行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

マネロン等リスク管理態勢の整備義務

2023/03/25

このページの目次
金融庁の不満表明マネロン等にかかる実態調査やらされている課題?国際的協力枠組み暗号資産該当性に関する解釈等

金融庁の不満表明

※2023/03/25 一部訂正

令和5年3月17日、金融庁は業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点を更新して、2月に実施された複数の意見交換会の論点を公開しています。

金融商品取引業者に関連する論点については、2024年3月に完了が求められている、AML/CFT(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)の整備状況に関して、金融庁が業界団体に対して、事実上の不満を表明したことが注目されます。

今年の1月17日に金融庁が日本証券業協会に対して提示した論点では「これまでの検査・監督においては、達成率が高い金融機関では経営陣がマネロン対策等を経営課題として主体的に行動してきたことが確認されており、金融庁としては、各金融機関の経営陣の姿勢を注視している」と評価していました。

また同論点では「態勢整備期限まで残すところ1年余りとなっており、経営陣におかれては、「他人事ではなく、我が事」として、自行/自社の態勢整備状況とマネロンガイドラインで求められる事項とのギャップを正確に把握し、組織を挙げて、必ず 2024年3月までに態勢整備が完了するよう、早急に作業を進めていただきたい。」として、業界の自主的な取り組みへの期待感を示していました。

しかしながら、それから1か月と経たない同2月14日に日本証券業協会、令和5年2月22日日本投資顧問業協会に示した論点では、以下のように体制整備が遅れていることを問題視する考え方が示されています。

○ マネロン等リスク管理態勢については、金融庁から各金融機関に対し、マネロンガイドラインを踏まえた態勢整備を2024年3月までに完了するよう要請し、2021 年からマネロンに焦点を当てた検査等を順次実施しているところであるが、態勢整備の期限まで残り1年となっている。

○ 2024 年3月までの態勢整備の参考として、他(※)業態の指摘事項を一部紹介する。

【当事務所注記】※「他」が入るのは日本証券業協会向けのみ。すなわち日本投資顧問協会会員への指摘事項と考えられる。

○ 例えば、「リスクの特定作業において洗い出されたリスク項目は実務に即した個別具体的な項目にまで細分化されているか」という項目について、リスク項目洗い出しの粒度(例えば、個人・法人に加え、実務に即して、法人であれば、業種、上場有無、公的機関か否かなど)が低いため、未達となっているなどの事例が見受けられる。

○ また、マネロンガイドラインで対応が求められる事項の中には、規定の整備に係るものもあるが、こうした項目についても未達(規定の未整備)となっている金融機関が多く確認されている。

○ このようなケースでは、金融機関の経営管理態勢にも課題がある可能性があるため、経営陣におかれては、自らの不備項目を再度確認の上、早急に対応を指示いただきたい。

【当事務所注記】※本項目の記載は投資顧問業協会に対する論点のみ。すなわち投資助言・代理業者及び投資運用業者に対しては、より厳しい行政対応がなされる可能性を示唆している)。

○ 改めて、経営陣におかれては、こうした事例も含め、自身の金融機関がどの水準にあるか把握した上で、残りの期間内に態勢整備が確実に完了するよう、取組を進めていただきたい

業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点

金融庁が今回例示した不備事項では「リスク項目洗い出しの粒度(例えば、個人・法人に加え、実務に即して、法人であれば、業種、上場有無、公的機関か否かなど)が低いため、未達」及び「規定の整備に係るものもあるが、こうした項目についても未達(規定の未整備)」と指摘しており、規程整備を怠っていたり、洗い出しの深度が浅いなどの、事業者側の真剣な取り組みの懈怠を責める内容になっています。

金融庁の意図を意訳すれば「取り組みの実効性を検証する以前に、形式的な取り組みすら、きちんとやれていない金融商品取引業者が多すぎる。やればいいだけのことすらなぜ真面目にやらないのか」ということだと思います。

マネロン等にかかる実態調査

現在は、毎年の報告が求められているAML/CFTに関するギャップ分析等(マネロン等にかかる実態調査)の報告命令が、ちょうど送付されるタイミングであり、金融商品取引業者等は、5月の末日までにこれに回答する必要があります。

金融商品取引業者等は、今回の金融庁の問題意識を反映して、可能な限り粒度の高い検討を経た社内規程等の整備を通じて、万全な社内態勢を構築する必要があります。

今回の金融庁の論点提起は、証券会社が2024年3月までの態勢整備(期限設定の公表文)に向けた取り組みを怠った場合、将来的に行政処分を含む厳しい対応をすることを予告するものといえます。

また、社内規程等の整備に関しては、多くの事業者で「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関する規程」等の形で通則規定を整備したことをもって対応完了とするケースが見られますが、実際にはこれでは不十分です。

金融庁のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインや、これを受けた金融商品取引業者等向けの「ギャップ分析」の調査シートを見る限り、異常な取引等の抽出の敷居値の設定や、検知システムの構築等を始めとした具体的な取り組みが求められています。

抽象的な通則規程だけではなく、実践的なマニュアルの整備や、客観的で定量的なルール制定及び必要に応じたシステムの導入等が必要です。

同ガイドライン、同Q&Aのみならず、マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題をも踏まえた、実効的な態勢整備が急務となっています。

やらされている課題?

FATF主導で欧米から降りてきたAML/CFTに関する取り組みは、証券会社をはじめとする金融商品取引業者にとって、正直言えば、どこか「やらされている」課題であることは否めないと思います。

我が国では、通称「ヤクザ・リセッション」と呼称された90年代の景気後退や一連の証券不祥事を体験したことで、証券市場からの反社排除に関しては、必要性が金融商品取引業者等の間に「肉体」に根差した経験として共有されています。

それに対して、マネロン対策は、事実上、アメリカから降りてきた指示であり、日本人にはピンと来ないものがあることは否めません。

そもそも、AML/CFTに相当する概念は殆どの外国では、AML/KYC(Anti-Money laundering/Know Your Customer)です。しかし、日本ではKYCは犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認であり、AML/CFTとは概念の若干のズレがあります。

国際的協力枠組み

とりわけ、ガイドラインが制定された平成30年時点では、ほとんどの金融商品取引業者等からみれば「なんだか知らんが知ったことか」という反応だったと思います。現在も、小規模な投資助言・代理業者第二種金融商品取引業者にとっては、そもそも当局に何を求められているかすら理解できないというのが一般的かもしれません。

パンナム機爆破事件や911等で、反テロリズムに対して肉体に根差した必要性を感じている欧米と比べて、事業者側の主体的取り組みが、そもそも期待しにくい土壌があるのだと思います。

しかしながら、金融庁が以前から説明しているように、FATFをはじめとする国際的又は各国の金融監督当局から、我が国がマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策整備が遅れた国であるとみなされた場合、我が国の金融機関が国際金融市場において競争上の不利益を被ることとなります。それを未然に防ぐため、金融商品取引業者等をはじめとする対象事業者の取り組みが必要になっています。

当然ながら、我が国もまた国際テロリズムとは無縁ではありません。

暗号資産該当性に関する解釈等

今週のもうひとつの重要リリースとしては、令和5年3月24日に、ブロックチェーン上で発行されるアイテムやコンテンツ等の各種トークンの暗号資産該当性に関する解釈の明確化に関する「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(案)の公表に対するパブリックコメントの結果等が金融庁から公表されています。

こちらに関しては、後日改めて解説します。

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