行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

2023事務年度金融行政方針

2023/09/01

令和5年8月29日、金融庁から2023事務年度金融行政方針が発表されています。

資産運用立国の実現と資産所得倍増プランの推進が、金融商品取引業に関連する記載事項のコアとなります。

同方針本文では、Ⅱ-1.(1)で、資産運用立国に向けた取組を行うための具体的な政策プランを新しい資本主義実現会議の下で年内に策定とするとしています。具体的な政策プランとはどういった内容になるのか、続報が待たれます。

資産運用力の向上及びガバナンス改善・体制強化

同方針で、続く各論として①で「資産運用会社等の資産運用力の向上及びガバナンス改善・体制強化」を取り上げています。

金融庁は、専門性の向上や運用人材の確保を含め運用力の向上に必要な取組みを促すとしつつ、顧客の最善の利益を考えた運営が確保されるよう、ステークホルダーへの開示のあり方を含め、ガバナンスの向上を後押しするための環境整備を行っていくとしています。

一般に、霞が関では意図した政策を実現するツールとして、法規制と助成金等を併用することが一般的であると理解していますが、金融行政ではこうした考え方は基本的に取られておらず、後押しの給付行政に期待するよりも規制行政としての監督動向がどうなるかを考えるのがプラクティカルです。

こうした観点からは、金融庁は、ハード面では投資運用業者等における人材の不足、ソフト面では顧客の最善の利益を必ずしも追及できていない投資運用業者等が多いことを、資産運用ビジネスを活性化させるうえでの重要な監督上の課題と考えていることが透けて見えます。

同方針のコラムでも、資産運用会社の経営の透明性の確保と運用体制の透明性の確保が、資産運用業高度化プログレスレポートで課題とされたことを取り上げています。

新規参入の促進

同③では、新規参入の支援拡充等を通じた競争の促進にも言及がなされており、資産運用に係る我が国独自のビジネス慣行など、国内外の資産運用会社の参入障壁となっている可能性がある点について把握し、改善に向けた取組を促す。また、拠点開設サポートオフィスの機能や体制の強化を行うなど、地方公共団体等とも連携しつつ、新規参入の支援拡充を通じた競争の促進を図るとされています。

また、解説では独自のビジネス慣行として、投資信託の基準価額の二重計算が例示されています。参入促進に向けては、実際にはこれに限らず様々な課題が山積しているのが現状かと思いますが、実現可能性の高いハードルから順次除去していく方針であることが伺えます。

これだけ見ると、資産運用ビジネスへの新規参入が容易になるのではないか等の考えで、浅い検討の下で参入を考える事業者も出てきそうですが、実務上は、資産運用ビジネスを行う事業者に対するガバナンスの要求水準は以前よりも高くなっています。

簡単に登録できると考えるのは早計です。

オルタナティブ等

④の運用対象の多様化では、スタートアップ投資等のオルタナティブ投資やサステナブル投資の活性化を含め、運用対象の多少化を推進するために必要な環境整備を行っていくとしています。同注釈では「オルタナティブ投資」とは、スタートアップを含むプライベートエクイティ(非公開株)や、不動産、インフラ等への投資であると解説されています。

オルタナティブのうちでは、もっとも伝統的なアセットクラスが取り上げられています。多くの第二種金融商品取引業者が取り扱っている、ソーシャルレンディングや、いわゆる事業型ファンドは、その射程の範囲外と考えるべきです。

また、⑤では、国際金融センターの実現に向けた情報発信等の強化・環境整備として、japanWeekの開催をはじめとした広報強化にも言及しています。

その他

金融商品取引業に関連しては、上記の他に新しいNISA制度の普及・活用促進やスタートアップ等の成長を促すための資本市場の機能強化に関連しての、株式投資クラウドファンディングの規制緩和論や、非上場株式のPTSに関する認可要件の緩和等への言及も注目されます。

金融行政方針は、かなりマクロな見取り図ですので、金融商品取引業者の内部管理上の留意事項という各論とはかなり距離があります。しかしながら金融商品取引業等を行う者として、現在の政府方針がどういった方向を向いているのかは、的確に把握しておく必要があります。

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