一項第二号に掲げる行為に該当するものを除く。)又は同項第八号若しくは第九号に掲げる行為を業として行う者に限る。)が整備しなければならない業務管理体制は、第一項の要件のほか、これらの行為に係る業務において取り扱う貸付事業等権利について、当該貸付事業等権利に係る契約その他の法律行為において次に掲げる事項の定めがあることを確保するための措置がとられていることとする。
一 当該貸付事業等権利に係る出資対象事業を行う者(当該出資対象事業に係る業務を執行する者を含む。次号及び第百二十五条の二において同じ。)は、当該貸付事業等権利を有する者のため忠実に当該出資対象事業を行わなければならないこと。
二 当該貸付事業等権利に係る出資対象事業を行う者は、当該貸付事業等権利を有する者に対し、善良な管理者の注意をもって当該出資対象事業を行わなければならないこと。
立法及び自主規制規則の制定
平成27年には、電子募集取扱業務に関しては、金融商品取引法改正と一般社団法人第二種金融商品取引業協会の電子申込型電子募集取扱業務等に関する規則の制定により、他のファンド種別に先駆けて、具体的な取扱い時の発行体の審査及び顧客への情報提供義務が盛り込まれました。
法令改正に伴い制定された同規則の適用対象は、電子申込型電子募集取扱業務(いわゆる投資型クラウドファンディング)のみであり、自己募集や対面でのファンド勧誘は含まないなど規制の適用範囲は限定的ですが、はじめて第二種金融商品取引業者に審査とモニタリングの具体的な基準を示した点で画期的でした。
なお、電子的な方法で募集を行う貸付型ファンド(ソーシャルレンディング・貸付型クラウドファンディング)の取扱いに関しては、金融商品取引法施行令第15条の4の2で「法第二条第二項の規定により有価証券とみなされる同項第五号又は第六号に掲げる権利のうち、当該権利を有する者が出資又は拠出をした金銭その他の財産の価額の合計額の百分の五十を超える額を充てて金銭の貸付けを行う事業に係るもの」として、電子募集取扱業務の規制対象から除外されていました。
しかし、令和5年金融商品取引法改正に伴い、令和6年11月1日からは、貸付事業等権利(貸付型ファンド)に関しても、電子募集取扱業務の対象となるとともに、募集又は私募にかかる、いわゆる自己募集業務も、電子募集業務及び電子申込型電子募集業務として、新たに規制対象に加わっています。
同規則の定めている審査事項は、以下の通りです。
また、審査を行う際の、営業部門からの審査の独立性の確保も求められており、社内規則及びマニュアルの制定義務、営業部門から独立した審査担当者の設置や審査結果の記録義務等が定まっています。
電子申込型電子募集取扱業務の審査事項
イ) 事業等の実在性
・ 発行者の実在性
・ 事業等に係る業務遂行の実現可能性
ロ) 資金調達者としての適格性
・ 事業等の適法性及び社会性
・ 発行者(発行者が特別目的会社の場合、当該発行者から事業等の運営を委託され
た者)の法令遵守やリスク管理等に対する意識
・ 反社会的勢力への該当性及び反社会的勢力との関係の有無並びに反社会的勢力と
の関係排除への仕組み及びその運用状況
ハ) 財政状態及び経営成績
・ 財政状態及び資金繰りの状況
2
・ 財政状態及び経営成績の変動理由の分析
ニ) 事業等の計画及びその見通し
・ 事業計画の策定根拠の妥当性
・ 事業等を巡る経営、市場環境
・ 利益計画とその進捗状況
ホ) 事業等のリスクに関する検討
・ 事業等のリスクについての分析と評価
ヘ) 調達資金の額、その使途
・ 調達する資金の調達額及びその使途の妥当性(事業計画との整合性)
ト) 発行者と正会員又は電子募集会員との間の利害関係の状況
・ 出資関係、役員派遣、取引等の関係の状況
チ) 経理の状況(分別管理の状況を含む。)
・ 経理処理の適正性
・ 帳簿、伝票などの管理状況、領収書などの原始書類の保存状況
・ 会計専門家(公認会計士、公認会計士試験に合格した者、税理士、監査法人、税
理士法人等)からの指摘事項の有無、指摘事項があればその対応状況
リ) 過去1年以内にみなし有価証券の発行により資金調達をしていた場合のその後の
状況
・ 資金調達の額及びその使途の状況
・ 事業計画との整合性
・ 運用財産の分別管理の適切性
ヌ) 適切な情報提供を行う体制
・ 情報提供への適応力
・ 事業等のリスクに関する情報提供の妥当性
・ 内部統制の整備及び運用の状況(外部監査が行われる場合に限る。)
ル) その他必要と認める事項
・ 貸付事業等権利に係る事業者と当該事業者が貸付事業等において金銭を貸付け又
は貸付債権を取得する相手方との利害関係の状況
投資者への報告に関しては、最低限1年に1回以上の報告を行うこと(対象期間は、1年を超えてはならない。)、発行価額の総額が5億円以上に該当する場合には、公認会計士又は監査法人の外部監査を受ける必要があること等が規定されています。
ただし、信用格付業者(金商法第2条第 36 項に定める信用格付業者をいう。)又はその特定関係法人(金商業等府令第 116 条の3第2項に定める特定関係法人をいう。)において、投資適格以上の信用格付(同法第2条第 34 項に規定する信用格付をいう。)を取得した場合及び 信託銀行又は信託会社(管理型信託会社を除く。)が受託者となり、信用格付業者又はその特定関係法人において投資適格以上の信用格付を取得したもののみを対象とする運用を行う場合を除く)には、監査義務が免除されます。
具体的な報告事項は以下のように定まっています。
電子申込型電子募集取扱業務の報告事項
(1) 情報提供の対象期間
(2) 基準日時点における事業等の動向(対象期間以前の動向を含む。)
(3) 対象期間中の事業等の経過及び応募代金の使途
(4) 対象期間における分配又は配当金及び償還金に関する次の事項
イ)対象期間における分配又は配当金及び償還金の有無
ロ)対象期間における分配又は配当金及び償還金の金額
ハ)対象期間における一口当たりの分配又は配当金及び償還金の金額
(5) 基準日時点におけるファンド(事業者の貸借対照表及び損益計算書とは別に当該ファンドの貸借対照表及び損益計算書を作成することが困難なものを除く。)若しくは信託の受益権に係る貸借対照表及び損益計算書又はこれらの財務情報(貸借対照表及び損益計算書に記載された情報のうち主な経営又は財務指標となるものをいう。以下同じ。)を記載した書面
(6) 発行者(信託の受益権においては受託者をいい、当該信託が管理型信託である場合及び事業者が一のファンドの出資対象事業のみを行う場合を除く。)及び当該発行者からみなし有価証券に係る事業等の全部又は主要な業務の委託を受けた者の直近の決算期における貸借対照表及び損益計算書又はこれらの財務情報を記載した書面
(7) 発行者が作成する第5号又は第6号(第5号の適用を受けない場合に限る。)に規定する貸借対照表及び損益計算書(以下「ファンド等の貸借対照表及び損益計算書」という。)が公認会計士又は監査法人の監査を受けた場合は、当該監査に係る監査報告書の写し
(8) 基準日時点の分別管理の状況(金商法第 40 条の3の対象となるものに限る。)
(9) 対象期間中に事業等に重大な影響を生じる事由が発生した場合は、その旨及びその
要因
事業型ファンドに関する包括的な規則の制定
平成30年には、一般社団法人第二種金融商品取引業協会の自主規制規則である「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」にて、包括的かつ具体的なファンドの審査及び取扱い業務時のモニタリング義務が制定させるに至りました。
そのため、第二種金融商品取引業の一般投資家向けファンドの発行実務は、この規則に準拠して行われてきました。
第二種金融商品取引業に参入したい、又は、新たなファンドを設定したいというときは、同規則、又はクラウドファンディング又はソーシャルレンディングの場合適用される「電子申込型電子募集業務等及び電子申込型電子募集取扱業務等に関する規則」を念頭において検討を進める必要があります。
同規則等は、ファンドの取扱等の際の当初の審査義務及び事後的なモニタリング義務を詳細に規定しています。また、同規則等に基づいて貸付型ファンドに関するQ&Aが令和元年に制定されています。
事業型ファンドの審査事項
1.事業者・運営者共通
(1) 事業の実在性
① 例えば、事業者及び運営者の登記事項証明書の確認、所在地の訪問、代表者等の本人確認、出資対象事業に必要となる契約の締結状況及び各種契約内容の確認、経営者等へのヒアリングなどに基づき、出資対象事業の実在性を確認する。
② 例えば、出資対象事業と同様の事業に係る過去の実績や事業者及び運営者における組織体制を証する資料の確認、経営者等へのヒアリング、次の(2)の財務状況などに基づき、事業者及び運営者の業務遂行能力を審査する。
(2) 財務状況
例えば、事業者及び運営者の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、金融機関等からの借入れ及び返済状況が確認できる資料などに基づき、事業者及び運営者の財務状況及び資金繰りの状況を確認する。
(3) 事業計画の妥当性
例えば、事業計画及び当該計画を裏付ける資料などに基づき、次の事項などに留意し、当該計画の妥当性を判断する。
① 事業計画が合理的根拠に基づいて作成されているか。
② 事業のリスクに関する検討が適切に行われているか。
③ 事業を巡る経営環境の前提(新規性、競合他社の存否等)は妥当なものか。
(4) 法令遵守状況・社会性
例えば、次の事項に係る資料、ヒアリングなどに基づき、事業者及び運営者の法令遵守状況及び社会性を確認する。
① 経営者等は法令遵守やリスク管理等に対して十分な意識を有しているか。
② 許認可等の手続を要する事業にあっては、必要な手続が満たされているか。
③ 金商業等府令第 125 条に定める分別管理を確保するための措置が実施されているか。
④ 反社会的勢力への該当性及び反社会的勢力との関係の有無並びに反社会的勢力との関係排除への仕組み(暴排条項の導入等)及びその運 用状況に問題は認められないか。
(5) 資金使途・妥当性
上記(3)の事業計画及び(2)の財務状況の確認資料などに基づき、次の事項などに留意し、資金使途及び目標募集額の妥当性を判断する。
① 目標募集額は、事業計画及び事業者の財務状況に照らして、合理的な金額となっているか。
② 目標募集額及びその使途は、事業計画と整合しているか。
(6) 事業者又は運営者と正会員との間の利害関係の状況
例えば、事業者又は運営者と正会員の利害関係により、顧客との利益相反を生じるおそれのある状況となっていないか。また、利益相反のおそれがある場合、当該利益相反の管理が適切に行われる体制となっているか。
(7) その他正会員が必要と認める事項
・ 貸付事業等権利においては、事業者又は運営者と当該事業者が貸付事業等において金銭を貸付け又は貸付債権を取得する相手方との利害関係の状況2.事業者
(1) 過去1年以内に金商法第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利により資金調達していた場合のその後の状況
例えば、過去1年以内に金商法第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利により資金調達した事業に係る資料(契約書、請求書、注文書、領収書、インボイス、登記簿謄本、送金依頼書、通帳の写し、月次試算表、補助元帳等)などに基づき、次の事項などに留意し、過去の資金調達が適切に運用されているかを確認する。
① 出資金が当初予定された使途に使用されているか。
② 運用財産の分別管理は適切に行われているか。
③ 事業が事業計画どおりに推移しているか。
(2) 適切な情報提供を行う体制
① 出資契約において、事業者によるファンド報告書の作成及び顧客(対象除外顧客を除く。)に対する交付が義務付けられていることを確認する。
② 例えば、組織図、業務分掌などに基づき、顧客及び正会員に定期的な情報提供を行うための担当者・部署、業務内容・役割が定められているかを確認する。
(3) その他正会員が必要と認める事項
また、報告事項は以下のように定まっています。募集又は私募の取扱い業務の場合には、決算期毎の発行者からの報告を、会計監査が実施されている場合を除き、確認する義務が定められています。
確認内容は、報告書内容、分別管理の状況、事業者・運営者の財務状況、その他第二種金融商品取引業者が必要と認める事項とされています。
発行者がファンド報告書を交付しないとき、確認の結果、出資対象事業の状況等に不正又はその疑いが認められたとき、 その他第二種金融商品取引業者が出資対象事業の状況等に不正又はその疑いを知ったときは発行者に対し調査を行い、又は改善を求めるとともに、必要に応じて、顧客に通知しなければなりません。
また、自己私募又は自己募集の場合には、第二種金融商品取引業者は、各決算期に係るファンド報告書を作成し、顧客に対して、交付する義務を負います。 また、出資対象事業の状況等に不正又はその疑いを知ったときは、速やかに、調査を行い、又は改善を図るとともに、必要に応じて、顧客に通知する必要があります。
事業型ファンドの報告事項
1.当該ファンド報告書の対象期間
2.基準日時点における出資対象事業の動向(対象期間以前の動向を含む。)
3.対象期間中の出資対象事業の概況(運用状況の経過及び出資金の使途を含む。)
4.当該対象期間に係る分配金及び償還金(中途解約を含む。以下同じ。)に関する次
の事項
① 当該対象期間に係る分配金及び償還金の有無
② 当該対象期間に係る分配金及び償還金の金額
③ 当該対象期間に係る一口当たりの分配金及び償還金の金額
5.基準日時点における事業型ファンドの財務状況(貸借対照表、損益計算書に記載す
べき内容をいう。本表及び別表4の2において同じ。)又は貸借対照表、損益計算書
等に記載される財務情報(総資産、総負債、純資産、売上高、営業損益、経常損益、
当期純損益額などの主な経営・財務指標など。)
6.事業者及び運営者の直近の決算期における次の財務状況又は財務情報(一の事業型
ファンドの出資対象事業のみを行う事業者の財務状況又は財務情報を除く。)
(1) 正会員が私募の取扱い又は募集の取扱い、若しくは売付けにより取得させた事業
型ファンド
事業者及び運営者の財務状況又は貸借対照表、損益計算書、税務申告書等に記載
される財務情報(資本金、総資産、総負債、純資産、売上高、営業損益、経常損益、
当期純損益額などの主な経営・財務指標など。次の(2)②及び別表4の2において
同じ。)
(2) 正会員が私募又は募集により取得させた事業型ファンド
① 当該正会員の貸借対照表、損益計算書
② 運営者の財務状況又は財務情報
7.出資金及び運用財産の分別管理の状況
基準日における分別金の額及び分別管理の方法(金商業等府令第125条第2号に掲
げる方法をいう。)
8.事業型ファンドが第7条第2項で定める監査を受けている場合には、当該監査を行
った者の氏名又は名称並びに当該監査の対象及び結果の概要
9.事業計画の大幅な修正、運営者の変更、事業者及び運営者の財務状況の著しい悪化
等、出資対象事業に重大な影響を生じる事由が発生した場合はその旨及びその要因
市場制度ワーキング・グループでの制度改正議論
貸付型ファンドに関しては、実際に大手数社で不祥事が発生したことを受けて、令和4年6月22日の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」中間整理では、有価証券投資型ファンドと同様に、善管注意義務や忠実義務、投資家に対する追加的な情報提供を含めた運用行為に係る制度等(主要株主規制含む)を整備する方向性が打ち出されてました。
また、電子申込型電子募集取扱業務に対する規制は貸付型ファンドや自己募集業務には適用されていませんが、金融審議会はソーシャルレンディングを含む投資・運用行為を行っている事業者等に対して、同様の行為を行うファンドと同様のルールを適用させるべきだとしました。
これを受けて、令和5年の金融商品取引法等の改正において、貸付型ファンド(貸付事業等権利)も、電子募集取扱業務の規制対象に加えられるとともに、いわゆる自己私募又は自己募集(7号業務)の形態であっても、電子募集業務/電子申込型電子募集業務として、電子募集取扱業務と同等の規制が打ち出されました。令和6年11月1日より、同改正が施行されています。
主として有価証券又はデリバティブ取引を行うファンドの審査等
法令や自主規制規則は、電子申込型電子募集取扱業務や、事業型ファンドの私募の取扱等に関して審査及びモニタリング義務を定めています。また、第一種金融商品取引業の領域ではありますが、社債の私募等に関しても同様の審査等の義務が定まっています。
しかし、令和に入ってからは、主として有価証券又はデリバティブ取引を行うファンドに関しても、上記類型のファンドと同様に、事前審査及びモニタリング義務の履行が求められる傾向が強まっています。
かかるケースでは、独立した審査担当者の設置までは求められないことが多いとはいえ、審査及びモニタリングに関する社内規程の整備が必要となるケースが多くなっていますので留意が必要です。
審査義務及びモニタリング義務への実務対応
電子申込型電子募集業務及び電子申込型電子募集取扱業務の場合も、事業型ファンドの場合も、実際の審査部門のワークフローとしては大きな違いはありません。
もちろん、電子申込型電子募集取扱業務の場合は、信託銀行との契約等の払込事務が複雑であるほか、電子申込型はいずれも、顧客の情報開示範囲や、方法等の事務面で、通常の事業型ファンドとは細かな違いは多数ありますが、大枠としての審査部門、モニタリング部門の設置、機能、行うべき業務の内容は、基本的にはほぼ同じ発想が求められると把握したほうがわかりやすいと思います。
社内組織の構築
審査部門は営業部門から独立していることが求められています。
とくに、第二種金融商品取引業務として電子申込型電子募集業務/電子申込型電子募集取扱業務を行う場合には、般社団法人第二種金融商品取引業協会の「電子申込型電子募集業務等及び電子申込型電子募集取扱業務等に関する規則」で、審査部門の設置が義務付けされています。
また、電子申込型電子募集業務/電子申込型電子募集取扱業務に限らず、事業ファンド全般で、審査部門は、実務上コンプライアンス部門等の他部門との兼務も不可とされています。そのため、審査部門は独立して知識経験のある担当者の配置が必要になります。モニタリング部門は、審査部門と兼務の例も多く、独立して設置することは求められないことが多いです。
また、貸付型ファンドを組成する場合に、貸付審査部門とファンド審査部門を1名の役職員で兼務できないかという質問を受けることがよくありますが、一般的には両部門は分離するように行政指導が行われておりできないと考えるべきです。
ただし、審査義務自体が、比較的最近に出てきた議論ですので、それ以前の時期に登録された業者では、コンプライアンス部門と審査部門が兼務となっていたり、審査部門自体が存在しない例は普通にあります。ただし、一般投資家を相手方とする場合、そうした体制では新規での登録は困難です。
規程・マニュアルの制定
登録を受けるうえでは、審査部門に関する社内規程及び審査マニュアルの制定が非常に重要になります。
社内規程は、協会規則に準じた形で大枠及び意思決定プロセスを定めるものですので、制定はそう難しくないとはいえ、審査マニュアル(若しくは規程の細則)で、具体的にどういったファンドなら審査可決し、どのようなファンドであれば否決するのかという基準を明文化していく作業は、簡単ではありません。
一般的な傾向として、出資対象事業に対する知識経験が深い事業者でないと、具体的な基準を用意できずに手詰まりになる傾向がみられます。
例えば、太陽光発電であれば、どのような設備仕様であれば可決か、どのようなEPC業者なら適切か、どのような保険を付保すればいいのか、といったことは、実際にその事業分野で長年の実績を積んできた事業者様にとっては、明文化することはさほど難しくありません。
他方、出資対象事業に対する深い知識がなく、単に漠然とクラウドファンディングをやりたい、といった薄いモチベーションでは、説得力のある審査マニュアルを当局に提示することは難しいといえます。とりわけ、第二種金融商品取引業の新規の登録審査の際には、第1号となる案件を具体的に明示し、エビデンスとともに審査規程及び審査マニュアルに基づいて審査した審査結果を、財務局に提出しなければなりません。
多数の経験に基づく支援の実施
当事務所は、豊富な登録支援の経験を生かし、こうした規則・マニュアルの制定も含めた第二種金融商品取引業関連手続き全般の助言を行っております。また、電子申込型電子募集業務に該当する業態の貸付型ファンド及び電子申込型電子募集取扱業務のいずれにおいても、多数の支援実績がございますので、クラウドファンディング事業にご関心のある事業者様も是非お気軽にお問い合わせください。
