行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

取引時確認におけるeKYC廃止等

2023/07/03

このページの目次
公的個人認証への一本化移行の時間軸マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題

金融庁が令和5年6月30日付で公表した令和5年6月の業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点では、同月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」における取引時確認のマイナンバーカードの公的個人認証への一本化及びこれに伴うその他の方法でのeKYCの廃止(以下、単に「eKYC廃止等」という。)方針に関して言及しています。

公的個人認証への一本化

デジタル社会の実現に向けた実現計画のP54では「犯罪による収益の移転防止に関する法律、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(携帯電話不正利用防止法)に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でも公的個人認証による本人確認を進めるなどし、本人確認書類のコピーは取らないこととする」としています。

また、同P78で「⑤ eKYC 等を用いた民間取引等における本人確認手法の普及」として「促進デジタル空間での安全・安心な民間の取引等において必要となる本人確認について、公的個人認証サービス(JPKI)の利用を促進する。その上で、安全性や信頼性等に配慮しつつ、具体的な課題と方向性を整理し、簡便な手法の一つである eKYC等を用いた本人確認手法の普及を進める」と説明があり、eKYC廃止等と公的個人認証サービスによるeKYCへの一本化が謳われています。

これは、犯罪収益移転防止法に基づき行われてきた従来の取引時確認の手法の抜本的な変更を民間事業者に対して迫るものです。

意見交換会で金融庁が各団体に示した論点は以下の通りです。

本方針は金融監督当局が立案したものではなく、政府から降りてきた方針であると思われます。金融庁の公表にも金融業界の実務への影響が大きいと認めており、行間に幾分の当惑が感じられます。

.本人確認のマイナンバーカードへの一本化について
〇 6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においては、「犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法に基づく本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でも公的個人認証による本人確認を進めるなどし、本人確認書類のコピーは取らないこととする。」等の政府方針が示されている。
〇 本人確認手法の変更については、金融業界の実務への影響も大きいことから、まずは、非対面取引における eKYC の廃止等と公的個人認証への一本化について、金融業界の意見や実務の状況を確認しつつ、デジタル庁・警察庁などの関係省庁で改正内容について検討を行ってまいりたい。
〇 今後、協会からも、公的個人認証の活用状況や現行の本人確認手法等について、意見を聞かせていただくことがあると思うので、是非、積極的に議論に参加いただければ幸い

業界団体との意見交換会において金融庁が提示した主な論点 [令和5年6月 20 日開催 日本証券業協会]

移行の時間軸

解説資料である今回の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の主なポイントの「安全・安心で便利な国民生活に向けたマイナンバーカードの機能拡充と安全安心対策工程表」では、eKYC廃止等のスケジュールに関し、以下のような時間軸が示されています(資料を基に当事務所で加工)。

これによれば、今年度中はeKYC廃止等に関しての議論・調整、来年度に改正案が示され、2026年度以降にeKYC廃止等が行われるスケジュールとなっています。

従来型のeKYCは平成30年11月30日の犯罪収益移転防止法改正で鳴り物入りで導入された比較的新しい制度であり、それを開発するシステム会社や証券会社等金融機関は、ここまで取引時確認のeKYC化のために多大なシステム投資を行ってきた流れがあります。公的個人認証を除いた従来型eKYCを廃止する今回の法改正の方向性は、政策の継続性の観点からは議論を呼びそうです。

マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題

eKYC廃止等が公表された同日付で、犯罪収益移転防止法に関連し、「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023年6月)もまた、金融庁から公表されました。

これは年次レポートですので、昨年版と比較することで、監督当局の関心事項をクリアに把握することができます。その点、金融商品取引業者等に関しては、必ずしも去年の同レポートとの記載差分は多くありません。

しかしながら投資運用業者等の資産運用業務を行う者が「投資家から犯罪収益が流入することや、金融商品取引業者等の投資行動を通じて経済制裁対象者等が関与している企業への資金が流入すること」を防止する態勢に関して、以下の記載変更があったことが注目されます。

2022 直接の投資先であれば、投資先の役員や実質的支配者について制裁対象者リストと照合することや、ファンド・オブ・ファンズを通じた投資等であれば、投資先ファンドを運用する運用業者に対してマネロン等管理態勢の確認を行う等の対応が考えられる
2023 直接的投資先であれば、投資先の役員や実質的支配者について制裁対象者リストと照合することや、ファンド・オブ・ファンズを通じた投資等、運用委託先を通じた間接的投資であれば、委託先運用業者に対してマネロン等リスク管理態勢の確認を行う等の対応が考えられる

当然のことではありますが、FoF以外のスキームであっても、間接投資スキームの場合には、広くマネロン等管理態勢の確認を行う必要があることが明示された形です。

また、投資信託等の販売の委託に関しても、以下のように記載のトーンが変わっています。

 2022 運用商品(投資信託等)の販売を委託する場合、販売会社の管理態勢等が脆弱であれば犯罪収益が運用商品に流入するリスクが高まることから、委託先販売会社のマネロン等リスク管理態勢について、自社基準に照らして適切であるかの確認も含め、当該商品・サービスのリスクを特定・評価し、当該リスクに応じた継続的な管理を実施することが重要である
 2023 運用商品(投資信託等)の販売を委託する場合、販売会社を通じて犯罪収益が運用商品に流入するリスクがあることから、委託先販売会社のリスクに応じたマネロン等リスク管理態勢等の適切性の継続的確認・審査を実施することが重要である

販売会社の管理態勢等が脆弱でなくても、犯罪収益が運用商品に流入するリスクが存在することは明らかであり、前段の改訂は販売の委託の際の留意事項の適用射程をより広めるするための修正であると見られます。

後段の修正はその趣旨が必ずしも明らかではありませんが、記載がシンプル化されています。

従来の「自社基準に照らす」義務や「当該商品・サービスのリスクを特定・評価し、当該リスクに応じた継続的な管理を実施」することは、一般的留意事項としては、ややスペシフィック過ぎる嫌いがありますので、こうした措置が不要になったというよりも、より抽象的な「リスク管理態勢等の適切性の継続的確認・審査」の義務を課すことで、従来記載のあった具体的な措置の実施も含め、各業者でそれぞれに適切な方法を考えて実施するように求める、規範の抽象化及び一般化なのではないかという感じを受けます。

また、取引モニタリング・フィルタリングに関して【取組が進んでいる事例】に、新たに「 取引モニタリングシナリオや敷居値の継続的検証を行い、誤検知率削減に取り組んでいる。」事例が掲載されました。

こちらの記載例は、ベスト・プラクティスというよりもスタンダード・プラクティスに近いと考えられますので、金融商品取引業者等は、かかる継続的検証を取り入れていく必要がありそうです。

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