行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

顧客交付書面のデジタル原則化

2023/09/15

令和5年3月14日提出の金融商品取引法改正案は国会で継続審議になっており、例年と比べて金融商品取引法改正の成立が遅れています。しかしながら、金融庁や自主規制団体は、同法案の成立を見込んで、具体的な準備に入っています。

令和5年9月14日、金融庁は金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第24回)議事次第を公開しました。

金融庁は、金融庁提出法案が成立した場合の施行に向け、顧客に対する書面デジタル化の周知方法を含め、どのような点に留意して進めていくべきかの議論を審議会に委ねるとともに、日本証券業協会は資料として「証券業界における顧客交付書面のデジタル原則化に係る顧客周知について」を示しています。

既報(令和5年金融商品取引法等改正に関する解説)の通り、金融商品取引法の改正案では、金融商品取引契約の締結前等における顧客に対する書面交付義務について、電磁的方法を含む情報提供義務と改めることとされ、契約締結前の書面交付の規定が契約締結前の情報の提供等(改正法案第37条の3第1項)に置き換えられています。

その他書面交付関係では、契約締結時交付書面は「契約締結時の情報の提供等」(同第37条の4)、最良執行方針を記載した書面の交付は「最良執行方針に係る情報提供」(同第40条の2第4項)、運用報告書は「運用状況に係る情報の提供」(同第42条の7)に概念が改められています。

日本証券業協会資料

日本証券業協会のスライドでは、顧客本位タスクフォース 中間報告の「顧客属性に応じ、それぞれの顧客により適した媒体で、充実した情報の分かりやすい提供を実現するため、契約締結前や契約締結時などの情報提供については、金融事業者において書面とデジタル手段を顧客本位の観点から自由に選択できるようにする」及び「顧客のデジタル・リテラシーの差異等を踏まえ、書面により情報提供を受ける選択肢を確保した上で、顧客属性に応じた方法で書面交付が可能であることを告知する」旨を抜粋再掲しており、今回の資料は、これを踏まえた具体的な顧客に対する告知方針について説明が行われています。

新制度ではデジタル原則を選択する場合に求められる事項として「書面交付が可能である旨の告知を義務付け」「顧客の認識なく書面交付が電子交付に変更される事態が発生しないよう周知を行う」「書面交付の場合でも、顧客に追加的な手数料は求めず、金融事業者がコスト負担する」を必要的な対応事項と位置付けています。

ガイドライン制定方針

これを受けて、日本証券業協会は、デジタル原則を選択しようとする証券会社による顧客への伝達・告知について、日本証券業協会にてガイドラインを作成することを明らかにしました。

日本証券業協会のガイドラインは、直接的には証券会社等の同協会会員向けのものとなりますが、第一種金融商品取引業のうち金融先物専業業者、第二種金融商品取引業者、投資運用業者及び投資助言・代理業者等の他の金融商品取引業者等にとっても、事実上のスタンダードを示すものになることが予想され、内容が注目されます。

日本証券業協会は、資料で対応の全容について示しています。

新規顧客

新規顧客に対しては、「新規口座開設時の申込書類やWEBページ上の申込画面で、自社ではデジタル手段による情報提供を原則としていること顧客からの申出により、いつでも書面による情報提供に切り替えられる(オプトアウトが可能である)ことを説明することにより、すべての新規顧客に必要な周知を行うことができる」としており、新規顧客に対する説明は、簡便なものになりそうです。

既存顧客

日本証券業協会は、既存顧客に対しては、既に書面交付を受けている場合もあることから、より丁寧な周知を行うことが求められるとして、相応の負担のある確認義務を課す方針を明らかにしています。

具体的には、デジタル原則移行及び書面による情報提供への切替え(オプトアウト)が可能であることについて、マイページ、電子メール、直接説明、書面郵送等で伝達・告知事項を閲覧したことが証券会社側で確認できた顧客はデジタル原則に移行できるものの、確認できない顧客に関しては、同じ方法または異なる方法により、デジタル原則移行及び書面による情報提供への切替え(オプトアウト)が可能であることを再周知することを求めています。

デジタル原則に移行するためには、閲覧確認ができるまで上記の段取りを繰り返し、確認が取れるまで再周知を継続する必要があるとされています。これは顧客の認識なく書面交付を電子交付に変更するといった事態が起こらないようにするためであるとされています。

また、日本証券業協会は「デジタル原則を選択する場合であっても、デジタル手段による情報提供がふさわしくないと考えられる顧客層についてはデジタル原則の対象にしないことも考えられる」としています。これは、主に高齢顧客等が念頭にあることが予想されます。

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