行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

令和5年金融商品取引法等改正

2023/03/20

このページの目次
不動産特定共同事業第1号事業型のセキュリティートークン規制自己募集型の「電子募集業務」貸付型ファンドへの規制(貸付事業等権利)標識記載事項のインターネットによる公表の義務付け等誠実公正義務の新設と削除契約締結前等の顧客への情報の提供等に関する規定の整備金融経済教育推進機構投資助言・代理業の登録要件緩和は盛り込まれず

令和5年金融商品取引法等改正概要

令和5年3月14日付で、令和5年の金融商品取引法等の改正を含む第211回国会における金融庁関連法律案が公表されました。

なお、以下の解説は公表に基づく速報解説ですので、後日訂正する場合があります。

不動産特定共同事業第1号事業型のセキュリティートークン規制

改正金融商品取引法案(以下「改正法案」という。)第2条第2項第5号では、新たに不動産特定共同事業契約(当該不動産特定共同事業契約に基づく権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるものに限る。)に基づく権利を、有価証券とみなされる権利の定義に含めることしています。

従来から、不動産特定共同事業法に基づくファンドのうち、特例事業者が発行者となるSPC型ファンド(第3号事業及び第4号事業スキーム)は、不動産特定共同事業法と重畳的に金融商品取引法の規制対象でしたが、今回の改正で、不動産特定共同事業許可業者が自ら発行者となる自己募集型のファンド(第1号事業スキーム)に関しても、ファンドをセキュリティートークン化する場合には、金融商品取引業の登録又は適格機関投資家等特例業務の届出が必要となることになりました。

既に、かかるスキームでの第1号事業者のセキュリティートークンの発行事例が存在しており、法案はこれを新たに金融商品取引法の規制下に組み込む形になります。こうしたセキュリティートークンの募集又は私募(自己募集)は、第二種金融商品取引業に該当しますが、適格機関投資家等特例業務でもこれを行うことが可能です。

なお、かかるセキュリティートークンが電子記録移転権利に該当する場合には、その取扱い業務は第一種金融商品取引業となると考えられます。

また、本改正に関連して、不動産特定共同事業法も改正案が公表されています。

改正不動産特定共同事業法案では、同第5条第1項第7号においてセキュリティートークンの勧誘業務を「特定勧誘業務」と位置付けています。

不動産特定共同事業の許可申請書の記載事項の追加不動産特定共同事業の許可を受けようとする者が、不動産特定共同事業契約(当該不動産特定共同事業契約に基づく権利が電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるものに限る。)の締結の勧誘の業務(特定勧誘業務)を行おうとする場合にあっては、主務大臣又は都道府県知事に、金融商品取引法第29条の登録又は同法第63条第2項の届出に関する事項を記載した許可申請書を提出しなければならないとされています。

自己募集型の「電子募集業務」

第一種金融商品取引業及び第二種金融商品取引業に関連しては、改正法案第29条の2第1項第6号に「電子募集業務」の概念が追加されて「電子募集業務(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて内閣府令で定めるものにより第二条第八項第七号又は第八号に掲げる行為」と定義されました。

インターネットを用いて当該ファンドの募集を行う場合について現行法の「第5款電子募集取扱業務に関する特則」が改正法案では「第5款電子募集取扱業務及び電子募集業務に関する特則」と改められ、改正法案第43条の5の情報提供義務につき電子募集取扱業務と同様の行為規制に服することになります。

今まで、インターネット上での有価証券の売買等業務は、取扱い業務(9号)のみが電子募集取扱業務として追加的な規制に服していましたが、今後は募集又は私募(自己私募)業務や売出し又は特定投資家向け売付け勧誘等業務にも、規制の対象が拡大することになります。

貸付型ファンドへの規制(貸付事業等権利)

改正法案第29条の2第1項第10号には「貸付事業等権利」の概念が新設され、貸付事業等権利は、金融商品取引法「第二条第二項第三号から第六号までに掲げる権利のうち、当該権利に係る出資対象事業(当該権利を有する者が出資又は拠出をした金銭その他の財産を充てて行う事業をいう。第四十条の三の三において同じ。)が主として金銭の貸付けを行う事業であるものその他の政令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)についての第二条第八項第七号から第九号までに掲げる行為を業として行うこと」と定義されました。

これにより貸付型ファンドは、自己募集、取扱い問わず、貸付事業等権利として追加的な行為規制に服することになります。本規制強化は、ソーシャルレンディングを行う第二種金融商品取引業者の不祥事が続いたことを背景とします。

具体的には、改正法案第40条の3の3で出資対象事業の状況に係る情報の提供が確保されていない場合の売買等の禁止が定められ、「金融商品取引業者等は、貸付事業等権利については、当該貸付事業等権利に係る出資対象事業の状況に係る情報が、当該貸付事業等権利を有する者に提供されることが当該貸付事業等権利に係る契約その他の法律行為において確保されているものとして内閣府令で定めるものでなければ、第二条第八項第一号、第二号又は第七号から第九号までに掲げる行為をしてはならない」とされ、投資家に対する情報提供体制が確保されていない場合には、売買等を禁ずる定めが新設されました。

また、改正法案第40条の3の4では、出資対象事業の状況に係る情報が提供されていない場合の募集等の禁止として「金融商品取引業者等は、貸付事業等権利については、当該貸付事業等権利を有する者に前条に規定する契約その他律行為に基づき提供されるべき情報が提供されていないことを知りながら、第二条第八項第七号から第九号までに掲げる行為をしてはならない」として、情報提供がなされていないことを知りながら売買等を行うことを金融商品取引業に対して禁止しています。

なお、ファンドの運用者への直接的禁止付けではなく、売買等に係る金融商品取引業者の確認等の間接的な義務として定めが設けられた背景には、第二種金融商品取引業では募集又は私募やその取扱い等の一回性がある行為こそが金融商品取引業であり、その後のファンドの運用行為は、投資運用業を構成する運用行為でない限り、法理論上、金融商品取引業ではないことがあります。

標識記載事項のインターネットによる公表の義務付け等

改正法案第36条の2第2項では「金融商品取引業者等は、商号、名称又は氏名等の標識に記載すべき事項について、インターネットにより公衆の閲覧に供しなければならない」とされました。これにより金融商品取引業者等は、原則としてホームページを開設して、登録標識に記載すべき事項と同様の内容に関して公開する必要があります。

これは事実上、金融商品取引業者に対してwebサイトの開設を義務付けるものです。もっとも、事業の規模が著しく小さい場合その他の内閣府令で定める場合にはかかる義務が免除されることになっており、詳細は内閣府令案の公表を待つ必要があります。

また、金融商品仲介業者(改正法案第66条の8)及び金融サービス仲介業者にも同様の定めが新設されました(金融サービスの提供に関する法律を改題した「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」案第20条第2項)。

誠実公正義務の新設と削除

「金融サービスの提供に関する法律」は上記の通り「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」と改題される大規模な改正案が示されています。同法案第2条は、金融商品取引業者を含む金融サービスの提供等に係る業務を行う者に対して、横断的に、顧客等の最善の利益を勘案しつつ顧客等に対して誠実かつ公正に業務を遂行する義務の規定を新設しています。

それに伴い改正法案で、金融商品取引法から、新設される規定と同趣旨の誠実公正義務に係る規定(現金融商品取引法第36条)が削除されています。

契約締結前等の顧客への情報の提供等に関する規定の整備

金融商品取引契約の締結前等における顧客に対する書面交付義務について、電磁的方法を含む情報提供義務と改めることとされ、契約締結前の書面交付の規定が契約締結前の情報の提供等(改正法案第37条の3第1項)に置き換えられています。

さらに、改正法案37条の3第2項は「金融商品取引業者等は、契約締結前に顧客に対し情報の提供を行うときは、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品取引契約を締結しようとする目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度により、説明をしなければならない」とされました。

これに平仄をあわせて、契約締結時交付書面は「契約締結時の情報の提供等」(同第37条の4)、最良執行方針を記載した書面の交付は「最良執行方針に係る情報提供」(同第40条の2第4項)、運用報告書は「運用状況に係る情報の提供」(同第42条の7)に概念が改められています。

金融経済教育推進機構

金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律案では、国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進及び金融経済教育推進機構の設立に関しても定めが新設されています。

投資助言・代理業の登録要件緩和は盛り込まれず

開示規制の関係では、四半期報告書制度廃止も注目されます。いずれにせよ当サイトでは金融商品取引業者の業規制に関連が少ない事項は取り上げておりませんので、改正案の全貌は金融庁のwebサイトで確認してください。

なお公表された改正法案は、ほぼ事前の予想通りの改正内容ですが、政府の資産所得倍増プランで示されていた投資助言・代理業の一部業務の登録要件緩和は法律案には盛り込まれませんでした。

場合によっては、同登録要件の緩和は政令、内閣府令及び監督指針等の改正により行うことになるのかもしれません。

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