2023/03/30
このページの目次
概略:パブリックコメント結果の公表-暗号資産の定義の明示-金融庁の回答
「イ」関係:決済手段としての使用の禁止等-事後流通の場合-不特定の者による代価の弁済
「ロ」関係: 最小取引単位が高額であること- 発行数量が限定的であること-NFT等の扱い
2号暗号資産:2号暗号資産の扱い
その他:その他暗号資産交換業関連
パブリックコメント結果の公表
NFTやブロックチェーンゲームアイテム等のデジタル資産に関する、暗号資産に該当するケースの解釈明示等を目的として令和4年12月16日付けで「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(案)の公表」にてのパブリックコメント手続が行われていました。
これを受け、令和5年3月24日に金融庁より「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(案)の公表に対するパブリックコメントの結果等の公表が発表されました。
暗号資産の定義の明示
NFTやブロックチェーンゲームアイテム等のデジタル資産が、資金決済法上の暗号資産に該当する場合、その売買・交換・カストディ等の業務を行う事業者は暗号資産交換業の登録を受けなければなりません。
海外で強まる金融引き締めの影響で、NFTをはじめとするデジタル資産の価格は一昨年よりも低下していますが、直近の欧米の金融不安を受けて暗号資産価格が大きく上昇するなど、依然としてその注目度は高い状況です。
政府はweb3.0の振興を我が国の成長戦略と位置付けています。
今回の事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係「16.暗号資産交換業者関係」(以下「事務ガイドライン」という。)の改訂により従来はっきりとしていなかった暗号資産の定義を明確化することは、こうした政策的背景があります。
新事務ガイドラインでは1号暗号資産及び2号暗号資産の定義に関して注釈が付されました。パブリックコメントの当初案では1号暗号資産のみに言及されていましたが、寄せられた意見を受けて、2号暗号資産に関しても、同様の注釈が行われています。
① 法第2条第5項第1号に規定する暗号資産(以下「1号暗号資産」という。)の該当性に関して、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
(注)以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。ただし、イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。
イ.発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること)
ロ.当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること
・ 最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること
・ 発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること
なお、以上のイ及びロを充足しないことをもって直ちに暗号資産に該当するものではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もあり得ることに留意する。(略)
③ 法第2条第5項第2号に規定する暗号資産の該当性に関して、「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者による制限なく、1号暗号資産との交換を行うことができるか」、「1号暗号資産との交換市場が存在するか」、「1号暗号資産を用いて購入又は売却できる商品・権利等にとどまらず、当該暗号資産と同等の経済的機能を有するか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
(注)「1号暗号資産を用いて購入又は売却できる商品・権利等にとどまらず、当該暗号資産と同等の経済的機能を有するか」を判断する上では、①(注)が同様にあてはまる点に留意する。
金融庁の回答
本記事では、主に事務ガイドラインに対して寄せられたコメントに対して、コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下「パブリックコメント」という。)で示された暗号資産に該当しないための基準等に関して、注目すべき項目を採り上げていきます。
なお金融庁は、今回示されたイ・ロの要件に関しては、あくまで判断要素の例示である(パブリックコメントP6 No.8)としており、暗号資産の該当性については「事務ガイドラインⅠ-1-1①(注)のイ及びロのいずれか一つ又は両方を満たさないことをもって直ちに暗号資産に該当するということではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もある」(パブリックコメントP6 No.10)としました。
技術は日進月歩であり流動的な業界ですので、解釈の余地を残すという意味で当然のことだと思います。
「イ」関係
決済手段としての使用の禁止等
暗号資産に該当しない要件の注記のイについては、「決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様」を備えることが必要です。
金融庁は、トークンが「代価の弁済のために不特定多数の者に対して使用することができる」かどうかは、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されることとなりますが、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している場合には、代価の弁済のために当該トークンを使用している利用者に警告を発するなど、代価の弁済のために使用されないための合理的な措置を講ずることが求められるものと考えられます(コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下「パブリックコメント」という。)P1 No.1)としました。
よってトークン等を暗号資産に該当させないためには、単に決済手段としての利用を規約で禁止するだけではなく、代価の弁済のために当該トークンを使用している利用者に警告を発するなどの事業者の能動的な措置を求められることが明らかになりました。
また「システム上決済手段として使用されない仕様」の具体的内容に対する質問に対しては、「例えば、ブロックチェーン上で第三者に移転することが不可能となっている仕様のほか、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されることとなりますが、互いに面識のある者から構成される限定的なコミュニティ内においてのみ移転することが可能な仕様などが考えられます。なお、これらに限らず、「システム上決済手段として使用されない仕様」については個別具体的に判断されると考えられます」と、ある程度具体的な回答がなされています(パブリックコメントP8 No.13)。
事後流通の場合
当初は暗号資産の定義に該当しない発行であっても「トークンの発行後の使用実態、経時的要素によって、発行当時は暗号資産に該当しないトークンが、いずれかの時点以降、暗号資産に該当することになる可能性があるとの理解でいいか」との質問に対して理解の通りと回答(パブリックコメントP6 No.10)しており、当初発行時だけではなく、その後の流通状況によって、事後的に暗号資産となる場合があることが明示されました。
それを踏まえ金融庁は「トークンが二次流通することが想定されるのであれば、発行者又は取扱事業者は、新規発行時のみでなく二次流通時においても、不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしている必要があると考えます。」(パブリックコメントP9 No.15)」としています。
不特定の者による代価の弁済
また、同じく要件である代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができるかどうかについては「一義的に決まるものではなく、個別具体的な事情に応じて判断されるものですが、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等により判断されます」(パブリックコメントP17 No.41)としています。
さらに金融庁は「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」は、一般に、前払式支払手段やいわゆる無償ポイントと暗号資産を区別する上での考慮要素の一つとなります。そのため、使用可能な店舗を発行者等自身が運営している店舗、及び発行者が加盟店(資金決済法第 10 条第1項第4号)に係る契約を締結している店舗等に限られないかという観点から判断されます。」(パブリックコメントP17 No.42)と示しました。
加盟店契約等がない限り決済利用出来ないトークンは暗号資産の定義から外れます。
「ロ」関係
最小取引単位が高額であること
注記ロにおける暗号資産に該当しない要件のうち、最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であることとの要件については、金融庁は「一般的に最小取引単位当たりの価格が高額であるほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば 1000 円以上のものについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられます。」(パブリックコメントP9 No.16)として1000円を線引きとしました。
さらに「1000 円以上で発行された場合において、事後的に 1000 円未満で取引される状況があることをもって直ちに暗号資産に該当するものではないと考えております。もっとも、例えば、一定期間にわたって 1000 円未満で取引されるような状況にあれば、「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」であることは満たさないこととなる」(パブリックコメントP9 No.16)としており、取引価格が1000円を割ったことをもって常に暗号資産に該当するものではないとはいえ、かかる状況が常態化した場合には事後的に暗号資産に該当する可能性を示しています。
また、無償発行の場合についても回答がなされており「トークンを新規に提供する際に暗号資産該当性の判断基準となる価格は、有償で発行・販売されるトークンはその販売価格となり、無償で発行・交付されるトークンは0円となると考えられます。ただし、当該トークンが二次的な流通市場において取引されている場合には、当該トークンが提供されているサービスプラットフォーム(プライマリー市場)のみならず、流通市場における価格についても、暗号資産該当性を判断する際の基準になると考えられます。」(パブリックコメントP12 No.23)とされましたので無償配布されるトークンでも暗号資産に該当する可能性は十分あります。
発行数量が限定的であること
ロのもうひとつの要件である、発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であることについても、具体的な基準となる数字が明示されました。
金融庁は「一般的に発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が少ないほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば100 万個以下である場合には、「限定的」といえると考えられます」(パブリックコメントP10 No.20)。としています。
また、ビットコインはもちろんのこと、他の暗号資産でも1単位未満に分割できることが一般的ですが「分割することにより取引単位を小さくすることが可能なトークンの場合には、その分割可能性を踏まえたトークンの発行数量をロ.における判断の基準とすることとなり、分割が可能ではないトークンの場合には、そのトークンの発行数量自体を基準とする」(パブリックコメントP28 No.20)としており、発行トークンの個数ではなく、分割可能性を踏まえた個数を算定に用いる必要があることが明らかにされています。
もっとも、NFTは、個別のトークンがアート等のコンテンツに紐づいています。よって、同じ仕様のトークンであっても、NFTはそれぞれ紐づいたコンテンツ毎の個別性があります。
NFT等の扱い
その点、金融庁は「トークンに紐づくコンテンツの個別性は、基本的に、そのトークンの数量を判断する際の考慮要素となると考えられます。」(パブリックコメントP15 No.36)として、NFTのようにトークンが紐づいているコンテンツがトークン毎に異なる場合には、発行数量はコンテンツ毎に別計算であることを示しました。
他方で、「紐づくコンテンツが異なるトークンであっても、流通市場等において、扱われ方や価格等の観点で同じ種類のものとして扱われていると認められる場合には、同じ種類のものとして扱われているトークンの数量の合計を当該判断の基準として用いることが適当であると考えられます」(パブリックコメントP15 No.35)とされており、NFT名目の実質的な暗号資産の発行等の潜脱行為はできないことを明示しています。
2号暗号資産の扱い
現在暗号資産交換業者の取扱いしている暗号資産のうち2号暗号資産に該当する暗号資産はないとされています。
金融庁は1号暗号資産の要件(「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」)を満たさない財産的価値であっても、不特定の者を相手方として1号暗号資産と相互に交換できる場合には2号暗号資産に該当すると考えられます(パブリックコメントP1 No.2)としました。
とはいえ、本ガイドラインにおいて、2号暗号資産の定義が、限りなく1号暗号資産に近づいたことで、2号仮想通貨が現れる可能性はさらに低下したのではないでしょうか。1号暗号資産には該当しないものの、2号暗号資産には該当するという状況が実際的にあり得るか議論の余地があります。
その他暗号資産交換業関連
今回の事務ガイドライン改定では、暗号資産の定義のみならず、暗号資産交換業に関するガイドラインもまた改訂されています。
ガイドラインⅠ-1-2-2暗号資産交換業の該当性③注2の判断基準では「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」に該当するか否かについて「事業者が、単独又は関係事業者と共同しても、利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵の一部を保有するにとどまり、事業者が単独又は関係事業者と共同して保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合。」「・事業者が利用者の暗号資産を移転することができ得る数の秘密鍵を保有する場合であっても、その保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者が当該暗号化された秘密鍵を復号するために必要な情報を保有していない場合」と示しました。
これを受けてパブリックコメントでは、暗号資産にカストディ業務に関して「当該事業者が利用者の暗号資産を移転することができ得る数の秘密鍵を保有する場合であっても、その保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者が当該暗号化された秘密鍵を復号するために必要な情報を保有していない場合には、当該事業者は、「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」にないことから、「他人のために暗号資産の管理をすること」には該当しないと考えられます。なお、従業員による不正が可能か否かは、事務ガイドライン上「主体的」の直接の判断要素とはなりませんが、事業者において、リスク管理上の対策を講じる必要があると考えられます。」(パブリックコメントP18 No.42)とされたのが注目されます。
その他、暗号資産交換業者の業務に関しても、事務ガイドラインに複数の改正がありますので、暗号資産交換業者はその内容を把握しておく必要があります。