行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

金融商品取引業者の監督動向

2023/06/25

金融商品取引業者に対しては、規制当局により密度の高い監督が行われています。銀行業や暗号資産交換業等の金融商品取引業と密接に連関した同じく金融庁所管事業者を除き、我が国にこれほど厳密に、監督官庁が所管業者の規制監督している業界はあまりないのではないでしょうか。

当事務所は、金融関連事業の支援専門の事務所ではありますが、証券会社等の金融事業者様からの派生的なご依頼やご紹介で、宅地建物取引業、建設業及び古物商といった一般的な許認可申請にお手伝いで携わることもあります。

そうした際に感じますが、同じ行政機関の許認可申請とは言え、金融商品取引業等の「金融業」と、いわゆる「実業」の世界の間には、別の国と言ってもいいほど監督密度と規制の厳密性の差があります。

なお、これは本邦に特有な現象ではありません。

金融商品取引業及び外国においてこれに相当するビジネスは、多くの場合顧客の資産を直接触る業態であり、社会の中枢の金融インフラを主に市場機能の面から担う存在ですので、世界的にもこうした業務に対しては厳しい監督が行われるのが通例です。

命よりもカネ?

医業を含む、多様な業態の許認可等に専門家として関与した経験からは、「資産を触る」金融商品取引業は、なんなら「命を触る」業態である医療関係よりもずっと規制監督が厳しいです。

思うに、医療は、究極的には医師免許により品質が担保されているため、行政機関も基本的には性善説に立っているのでしょう。

実際には、医師も色々だと思いますが、少なくとも顕著な問題を起こさない限り、終生の名声と収入が約束されている、ある意味での貴族制度の下だからこそ成り立っているのだと思います。

銀証の違い

同じ金融分野でも、銀行分野は免許制度の下、性善説的な制度運用がなされています。これに対して、金融商品取引業は登録制度であり、基本的に性悪説に基づく事後チェックの制度運用が基本になっている点に監督上の差異があります。

こうした基本状況の下、金融商品取引業者等に対する監督は、年々厳格化しており、特殊要因に基づく一時的な変動はあるものの、金融商品取引法施行から現在に至るまで、長期トレンドとして、既存業者の監督及び新規登録の審査ともに、求められる態勢水準が高まっています。

第一種金融商品取引業

第一種金融商品取引業には、一貫して新規参入には抑制的な姿勢が貫かれています。

FINTECH等の新たな業態を除く国内系の小規模証券会社や、M&Aが繰り返されている経営基盤の弱い第一種金融商品取引業者は、大半が平成19年の金融商品取引法施行時に金融商品取引業登録を受けています。

平成19年の同法の施行後、いわゆる証券会社業態に関しては、大手系、外資系、そして数少ないFINECH等の新たな業態以外の参入例はほぼありません。

とはいえ、証券会社業態に関しては、参入余地は存在します。

これに対して、外国為替証拠金取引等の金融先物取引業者に関しては、管轄財務局を跨ぐ移転に伴う登録番号の変更の事例を除き、平成19年以降、新たに登録を認められた事例はほぼありません。

特殊な状況に基づく登録成功の事例が数例存在するものの、極めて例外的です。基本的に外国為替証拠金取引に関しては、新規参入はできないことになっています。

最近になって、暗号資産等関連デリバティブ取引やセキュリティートークン等の新たな業態の第一種金融商品取引業者も誕生していますが、これらは比較的新しい業態ということもあり、参入の門戸は、隣接分野(暗号資産交換業者等)の有力業者に対しては、ある程度開かれています。

なお、上記の状況は、金融庁のwebサイトの登録業者一覧で、第一種金融商品取引業者を登録時期別にソートすることで確認できます。

第二種金融商品取引業

平成20年代半ば(2013-2015年頃)には、ファンド規制の最初の強化がありました。

平成19年の金融商品取引法施行後、従来は自己募集の場合には証券業の規制に取り込まれていなかった組合型ファンド事業者を第二種金融商品取引業者又は適格機関投資家等特例業務届出者として業規制に取り込んだところ、想像もしない問題が頻発したからです。

沈没船の引き上げ(トレジャーハント)、人工知能による自動売買FX(現代と違い、人工知能がガラクタ同然であった2010年前後)及び外国での料亭の運営ファンド等の問題ある詐欺的ファンドが濫立し、行政処分が相次ぎました。

初期的規制強化

これに対して、金融庁は登録審査の厳格化及びM&A時に業務方法書の変更を容易には受理しないことによるM&A抑制策を講ずることに加え、同じく不適切なファンドが多かった適格機関投資家等特例業務に関しても制度改正を行い、一般投資家向けに適格機関投資家等特例業務を行うことをできなくしたことにより、平成20年代後半は、問題は沈静化に向かいました。

平成27年施行の電子募集取扱業務の制度は、実質的に規制強化策として作用し、その甲斐あってか、電子申込型電子募集取扱業務(クラウドファンディング)業態では、制度発足から現在まで大きな事故は発生していません。

その後の平成30年の一般社団法人第二種金融商品取引業協会による事業型ファンドの私募の取扱等に関する規則の制定と併せて、一連の第二種金融商品取引業者への規制強化は完了したかに見えました。

ソーシャルレンディング

平成の終わり頃、貸付型ファンド、いわゆるソーシャルレンディングを行う第二種金融商品取引業者は多額の顧客資産を預かり、新たな資産運用の選択として注目を集めていました。

しかしながら、令和元年から令和3年にかけて、ソーシャルレンディング大手が連続的に不祥事を起こしたことにより、第二種金融商品取引業の中でも、ソーシャルレンディング業態には大きな問題があることが明らかになりました。

現在の第二種金融商品取引業の規制監督の焦点はソーシャルレンディングの規制強化となっています。

令和5年の金融商品取引法改正案は、通常国会で成立せず、継続審議になりましたが、同法案が成立すれば、第二種金融商品取引業のうちソーシャルレンディング業態は貸付事業等権利に係る第二種金融商品取引業を行う者として追加的な規制が課されます。

他方で、対面で再エネアセットファイナンス等の伝統的な事業型ファンドを行う第二種金融商品取引業者や、電子申込型電子募集取扱業務を行う第二種金融商品取引業者(投資型クラウドファンディング)に対する規制強化は、上記の通り既にだいぶ前に峠を越えています。

第二種金融商品取引業のうち、これらの「安定」しつつある業態への新規参入に関しては、ある程度予見可能性のある登録手続となっています。

投資運用業

投資運用業は、その時々の社会情勢と政策により、抑制、促進、抑制と、複雑な経過をたどっていますが、総じて第一種金融商品取引業に次いで、選択的な産業政策の影響を受ける場面が多いです。

金融商品取引法の施行直後に世界経済に襲い掛かった金融恐慌により、投資運用業の登録業者数は減少。不動産アセットマネージャーを中心に廃業も多く、平成24年に発覚したAIJ事件後は登録審査も厳格化されて、一時的に新規登録がほとんど通らなくなり、平成25年には314社まで減少しています。

しかしながら、その後は業者数は漸増。

とくに平成30年頃から、国際金融センター構想等から資産運用業者の参入に対してポジティブな姿勢が示されるようになり、令和元年から令和3年にかけて、登録のハードルがむしろ以前よりも下がる傾向すら見られました。

もっとも、令和4年以降は、そうした傾向も元に戻り、外資系企業はともかく、国内系企業にとっては参入は容易とは言えない難度に戻りつつあります。

もっとも適格投資家向け投資運用業は比較的低いハードルの登録要件で投資運用業を行うことができる業態として、制度発足から今日まで活用が段階的に進みつつあります。関連して、海外投資家等特例業務という新たな届出業態も誕生しました。

投資運用業をはじめとする資産運用業態は、単純に規制が強化されていると捉えるよりも、プロ向け、アマ向け、国内向け、海外向けそれぞれで、規制の緩急や監督の濃淡のグラデーションが強まっていると評価するのがフェアだと思われす。

投資助言・代理業

投資助言・代理業は、金融商品取引法施行時は、登録拒否要件に人的構成がありませんでした。それにより問題が頻発した結果、証券取引等監視委員会の建議を受けて平成24年に投資助言・代理業者の登録要件に人的構成が導入されました。

その後、半年間程、投資助言・代理業の登録が非常に難しくなっていた時期もありましたが、基本的には投資助言・代理業は、かつて金融商品取引業者の中では、事実上、最もハードルが低く登録を受けることが可能な業態でした。

しかしながら、求められる態勢のレベル感は年々高まっており、とくに昨年の半ばに打ち出された監督指針の改正以降、投資助言・代理業者に対する監督強化と新規参入抑制の傾向が強まっているように感じます。

既存の投資助言・代理業者への監督密度は、今や第二種金融商品取引業とほぼ差ないレベルになりつつあります。あまりに問題ある業者が多すぎたということでしょう。

政府の資産所得倍増計画の一環として、金融庁は金融審議会の議論を通じ「金融経済教育推進機構」設立して、個人の資産形成を中立的な立場で助言する「アドバイザー」を認定する仕組みを構築する方針を示し、関連する金融商品取引法改正案を国会に提出していますが、おそらくこれは既存の投資助言・代理業者には必ずしも追い風ではないと予想します。

そもそも、既存の投資助言・代理業者の在り方及び社会的意義に対して一定の疑問が投げかけられているからこそ、新たな枠組みが創設されるということなのだと思います。当局の求める方向性に合致しない既存の投資助言・代理業者は、むしろその存続自体が難しくなっていく局面も想定されます。

投資助言・代理業に参入を希望する場合、人的構成にせよ業務計画にせよ、相当に盤石な態勢を構築できない限り、そもそも登録自体が難しくなっていくと思われます。

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