行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

暗号資産交換業の成熟化

2023/07/10

令和576日付のブルームバーグで、FTX社が日本法人売却を見送る旨、金融庁に意向を伝達したと報じられています。同社は、米国の親会社の経営破綻以降、グループの精算のために売却方針が報じられていましたが、グループの方針戦略に変更があったようです。

令和3年下半期以降、我が国で新規に暗号資産交換業に登録することができたのは、わずかに1社だけです。登録業者のリストを見ると、もう1社あるように見えますが、これは財務局を跨いだ本店移転による登録替えです。

令和5年現在、基本的に、大企業又は大企業の資本が入った企業以外、暗号資産交換業登録はほぼ不可能と考えられます。独立系の中小、零細の企業や、無名な外国業者から暗号資産交換業の登録の検討の相談を頂く場合がありますが、当事者に強力なキャリア的バックグラウンドがあればさておき、そうでない場合には暗号資産交換業登録は検討するだけ時間の無駄であるとお伝えしています。

参入需要があるのか

同社の譲渡に関しては、事業会社や金融機関など4050社が関心を示したと報じられています。しかし、これを見て金融業界に暗号資産交換業への参入意欲がそれだけあると受け取るのは必ずしも正確ではないと思います。

当事務所にも5年前には毎日のように暗号資産交換業登録に関する問い合わせがありましたが、今は殆どなくなっています。

実際、独立系某社は2023年8月に暗号資産交換業を廃止して、解散する旨も報じられています。本件に限らず、暗号資産交換業者は、その複数が経営権の譲渡を検討しているものの、その協議はなかなか進んでいないとも聞きます。

暗号資産交換業の業況を見る限り、収益を出せる会社と出せない会社の間で、既に勝負がついた印象です。今からの新規参入で、既存取引所の牙城を崩すことができるかは疑問です。早くも、外国為替証拠金取引等と類似した成熟産業の業界構造に向かいつつあります。

周辺部

小規模ブロックチェーン関連事業者は、暗号資産交換業それ自体ではなく、セキュリティー・トークンや、NFTDAO等の周辺ビジネスにシフトしている印象がありますが、実際にはセキュリティー・トークンは暗号資産交換業以上に、伝統的な大企業の独断場になっています。

他方でNFT昨年日経新聞にも報じられた通り、未だ業態として継続性のあるビジネスモデルを確立できていません。

いずれにせよ、ブロックチェーン関連事業の中心が、暗号資産交換業から周辺に移動しているのは確かだと思いますので、暗号資産関連アセットマネジメント、暗号資産信託及び投資信託、実物資産証券化(≒NFT)、DAODeFiのように、既存の業態と異なる分野には、成長性と参入余地があるのだと思います。

しかしこれらの新たな業態と既存の金融ビジネスの規制上の接着の悪さは相変わらずです。我が国に限らず、数日前にはデンマーク規制当局がCFD取引大手の同国の銀行に対して保有仮想通貨の処分を命令したと報じられています。

こうした中で、NFTに関しては「NFTは暗号資産に該当せず登録が不要」という一般論が独り歩きしています。

NFTと名を付した実質的にはユーティリティートークンに該当するコインや、NFTと名を付しているものの収益分配金性があり実質的には集団投資スキームに該当するトークンが、主に投資詐欺系グループにより対面、ネットワーク等で広く販売されている実態があります。

DAODeFiに関しても、自律分散が謳われているものの、とりわけDeFiには一般的にトラストポイントが存在しており、実際には特定の者がこれを実質的に運営しているものの、自律分散を隠れ蓑として身を隠しているに過ぎないという指摘も、規制当局からなされています。

現状、ブロックチェーン関連事業は、こうした悪意ある詐欺スキームと、意義のあるイノベーションが混在している状況であり、一般投資家にその真贋を見極めるのはなかなか難しいと考えられます。

こうした状況では、監督当局も、審査を発行体ないし事業者の信用性に依拠せざるを得ず、それがゆえに有力業者が大企業ばかりというセキュリティー・トークン業界の逆説的な状況を創り出しているとも言えます。

2023/07/12追記

令和5年7月11日付で、令和5年4月21日開催の「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第9回)議事録が公開されましたが、研究会の岩下メンバーから、以下のようにDeFiに対して懐疑的で辛辣な意見が寄せられていることが注目されます。

以下主要箇所を引用しつつ取り上げます

はじめに岩下メンバーは暗号資産に関して「直接的な起源というのは、2009年にビットコインが初めて発行された」ことであって「ビットコインというものが、もともと匿名な取引を行うことで個人のプライバシーを高め」、「非中央集権とか分散化といったようなものが、人々によって良いものだと主張された」と指摘しています。

続いて「2020年、21年ぐらいにDeFiと呼ばれるような取引形態が極めて拡大してきた」ところ、もともと「スマートコントラクトとか、それのベースとなるようなイーサリアムというものは、2015、6年とか、その辺のところで誕生している」が「それらのものが広く普及したのは」同時期であると指摘しています。

しかし「2022年に、米国及び欧州の金融政策の変更等に伴って、暗号資産の市場が暴落」したことでUST事件や、FTX事件で「人々の認識というのが大きく覆った」として、「暗号資産が、もともと匿名取引、言ってみれば、既存の銀行や証券会社などの金融制度や、各国の金融規制を言わば逃れるために存在したものであって、かつ、その利用使途というものが登記のために使われる値上がりする資産ということ以外で考えれば、例えばランサムウエアの支払いであるとか、あるいは不正な国際送金であるとか麻薬の売買であるとかという、決して世のために良いものとは思えないようなものに使われているというところが、そもそもの金融商品とは性格が異なる」と存在意義そのものへの懐疑的な認識を明らかにしています。

岩下メンバーは「暗号資産なり、暗号資産から生まれたDeFiと言われるものを、それを1つの守るべき制度として、きちんと前提としたものとして考えていく必要があるんだろうかというところについては、大変疑問」と辛辣な見方を示すとともに「暗号資産、あるいはDeFiという仕組みを名のっているからといって、その実態というものは、その中において、特に不正に使われた場合、あるいは摘発されるような事件が起こった場合ですが、その中で実際に不正を行おうとしている人たちというのを、我々が実際に分析をしてみると、実際は限られた人が、極めて中央集権的に事業をハンドリングし、そのハンドリングした内容を利用して不正を行っているということが明らかであると。あるいは、そういうことが強く観測されるという事態にある以上、その人を具体的な不正を行ったものとして、必要であれば、処罰するなりなんなりすればよいのであって、暗号資産という金融商品みたいなものを、それをどうしましょうという話とは切り離して考えていいのではないかと考えます」として、そもそものDeFiの自立分散性に対しても、否定的な考え方を示しています。

殆ど全否定に近いトーンですが、同様の認識は我が国に限らず世界の金融当局にも広く持たれています。

アメリカの証券委員会(SEC)が明確な暗号資産交換業に相当する連邦レベルのレギュレーションを設けず、証券関連規制の場当たり的な適用でお茶を濁して要因のひとつに、そもそも暗号資産の本来的価値がはっきりしていないなかで、許認可登録等の枠組みを設けること自体が、アメリカ人に対し「暗号資産はアセットクラスとして価値がある資産である」という誤ったメッセージを発することとなることが指摘されています。

お気軽にお問い合わせください

お電話無料相談窓口 03-6434-7184 受付時間 : 9:00 -17:00  営業曜日 : 月〜金(除祝日)
メール無料相談窓口メールでのご相談はこちらをクリック