行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

金融商品取引業と業務委託

このページの目次
金融商品取引業を構成する業務委託媒介等業務の業務委託なにが禁止されるのかwebを利用した行為webサイトと勧誘の関係IFA・歩合制外務員・歩合ディーラー
資産運用の委託等トレードの代理
業務委託社員の可否違法な業務委託社員とは不適切な業務委託社員とは実態主義での判定外部委託先の管理

金融商品取引業を構成する業務委託

一般に、有価証券又はデリバティブ取引に関連する売買等に関連する業務や、資産運用等の業務を、第三者から業務委託契約等で受託することは、金融商品取引業に該当する可能性があります。金融商品取引業に該当する場合、それを行うには、金融商品取引業、登録金融機関業務、金融商品仲介業又は金融サービス仲介業(以下本稿に限り「金融商品取引業等」という。)の登録が必要になります。

投資家のマッチングにより他社の資金調達を手伝ってコミッションを貰ったり、FXの運用を第三者から請け負って、利益に応じて成功報酬を取りたい等の相談を受けることがありますが、これらは明らかに金融商品取引業に該当しますので、必要な登録を受けない限りこれを行うことはできません。

媒介等業務の業務委託

有価証券又はデリバティブ取引に関連する売買等の業務のうち、自らが取引の当事者になる業務ではなく、業務委託等に基づく何らかの「第三者からの依頼に基づく業務」で、金融商品取引業に該当するのは、概ね4種類です。

具体的には「有価証券又は市場デリバティブ取引の売買の媒介又は取次ぎ又は代理業務」(2号業務)、「金融商品市場取引での取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理業務」(3号業務)、店頭デリバティブ取引の媒介、取次ぎ又は代理業務業務(4号業務)、有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い(9号業務)です。

なお、クリアリング、PTS、有価証券等管理業務関連、社債等の振替も委任又は又は準委任性はあると思いますが、無登録業者がこれを行おうとすることは考えにくいと思いますのでここでのに入れません。

それぞれが法的にどのような性質を持つ契約なのかは議論があります。そもそも、業務委託契約は内容により、委任、準委任又は請負のいずれかに該当するとされます。

金融商品取引業に関連するものは基本的に委任又は準委任に該当するものが多そうです。とはいえ、ここは各契約の私法上の性質を論じることが目的ではありません。

これらの行為(以下「媒介等業務」という。)を「業務委託」と称して無登録業者が行った場合の適法性を論じます。

なにが禁止されるのか

もちろんのこと、当事者の行為が媒介等業務の定義に該当する場合には、金融商品取引業等の登録が必要であり、無登録営業をすることは罰則付きで禁止されています。

「媒介等業務とは何か」、「なにをしてはいけないのか」といえば、要するに「有価証券(株、投資信託受益証券、ファンド等)やデリバティブ取引(FXやバイナリーオプション取引等)の販売や取引提供には、登録業者以外は関わり合いになってはいけません」ということです。

登録を受けていない者は、代理勧誘、マッチング、代理店、エージェント、マッチングサイト運営などは、一切やってはいけません。名目が業務委託であっても、当然これらの行為は行うことができません。

また、よく聞かれますが、金融商品取引業の登録を受けた業者から媒介等業務の「業務委託」を受ける(ある意味「再委託」)形でも違法です。登録業者から委託を受けて又は登録業者の名義を使って業務をすることは、無登録営業であることに加え、登録業者側は名義貸しにあたり金融商品取引法に違反します。むしろ完全な無登録よりも悪質性が強い行為とすらいえます。

webを利用した行為

第三者によるアフィリエイト等の広告では、商品内容(個別商品の概要や手数料等、予想リターン・目標利回り、申込期間など)に言及する外部webサイトは、取扱や媒介等の金融商品取引業に該当する可能性がある(例えば一般社団法人第二種金融商品取引業協会「広告等に関するガイドライン」 P15)とされています。

基本的にwebで無登録でできることは、登録業者のアフィリエイトまでが限界ですし、かつ、アフィリエイトも、場合によっては上記のように媒介等業務に該当するものとして警告対象になる場合すらあります。

とりわけ、反社会性が強いと考えられている無登録海外FXのアフィリエイト行為は、無登録の媒介と判定されやすくなっています。また、契約上アフィリエイトと称するものの実際の対面、非対面の勧誘行為を併用する場合(FXでは通称「IB」とも呼ばれます。)は、完全な無登録営業であり論外です。

なお、国内の金融商品取引業者のアフィリエイトプログラムでは、口座開設や契約の申込みあたり定額のアフィリエイト料が支払われるのが普通ですが、海外無登録FX業者は取引高に応じた継続的なアフィリエイト料(ライフタイムコミッション)を支払う慣行があります。

取引高に応じた継続的なアフィリエイト料は、媒介に該当するため法令違反であるとの意見は、当局や自主規制団体から、非公式には示されてきました。しかし、これには明示的な根拠を欠くため、以前は国内の大手FX業者(当時)を含めて、ライフタイムコミッションのアフィリエイトプログラムを提供していた時期がありました。

とはいえ、現在は、他の金融商品取引業の業態を含めてライフタイムコミッションはほぼ聞かなくなっています。そのためアフィリエイターが海外FX業者に流れている面があります。なお海外FX業者の違法性と危険性はこちらの記載の通りです。

IFA・歩合制外務員・歩合ディーラー

金融商品仲介業者は、業務委託契約に基づき第一種金融商品取引業者等に所属しています。

業界内では金融商品仲介業の登録業者から、さらに無登録の個人又は法人が業務委託を受けて、金融商品仲介業務の勧誘等をすること(業務委託IFA)が、一般的な商慣行として行われています。これは法令に違反している可能性があると考えています。

しかしながら、証券業界の長年の慣行で、歩合制外務員及び歩合制ディーラーの制度が事実として存在していて、検査・監督上は適法とされていることが話をややこしくさせています。

これら歩合制職員等は雇用契約の形を取っていても、完全歩合の場合があります。事業主に労働者に対する最低賃金の支給を義務付ける最低賃金法の存在を考慮すれば、雇用契約の実態はなく、法的には業務委託契約であって、理論上は、第一種金融商品取引業又は投資運用業(投資一任業務)の無登録営業にあたると解されます。さもなくば、最低賃金法違反の犯罪でありいずれせよ法令違反です。

とはいえ、社会経済政策上、長年の慣行を覆すわけにもいかない面があり、検査監督上は業務委託IFAとあわせて殊更問題視されていないという現実があります。個人的には、本来これは「the elephant in the room」式の無視によってではなく、立法等により手当てすべきであると考えます。

資産運用の委託等

資産運用関連業務に関しては、主に、投資顧問契約(11号業務)及び投資一任契約(12号ロ)に業務委託性があります。また、これらの契約の締結の媒介(13号)も第三者からの依頼に基づく業務です。

なお、理論上は投資法人の資産運用委託(12号イ)も第三者からの依頼に基づきますし、投信委託業(14号)やファンド運用業(15号)の性質をどう解するかも微妙ですが、これらはについては、「業務委託」該当性が実際的論点ではないと思いますので省略します。

投資顧問契約及び投資一任契約は、法的には委任契約であると解されています。

とはいえ、金融商品取引法の条文は、投資顧問契約及び投資一任契約の定義にそれが委任でなされるか、請負でなされるかの区別を設けておらず、どんな名目の契約を結んだとしても、条文上の定義に当てはまる場合には、金融商品取引業にあたります。

トレードの代理

無登録で業務委託として投資助言をしたい又は他人の資産を運用したいというニーズは非常に大きいです。とくに、知人の証券口座やFX口座を代理でトレードして、儲かった金額の一定の割合を成功報酬として収受したいという相談が多くなっています。

なお、こうした着想は、ほとんどが業界経験のないコンシューマーであるという特徴があります。これは、証券市場の射幸性が、パチンコや競馬等の賭博と類似していることで、職業的な専門性を有しない者からも即物的関心を持たれやすい特徴に起因します。

相手方がいくら少人数であっても、例えば三親等内の親族や、直接被雇用者等の特別な関係に基づく身内で、それを業として行っていると評価しえない特別な状況でない限りは、投資助言や投資運用を受託することは無登録営業に該当します。

業務委託社員の可否

上記の通り、金融商品取引業に該当する業務を業務委託に基づき、独立して営むことを企図した「業務委託」以外にも、金融商品取引業者等の運営の実務には業務委託契約等を検討する局面が存在します。

それは、実質的には、登録された金融商品取引業等を行う登録業者における従業者でありながら、社会保険の潜脱、節税、解雇規制の潜脱等を目的として、給与に代わって業務委託契約に基づき、受託業務として職務を行うことを希望するケースです。

こうした場合には、当該業務委託が金融商品取引業を構成しないかという、前項目まで論じてきた観点に加え、当該業務受託者を組み入れた社内態勢が、法令及び金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」という。)が具体的に示すところの登録要件である人的構成を満たすかどうかを検討する必要があります。

違法な業務委託社員とは

人的構成の充足性を検討するまでもなく、そもそも業務委託契約自体が明らかに法令に違反するのは、登録を受けている金融商品取引行為そのものを構成する行為です。

具体的には、第一種金融商品取引業及び第二種金融商品取引業並び金融商品仲介業及び金融サービス仲介業における「売買等営業」、投資助言業務における「投資判断分析」及び投資運用業における「投資判断分析」です。投資助言業務における「投資助言」及び投資運用業における「注文執行」もこれと同様であると考えられます。

これらの行為は、金融商品取引法に定義される業たる「金融商品取引行為」のコアです。これら行為を無登録業者が業務委託契約等の雇用契約性のない契約で受託することは、無登録営業を構成しますので、法令に違反する行為と解されます。

他方で、それ以外の事業機能、すなわち、コンプライアンス、内部監査、総務、人事、経理等の外部委託の可否については、その受託自体が、直ちに金融商品取引業に該当し、委託することが無登録業者への名義貸しに該当するものではありません。

よって、法令等及び制度趣旨等に照らし合わせて個別に検討する必要があります。雇用契約に基づく社員ではなく、業務委託社員に委ねることができる金融商品取引業者における分掌業務の範囲はどこまでか、その範囲は明瞭ではありません。

不適切な業務委託社員とは

上記の通り金融商品取引行為に該当する業務は論外として、それ以外の行為についても、例え業務委託契約の締結それ自体が金融商品取引法に違反しないとしても、業務委託契約による業務委託社員の採用が、法令等に照らして不適切と解される局面があります。

第一に、法令等遵守指導(コンプライアンス業務)の業務委託です。コンプライアンスの外部委託は、令和5年に公表された金融庁のQ&Aでは、適格投資家向け投資運用業以外では、人的構成を欠くものであり、採用できないとされています。また、同業の拡張たるみなし第二種金融商品取引業でも採用例がありますが、その他の業態ではコンプライアンス業務の外部委託は困難と解されています。

よって、業務委託契約のみに基づくコンプライアンス責任者の就任は、少なくとも金融商品取引業者では、適格投資家向け投資運用業者以外では許容されないということになります。

また、内部監査に関しても、業務委託契約に基づき行う場合には、これは内部監査ではなく外部監査であると解されます。投資助言・代理業等では、内部監査に代わる外部監査として、登録を認められている例も多いですが、監督指針で求められている項目はあくまで内部監査ですので、当局の判断次第では、常に、登録要件を満たさないと判定される可能性があります。

実態主義での判定

もっとも、こうした業務委託の可否の判断には実態の部分がかなり大きいです。本当の「外部委託」と、前述のような実質的には社員である「業務委託社員」の境界はあいまいですが、後者のケースはそれほど当局も厳しく取り締まっていない現状もあります。

法形式上はこれらは同一ですが、アウトソーシングや名義貸しを目的とする本物の業務委託と、実質的には従事者であるものの、経済的理由により業務委託の契約が便宜上採られているだけに過ぎない業務違約には質的な差異があり、金融監督は基本的に実態主義で行われているからです。

営業担当者が業務委託社員になっていても、検査で何も指摘さなかった例すら見たことがあります。それは法形式はともかく同社の真正な従事者であることが明らかだったからです。

よって、こうした事例を聞き齧って、金融商品取引業者等が、無登録業者と連携した名義貸しスキーム等で同じことをしようとすれば、登録取り消しを含む行政処分が行われることは、ほぼ確実です。名義貸しは、登録制度の根本に関わるので、露見した場合には非常に厳しい行政処分が行われる傾向にあります。

外部委託先の管理

営業、コンプライアンス、内部監査以外の機能、すなわち、オペレーション、財務、経理、総務等のアウトソーシングは、基本的に問題ないと解されていますし、業界内には、こうした証券事務を代行する会社も多く存在しています。

また、外部に業務委託をする場合には、監督指針でその要件が定まっています。

監督指針では、「III-2-4 顧客等に関する情報管理態勢(1)顧客等に関する情報管理態勢に係る留意事項④」に掲げる措置を講じる義務が明記されています。これは、個人情報保護法で求められる委託先管理とも関連します。

また、「III-2-7 事務リスク管理態勢(2)事務の外部委託について」では、外部委託先の管理態勢の整備義務も明示されています。具体的には、以下のように定められており、金融商品取引業者等は、その事務を外部委託をする場合には、委託先管理規程等の社内規程を制定して、法令上の要件に適合する管理態勢を構築する必要があります。

イ. 外部委託の対象とする事務や外部委託先の選定に関する方針・手続が明確に定められているか。

ロ. 外部委託している事務のリスク管理が十分に行えるような態勢を構築しているか。

ハ. 外部委託を行うことによって、検査や報告、記録の提出等監督当局に対する義務の履行等を妨げないような措置が講じられているか。

ニ. 委託契約によっても金融商品取引業者と顧客との間の権利義務関係に変更がなく、当該金融商品取引業者が事務を行ったのと同様の権利が確保されていることが明らかか。

ホ. 委託事務に関して契約どおりサービスの提供が受けられないときに、金融商品取引業者において顧客利便に支障が生じることを未然に防止するための態勢整備が行われているか。

ヘ. 委託事務に係る苦情等について、顧客から金融商品取引業者への直接の連絡窓口を設けるなど適切な苦情相談体制が整備されているか。

III-2-7 事務リスク管理態勢(2)事務の外部委託について

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