行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

ESG投信に関する監督指針新設

2023/04/06

このページの目次
総論 ESG投信への規制ESG投信の範囲用語規制ESG投信に該当しないもの既存の投資信託への影響

ESG投信への規制

ESGを掲げるファンドが増加する中で、運用実態が見合っていないのではないかとの懸念(グリーンウォッシング問題)が世界的に指摘されている中、金融庁は昨年公表された「資産運用業高度化プログレスレポート2022」において、「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待」をとりまとめました。

これをもとにして、金融庁は「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待」に基づき、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の改正に関するパブリックコメントを実施し、令和5年3月31日付でその結果を公表するとともに、同日付で改正監督指針を適用しています。

改正監督指針は、ESG投信に関する項目を新設し、投資運用業のうち投信委託業として運用される我が国の公募投資信託がEGS投信としての規制対象になることを明らかにするとともに、EGS投信の範囲を定めています。

ESGに関する公募投資信託の情報開示(誤認防止、投資戦略、ポートフォリオ構成、参照指数、定期開示及び外部委託)や投資信託委託会社の態勢整備(組織体制及びESG評価・データ提供機関の利用)について、具体的な検証項目を定めています。

ESG投信の範囲

監督指針ではESG投信は、ESGを投資対象選定の主要な要素としており、かつ、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」にその内容を記載している公募投資信託とされました。私募投資信託等の他ヴィークルは定義から外れます。

なお、外部委託運用(ファンド・オブ・ファンズ形式を含む。以下同じ。)の場合は、投資戦略やポートフォリオ構成を踏まえ、投資信託委託会社が適切に判断することとされています。

用語規制

開示の項目では、投資家に誤解を与えることのないよう「ESG投信に該当しない公募投資信託の名称又は愛称に、ESG、SDGs(Sustainable Development Goals)、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブルなど、ESGに関連する用語が含まれていない」ことを事業者に求めています。

かなり広範な用語規制ですので、注意が必要です。

パブリックコメントでは、規制される用語の範囲の具体化を求める意見に対して、金融庁は「ESGを巡る動向は国際的にも動きが早い分野であり、限定列挙するよりも、状況変化に応じて資産運用会社が適切に判断する」(パブリックコメントP9 No.80)ように求めています。

「主要な要素」の定義に関しては、定量的な基準は設定されませんでした。

適用対象となる「主要な要素」の定義は各委託会社で決める(パブリックコメントP3 No.9)とされ「ESGが投資対象選定の主要な要素であることを合理的に説明できる割合や目標を資産運用会社において検討する必要がある」(パブリックコメントP3 No.11)こと、「主要な要素」は複数存在し得るものの、いずれも決定的に重要な要素である必要がある(パブリックコメントP3 No.16)と金融庁より示されました。

ESG投信に該当しないもの

ESG投信は、ESGを投資対象選定の主要な要素とする公募投資信託が該当する一方、財務指標等など他の要素と並ぶ一要素としてESGを考慮するものは該当しないとされ、ESG投信に該当しない公募投資信託に対しては、投資家の誤認を防止する(パブリックコメントP5 No.44)とのことです。

また、改正監督指針が、公募投資信託を対象としていることから、REITなどの「投資法人」は指針の適用対象外となります。

パブリックコメントでは、こうした指摘に対して適用対象外であることを確認したうえで「一般個人に提供されているJ-REITについては、今後状況を見つつ、対応を検討」(パブリックコメントP5 No.62)するとしました。

あわせて、私募の投資信託や、外国籍の投資信託類似のファンド(パブリックコメントP6 No.55乃至No57)や、公募の外国籍投資信託も対象外になる(パブリックコメントP6 No.60)ことも、パブリックコメントで確認されています。

パブリックコメントでは明記されていませんが、投資事業有限責任組合等の集団投資スキームについても、もちろんのこと、本規制の適用対象外と解していいでしょう。

また、投資家への投資信託受益証券の販売行為は、投資運用業ではなく第一種金融商品取引業(募集又は私募の取扱い)又は第二種金融商品取引業(募集又は私募。通称「自己募集」及び「投信直販」)です。

第二種金融商品取引業として国内公募投資信託受益証券の募集又は私募を行う者は、当然に投資運用業者ですので、制度間の接続の問題は生じません。

しかしながら、第一種金融商品取引業(証券会社)に投資信託受益証券の募集又は私募の取扱いを依頼する場合には、ESG投信の直接的な販売行為への規制の欠缺が問題になりえます。

その点、金融庁は「実際の販促・勧誘・販売は証券会社・銀行等の投資信託委託業者からその販売の委託を受けた業者が行う場合」について「自主規制機関との意見交換の場等を通して、販売会社にも周知してまいります。」(パブリックコメントP21No.211及び212)とし、販売者にも改正監督指針に基づく間接的な規制を及ぼす意向です。

既存の投資信託への影響

設定済みの既存の投資信託への影響として、改正監督指針は「ESG投信に該当しない公募投資信託のうち、2023年3月末までに設定されたものについて、その名称又は愛称にESGに関連する用語が含まれている場合には、ESGを投資対象選定の主要な要素としているものではない旨を交付目論見書に明記しているか。なお、上記の場合には、ESGに関連する用語をできる限り速やかに名称又は愛称から除外することが望ましい。」と示しています。

なお、ESG投信に関する情報開示(誤認防止、投資戦略、ポートフォリオ構成、参照指数、定期開示及び外部委託)や投資信託委託会社の態勢整備(組織体制及びESG評価・データ提供機関の利用)については、各論となりますのでここでは取り上げませんので、パブリックコメント及び下記の改正監督指針を参照いただければと思います。

【以下新設】

Ⅵ-2-3-5 ESG考慮に関する留意事項
(1)意義
名称や投資戦略にESG(Environmental・Social・Governance)を掲げるファンドが国内外で増加しており、運用実態が見合っていないのではないかとの懸念(グリーンウォッシング問題)が世界的に指摘されている。こうした中、名称や投資戦略にESGを掲げる我が国の公募投資信託について、市場の信頼性を確保し、ESG投資の促進を通じた持続可能な社会構築を図る必要がある。このため、投資家の投資判断に資するよう、ESGに関する公募投資信託の情報開示や投資信託委託会社の態勢整備について、以下の点に留意して検証することとする。

(2)ESG投信の範囲
本監督指針において、ESG投信は、以下に該当する公募投資信託とする。
① ESGを投資対象選定の主要な要素としており、かつ、② 交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に①の内容を記載しているものなお、外部委託運用(ファンド・オブ・ファンズ形式を含む。以下同じ。)の場合は、投資戦略やポートフォリオ構成を踏まえ、投資信託委託会社が適切に判断することとする。

(3)開示
① 投資家の誤認防止
投資家に誤解を与えることのないよう、ESG投信に該当しない公募投資信託の名称又は愛称に、ESG、SDGs(Sustainable Development Goals)、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブルなど、ESGに関連する用語が含まれていないか。
投資対象の選定において、財務指標など他の要素と並ぶ要素としてESGも考慮する公募投資信託について、交付目論見書や販売用資料、広告等のESGに関する記載が、当該公募投資信託がESGを投資対象選定の主要な要素にしていると投資家に誤認されるような説明となっていないか。
ESG投信に該当しない公募投資信託のうち、2023年3月末までに設定されたものについて、その名称又は愛称にESGに関連する用語が含まれている場合には、ESGを投資対象選定の主要な要素としているものではない旨を交付目論見書に明記しているか。なお、上記の場合には、ESGに関連する用語をできる限り速やかに名称又は愛称から除外することが望ましい。
② 投資戦略
ESG投信の交付目論見書の「ファンドの目的・特色」(ハにおいては、「ファンドの目的・特色」又は「投資のリスク」)に、以下の事項を記載しているか。
イ. ESGの総合評価又は環境や社会の特定課題等、投資対象選定の主要な要素となるESGの具体的内容
ロ. 主要な要素となるESGの運用プロセスにおける勘案方法(関連する基準や指標、評価方法等の説明を含む)
ハ. 主要な要素となるESGを運用プロセスにおいて勘案する際の制約要因やリスク
ニ. 持続可能な社会の構築に向けて、環境や社会のインパクト創出を目的としているESG投信について、その目的、インパクトの内容、及び目標とする指標・数値、方法論などインパクトの評価・達成方法
ホ. 投資信託委託会社として、ESGを主要な要素とする投資戦略に関連する個別の公募投資信託固有の方針又は全社的なスチュワードシップ方針がある場合には、当該方針の内容
ヘ. イ~ホについて、更に詳細をウェブサイト等で開示する場合には、その参照先
③ ポートフォリオ構成
ESG投信の純資産額のうち、ESGを主要な要素として選定する投資対象への投資額(時価ベース)の比率について目標や目安を設定している場合、又は、ESG投信の投資対象の選定において主要な要素となるESGのポートフォリオ全体の評価指標の達成状況について、目標や目安を設定している場合、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、当該比率やその他の計数を記載しているか。また、こうした目標や目安を設定していない場合、その理由を説明しているか。
④ 参照指数
公募投資信託の運用において、ESG指数への連動を目指す場合、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、参照指数におけるESGの勘案方法や当該ESG指数を選定した理由を記載しているか。
⑤ 定期開示
ESG投信の交付運用報告書(上場投資信託の場合には継続的な開示書類。以下同じ。)、以下の事項を継続的に記載しているか。
イ. 純資産額のうち、ESGを主要な要素として選定した投資対象への投資額(時価ベース)の比率について、目標や目安を設定している場合には、実際の投資比率
ロ. 投資対象の選定において主要な要素となるESGのポートフォリオ全体の評価指標の達成状況について、目標や目安を設定している場合には、その達成状況
ハ. 持続可能な社会の構築に向けて、環境や社会のインパクト創出を目的としているESG投信について、インパクトの達成状況
ニ. 投資信託委託会社として、ESGを主要な要素とする投資戦略に関連するスチュワードシップ方針がある場合、当該方針に沿って実施した行動ホ. イ~二について、更に詳細をウェブサイト等で開示する場合には、その参照先
⑥ 外部委託
ESG投信の運用を外部委託する場合、外部委託先に対する適切なデューディリジェンスや運用状況の確認を行い、交付目論見書や交付運用報告書に外部委託運用の②~⑤の内容を反映した開示がなされているか。また、これらの開示が困難な場合には、その理由を説明しているか。
(4)態勢整備等
① 組織体制
ESGに関連するデータやITインフラの整備、人材の確保等、投資戦略に沿った運用を適切に実施し、実施状況を継続的にモニタリングするためのリソースを確保しているか。
運用を外部委託する場合には、上記のリソースの状況を把握する等、外部委託先に対するデューディリジェンスや(3)②~⑤の内容の確認を行うための体制を整備しているか。
② ESG評価・データ提供機関の利用
公募投資信託の運用プロセスにおいて第三者が提供するESG評価を利用する場合や自社のESG評価に第三者が提供するデータを利用する場合、ESG評価・データ提供機関の組織体制や評価の対象、手法、制約及び目的を理解する等、デューディリジェンスを適切に実施しているか。

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針

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