行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

金融商品仲介業とファンド販売

2023/06/03

このページの目次
概略:行政処分勧告金融商品仲介業という業態ファンドの募集又は私募の取扱制度対象と限界人数カウント有価証券等管理業務特定有価証券等管理行為

行政処分勧告

令和5年5月26日、証券取引等監視委員会は、有力な金融商品仲介業者である某社に関して、無登録で集団投資スキーム持分の募集又は私募の取扱い等を行っている状況につき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、行政処分を行うよう勧告しました。

一般に、金融商品仲介業者に対する行政処分又は行政処分勧告の事例は非常に珍しいといえます。当事務所の知る限りでは、本件行政処分勧告は、令和元年の東海財務局における某個人への登録取消処分以来の出来事です。

金融商品仲介業者は、その業務を遂行するにあたり、業務委託契約を締結する所属金融商品取引業者等、とりわけ「代表協会員」等の存在により、一定のコンプライアンス態勢が担保されています。そのため、従来、重大な投資者保護上の問題を生じる例は必ずしも多くはありませんでした。

とはいえ金融商品仲介業者(IFA)は、FP、保険代理店、会計事務所及び投資用不動産会社等と並んで、資産運用に積極的関心を有する顧客を抱える業態のひとつです。

そのため、玉石混交の登録業者・無登録業者から、顧客紹介や協業の誘いを受けることが一般的です。ある意味で、フロンティアにあるビジネスです。

そのため、積極的に業務展開する事業者の潜在的なコンプライアンス・リスクは無視できない水準にあります。厳密な法令等遵守に取り組まずとも、業界慣行と監督密度の問題もあり、結果的に問題があまり起きてこなかっただけとも言えます。

(※令和5年6月9日追記)

令和5年6月9日付発表で、関東財務局は同社の登録を取消すとともに、「1)無登録金融商品取引業務に該当する行為を直ちに取り止めること。」「2)当社が募集又は私募の取扱いを行ったすべての集団投資スキーム持分について、取扱い状況(顧客ごとの属性、出資日、出資金額、償還日、償還金額等)を早急に把握し報告すること。」「3)すべての顧客に対し、今回の行政処分の内容を説明し、適切な対応を行うなど、投資者保護に万全の措置を講じること。」を命じています。当初の想像以上に厳しい処分です。

金融商品仲介業という業態

金融商品取引業者のなかでも、とくに投資助言・代理業者及び第二種金融商品取引業者にとって、金融商品仲介業は、自らが行う金融商品取引業とは似て非なるビジネスであり、近くて遠い親戚といえます。

金融商品仲介業者は、第一種金融商品取引業(及び一定の投資運用業者)に所属して、口座開設の媒介等の一定の金融商品取引行為を行う事業者であり、歩合制外務員にも類似します。「所属金融商品取引業者等(通称「所属証券会社」とも呼称。)」の存在が前提となっています。

令和5年4月30日現在で700業者存在しています。また、登録された金融商品仲介業者から業務委託を受けてIFA業務を遂行する者(契約外務員)も多数存在しています。

ファンドの募集又は私募の取扱

証券取引等監視委員会は、同社が「特定の民法上の任意組合(以下「本件任意組合」という。)について、少なくとも56名の顧客に対し、出資持分の取得勧誘を行った結果として、当該56名の顧客から、本件任意組合に対し、12億2700万円が出資され」たため「集団投資スキーム持分について、金商法第2条第8項第9号に規定する募集又は私募の取扱いを行ったものと認められる。」と結論付けて、第二種金融商品取引業者の無登録営業と認定しています。

金融商品仲介業は、金融商品取引法第2条第11項で、金融商品取引業者(第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者に限る。)又は登録金融機関の委託を受けて、有価証券の売買の媒介(2号業務。PTSを除く。)、委託の媒介等(3号業務)、有価証券の私募の取扱い等(9号業務。募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い)、投資顧問契約又は投資一任契約の締結の媒介(13号業務。投資運用業者が行う媒介は除く)のいずれかを当該金融商品取引業者又は登録金融機関のために行う業務であるとされています。

そのため、所属金融商品取引業者等からの受託業務として、株券や社債券等の第1項有価証券の募集又は私募の取扱いをすることは適法です。しかしながら民法上の任意組合は、第2項有価証券であり、その募集又は私募の取扱いは第二種金融商品取引業です。所属金融商品取引業者等と締結した業務委託契約によりこれを行うことは想定されず、金融商品仲介業の対象から外れます。

制度対象と限界

今回処分勧告の原因となった「ファンド(集団投資スキーム)の勧誘を金融商品仲介業者に依頼できないか」という質問は、ファンドを組成する第二種金融商品取引業や適格機関投資家等特例業務届出者側からもよく受ける質問です。

他にも、FX業者の代理店業務のために金融商品仲介業者の登録を受けたいという話も聞きますが、店頭デリバティブ取引の媒介もまた金融商品仲介業の制度の対象ではありません。金融商品仲介業の制度を利用できる範囲は狭いです。

細部をあえて置いて、単純化して説明すれば、金融商品仲介業は、証券会社の歩合制外務員に近い制度であり、本来は証券会社の社員として行う仕事を、業務委託契約で遂行する存在です。独自に商品を調達したり、所属金融商品取引業者等以外の金融商品取引業者等と提携することは許されていません。

そうした業務を希望する場合、それはそれで別の手続きを踏む必要があります。

人数カウント

蛇足ながら、証券取引等監視委員会の勧告に「少なくとも56名の顧客に対し、出資持分の取得勧誘を行った結果、当該56名の顧客から出資された」とあるのが注目されます。一見すると、勧誘56発中、56中という、精密誘導兵器のような精度です。

これにはカラクリがあり、基本的に、みなし有価証券では、出資持分の取得勧誘は「取得」をもって判定することを踏まえています。日常用語ないし第1項有価証券に係る証券用語の「勧誘」と、第2項有価証券の「勧誘」には、定義の違いがあります。

金融庁は「いわゆる集団投資スキーム持分(金商法第2条第2項第5号・第6号)は、一般に、その組成において投資者の需要等を踏まえながらその内容を確定させていく方法等が取られることが多く、どの時点を捉えて「取得の申込みの勧誘(募集)」が開始されたかを判断することが困難であることが想定されることから、金商法では、集団投資スキーム持分の「募集」の有無については、投資家が当該持分を取得するタイミングをとらえて判断することとしており、「取得勧誘であって有価証券の募集に該当しないもの」が「私募」とされています」(平成19年 パブリックコメント P58 No102)と示しています。

なお、第2項有価証券に関して、「取得勧誘に応じず取得に至らなかった場合でも、取得勧誘が行われて日本の投資家が取得することとなる可能性がある以上、実務的には、「募集」又は「私募」(金商法第2条第8項第7号)に該当するものとして、当該外国集団投資スキームの運営者は、金融商品取引業の登録(又は適格機関投資家等特例業務の届出)を要する」(同 P538 No7)とされていますので、勧誘した人数が0名でも、無登録営業を構成しうることになっています。

有価証券等管理業務

行政処分勧告では、集団投資スキームの募集又は私募の取扱業務(9号)にかかる第二種金融商品取引業の無登録営業に加え「顧客から出資される金銭について、当社の銀行口座を経由して本件業務執行組合員に送金していることから、当社は、集団投資スキーム持分の募集又は私募の取扱いに関して、金商法第2条第8項第16号に規定する金銭の預託を顧客から受けていたものと認められる」として、16号業務(有価証券等管理業務)の第一種金融商品取引業の無登録営業も認定しています。

これは、集団投資スキームを取扱う第二種金融商品取引業者にも高い頻度で発生する法令違反です。仮に、第二種金融商品取引業の登録を受けていても、同時に第一種金融商品取引業者として有価証券等管理業務を行うか、又は一定の要件を満たして特定有価証券等管理行為を行う事業者以外は、顧客資金を経由等のために預かることが禁止されています。

財務的な基盤がしっかりとした一定の金融商品取引業者以外、顧客に口座開設させて、顧客の申込代金を預かる等の行為をしてはいけないという趣旨の規制です。

特定有価証券等管理行為

金融商品取引法の定義では有価証券等管理業務は「その行う第一号から第十号までに掲げる行為に関して、顧客から金銭、第一項各号に掲げる証券若しくは証書又は電子記録移転権利の預託を受けること(商品関連市場デリバティブ取引についての第二号、第三号又は第五号に掲げる行為を行う場合にあつては、これらの行為に関して、顧客から商品(第二十四項第三号の三に掲げるものをいう。以下この号において同じ。)又は寄託された商品に関して発行された証券若しくは証書の預託を受けることを含む。)」(同第2条第8項第16号)とされています。

他方で、特定有価証券等管理行為は、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第16条第14号及び第14号の2にその定めがあります。そこでは、特定有価証券等管理行為は、金融商品取引業から除かれると定義されています。

つまり、第二種金融商品取引業者が「金融商品取引業」として特定有価証券等管理行為を行うという整理ではなく、第二種金融商品取引業者が一定の9号業務に際して一定の要件を満たす場合、本来は第一種金融商品取引業である有価証券等管理業務に該当せず、無登録でこれを行うことが許容されるという条文の作りになっています。

こうした条文を踏まえて、行政処分勧告でも、本件は有価証券等管理行為の無登録営業であるので、第一種金融商品取引業の無登録営業であると指摘しています。

もっとも、特定有価証券等管理行為は、一般社団法人第二種金融商品取引業協会のファンドの分別管理・金銭の預託に関するQ&A等を通じて、実質的に業規制に近い規律の下に置かれています。

なお、金融商品仲介業者は、金融商品取引法第66条の13で「金融商品仲介業者は、いかなる名目によるかを問わず、その行う金融商品仲介業に関して、顧客から金銭若しくは有価証券の預託を受け、又は当該金融商品仲介業者と密接な関係を有する者として政令で定める者に顧客の金銭若しくは有価証券を預託させてはならない」とされていますので、例え適法な金融商品仲介業務の枠内である、株券や社債券の募集又は私募の取扱いであっても、顧客の資金等を預かることはできません。

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