行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

分別管理等と銀行口座

分別管理と区分管理

このページの目次
分別管理と区分管理:第一種金融商品取引業者等第二種金融商品取引業者及び投資運用業者
信託保全:証券会社の分別管理区分管理電子申込型電子募集取扱業務での分別管理
日本投資者保護基金:制度設計補償事例等逮捕率100%
ファンド業務の分別管理:分別管理の方法特定有価証券等管理行為
その他禁止される預かり:自己募集と資金等の預託投資一任業務等及び投資助言業務での禁止行為集団投資スキームと証券取引法

第一種金融商品取引業者等

金融商品取引業は、その業態に応じ、顧客の資産の預かりを行うことがあります。銀行業等の預金取扱い金融機関と並んで金融システムの中核をなす業態といえます。

とりわけ、証券会社は我が国の市場機能の主要な部分を担う業態であり、顧客資産の保全には細心の制度設計が図られています。

証券業務での顧客資産の別段での保管行為は「分別管理」(金融商品取引法(以下「金商法」という。)第43条の2)と呼称されます。

他方で通貨や暗号資産等に関する店頭デリバティブ取引(第43条の3)及び商品関連市場デリバティブ取引(金商法第43条の2の2)での顧客資産の別段での保管行為は「区分管理」と呼称されます。

証券会社、FX会社等の第一種金融商品取引業者は、金商法第2条第8項第16号に基づく有価証券等管理業務として、資金等の預かりを行っています。また、第一種少額電子募集取扱業者も、電子募集取扱業務に関して第一種少額電子募集取扱業務として顧客から金銭の預託を受けることができます(金商法第29条の4の2)。

第二種金融商品取引業者及び投資運用業者

これに対し、集団投資スキーム(ファンド運用業(15号業務)の運用財産であり、また、第二種金融商品取引業の取得勧誘対象となる有価証券)における権利者財産の別段での保管行為は、法第40条の3(第二種金融商品取引業務)及び第42条の4(投資運用業務)において「分別管理」と呼称されています。

またこれらの他、申込み代金の預かり等を含む「特定有価証券等管理行為」に基づく分別管理も存在します。特定有価証券等管理行為には以下の二種類が存在します。

ひとつは一定の第二種金融商品取引業者が有価証券の募集又は私募の取扱い又は特定投資家向け売付け勧誘等の取扱いをするに際して、顧客から金銭の預託を受ける行為のうち、当該金銭と自己の固有財産とを一定の要件を満たしたうえで分別して管理する行為(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第16条第14号)です。

そしてもうひとつが、金融商品取引業者が、一定の電子申込型電子募集取扱業務等を行うに際して、顧客から金銭の預託を受ける行為であって、当該金銭と自己の固有財産とを一定の要件を満たしたうえで分別して管理する行為(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第16条第14号の2)です。

なお、これらの法令上の根拠に基づかずに行う、自ら行う金融商品取引業に関連した顧客資産の預かりは、有価証券等管理業務として第一種金融商品取引業となるため、第一種金融商品取引業者以外がこれを行えば法令違反となる他、出資法第2条の預かり金の禁止に違反する可能性があります。

信託保全

証券会社の分別管理

第一種金融商品取引業者の行う一定の有価証券関連業からなる、いわゆる「証券業務」に関しては、有価証券については、顧客の有価証券をその他の有価証券と区分して管理し、金銭については顧客分別金信託による分別管理が義務付けられています。

証券会社の分別管理に関するルールは非常に複雑です。日本証券業協会からは顧客資産の分別管理Q&A(改訂第6版)が公表されています。

顧客分別金信託による分別管理では、通常は証券会社の内部職員及び外部の弁護士等を受益者代理人として定め、 原則として週に1日以上設ける基準日における信託財産の元本の評価額が顧客分別金必要額に満たない場合、当該差替計算基準日の翌日から起算して3営業日以内にその不足額に相当する額の信託財産を追加信託するように求められています。

但し、証券CFD等の対象有価証券関連店頭デリバティブ取引等では、これらよりも基準日の頻度が高く、営業日毎に信託必要額を計算し、満たないこととなった日の翌日から起算して2営業日以内に、その不足額に相当する金銭を信託財産に追加する必要があります。

区分管理

区分管理に関しては、商品関連市場デリバティブ取引では、週に1日以上設ける基準日における信託財産の元本の評価額が商品顧客区分管理必要額に満たない場合、当該差替計算基準日の翌日から起算して3営業日以内にその不足額に相当する額の信託財産が追加されるものであることが必要とされます。

外国為替証拠金取引を含む通貨関連店頭デリバティブ取引及び暗号資産等関連デリバティブ取引等のその他デリバティブ取引に関してもまた、区分管理方法は金銭信託に一本化されており、営業日毎に信託必要額を計算し、不足がある場合は、2営業日以内に不足額を信託するように求められています。

電子申込型電子募集取扱業務での分別管理

金融商品取引業者が電子申込型電子募集取扱業務を行う場合の、特定有価証券等管理行為として顧客の資金の預かりを行う場合も、信託保全義務が定められています。特定有価証券等管理行為では、原則的な証券業務同様、顧客から分別管理用の銀行口座で資金を受領した場合、週に一日以上設ける日の翌日から起算して3営業日以内に当該金銭信託をする義務があるとされています。

なお、金融商品取引業者における実務として、日々、顧客から銀行口座で受領した資金や預かり資産の売買や出金の動向をもとに、信託必要額を計算し、過不足を割り出して、基準時において、受託者である信託銀行に対してFAXやメールで連絡して、不足額を信託することになります。

つまり自己申告ベースですので、後述のような不正が存在する余地があります。

日本投資者保護基金

制度設計

分別管理の義務に違反した証券会社が破綻して、返還できない顧客資産が生じた場合、日本投資者保護基金が顧客一人当たり上限1,000万円まで補償を行うことになっています。

これは、預金取扱い金融機関における預金保険機構と似た制度設計といえます。

金商法第79条の27で、有価証券関連業又は商品関連市場デリバティブ取引関連業務を行う金融商品取引業者は、日本投資者保護基金への加入を義務付けられています。

もっとも、金融商品取引法施行令第18条の7の2で、かかる加入義務は、電子記録移転権利(二項有価証券型セキュリティートークン)・トークン化有価証券預託関連業務専業及び第一種少額電子募集取扱業者を除いた第一種金融商品取引業者のみに限定されています。

なお、これは捕捉できていないビジネス領域が存在します。平成10年代から指摘されていますが、証券会社の行う「第一種金融商品取引業」かつ「有価証券関連業」である、証券CFDに代表される有価証券店頭デリバティブ取引は、補償の対象としていません。

にもかかわらず、証券CFD等の有価証券店頭デリバティブ取引専業の証券会社も、日本投資者保護基金への加入が義務付けられています。

そのため、補償対象になる業務を一切行っていない証券会社も、日本投資者保護基金の加入する義務があり、実際、かかる条件に該当する業者も日本投資者保護基金の会員となっています。

そのことには以前から矛盾が指摘されていますが、金商法施行以来そのままです。

発動例等

日本投資者保護基金が平成10年12月1日に設立されて以降、顧客に対する補償を行った実績は、南証券及び丸大証券の破綻例の2件のみです。南証券は群馬県の地場証券でしたが、譲渡により問題のある事業者に経営権が移動し、経営者により株券等が持ち出された事例で、補償金総額約35億円(2000年)でした。

また、2012年には、丸大証券の破綻に際して、補償金総額約1億72百万円の補償を行っています。

信託等で分別管理されているはずの顧客資産で日本投資者保護基金の補償が必要になったことは、証券会社が分別管理義務に違反をしていたことに起因しています。

また、両証券会社の他にも、2012年に某証券会社が外国為替証拠金取引に関する顧客区分管理必要額を運転資金等に流用し、顧客に損害を与えたことがありました。こちらの事例は、日本投資者保護基金の補償対象外の業務に関する損害でしたので、顧客は補償を受けることができませんでした。

逮捕率100%

上記違反事例は3件とも、関係者が逮捕起訴され、後に有罪判決を受けています。

大昔は知りませんが、少なくとも、この四半世紀においては、証券会社における分別管理義務違反及び分別又は区分管理信託の流用は、関係者の逮捕率100%です。証券業界で最大タブーといえます。

保振、信託による分別管理及び区分管理は、金融商品取引業者に対する規制の根幹中の根幹であって、その違反は、他の法令違反と訳が違うことを意味します。

実際、世間には、無登録での金集めやモグリ投資顧問等の金商法違反の無登録営業も、ある程度広く行われている実態があります。しかしながら、こうした違反全体の中で、金商法違反で刑事事件になる例は限られており、悪意のある大規模な無登録営業も、結局事件化しないこともしょっちゅうです。

金融庁、財務局等の当局は、一定の金額を超える悪意の無登録営業は刑事告発をするようにしているようですが、財務局から刑事告発を行っても、検察庁を動かすのはそう簡単ではないと聞いています。

証券会社の分別管理義務及び区分管理義務違反が、どれほど重い罪か分かります。

ファンド業務の分別管理

分別管理の方法

投資運用業及び第二種金融商品取引業の領域では、ファンドの分別管理が求められており金融商品取引業等に関する内閣府令第125条及び第132条に掲げる方法により、顧客資産をファンドの発行者等の固有の財産と分別して管理をする必要があります。

その中で銀行の口座での管理の際には、銀行、協同組織金融機関、株式会社商工組合中央金庫又は外国の法令に準拠し、外国において銀行法第十条第一項第一号に掲げる業務を行う者への預金又は貯金は、当該金銭であることがその名義により明らかなものに限るとされています。

よって、ファンド名、ファンド口、顧客口等、顧客資金であることが分かる口座名義でないと、分別管理義務に違反します。また、出資対象事業毎に分別管理口座を開設する必要がありますが、一般社団法人第二種金融商品取引業協会のファンドの分別管理・金銭の預託に関するQ&Aでは、ファンド毎の口座開設までは要さないとされています。

特定有価証券等管理行為

前述のように第二種金融商品取引業者は、募集又は私募の取扱い又は特定投資家向け売付け勧誘等の取扱いに関して、特定有価証券等管理行為の届出をすることにより、本来は第一種金融商品取引業である有価証券等管理業務に該当する顧客資産の預かりを行うことができます。

特定有価証券等管理行為では、金商法第42条の4に規定する方法に準ずる方法により、当該金銭と自己の固有財産とを分別して管理する必要があるとされていることから、こちらも、顧客口、預かり口等、顧客資金であることが分かる口座名義でないと、分別管理義務に違反します。

また、上記Q&Aでは、分配金・償還金の送金に関連し「二種業者が顧客から金銭の預託を受け、ファンドの出資金を銀行等の預貯金口座で管理する場合には、預貯金による管理は倒産隔離機能が十全ではないことから、少なくとも3ヶ月に1度、顧客の投資意思を確認する必要があり、確認ができない場合には、速やかに預託を受けた金銭を顧客に払い出す必要がある」(Q15)とされています。

そのため、信託保全によらないソーシャルレンディング等の特定有価証券等管理行為は、顧客資産を預かったままに出来ないという点で、証券会社の預託口座と比較して、ビジネス的には使いにくい制度になっています。

その他禁止される預託

自己募集と資金等の預託

ファンドや投資信託受益証券の募集又は私募等を行う7号業務では、顧客資産の預かりをすることができないことにも注意が必要です。よって、投信委託業を行うとともに投信直販を行う金融商品取引業者や、ソーシャルレンディングファンドを第二種金融商品取引業及び貸金業を同一の法人で登録して募集又は私募の形式で販売する金融商品取引業者は、申込代金の預託や、償還金、利払いの預かりを目的とする口座を開設させることはできません。

投信直販を行う投資運用業及び第二種金融商品取引業を行う金融商品取引業者は、実務上、口座開設を受け付けているものの、預かりが禁止されているため、入金すると投資信託を自動で買い付けする仕組みになっていたり、あるいは一定期間内に買い付けしなければ返金する等の処理にして、有価証券等管理業務に該当することを避けています。

同様に、自己募集(募集又は私募)を行う第二種金融商品取引業者が預託を受け入れたり、あるいは、特定有価証券等管理行為の届出をしていない第二種金融商品取引業者が、その行う募集又は私募の取扱の際に、発行体ではなく自らの口座に申込み代金を受け入れすることはできません。

第二種金融商品取引業者による誤った顧客資産の受け入れは比較的頻繁に生じる誤りであり、以前某ソーシャルレンディング業者が自己募集スキームで誤って顧客資産を預かりし、後日問題が発覚し、以後預かりは行わないとスキームを修正した事例を見たことがあります。

投資一任業務等及び投資助言業務での禁止行為

旧投資顧問業法では、投資顧問業者が顧客から金銭又は有価証券の預託の受入れ等をすることが原則として禁止されていました。かかる禁止は、投資運用業のうち投資一任業務及び投資法人資産運用業務(第42条の5)及び投資助言業務(第41条の4)に関して引き継がれています。

また、上述のように投信委託業でも資金の預かりができないことはこれに同じです。

法施行前の我が国の規制体系では、「アセットマネジメントビジネス」をする場合は、基本的に顧客の金銭を預かることは禁止されていました。そのため、信託銀行等に資金を預からせて、投資顧問付き特金とするか、投信委託業として信託銀行を受託者として証券投信法に基づき投信を組むかが、選択肢だったわけです。

「運用するのに預かれない」という規制は、集団投資スキームが一般化した現代人には感覚的奇異に映ります。しかしながら、戦後直後から利用されていた匿名組合さておき、そもそも民法上の投資事業組合を投資ヴィークルとして活用するスキームは、想像以上に歴史が浅いです。「運用者は預かってはいけない」のが、我が国の証券規制法の大原則です。

集団投資スキームと証券取引法

上記に関連し、経済産業省のLPS法の逐条解説では「我が国における投資事業組合(組合員たる投資家から資金を集め、出資先企業に対し、主として出資の形で資金を供給する組合)は、1980年代前半ごろから、ベンチャー・ファンドを皮切りに組成され始めたが、当時は、民法組合が主として活用されていた。」と解説されています。

出資法違反に係る裁判例を見る限り、匿名組合契約はこれよりもかなり早い時期に投資ヴィークルとして活用されていた形跡がありますが、その匿名組合スキームもまた、平成17年の平成電電事件、平成18年の近未来通信事件と、法施行直前に多額の消費者被害を発生させました。

これらを受け、組合型ファンド、いわゆる「集団投資スキーム型」ファンド持分は、平成16年6月2日付で成立した「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第97号)(平成16年証取法改正)によって、みなし有価証券とすることで、証券取引法における投資家保護ルールに服することになりました。

もっとも、同改正はみなし有価証券の取扱いを証券業と位置付けるものであり、集団投資スキームの自己募集を業規制の下に置くものではありませんでした。平成19年の金商法施行により、かかる自己募集(募集又は私募)が、第二種金融商品取引業とされて、明確な業規制に服することになったことで、集団投資スキームが完全な形で証券規制に取り込まれたという歴史的経緯があります。

なお、当時集団投資スキームの自己募集及び自己運用を行っていた事業者は、みなし登録金融商品取引業者として正式な登録を受ける方法の他、適格機関投資家等特例業務に移行する他、金商法附則48条に基づき特例投資運用業務(既に募集は終了し運用のみの業務)を行う選択肢がありました。

いずれにせよ「ファンドで預かる」方法は、証券会社、投資顧問業者及び証券投資信託から構成された、昭和の証券取引法を軸とする証券規制の体系からは距離があります。「ファンド」は、意外とその歴史が浅いことが分かります。

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