行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

仕組債に関する地銀等への処分勧告

2023/06/10

このページの目次
大手地方銀行グループへの行政処分勧告:日本証券業協会Q&A商品説明を行わない仲介業務
銀行への処分:紹介型仲介の限界紹介と勧誘の線引き内部管理体制が不十分な状況研修の一任
証券会社への処分:適合性の原則違反社内規程違反?顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明適合性原則を遵守するための態勢が不十分な状況弊害防止と態勢整備【追記】業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点

大手地方銀行グループへの行政処分勧告

昨年より金融庁が問題視している地方銀行による仕組債の販売を巡る不適切な勧誘を巡って、令和5年6月9日、証券取引等監視委員会は、某地方銀行証券子会社及びアライアンス行に対し、初めての行政処分勧告を公表しました。

今回勧告の対象になった地方銀行グループは、我が国を代表する地方銀行グループです。そうした一流の金融機関が行政処分勧告の対象になったことは、同グループ固有の問題のみならず、地域金融機関としては、その経営規模が大規模であるため、顧客数に相応して苦情件数が多かったことが予想されることや、一罰百戒を意図する規制当局の考え方も背景にあるのかもしれません。

仕組債問題は、同行だけの問題ではなく、銀行業界が全体として改善に取り組んでいかなければならない課題であることは明らかだからです。

日本証券業協会Q&A

金融商品仲介業務は、金融商品取引法第33条第2項第3号ハ及び第4号ロで、登録金融機関業務に含まれています。よって、同33条の2に基づき登録金融機関として登録を受けている金融機関は、金融商品仲介業の登録なしで、金融商品仲介業務を営むことができます。

登録金融機関が行う金融商品仲介業務は、平成16年の証券取引法の改正で認められた制度です。金融商品取引法施行前の資料ではありますが、制度の発足当時に日本証券業協会が出した「特別会員の証券仲介業務に関するQ&A」(第二版 平成17年6月)が、制度を知る参考資料となります。

商品説明を行わない仲介業務

同Q&A「Ⅰ.証券取引法等関係1.証券取引法関係」問6では、「商品説明等を一切行わ」ない場合でも、「登録金融機関が、口座開設申込書と株式等にかかる個別の商品パンフレットの備置とともに、口座開設申込書の受取り(記入方法の顧客への説明や記載漏れのチェック等を行うことを含みます。)とを併せて行う行為は証券仲介業務に該当」するとされており、単純な顧客紹介でも証券仲介業務(現・金融商品仲介業務)に該当するとの考え方が示されています。

もっとも「銀行は銀行業務に係るその他付随業務として、店頭での証券取引口座の開設申込書の備置と申込書の受取りを併せて行うことや、単に個別商品パンフレットを備え置くことが可能」であり「これらを併せて行うことや、個別商品パンフレットの配付、口座開設の勧誘を行うこと」の要件を満たしてはじめて証券業(現・登録金融機関業務)である解説されていますので、やや複雑です。

また、同Q&A「Ⅱ.協会規則関係1.投資勧誘及び顧客管理関係(1)「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」(公正慣習規則第9号)関係」では、問1で「特別会員は、顧客に証券取引を勧誘するに当たって、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当な勧誘を行わないという、いわゆる適合性原則が課せられており、特別会員が行う証券仲介業務についても、同様に、この適合性原則が適用され」るため「特別会員は、顧客に株式や社債等の勧誘を行う場合には、この適合性原則に基づいた勧誘が行われるよう顧客カードを作成し、整備」する必要があるとされています。

しかし、同問2では、「顧客に対して委託会員への証券取引口座の開設の勧誘のみを行い、当該委託会員において、同取引口座の開設手続きが行われ、株式等の勧誘・受託を行うというビジネスモデル」では、「特別会員は、顧客カードを作成し、整備する必要はありませんが、会員において、顧客カードを作成し、整備する」ことで構わないとされています。

銀行への処分

紹介型仲介の限界

行政処分勧告では、証券取引等監視委員会は、地方銀行に対し、同行が金融商品仲介業務として系列証券に顧客を紹介する業務(以下「紹介型仲介」という。)を行っているところ、「紹介型仲介では、顧客に対し、証券会社が扱う商品概要の説明のみを行うこととしている。また、同業務は顧客紹介のみを行うとしていることから、当行において、顧客属性(知識、投資経験、財産の状況、投資目的)の確認を行っていない。」としています。

これは、上記Q&Aの公正慣習規則問2によれば証券取引口座の開設の勧誘のみであれば、顧客カードが不要であるとの整理に照らして合理性がありそうです。

しかし、ここで問題視されたのは、紹介型仲介で、顧客に対し、商品概要の説明のみを行うこととしているところ、証券取引等監視委員会による検査の結果、同行ではこれに反して、同行が仕組債に誘引している事例が認められたことです。

証券取引等監視委員会は、「仕組債を提案するのであれば、顧客属性を十分確認し、どのような提案が適切であるか慎重に検討した上で行うべきところ、当行においては、顧客属性を確認しないまま、高金利等の優位性を強調して仕組債に誘引しており、投資者保護上問題のある行為であると認められる」として、同行が具体的な商品を勧誘するのであれば、金融商品取引法第40条の適合性の原則の観点から顧客属性の確認義務がある」と示しました。

紹介と勧誘の線引き

証券取引等監視委員会の指摘は、論理的にはその通りですが、実務上、概要の説明と具体的な商品の誘引は紙一重ですので、問題になりえます。

「紹介型仲介」は、概ね地方銀行の業界用語であって、2023年6月10日時点では、google検索の結果のうち、上位の概ね半分程度を地方銀行関連記事が占めます。

本行政処分勧告により、単なる顧客紹介たる「紹介型仲介」として、金融商品仲介業務において、適合性の原則への配慮を行ってこなかった事業者は、改めて自社の「顧客紹介」が、具体的な商品の誘引を伴っていないのか、改めて点検する必要がありそうです。

内部管理体制が不十分な状況

証券取引等監視委員会は、「当行の紹介顧客に関する苦情が同証券に対して継続的に多数寄せられていること等を把握していたにもかかわらず、苦情の発生原因分析や改善策の立案等に十分に取り組んでおらず、苦情処理に関する内部管理態勢が不十分」であることや、「顧客毎の交渉結果記録に紹介顧客に対する説明内容が詳細に記載されていない状況にあり、このため、営業部店、内部管理部門及び監査部門による確認も形式的なものにとどまっているなど、顧客への説明状況に関する実効性のあるモニタリング態勢も不十分」であること、「経営陣が、行員が顧客を仕組債購入へ誘引している状況を把握していないこと、行員が収益目標達成のために概要説明を超えた商品説明をして顧客を誘引する事象が発生しうる仕組みとなっていることを適切に認識していないこと、紹介顧客からの苦情が多数寄せられている実態を把握していたにもかかわらず、担当部署に任せきりにし、その取組内容が不十分なものとなっていることを看過している」こと等を指摘して、紹介型仲介に関する業務運営態勢の構築が不十分であると認められるとしています。

また、同様の指摘に基づく行政処分勧告は、同行のアライアンス行である別の地方銀行に対しても同時に行われています。

研修の一任

アライアンス行への指摘では「研修計画の策定は当行関連部署が行っているものの、研修資料の作成及び講義の実施については」証券会社に「一任していることなどから、研修等資料の内容が、投資者保護上問題がないかといった観点から確認を行っていない。このため、総じて仕組債に偏った研修が行われるなど仕組債を誘引させる内容の研修が実施されることになっており、研修態勢は不十分な状況」であると認定されています。

これは、金融グループ等を構成する金融商品取引業者等で、起こりがちな問題です。同じ金融グループに属していたり、アライアンス又は業務受託関係等があることにより、相互に密接だとしても、金融事業者は、本来それぞれが独立して事業を行う事業者です。

それぞれの業態やリスク特性を踏まえて、研修の計画を立案する必要がありますが、これがきちんとできていない事業者は、大手グループを含め、かなり多い印象です。

証券会社への処分

適合性の原則違反

今回の地方銀行2行への金融商品仲介業務の委託元である地方銀行系証券会社に対しても、行政処分勧告が実施されています。証券取引等監視委員会は「顧客の投資方針や投資経験等の顧客属性を適時適切に把握しないまま、多数の顧客に対し、複雑な仕組債の勧誘を長期的・継続的に行っている状況」であると認定しています。

具体的には、個人顧客のうち「令和4年6月末時点で仕組債を保有していた8,424顧客のうち、2,424顧客は、最もリスク許容度が高く、当社において複雑な仕組債を購入することが可能となる投資方針の「積極的値上り益重視」ではなく、これよりもリスク許容度の低い投資方針を有する顧客であった」と指摘しています。

また「銀行で投資経験を把握されずに紹介され、当社が投資経験を確認した上で仕組債の購入に至ったとしている80顧客のうち、34顧客は、金融商品の投資経験を全く有していない顧客や当社において複雑な仕組債を購入することが可能となる投資経験を有していない顧客であった」としています。

社内規程違反?

これはどういう経緯でそうなったのか、今一歩理解ができません。内部規程に違反して販売してはいけない顧客に対して仕組債を販売したということでしょうか。続報を待つ必要があります。

一般に、適合性の原則は、金融商品取引法に示された実定法でありながら、その適用の射程をはじめとして、抽象概念であるがゆえに、規範としての外枠が明瞭ではなく、金融商品取引業者等にとって、気持ちの悪い喉の小骨のような存在です。

しかしながら、そもそも取得勧誘自体が自ら設定した社内規程に違反して行われたとすれば、適合性の原則違反を論ずる以前の問題といえます。

一連の仕組債問題で最初の行政処分勧告の対象となった背景には、こうした適合性の原則に付きまとう「曖昧さ」がない「明らかな社内規程違反」があったことが存在したのかも知れません。

顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明

地方銀行系証券会社に対しては「複雑な仕組債の勧誘に際し、少なくとも3顧客に対し、仕組債の参照指標に係る変動により損失が生ずるおそれがある理由等について、顧客属性に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明を行っていないこと」ことも認定されています。

証券取引等監視委員会は、そのことは金融商品取引法の禁止行為である、金融商品取引法第38条第9号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1項第1号の「契約締結前交付書面の交付に関し、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をすることなく、金融商品取引契約を締結する行為」に該当するとしています。

適合性原則を遵守するための態勢が不十分な状況

証券取引等監視委員会は「当社は、銀行側において紹介型仲介契約で定めた業務を超えた商品説明がなされる等の適合性原則の遵守に支障を生じさせる要因が発生していたにもかかわらず、適切に実態把握するなどしてこれを解消しなかった」こと及び「顧客の投資方針や投資経験等の適合性を適切に把握する方法を周知徹底しないまま、複雑な仕組債の勧誘販売を急拡大させた」としています。

また「仕組債を購入した顧客からの苦情が多数寄せられる」中でも「苦情の中に含まれる適合性原則の遵守に関わる問題点を適切に抽出分析することなく看過し、業務改善に向けて苦情を適切に活用でき」ず、「日本証券業協会から適合性原則の遵守状況に関して計3回に及ぶ注意喚起を受け」てもなお、「適合性原則に抵触する勧誘販売状況の実態把握やこれに基づく実効性ある態勢整備を行わなかったことなど、適合性原則に抵触する勧誘販売を防止・改善するための取組が不十分であった」と適合性原則を遵守するための態勢が不十分な状況を認定しました。

これらをもって、同証券会社における仕組債の勧誘販売状況は、金融商品取引法第40条第1号の「顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること」に該当すると認められるとしています。

弊害防止と態勢整備

証券取引等監視委員会は「銀証連携で生じていた問題を適切に把握していなかったこと」「適合性原則に対する理解やその遵守の重要性に対する意識が希薄であったこと」の2点を同証券会社に対する行政処分勧告に係る公表の最後で強調しています。

銀証分離と親金融機関及び子金融商品取引業者の関係は、弊害防止措置でも非常に重要な論点です。グループに金融機関と金融商品取引業者を擁する金融グループは、今後、一層慎重な対応が求められるところです。

いずれにせよ、一連のこれらの態勢不備の指摘は、登録金融機関はもちろん、金融商品取引業者にとっても、苦情の発生原因分析や改善策の立案、実効性のあるモニタリング、経営陣の営業状況の把握及びグループ会社や受託先等に依存しない自主的な研修計画の立案が大切であることを改めて示すものです。

仕組債問題の渦中にある地方銀行系グループはもちろんのこと、業態の異なる金融商品取引業者等においても、本件行政処分勧告を他山の石として内部管理態勢の強化のため継続的な努力を行う必要があると考えられます。

【追記】業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点

令和5年6月16日付で、金融庁は、業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(令和5年5月 16 日開催主要行等令和5年5月 17 日開催全国地方銀行協会/令和5年5月 18 日開催第二地方銀行協会)を公表しています。

同公表では、日本証券業協会による新たな自主規制ガイドラインの遵守を呼びかけるとともに、「投資信託などの他の金融商品の中にも、一定程度複雑な商品性を有し、リスク・リターンやコスト等を理解することが必ずしも容易ではない商品がある」ことを指摘し、「複雑な仕組債等に限らず、こうした商品についても、顧客本位の業務運営の観点から、必要に応じて販売態勢の検証」することを求めています。

金融庁は、本件を仕組債問題に矮小化することなく、複雑な商品性に係る適合性というより大きなフレームワークの中で仕組債問題を捉えていることが改めて示されています。登録金融機関及び金融商品取引業者は、新たな仕組債になりうる複雑な商品が自社の紹介、販売商品に含まれていないか、積極的な自主点検が求められます。

複雑な仕組債等に関する新たな自主規制ガイドラインについて
○ 2023 年4月、複雑な仕組債等に関する日本証券業協会の自主規制ガイドラインが改正された(2023 年7月1日施行)。
新たな規則には、仕組債等の販売勧誘において最低限遵守すべきルールを厳格化しようとする趣旨の下、①販売勧誘態勢の検証に対する経営陣の関与、②リスク・リターンの妥当性の検証、③販売対象顧客の設定基準の厳格化など、幅広い事項について重要な見直しが盛り込まれていると認識している。
○ グループ内に仕組債を販売してきた証券会社を有する金融機関においては、新ルールの趣旨と内容を十分に理解いただいた上で、グループ全体として、販売勧誘態勢等の検証と実効的な見直しを確実に実施していただくとともに、必要に応じて銀証連携ビジネスの在り方等についても改めて検討いただきたい。
○ また、新たな規則は複雑な仕組債等の販売勧誘を対象としたものであるが、投資信託などの他の金融商品の中にも、一定程度複雑な商品性を有し、リスク・リターンやコスト等を理解することが必ずしも容易ではない商品があると承知。複雑な仕組債等に限らず、こうした商品についても、顧客本位の業務運営の観点から、必要に応じて販売態勢の検証をお願いしたい。

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