行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

金融商品取引業とオフィス

金融商品取引業とオフィス

このページの目次
本店その他の営業所又は事務所の設置国内拠点設置義務オフィスの要件使用権原間借り弊害防止関連会社等との同居役職員の常駐リモートワーク複数拠点登録審査借りる時期フリーアドレス実地調査登録後の義務

本店その他の営業所又は事務所の設置

金融商品取引業の登録を受けるにあたり、登録申請者は、1か所以上の営業拠点(本店その他の営業所又は事務所)を設ける必要があります。

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」という。)では、「登録申請書に記載する営業所又は事務所とは、金融商品取引業の全部又は一部を行うために開設する一定の施設又は設備をいい、駐在員事務所、連絡事務所その他金融商品取引業以外の用に供する施設は除くものとする」(Ⅲ-3-1(2))としています。

また、本店その他の営業所又は事務所について、変更届出に係る関東財務局の解説では「金融商品取引業の全部又は一部を行うための施設又は設備をすべて記載する。なお、営業所又は事務所とは、法人の場合には、登記上の本店又は支店がこれに該当するが、登記上の支店でなくとも、客観的に見て営業所とみられるものも含まれる」とされています。

新たに金融商品取引業の登録を受けようとする事業者はもちろん、既存の金融商品取引業者の移転や営業所の設置の際にも、オフィスの要件は頻繁に論点になります。

国内拠点設置義務

投資助言・代理業者は、国内に営業所又は事務所を設置する義務がありませんので、外国法人(及び理論上は非居住者も)には国内に営業所又は事務所を設置しないケースも存在します。

外国法人又は非居住者個人である適格機関投資家等特例業務届出者もこれと同様に国内に営業所又は事務所を設置する必要はありません。

外国法人等が、国内に営業所又は事務所を設置しない場合であっても、いずれにせよ外国に所在する本店は金融商品取引業の登録申請書又は適格機関投資家等特例業務届出書の記載事項です。しかし、監督官庁が、国内に営業所又は事務所をもたない在外業者の国外の本店等に臨店検査や訪問をしたという話はほぼ聞いたことがありません。これに対して、国内の大手金融機関等の国外拠点への検査は存在します。

第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業者及び投資運用業者は国内に営業所又は事務所の設置義務があります。海外投資家等特例業務届出者もこれと同様です。

オフィスの要件

金融商品取引業者等が設置する営業拠点(本店その他の営業所又は事務所)には、一定の要件があります。かかる要件は、必ずしも法令等で明文化されていませんが、登録審査実務上、ほぼ必要要件が確立されています。

金融庁は令和5年に「シェアオフィスで金融商品取引業を行うこと自体は可能ですが、登録申請者の従業員以外の第三者がみだりに立ち入ることができない等、適切な情報管理が担保される部屋が別途必要となります。よって、シェアスペース(コワーキングスペース)のみを使用して、金融商品取引業を行うことは認められません。また、標識掲載義務等にも留意する必要があります(令和5年金融庁Q&A)と公表しましたが、基本的な考え方はこれに沿っています。

つまりオフィスは施錠可能な専用部分を確保できるレンタルオフィスで登録可能です。シェアオフィス及びバーチャルオフィスは不可となります。

もっとも監督指針では「登記事項証明書上の本店が主たる営業所又は事務所としての機能を有さないなど、当該本店と主たる営業所又は事務所とが異なる場合には、当該主たる営業所又は事務所を最初に記載する」(III-3-1(3))とありますので、本店がバーチャルオフィスであっても、主たる営業所又は事務所として実態あるオフィスを確保できれば登録する余地があると解されます。

なお必要な要件を満たせるのであれば、後述のように居住している戸建てやマンションでも問題ありません。

使用権原

登録審査において、賃貸借契約書の提出はありませんので、基本的には間借り等の転借も可能です。また、物件の所有者の使用承諾書等も求められません。

間借り

他の会社と混在同居することは、個人情報保護や法人関係情報等の情報管理の観点から基本的に認められません。

他の会社と同じ所在地にオフィスを設置する場合には、壁等で分離して施錠可能な専用区画を設置することが求められます。パーテーションでも構わないかという議論がありますが、固定式パーテンションであればその余地はあると解されますが、その可否や高さに関して基準が明確になっていません。

情報管理の観点から、電話、郵便、インターネット回線も、基本的には他の会社と分離する必要があります。ただし、そのあたりは小規模金融商品取引業者まで厳密に徹底されているかというと、必ずしもそうではない実態もあると思います。

弊害防止

このあたりは、弊害が発生する状況にあるかどうかの実質的な部分を踏まえて検討する必要があります。問題のコアは個人情報保護や法人関係情報等の情報管理であり、問題が起きない形を整えなければなりません。

法人関係情報に関しては、例えばこちらのインサイダー取引事例(金融商品取引法違反被告事件令和4年2月25日 第三小法廷決定)では、証券会社の社員が他部署の人間と「同じ室内で執務しており,電話で通話中のBの発言を聞き取る」ことができたことが、インサイダー取引の発生原因になっています。

これは社内におけるファイアウォールの不備事例ですが、同じ論点は社外に対しても同様に妥当します。

また個人情報に関しては、個人情報の保護に関する法律、個人情報の保護に関する法律施行令、個人情報の保護に関する法律施行規則及び個人情報の保護に関する基本方針、関係法令並びに金融分野における個人情報保護に関するガイドラインに基づき、金融商品取引業者は個人情報に関して、個人データの取扱区域等の管理を含む「物理的安全管理措置」を講ずることが求められています。

金融商品取引業者は、個人情報保護や法人関係情報等を社外、さらにいえば社内であっても不要な者に対して漏らさない社内態勢を構築する必要があります。オフィスのパーテンションや通信の区分等の細かい議論も、そもそも情報管理態勢の一環であることを意識すれば、自ずと適切な在り方が導き出せると思います。

関連会社等との同居

親会社、子会社等で、役職員が全員兼務の場合にも分離する必要があるかが論点になりますが、基本的には分離すべきと解するべきでしょう。

ただし、このあたりは厳密ではなく、例えば金融商品取引業者は、ファンドスキーム等でSPCを設立する機会が多いですが、こうしたSPCは金融商品取引業者と同じ所在地に登記されることも多いです。

そうしたSPCまで、専用区画を設置するかというと、そうではないことが普通であり、いかなる場合でも同一所在地に他の法人が存在してはいけないというわけではありません。

最終的には常識の範囲で実害のない運営が可能かどうかで判断されます。

なお関係者が居住している戸建やマンションをオフィスとする場合で、家族等と同居しているときには、当然ながら居住区画と事務所区画の分離が必要です。また関係者のみの独居の場合に分離の必要があるかは、判然としません。

役職員の常駐

公衆縦覧及び当局対応を考えると、オフィスには営業時間中は常に1名上の常駐が必要であると解されます。

支店その他の営業拠点で、人が常駐しないことは基本的に認められないと考えられています。それは、人が常駐していない営業所では、金融商品取引業者に義務付けられている、後述の事業報告書等にかかる公衆縦覧義務(ディスクロージャー誌)を果たすことができないと考えられるためです。

もっとも、ATMコーナー等の無人の営業所の設置は認められていますので、あくまで営業形態で判断されます。

なお監督指針では「無人の営業所又は事務所については、各財務局管内に所在する店舗数及びこれらを統括する営業所又は事務所の名称等を記入させる」「無人の営業所又は事務所についても、金商法第36条の2第1項の規定による標識の掲示を行う必要があることに留意する」(Ⅲ-3-1(3))としています。

リモートワーク

コロナ禍を経た現在ではリモートワーク化が進んでおり、役職員が出勤しないで業務にあたるケースも多くなっています。金融商品取引業者等でのリモートワークでは、在宅勤務体制においても、業務の適切性、法令遵守等が確保される必要があることを前提するとともに、役職員の自宅を営業所等として届出する必要はないという考え方が金融庁から示されています。

では、もう一歩進んで、通勤不可能な遠隔地からリモートワークで金融商品取引業者に常勤することが登録要件上の役職員も可能なのか、近年頻繁に論点になりますが、総務、経理、人事等の登録要件に直接関わらない人員は、リモートワークでも差し支えないと考えられます。

これに対して登録要件に直接係る役職員に関しては新規で登録を受けるのは基本的に難しいと解されます。

登録要件にかかわる常勤役員、コンプライアンス担当、判断分析者等の要員は、相互に牽制機能を発揮することが期待されており、遠隔でかかる機能を十全に発揮できることを疎明できない限り、金融商品取引業登録は認められないと考えられます。直近の新規登録では、通勤不能の遠隔地居住者を登録要件にかかわる人員として配置した例はほぼ見たことがありません。

もっとも、登録時期が古かったり、事後的な体制変更の結果として、登録要件に直接係る常勤役職員が遠隔地に居住している金融商品取引業者が存在しないわけではありません。

ちなみに、このあたりの遠隔勤務とオフィス及び常勤性に関する金融商品取引業の登録要件については、当事務所は、関連する専門家として政府から意見のヒアリングを受けたことがあります。

その際は遠隔勤務にかかる登録要件の明確化と整理を要望として述べましたが、実際には案件毎の個別性が高いのでそう簡単ではないのだと思います。

複数拠点

リモートワークと類似しますが、オフィスを東京・大阪等の複数拠点設置して、それぞれで通勤可能な常勤という整理はあり得ます。このケースは、登録業者の実例が複数存在します。

ただし、かかる状況になっている金融商品取引業者は、もともと地方都市に本店があったものの、その後東京に主たる拠点を移動したというケースが殆どであり、新規登録の当初から複数拠点で登録を受ける例は殆ど見たことがありません。よって、かかる態勢で新規登録を受けることは、不可能ではないとはいえ、相互に牽制機能を発揮することが可能であることを示す必要があるため容易ではないでしょう。

登録審査

借りる時期

正式な登録申請までには事務所を確保する必要がありますが、申請前の概要書審査段階では、事務所が暫定的なオフィスでも、後日の移転を前提に登録審査を進めることは認められます。例えば、概要書審査がある程度進んできた審査の中期段階で、賃借する物件の選定に入る流れでも間に合います。

フリーアドレス

登録審査の過程では、オフィスの図面(配席図)を財務局に提出する必要があります。当局は、かかる図面をもとに、オフィスの要件充足性を判断します。座席数は基本的に常勤役職員全員分が存在するのが基本ですが、近年ではリモートワーク、フリーアドレスが一般的になっているため、座席数が若干少なかったり、配席を明示できない場合もあります。

その場合の審査も、基本的に弊害が生じないかで判断されますので、絶対的に不可とはなりません。社内のファイアウォールが機能すること等弊害が生じないことを説明できれば、通る余地はあります。

実地調査

登録審査の過程で、監督官庁がオフィスを訪問することは、通常はありません。もっとも、登録後には、検査や通常のモニタリングの一環として、財務局等の職員が金融商品取引業者のオフィスを訪ねることは普通にありますので、営業時間中は随時応対できる体制を整える必要があります。

もっとも、近年はIT企業を中心に高度にリモートワーク化の進んだ会社もあります。そうした場合、オフィスに臨店検査に向かったところで、実地に行くこと自体にはあまり意味がありません。こうした状況がさらに進めば、検査手法も、クラウドに保存されたデータ、通信記録を確認するデジタルフォレンジックが占める割合が更に高まってことが予想されます。

近年は、証券監督もオンサイトとオフサイト、検査と監督が一体化する傾向にあり、昔の家宅捜査のような検査の在り方とは変わってきています。

登録後の義務

金融商品取引業者は、その本店に限らず、すべての営業所又は事務所において、標識掲示義務と公衆縦覧を行う義務があります。

当該義務は「当該営業所が顧客の訪問を予定しているか、また、有人であるか無人であるかを問わず、コールセンターや店外ATMを含めたすべての営業所等について、金商法第36条の2第1項の標識掲示義務が適用される」(平成19年パブリックコメント P224 No.9)とされており、公衆縦覧に関してもこれと同様に解されます。

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