行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

顧客本位タスクフォース中間報告

2022/11/26

かねてより金融庁が提唱している「顧客本位の業務運営に関する原則」にまつわる諸制度に関し、識者による議論を積み重ねてきた、金融審議会「顧客本位タスクフォース」において、令和4年11月22日付で第4回の議事次第が公開されています。

同議事次第配布資料では顧客本位タスクフォース中間報告案が公表されています。

報告案では「顧客本位の業務運営に関する原則」の義務強化や投資助言・代理業の参入規制の緩和、資産運用のガバナンス向上等に関する諸方針が示されています。

既存の金融商品取引業者にとって、同案で示された顧客本位に関する業務運営に関する原則に関連した手数料や利益相反の開示義務等の各種行為規制の強化は、事務負担の増大に繋がります。他方、FP等の中立系資産運用アドバイザー業務を行う事業者にとって、劇的な参入規制緩和につながる可能性もまた示されています。

以下、具体的に見ていきましょう。

顧客本位の業務運営に関する原則

報告案では「顧客本位の業務運営に関する原則」に関し「「原則」に定められている金融事業者は顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきであることを広く金融事業者一般に共通する義務として定めることなどにより、「原則」が対象とする金融事業者全体による、「原則」に沿った顧客・最終受益者の最善の利益を図る取組みを一歩踏み込んだものとすることを促すべきである。」としており、従前の任意的かつ成文法に基づかない「顧客本位の業務運営に関する原則」に制度的な見直しを要するとの認識を明らかにしています。

そのうえで「金融商品取引法において規定されている誠実公正義務は、1990年に証券監督者国際機構が定めた証券業者に関する行為規範原則を取り込んだものであるが、行為規範原則にあった「顧客の最善の利益…を図るべく」との文言が取り込まれておらず、解釈上、最善利益義務が含まれているかは明確でない。このため、顧客の最善の利益を図るべきことを法律上定めることにより、誠実公正義務に内包されるべき最善利益義務が明確化されるとも考えられる。」と言及しています。

つまり、誠実公正義務の既存の射程を実質的に超え又は具体化するものとして、顧客の最善の利益を図る義務を金融商品取引法上、法定化するものと読めます。

こうした点を踏まえて報告書案は「利益相反の可能性の顧客への情報提供についてはルール化を行うべきである。その際、少なくとも、重要情報シートの記載事項とされている」、以下の事項について顧客が容易に理解できる態様での明示を義務付ける方向性を示しています。

ア 顧客が支払う費用のうち販売会社が組成会社から受け取る手数料の割合及びその対価として顧客に提供するサービスの内容(第三者から受け取る報酬等も含む)
イ 組成会社や販売委託元との関係(資本関係、人的関係又は重大な業務上の関係を有する者の商品(グループ商品)を販売する場合)
ウ 他の商品と比較して当該商品を販売した場合の営業職員の業績評価上の取扱い、

また、投資信託及び仕組債での手数料開示も重要な論点となっており「仕組債の組成コスト」や、「投資信託の交付目論見書における総経費率の記載等」に関しても開示対応の必要性が示されています。

書面交付の電子化の推進

報告書案では「顧客属性に応じ、それぞれの顧客により適した媒体で、充実した情報の分かりやすい提供を実現するため、契約締結前や契約締結時などの情報提供については、金融事業者において書面とデジタル手段を自由に選択できるようにすることが考えられる。また、デジタル・リテラシーは人によって様々であることから、実質的な説明が顧客に理解されるために必要な方法と程度により提供されることが重要であり、金融商品取引業等に関する内閣府令で規定されているいわゆる実質的説明義務を法律上規定すべきである」としています。

これに関しては、付帯して消費者保護的な留保文言的な追加説明が付されていますが、本論点は、実質的には規制緩和と見受けられます。

従来の規制体系においては、電磁的交付の許容要件では、書面交付は印刷された「書面」が原則で、例外的に電磁的方法による書面交付を許容する規制趣旨でした。

本提言は、原則的交付方法のアナログ・デジタルの複線化と見受けられます。

報告案の方向性は、各種の顧客交付書面の金融商品取引業者等の側の能動的かつ選択的な電子化を許容するものであり、それにより実質的な不利益を被る投資家がないように配慮して制度設計するものの、規制体系をDXに適応させていく前向きな規制改革と考えられます。

投資助言・代理業の新種別?

続いての報告書案は、ある意味で本件の実務上のコアともいえる、投資助言・代理業の登録要件の規制緩和に踏み込んでいます。

報告書案では「まず、アドバイスの対象が特定の金融事業者や金融商品に偏らない中立的なアドバイザーの見える化を進めるべきである。その際、中立性の判断に当たっては、アドバイザーが金融商品の販売を行う金融事業を兼業しているかどうか、顧客からのみ報酬を得ているかどうか、といった点を考慮することが考えられる。」と指摘し、新たな投資助言・代理業形態でのなんらかの兼業規制の導入可能性を指摘しています。

兼業規制の合理化

現状、兼業規制は第一種金融商品取引業者及び投資運用業者のみに課せられ、第二種金融商品取引業者及び投資助言・代理業に関しては、他に行う事業が公益に反すると認められる者に該当しない限りは、金融商品仲介業も含め金融商品取引業以外の業務との兼業が可能です。

こうした中、金融商品仲介業者と投資助言・代理業者の兼業のように利益相反の可能性がある業態であっても明文による兼業規制がないことが、この10年以上に渡って、実務上の問題になってきました。

これに対して、業者側が綿密な利益相反管理体制の構築をしたり、又は、監督する管轄の財務局及び時期によっては兼業自粛等の行政指導により、実務者ベースで手当てされてきた歴史があります。これらについて成文法や、ガイドライン等で要件が示されるのであれば、むしろ実務上のグレーゾーンの解消に繋がります。

NISA ・ iDeCo限定投資顧問

報告書案は「こうした中立的なアドバイザーの裾野を広げ、育成していくため、国としても、Ⅲにおいて述べる金融経済教育の実施にあたり、その積極的な参加を促していくことが望ましい。」としており、ビジネス・フレンドリーな姿勢を明らかにしています。

さらに「中立的な助言サービスを受ける個人に対する国の支援の可能性を検討するほか、特にこうした中立的なアドバイザーが行うアドバイスが投資初心者層へ広く提供されるよう、助言対象を絞った投資助言業(例えば、つみたてNISAやiDeCoの対象商品に限定)について、監督のあり方や体制も検討しながら、登録要件の緩和を検討していくべきである。」としており、いわば「特定投資助言・代理業者」とでもいうべき、助言対象商品を絞った特定業態の登録要件の緩和に言及しています。

素人に門戸は開かれない?

報告書案では「個人向けの投資助言業であることを念頭に、一定水準以上の知識・経験を有していることが必要であるとの意見があった。」としており、かかる緩和の検討が無制限に登録の門戸を広げるものではないことも明らかにしています。

知識・経験と、要件が2つ併記されていることが重要であって、既存の金融規制とも整合的です。おそらくは、外務員資格、証券アナリスト及びFP等のどんな資格を持っていようと、金融関連実務経験がない者の参入は認めないという規制当局の意思が読み取れます。

金融規制の不文律である「金融商品取引業者又は登録金融機関での勤務経験がある者がいない者の登録は認めない」ということと整合的であって、仮に本制度改正で金融商品取引業又は登録金融機関業務経験者以外に、FP実務の経験等も経験者とみなして登録門戸が開かれることがあったとしても、いずれにせよ、職業的「実務」経験がない者の参入は許さない制度運用がなされる可能性が高いでしょう。

投資助言・代理業への参入規制緩和のポテンシャル

社会的な留保付き規制緩和論議にも関わらず、本件は大きなポテンシャルを内包します。FP等の独立系資産運用アドバイザー投資助言・代理業への参入ニーズは、改正議論が持ち上がる前から、実務上非常に高まっている状況だったからです。

というのも、投資助言・代理業者のうち、「昭和型」のいわゆる「仕手筋、兜町、投資顧問」的な業態は、証券取引等監視委員会、証券取引所及び証券会社での取引モニタリングの厳格化や、一昔前の証券取引等監視委員会と検察庁の合同による積極的な摘発により、現在では壊滅状態に近い状況にあります。

また、web広告代理店を活用してネットマーケティングに注力する、いわば「平成型」の投資助言・代理業者も、広告の適切性を巡る証券取引等監視委員会、財務局の監視強化により、峠を越し、残存業者は急速に適正化に向かっています。

これに対して、証券会社の手数料稼ぎを問題視した元証券マンやFP等を母体として、顧客利益を真剣に考える投資助言・代理業者は、平成末期から、令和に入って明らかに登録件数が増えています。

今回の制度改正議論は、こうした「令和型」の投資助言・代理業者の参入ハードルを引き下げるものであり、業界のマクロな流れにアクセルを踏み込むものであるため、今後投資助言・代理業者の数は急激に増加する可能性があります。

実際、中間報告案でも「例えば、米国における登録投資顧問業(RIA)は31,669社(2021年)、CFP(北米、アジア、ヨーロッパ、オセアニアを中心に世界25ヵ国・地域で導入)の認定者は92,055名(2021年)。なお、日本の投資助言業は1001社(2022年9月)、CFPは24,064名(2021年)」に過ぎないと指摘しています。

Dreaming with IAAB

仮に、投資助言・代理業がアメリカ並みの規模に拡大した場合、人口比で考えて、投資助言・代理業者数は1万社を超えることになります。

これに対して、金融商品取引業者の登録番号は、登録業者数で圧倒的に多数を占める関東財務局登録業者ですら未だに3000番台です。

金融商品取引業の登録実務に長く携わる者にとって、金融商品取引業者の登録番号である「〇〇財務局長(金商)第×××××号」が、3桁でも4桁でもなく5桁に乗ることは、SF映画のようで実感が湧かない話です。

投資運用業に関連する提言

投資運用業者に対して示された報告案の内容は、プロダクトガバナンス確保とそのための運用会社のガバナンスの強化が基本的目線です。

具体的には、資産運用会社の経営をモニタリングできる社外取締役の機能強化が必要との方向性が示されています。今後監督指針等で、投資運用業者の取締役会(適格投資家向け投資運用業や委員会等設置会社等を除き原則的に必要的な設置機関)等への社外取締役の導入義務が定められる可能性があります。

投資運用業ガバナンス

報告案では、「想定顧客を明確にし、顧客利益を最優先して個別商品ごとに品質管理を行うプロダクトガバナンス体制を確立することが重要である。」「資産運用会社等の金融商品の組成者・管理者について、金融グループ内におけるガバナンスや独立性の確保、顧客の最善の利益に適った商品組成・提供・管理を確保する枠組みであるプロダクトガバナンスの実践、組成会社・販売会社それぞれについて求められるべき機能及び役割の明確化を実現していくために必要な、「原則」の見直しや制度化に向けて、検討を深めていくべきである」としており、総じて、投資運用業者の企業統治及びプロダクト等総合的なガバナンスの強化を求めています。

これは、報告案が指摘している「長期にわたって運用成績が低迷するファンド」の放置に悪い意味で象徴されるように、系列の販社に依存する系列内販売慣行や、特定の人的及び歴史的取引関係に基づいて機関投資家側でも縁故的な投資判断がなされていることに立脚します。

これらは今回の報告案でも問題にされていましたが、必ずしも優勝劣敗の市場原理が十分に働いていない、主に大手金融機関系の資産運用業者の独占的地位に甘んじた漫然とした資産運用業務に対する規制当局の問題意識を反映していると思われます。

今後、投資運用業者は、業務運営において従来のレベルを遥かに超える、総合的なガバナンスの透明性及びアカウンタビリティーの確保に重点を置く必要があるでしょう。また、裏返せば、投資運用業には、資産所得倍増の国策の下で、我が国の存立に関わるほどの政策的関心が集まっているといえます。

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