行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

金融商品取引業と事業報告書

このページの目次
総論:事業報告書の提出義務内容を理解しないと埋められない財務局の記載指示提出を怠るとどうなるのかオンライン提出
記載方法:項目別の注意すべき事項業務の状況第二種金融商品取引業自己募集業務有価証券関連業投資助言・代理業助言対象商品外国ファンド等内部管理の状況経理の状況

事業報告書の提出義務

事業報告書は、金融商品取引業者等が、年次で提出することが義務付けられている報告書であり、金融商品取引業等を行う限り、毎年これを作成して監督当局に提出しなければなりません。

事業報告書とは、要するに、当該年度の営業状況の概略と、決算内容を当局に報告するための定期報告書のようなものです。

シンプルながら報告事項の項目は考え抜かれているので、入力すべき項目数はあまり多くないのですが、正しく入力された事業報告書を見れば当該年度の事業者の金融商品取引業等の営業状況を的確に把握できます。

実際、業務方法書及び同別紙と、事業報告書3期分を見れば、その金融商品取引業者等の業務状況はほぼ把握できるように思います。監督当局も特定の金融商品取引業者等がどのくらい動いているのかの把握には一次的には事業報告書を見ているようです。

なお適格機関投資家等特例業務届出者も、同様に事業報告書の提出義務を負っていますが、適格機関投資家等特例業務の事業報告書に関する記載は別の記事に譲り、本項目では金融商品取引業等の事業報告書に絞って解説します。

内容を理解しないと埋められない

金融商品取引業者等の目線から見ると、この「シンプルながら考え抜かれている」というのが逆に難問として作用します。入力箇所は少ないものの入力規則を理解するのには金融商品取引法の非常に正確な理解と、様式中の(注意事項)の読みこなしが求められるので、何を入力したらいいのかわからない、どこに入力したらいいのかわからないという相談を非常に頻繁に受けます。

例えば、不動産信託受益権関連業務では、自らが不動産信託受益権の売主の場合、自らが当社委託者であれば自己私募で金融商品取引業に該当せず報告対象外となり、既に発行された不動産信託受益権を転売する場合であれば売買業務(1号)として記載対象になります。また、売買契約の媒介業務であれば、当初委託者と取得者の間の売買契約の媒介は金融商品取引法上は私募の取扱業務(9号)となります。他方で既に発行された不動産信託受益権の売買を仲介する場合は売買の媒介業務(2号)です。

有価証券の発行者及び発行タイミング並びに売買、売買の媒介、募集又は私募及び募集又は私募の取扱いの違いといった、金融商品取引法の用語の定義を正確に理解していないと、事業報告書の作成は不可能です。

財務局の記載指示

関東財務局のwebサイトでは、事業報告書の用語の定義についての補足説明を掲載しており、記載上はかなり参考になる内容ですが、他方で見た感じ受け取る側にもそれなりの知識がないと、そもそも補足説明を読みこなせず、有効活用することはできないかもしれません。

同サイトでは事業報告書のよくある補正内容についても注意が記載されているほか、令和5年に入ってからは登録済みの投資助言・代理業者に対して、事業報告書の記載不備が散見されるので、注意事項や、様式、記載例等も参照のうえ事業報告書を作成するように関東財務局から複数回の周知が回っています。

参考:関東財務局HPより

提出を怠るとどうなるのか

事業報告書の提出は、金融商品取引業者としての最も基本的な報告義務であり、多少の報告期限の徒過はともかくとして、これを数か月、数年レベルで長期間怠る事業者は、監督当局からは、再三督促を受けるでしょうし、基本的にマトモではない業者との色眼鏡で見られることになるでしょう。そうなると、新しい分野の業務を行うことが難しくなったり、様々な形で不利益がありますので、たかが報告と甘く見ず、正確に、かつ、期限内に確実に提出することを心掛ける必要があります。

では期限内に提出したとしても、内容が間違いだらけの場合はどうなるでしょうか。

経験的には出さないよりは遥かにマシです。

明らかな誤り、不備事項があれば、補正の連絡があり、記載の不備を修正して再提出するように求められますので、これにきちんと対応すれば悪意で虚偽を記載しない限りはペナルティは通常ありません。

もっとも、杜撰な事業報告書は、監督当局の担当者に迷惑をかけるほか、正確に金融商品取引法を理解していないことを自ら告白するような行為ですので、当局からの心証の悪化を招き、マイナスであることは間違いありません。

オンライン提出

事業報告書の提出は、原則的にオンラインで行う必要があります。令和3年から、各種変更届等がgBIZIDを利用した金融庁電子申請・届出システムでオンライン化されましたが、事業報告書に限っては、それよりもずっと前から、専用のシステムを用いてオンライン報告するルールになっていました。

具体的には、平成27年4月以降、金融庁が運用する「金融庁業務支援統合システム」(以下「統合システム」という。)を利用したオンライン提出の受付が開始されており、統合システムを利用できない場合 に限って、理由書を付したうえで紙での提出が認められます。

この統合システムは、金融庁電子申請・届出システムとは別物ですので、それぞれ別個にアカウントを取得する必要があります。また、金融庁 電子申請・届出システムが立ち上がるまで利用されていたe-Gov電子申請システムとも別物です。

統合システムの怖いところは、エラーがある場合システム上提出したと認識されないことです。提出した際にエラーの有無がメールで通知され、また、統合システムの画面上でも確認できるとは言え、アップロードしたその場では、エラーの有無が直ちに表示されません。

よって、メール等をよく見てエラーがないことを確認しないと、確かにアップロードして提出したはずの事業報告書が、手続き上未提出になってしまいます。

ただし、令和6年の2024年5月7日から、統合システムは、金融モニタリングシステム(通称「FIMOS」)への移行することが予定されています。FIMOSはgBIZIDベースのシステムですので、今後の諸手続きは、gBIZIDをその共通基盤とすることになりそうです。

 業務の状況

「1 業務の状況」の中で留意すべき事項を取り上げます。はじめに、基本的な部分ですが、冒頭の「提出日」の日付の記載漏れが非常に多くなっています。

また、「第一種金融商品取引業を行わない金融商品取引業者が説明書類に記載する事項」に関しては、どちらを選んだらいいか分からないという相談をよく受けます。

一般に、金融商品取引業者は、全ての営業所若しくは事務所又はオンラインで一定の事項を公衆の縦覧に供する(店舗、オフィス等に会社の内容に関するディスクロージャー誌を設置する)義務があります。具体的には「 別紙様式第十五号の二に記載されている事項」「事業報告書に記載されている事項」いずれかを、決算から4か月以内に店頭等に備え付けする必要があります。

実務上「事業報告書に記載されている事項」(事業報告書をプリントアウトしたもの)を公衆縦覧に付するケースがほとんどで、例外はあまり見たことがありません。

ちなみに、第一種金融商品取引業者のディスクロージャー誌は事業報告書のプリントアウトでは要件を満たせないので、都度ディスクロージャー誌を作成する必要があります。

そして、第一種金融商品取引業者のうち、日本証券業協会に加入する「証券会社」に関しては、日本証券業協会のHPで会員証券会社の「業務及び財産の状況に関する説明書」(ディスクロージャー誌)が公開されています。

「⑹ 株主総会決議事項の要旨」に関しても、間違いが多くなっています。「本事業報告書の報告対象期間中に開催された株主総会並びに報告対象期間にかかる計算書類の承認及び事業報告を行った定時株主総会を記載する」必要があるので、報告対象期間だけではなく、報告対象期間が終わった後に開催された、決算の承認の株主総会についても、記載が必要です。

よって、決算承認の株主総会は、2年度分が載ることになります。臨時株主総会(役員、定款の変更等)の記載漏れにも注意しましょう。

続いて、監督上重要な意味を持つのが、役員と株主の欄です。

「② 役員の状況」について、第一種金融商品取引業者及び投資運用業者では、役員の他の会社での役員の就任(兼職)は届出事項です。しかし、投資助言・代理業者と第二種金融商品取引業者では、兼職の届出は、有価証券関連業を行う第二種金融商品取引業者と銀行等との兼職以外では届出が不要です。よって、監督当局は、本欄の記載で役職員の兼職状況を把握しています。

「⑼ 株主の状況」については、第一種金融商品取引業者及び投資運用業者では、主要株主の異動は対象議決権保有届出書等の提出対象であり届出事項となっています。他方で、投資助言・代理業者と第二種金融商品取引業者では、株主の異動は、親法人等及び子法人等の異動を伴わない限り、届出事項ではありません。よって、個人と個人の間で株式が譲渡された場合には、監督当局はリアルタイムでこれを把握できません。親法人等子法人等の異動以外では、監督当局は年次の事業報告書において、株主の異動を把握しています。

第二種金融商品取引業

第二種金融商品取引の事業報告書では、近年、電子記録移転有価証券表示権利等(自己募集を行ったトークン化有価証券たる外国投資信託受益権や社員権及び電子記録移転権利等)や電子記録移転権利から除かれた権利(適用除外電子記録移転権利)が新たに項目に加わって、様式がますますわかりにくくなっています。

しかしながら、そもそもセキュリティートークンが業務に関係ある第二種金融商品取引業者においては、事業報告書の書き方が分からないということはまずないと思われます。

よって、これらセキュリティートークンに関する記載項目が何のことか理解できない一般的業態の金融商品取引業者は、そもそもこれらの記載項目は無視して空欄でいいと思います。

自己募集業務

第二種金融商品取引業者として「⒂ 自ら行った委託者指図型投資信託及び外国投資信託の受益証券等の募集等に係る業務の状況」は、自己募集(7号業務)を行う業者は記載が必要になります。自己募集とは、自らがファンドの発行者(営業者、無限責任組合員、業務執行組合員、GP等)となり、投資家に取得勧誘する募集又は私募業務であり、LPSのGP等が典型的です。

SPC方式でのGKTKの匿名組合持分の取得勧誘は、自己募集ではなく私募の取扱いになりますので、同じファンドの販売でも、第二種金融商品取引業者が発行者かどうかで、(15)の記載の要否が変わります。

また、投信委託業を行う投資運用業者は、委託者指図型投資信託及び外国投資信託の受益証券等に関して第二種金融商品取引業として自己募集が可能です。よって、投信直販を行っている第二種金融商品取引業も、こちらに記載が必要になります。

有価証券関連業

「⒃ みなし有価証券の売買等の状況」では、「売買」、「売買の媒介」、「売出し」、「募集、売出し若しくは私募の取扱い」等の有価証券関連業に関して、記載が求められています。

売買、売買の媒介は比較的理解しやすいと思いますので、記載はそれほど難しくないのですが、関東財務局の用語の定義に記載のある通り「売買金額、とは → 売買契約金額又は媒介した信託受益権、ファンド持分、社員権等の契約金額で、百万円未満切捨て、税抜き」「約定基準、とは → 受渡し時点ではなく、契約締結時点」と、契約ベースであることに注意が必要です。

「③みなし有価証券の売出し又は募集、売出し若しくは私募の取扱いの状況」については、まずは自社の行った取引を正確に把握する必要があります。売出しはみなし有価証券を500名以上が所有することとなる場合の自社保有有価証券の取得勧誘です。

これに対して、「募集、売出し若しくは私募の取扱い」とは、「新規発行有価証券を500名以上が所有することとなる場合」「既発行有価証券を500名以上が所有することとなる場合」「新規発行有価証券を500名未満が所有することとなる場合」における、売出し人又は発行者と取得者(投資家)との間の契約の、仲介業務(取扱い業務)のことです。

「④ 売出し又は募集、売出し若しくは私募の取扱いを行ったみなし有価証券一覧表」に関しては、記載ルールが(注意事項)に細かく決まっていますので、これを熟読する必要があります。(注意事項)は読み飛ばしがちなのですが、この項目は読まないと正確な記載をすることが困難です。

続く「⑤ 売出し又は募集、売出し若しくは私募の取扱いを行ったみなし有価証券の状況」が、実務上、一番記載が面倒な項目です。関係した集団投資スキーム等の直近での運営状況を記載するように求められており、発行者から決算書等を入手して項目を記載する必要があります。一見シンプルで項目が少ないのですが、どこに何を書くのか、決算書の項目をどのようにファンドの資産構成に落とし込むか等、やってみると意外に複雑です。

投資助言・代理業

投資助言業者の場合には「(24) 投資助言業務の状況」の記載が必要です。① 契約件数等に関しては、総契約件数と、うち顧客の資産の額を前提とした契約の件数を、適格機関投資家及びその他の者をそれぞれ記載する必要があります。

「顧客の資産の額を前提とした契約の件数」は、いわゆる契約資産制の契約のことで、助言対象となる顧客の運用する財産の金額に応じて、定率の固定報酬や成功報酬を徴収するのが一般的です。ファンドや不動産のAM、プライベートバンキング関連業務等でよく用いられます。

助言対象商品

続く「② 助言を行った有価証券及びデリバティブ取引に係る権利の種類等」に関しては、助言した有価証券又はデリバティブ取引に係る権利の記載が必要です。財務局の記載例は、法令の条文を列挙していますが、金融商品取引法に十分な知識がないと、みずからがどの有価証券に助言したのか正確に把握するのは難しいでしょう。

例えば、ETFは第2条第1項第10号。REITは第2条第1項第11号。CBは第2条1項第5号及び第9号。日経平均先物(大証)は第2条第21項。証券CFDは第2条第22項です。金融用語と法律用語に違いがあり、把握が難しくなっています。

これは業務方法書の記載ともかかわってきますので、自らが助言する有価証券及びデリバティブ取引に係る権利が、法令上何項何号に該当するのか、常に意識して業務をすることが大切です。

また、同項目では「○経済的利益受領の有無」の記載欄があり「有価証券の発行者、発行者から委託を受けた運用会社又は管理会社から、経済的利益を直接又は間接に受領していない場合は、「経済的利益を直接又は間接に受領していない。」旨を記載する」ルールになっています。これは、以前、投資助言業務として顧客に対して外国発行有価証券の取得の助言をしていたものの、実際には有価証券の発行体側から販売手数料を収受していた事業者が、第二種金融商品取引業の変更登録を受けることなく同業務を営んだとして行政処分されたこと等を踏まえて、助言対象有価証券の発行体との利害関係を確認する項目として設けられた記載事項です。

外国ファンド等

「③ 助言を行った主な有価証券の内容」に関しては、外国投資信託受益証券や外国ファンド持分等の一定の有価証券に関して、発行者、運用会社、管理会社の明記を求めています。この欄の面倒なのは、主に外国投資信託の投資助言業務を行う業態の投資助言・代理業者の場合、記載すべき投資信託の本数が膨大になりかねないことです。

記載例は「例えば、助言の頻度、額、対象顧客数などを基準として判断することが考えられますが、必ずしもこれらの数値を集計した結果をもとに判断しなければならいないわけではありません。また、「助言を行った主な有価証券」が5 つ以上ある場合は、表に欄を追加し、記載する必要があります」としており、必ずしもすべての記載が必要なわけではありませんが、実務上は本欄はできるだけ網羅的に記載するのが一般的です。

内部管理の状況

「④ 内部管理の状況」では、顧客との利益相反を防止するための態勢整備の状況及び以下の状況等について記載すること。(例)帳簿書類・報告書等の作成・管理、リスク管理、電算システム管理、顧客及び顧客情報管理、広告審査、苦情・トラブル処理、内部監査等」と記載例に記載指示があります。

(例)と書いてありますが、実務上は、利益相反管理態勢、帳簿書類・報告書等の作成・管理、リスク管理、電算システム管理、顧客及び顧客情報管理、広告審査、苦情・トラブル処理、内部監査に関して、網羅的にかつ簡潔に、誰がどのように行っているか記載するのが一般的です。

経理の状況

「経理の状況」には、当期の会社の決算状況を記載します。第一種金融商品取引業(有価証券関連業に限る)を行う者は様式A、投資信託委託会社は様式Bですが、その他の一般法人は様式 Cを、個人は様式Dとなります。

基本的には決算書を転記すればいいのですが、決算書の項目や内容も会社によって色々で、販管費の明細等で行数が足りないときは、適宜行を追加して記載することになります。販管費の記載の粒度等は、ある程度事業者の裁量に任されており、一般的な会計基準に沿っている限り、補正等の問題になることは少ないです。

もっとも、実際には、証券会社は日本証券業協会規則の「有価証券関連業経理の統一に関する規則」、投資運用業者(一任)と投資助言・代理業者は一般社団法人日本投資顧問業協会規則の「投資運用業等統一経理基準」に沿って経理処理を行う必要があります。前者はわりと守られているのですが、後者は、協会の会員金融商品取引業者であっても、とくに投資助言・代理業者では必ずしも遵守されていません。

これは、当該基準の存在自体があまり業界内で認識されておらず、また、中小規模の投資助言・代理業者は会計処理を税理士事務所に丸投げするのが一般的であるところ、一般法人の税務申告を行う会計事務所で金融商品取引業に関し深い制度理解があるほうが例外的と考えられることに起因していると考えられます。

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