2023/05/19
不動産クラウドファンディング事業者である株式会社LIFULLは、令和5年5月11日に「【2022年】不動産クラウドファンディング市場 年間マーケットレポート」を公表しています。
同レポートは、金融商品取引業者にとっては、近くて遠いビジネスである不動産特定共同事業のうち、インターネットを利用した不動産クラウドファンディングの業界概況に関してわかりやすくまとまっています。
金融商品取引業者等にとっても有意義な参考資料ですので、本項で取り上げます。
不動産クラウドファンディング業界の急成長
同レポートは、不動産特定共同事業としての不動産クラウドファンディングの募集額が2022年は548億円となり、前年比で200%を超えて増加し、2018年からは実に約24倍の成長となったとしています。
国土交通省による一連の規制緩和や制度利用促進策が実り、不動産特定共同事業に参入する事業者数も増え続けています。
このように、不動産特定共同事業としてのクラウドファンディングが活況を呈する一方で、投資型クラウドファンディングや貸付型クラウドファンディングを担う第二種金融商品取引業は盛り上がりに欠けています。
第二種金融商品取引業は、不動産特定共同事業のいわば「隣の畑」であり、一部の規制は重畳適用される関係が密接なビジネスですが、行政当局の規制強化によりむしろ業界規模は縮小傾向(平成30・令和4)すら示しています。
上記リンクの一般社団法人第二種金融商品取引業協会のデータでは、2022年4月から9月までの上半期における貸付型ファンドのインターネットでの募集額は、約344億円となっています。
いよいよ、不動産特定共同事業許可としての不動産クラウドファンディングの市場規模が、貸付型ファンド(ソーシャルレンディング)に迫る規模まで順調に成長してきたことがわかります。
不動産証券の業界規模
不動産特定共同事業許可としてのクラウドファンディングの成長は大いに注目されますが、視点を変えると異なる事実も浮かび上がります。
それは、現時点では不動産証券化全体のなかでの不動産証券化にもとづくクラウドファンディングは、非常に小さな位置を占めるに過ぎないことです。
同じ不動産証券化スキームのひとつである投資法人(J-REIT)スキームでは、私募REITであっても1000億円を超える資産規模のファンドがざらに存在しており、REIT全体での保有不動産の合計額は20兆円を超えるとされます。
また、一般社団法人日本投資顧問業協会の資料では、不動産関連特定投資運用業の契約資産は、昨年末時点で19兆3065億円です。
不動産特定共同事業に基づくクラウドファンディングは、業界規模の面で、従来型の主として機関投資家を相手方とするGKTK・TMK・REIT等での証券化とは、大きな開きがあるといえるでしょう。
利回り構造とリスクテイク
同レポートは、2022年に組成されたファンドの平均利回りは、5.80%であったと報じています。これは、東京都心部の平均的な投資用物件の利回りと比して、明らかに高いと考えられます。
さらに継続的な不動産価格の上昇にもかかわらず、同レポートでは、2018年の平均利回り4.5%から、むしろ年々平均利回りが上昇していることを報じています。
個人的には、各社の個々の案件の収益性はともかくとして、業界全体としてそのような傾向を示しているということには、明らかに無理があると感じられます。市場に何らかの歪みが生じていることが推測されます。
同レポートでは、その間の業者数は4社から21社に増加したとされています。私見ですが、競争激化により、表面利回りに表れないリスクテイク、例えば流動性リスクを積極的に取ることにより、表面利回りを高めているという仮説が成り立ちえます。
実際、対象物件の所在エリアの項目では「2021年と比較すると神奈川・埼玉・千葉のベットタウン、関西・その他国内地域の物件の割合が増加」しているとされています。上記仮説に一定程度の信ぴょう性がありそうに思えます。
1件当たりの募集額
本調査でもっとも印象的だったのは「2022年に組成されたファンドの平均募集額は、約1.1億円」であり「不動産クラウドファンディングが始まってから、はじめての1億円超え」となったとされている、不動産特定共同事業による不動産クラウドファンディングの1件当たりの募集規模です。
レンダーを入れてレバレッジを掛けるにしても、このエクイティの規模では、取得できるのはアパート1棟や区分所有物件がいいところだと思います。およそ金融商品取引業者が関わる規模ではありません。
伝統的な証券化手法であるGKTKスキームで想定される「オフィス、レジ、ロジ、商業施設」等の物件を不動産鑑定等のDDを経て取得しAM(投資運用業者)・PMを入れる「不動産アセットマネジメント」とは、規模・金額的にかなりの開きがあります。
「不動産クラウドファンディング」と「不動産アセットマネジメント」は、もはや別業界と考えたほうがしっくりきます。
ニッチとしてのポテンシャル
一般に、REITやGKTKスキームでは、相応に大規模かつハイグレードな物件以外は、そもそも組入資産にすることが難しいです。
しかしながら、不動産AMの堅苦しいDDに合致せずとも、実質的に十分に収益性を有する不動産物件が世間に存在することは論を待ちません。
そうした制度の間隙を埋めるスキームとして「不動産クラウドファンディング」は、第二種金融商品取引業における不動産担保融資によるソーシャルレンディングと並ぶ、ある種のニッチとしてのポテンシャルがあります。
とはいえ、業界振興と投資者保護とのバランスは常に難しい問題です。