行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

粉飾決算と虚偽の事業報告書等

2023/06/16

このページの目次
登録取り消し処分金商業者の粉飾決算は金商法違反ファンド決算と会社決算行政処分先例グループ会社からの支援には注意が必要その他

登録取り消し処分

証券取引等監視委員会による行政処分勧告を受けて、四国財務局は、令和5年6月16日付で金融先物取引業を行う某第一種金融商品取引業者の金融商品取引業登録を取り消しする行政処分を行いました。

当該金融商品取引業者の法令違反の内容の詳細は金融庁及び四国財務局の報道発表を確認いただければと思いますが、本記事では、今回の行政処分の内容の中で、他の金融商品取引業者にとっても重要であると思われる事項を取り上げます。

虚偽の事業報告書等の提出等

四国財務局は「虚偽の事業報告書等の提出等」として、同社に対して事業報告書及び公衆縦覧に係る法令違反を指摘しました。

具体的には同社は「コンサルティング業務に係る収益(当該3期合計で約42百万円)が、当社の収益の大宗(99.9%)」であるとしたうえで、関係者の会社との「経営コンサルティング契約に基づくコンサルティング収益として、当該3期合計で約29百万円を売上げとして計上し、当該売上げを売上高に含めて記載した事業報告書を当局に提出しているほか、当該事業報告書の写しを備え置く方法により説明書類を公衆の縦覧に供している」状況であったとしています。

しかし、当該コンサルティング業務を巡っては「検査において、当該法人の事業実態が確認できなかったほか、当社が当該法人に対して報酬額に見合うようなコンサルティング業務を行ったことを示す証跡も何ら提出され」ず、「他方、当該法人から当社に支払われるコンサルティング報酬の大部分(約19百万円)を、当該法人の業務に一切関与していないと説明していた」代表者が「自己の個人名義の預金口座から当該法人名義に振込人名義の変更をした上で当社名義の預金口座に送金している状況」であったと認定されています。

四国財務局は、そのことは「少なくとも」代表者が「送金した約19百万円は」代表者が「自己の個人名義の預金口座から拠出した資金をもって当社が行ったコンサルティング業務に係る収益と見せかけているにすぎないものと認められ、当社は、当該コンサルティング業務に係る収益(売上げ)を架空計上した」ことになるため、同社の行為は、虚偽の記載をした事業報告書を提出したものとして金融商品取引法第46条の3第1項に違反するほか、虚偽の記載をした説明書類を公衆の縦覧に供したものとして同法第46条の4に違反すると結論しています。

金商業者の粉飾決算は金商法違反

本行政処分は、金融商品取引業者の決算における粉飾は、事業報告書及び公衆縦覧に係る法令違反を通じて、金融商品取引法にも違反するのだということを改めて意識させるものです。

これは論理的に当然のことと言えば当然のことですが、とくに第二種金融商品取引業や投資助言・代理業を行う金融商品取引業者では、普段、その点が強く意識されることは多くありません。

それは第一種金融商品取引業者投資運用業者と違って、第二種金融商品取引業者投資助言・代理業者には、登録要件に自己資本規制比率(第一種金融商品取引業)や純資産(第一種金融商品取引業及び投資運用業)等の財務要件がないからです。

そのため、これら業者には監督当局に対して積極的に決算を粉飾するインセンティブがなく、そもそも証券監督上の「悪意」のある粉飾決算が行われにくいからです。

ファンド決算と会社決算

顧客に直接被害を与える「ファンド決算」の粉飾が金融商品取引業者にとって重罪であることは誰でも理解できると思いますが、上記理由で、金融商品取引業者の「会社」としての決算の内容の正しさは、必ずしも証券監督上の主要な関心事項になっていません。

よって、決算内容が不正確、不適切であることが直ちに業規制に違反することは、上場企業でもない限り、第二種金融商品取引業者や投資助言・代理業者の間ではさほど意識されていません。

一般に、中小規模の事業法人においては、銀行からの融資を受けるため、節税のため等様々な理由により、恣意的な会計処理が行われることは珍しくないと考えられます。中小規模の金融商品取引業者においては、自社決算を、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に厳密に合致した会計処理をしていると胸を張って断言できる会社ばかりではないと思います。

行政処分先例

極論を言えば、役員が私用で出かけたタクシー代を金融商品取引業者として経費計上しただけで、論理的には金融商品取引法違反ということになります。

証券監督は実態主義ですので、実際には悪質性のない誤りに対して目くじら立てて過度に形式的な行政処分等を行うことはありません。とはいえ、あまりに不適切な処理であったり、または、金額が大きくなれば、その限りではないでしょう。

実際、平成31年には、関東財務局は某投資助言・代理業者に対して行政処分を行っています。

具体的には、前代表者が「代表取締役に就任以降、当社の預金口座から毎月多額の出金をし、これを私的な遊興費等に費消しており、その額は少なくとも3400万円にのぼっている」ところ、「私的に費消した現金について、その事実を隠蔽した虚偽の決算書類を作成し、当該決算書類を含む事業報告書を関東財務局長に提出した」ことにつき「安定的な業務運営を困難ならしめ、投資顧問契約を締結した顧客に影響を及ぼしかねない状況」であると認定しています。

グループ会社からの支援には注意が必要

今回改めてクリアになったように、金融商品取引業者の経営支援のためにグループ会社等の関係者からコンサルティング事業名目で売上を付ける等の行為は、取引実態を踏まえて会計処理としての適切性を綿密に検討しないと、思わぬ形で金融商品取引法違反になるということを肝に銘ずる必要があります。

そもそもグループ会社からの金融支援や利益の付け替えは「通常の取引の条件と著しく異なる条件で、当該金融商品取引業者の親法人等又は子法人等と資産の売買その他の取引を行うこと」に該当しアームズ・レングズ・ルールにも違反する可能性もあります。

金融商品取引業者を運営するに際しては、金融商品取引法を深く理解していないと、思わぬところに足を掬われるという好例です。

その他

令和5年6月16日付で公表された、業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点において、複雑な仕組債等に関する新たな自主規制ガイドラインについての金融庁の考え方が示されました。これは、内容的に先週の記事に関連しますので、先週の記事に詳細を追記しています。

お気軽にお問い合わせください

お電話無料相談窓口 03-6434-7184 受付時間 : 9:00 -17:00  営業曜日 : 月〜金(除祝日)
メール無料相談窓口メールでのご相談はこちらをクリック