行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

マネロン等管理態勢の評価・実態差

 

2023/05/26

マネロン等リスク管理態勢の整備の遅れ

金融庁は、本年2月の業界団体との意見交換会において、投資運用業投資助言・代理業などの一部業態について、全体的な事業者のマネロン等リスク管理態勢の整備の遅れを問題視していたことは既報の通りです。

令和5年5月19日、金融庁は新たに業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点の4月分を公表しました。そこでは、一部業態に限らず、業界横断的に金融機関の自己評価と実際の態勢整備状況との差を問題視する姿勢が打ち出されています。

金融庁提起論点

論点で金融庁は「2022 年までに報告徴求により提出いただいた自己評価とマネロン検査の結果を比較してみると、金融機関が報告徴求で態勢整備ができていると申告した項目でも、実際に検査では態勢整備が不十分と判断される項目がかなりの数に上っており、金融機関の自己評価と実際の態勢整備状況に差が出ている」としています。

かかる論点は、信託協会(令和5年4月19日)、全国信用組合中央協会(令和5年4月11日)、日本証券業協会(令和5年4月18日)、日本貸金業協会(令和5年4月19日)に対して一斉に示されました。

他方で、主要行等、全国地方銀行協会及び第二地方銀行協会に対しては「マネロン対策等のシステム共同化について」の事務的な言及があるものの、マネロン等リスク管理体制を問題視する論点は提起されていません。

2.マネロン対策等にかかる実態調査発出について

○ マネロン対策等については、各業法に基づく報告徴求命令を発出し、毎年、各金融機関の取引実態やマネロン対策等に係るデータの提出をお願いしている。2023 年も、2023 年3月末時点の報告に向けて、報告様式を送付しており、5月末までの提出をお願いしたい。

○ なお、2022 年までに報告徴求により提出いただいた自己評価とマネロン検査の結果を比較してみると、金融機関が報告徴求で態勢整備ができていると申告した項目でも、実際に検査では態勢整備が不十分と判断される項目がかなりの数に上っており、金融機関の自己評価と実際の態勢整備状況に差が出ている状況にある。

○ マネロン態勢整備期限まで残り1年を残すところとなり、自社の態勢状況を適切に把握することが重要である。各経営陣におかれては、マネジメントの観点から、 マネロン対策の担当部門が作成した報告が、自社の検査指摘事項等を踏まえて、客観的かつ適切に自社の態勢を評価できているか、過度に過大な評価となっていないかを、今一度担当部門にご確認いただきたい。

・ また、担当部門への適切な人材の配置ができているか、改善策の実施に当たって社内の調整に支障が生じていないかといった点についても、確認・改善を行っていただき、2024 年3月末の期限までにマネロン管理態勢の整備を完了していただくよう、改めてお願いしたい。

業界団体との意見交換会において金融庁が提示した主な論点 [令和5年4月 18 日開催 日本証券業協会]

取り組みへの評価

金融庁は、銀行では十分な態勢整備が進んでいるものの、それ以外の監督対象事業者は、いずれも自己評価と実態に差があり対策が不十分と見ていることがわかります。

金融庁は「マネロン態勢整備期限まで残り1年を残すところとなり、自社の態勢状況を適切に把握することが重要である。各経営陣におかれては、マネジメントの観点から」、「マネロン対策の担当部門が作成した報告が、自社の検査指摘事項等を踏まえて、客観的かつ適切に自社の態勢を評価できているか、過度に過大な評価となっていないかを、今一度担当部門にご確認いただきたい」と要請しています。

ギャップ分析のギャップ分析

特定事業者は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という)で対応を求められている事項に対して、2024年3月までに社内体制の整備等の対応を完了するよう求められています。

そのため、報告徴求の対象となっている一部特定事業者は、態勢整備完了に向け、同ガイドラインと社内実態の間のギャップを自らで分析し、ギャップ分析等を毎年5月末日までに金融庁に提出することが求められています。

今回示された、ギャップ分析での自己評価が過大であり、実際の態勢整備状況との間でギャップがあるため、ギャップを「今一度担当部門にご確認」せよ」という指示は、ギャップ分析についての自主的なギャップ分析が求められることを意味します。

「予行練習の予行」「先生の先生」のような話です。

また、金融庁は「担当部門への適切な人材の配置ができているか、改善策の実施に当たって社内の調整に支障が生じていないかといった点」についても確認・改善をするよう指示をしていますが、これも形だけの対応ではなく、実態を伴った態勢整備が出来ているのか、今一度確認せよとの趣旨であるように読み取れます。

事業者の対応状況

総じて事業者の対応状況を見る限り、金融庁の問題意識はもっともです。

以前も書きましたが、ガイドラインは、銀行等の預金取扱い金融機関以外の特定事業者、とりわけ中小規模の事業者にとっては、制度の必要性からして理解が進んでいないように思われます。

そもそもガイドラインの規制根拠が犯罪収益移転防止法にあることが、どのくらい意識されているでしょうか。

報告命令への対応のため「最低限の規程類やマニュアル類を整備して、表面を整えたうえで、ギャップなしと報告しておく」ならまだいい方で、何も考えずにギャップなしと報告しているケースもあると仄聞します。

監督姿勢の変化も

マネロン等リスクに係る管理態勢の不備に関しては、第一種金融商品取引業者に対し、平成29年1件、平成30年2件、令和元年1件の指摘がなされていることが、証券モニタリング事例集で確認できます。

また同事例集に「令和3事務年度においては、販売勧誘態勢や内部管理態勢、マネロン対策に係る不備等が認められた。」とありますので、具体的な内容は不明であるものの、行政処分に至らないマネロン等に関する検査等での不備指摘は、継続的に行われていることが確認できます。

ガイドラインは2024年3月末まではギャップの存在が許されます。よって、現状はある種のソフトローとしての性格があります。しかし同月以降は、ガイドラインは名実ともにハードローに変化します。

2024年4月以降、当局は特定事業者に対して求める態勢水準を引き上げ、行政処分も念頭とした監督に移行すると予想されます。

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