行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

令和5年 証券モニタリング概要・事例集

2023/08/25

このページの目次
総論・第一種金融商品取引業:検査実施状況第一種金融商品取引業
投資運用業:投資運用業外部委託管理態勢投資一任報酬の減額利益相反管理態勢投資法人にかかる業務
その他:第二種金融商品取引業その他業態

令和5年8月1日付で、証券取引等監視委員会より、令和5年の証券モニタリング基本方針及び証券モニタリング概要・事例集(令和5年8月)が公表されています。

証券モニタリング基本方針を取り上げた前回記事に続き、証券モニタリング概要・事例集を取り上げていきます。

同事例集は「令和4事務年度」が対象ですが、「令和4事務年度」とは令和4年7月から令和5年6月末までの期間とされています。

事例集には同期間に金融商品取引業者等や金融商品仲介業者に対して行われた行政処分勧告及び検査における指摘事項が掲載されています。

検査実施状況

証券取引等監視委員会は「令和4事務年度は、着手ベースで63者に対して検査を実施し、前事務年度からの継続分も含めて52者について検査を終了した。52者のうち、重大な法令違反等が認められた7者については、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して行政処分を求める勧告を行うとともに、法令違反や内部管理態勢等に問題点が認められた25者に対して問題点を通知した。」としています。

これに対して、前年度となる令和3事務年度には、証券取引等監視委員会は44者に対して検査を実施し、44者について検査を終了。44者のうち、重大な法令違反等が認められた5者に行政処分を求める勧告を行う一方、法令違反や内部管理態勢等に問題点が認められた22者に問題点通知をしました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために抑制されていた検査ですが、いわゆる「コロナ明け」により、検査の着手件数が急増していることが伺えます。実際に、令和2年から令和4年にかけて、当事務所の関与先金融商品取引業者でも、臨店検査を受けるケースは以前に比べて非常に少ない印象でしたが、今年に入ってから以前よりも検査の頻度が上がっている印象を受けています。

なお、52者の内訳は、第一種金融商品取引業者20社、投資運用業者7社、投資助言・代理業者9社、第二種金融商品取引業者4社、登録金融機関7行、金融商品仲介業者2社、投資法人3社で、適格機関投資家等特例業務届出者は含まれていません。

第一種金融商品取引業者への検査数は最多ですが、あくまで定期検査の範囲内です。

本年度の特徴としては、仕組債問題で揺れた登録金融機関への検査件数並びに投資運用業者及び投資法人への検査件数が、それぞれ平成30年事務年度以降で最多であることが、とりわけ注目されます。

第一種金融商品取引業

第一種金融商品取引業に関しては、はじめに大手証券会社のブロックオファー取引関連の不備及びこれと同時に公表された、銀行と連携して行う業務の運営に関する非公開情報の不適切な受領及び伝達等に係る行政処分が記載されています。

また、その他の公表済みの行政処分では、大手地銀グループの証券会社の仕組債問題に関連したグループ各社における事例や、外国為替証拠金取引を行う第一種金融商品取引業者における純財産額及び自己資本規制比率が法定の基準を下回っている状況等を巡る処分事例も公表されています。

公表済み事案に関しては解説は省略します。

今回で初公表となる指摘事項のうち、注目されるのは、ネット証券である第一種金融商品取引業者における「仲介業者の不適切な勧誘行為や法令違反行為を防止するための措置が十分でない状況」ですが、これは前回記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

また、指摘事項ではなく検査を通じて把握したフォワードルッキングな観点での課題として有価証券の引受等の投資銀行業務における「優越的地位の濫用防止の観点から、顧客との応接録等の適切な記録」に関して「「重要な局面」の応接録等が確認できない、あるいは十分に記録されていないなど、不十分な点が認められた」事案に関する言及があります。

投資運用業

投資運用業については、行政処分事例の掲載はないにも関わらず、多数の指摘事例が掲載されています。

注目すべきは、後述の外部委託先管理態勢、投資一任報酬の減額、利益相反管理体制及び投資法人が負担する費用に関する指摘に関しては、具体的な行為規制への違反ではなく、内部管理態勢不備に係る指摘として行われたことです。

そのことは、証券取引等監視委員会が、投資運用業者に対して、単なる行為規制の遵守だけではなく、資産運用業者としての高度なガバナンス態勢の構築を求めていることを意味します。

現在、国家戦略として資産運用ビジネスの活性化が唱えられています。しかしその反面、かかる指摘は、金融庁は既存業者の在り方に関して必ずしも満足しておらず、同時に投資運用業者に対する規制監督が強まっていることを示すものです。

外部委託管理態勢

運用の外部委託管理態勢に係る不備について「当社において、運用の外部委託管理態勢に係る不備が認められた」として「当社が運用するファンド・オブ・ファンズの商品特性等に応じた適切なモニタリングが行われていない状況が認められた」事例が掲載されています。

ファンド・オブ・ファンズは、内容が不透明な外国籍投資信託への再投資を巡って以前も何度か問題になったことがありますが、今回の指摘事項でも商品特性等に応じた適切なモニタリングが不十分であると指摘されています。

もっとも、過去の例では実質的に自社がオフショアで運用する投資信託の内容の透明性が問題になったのに対して、今回は真正なFoFにおける投資先のモニタリングが問題になったのではないかという印象です。もっとも、情報が少ないのでこれだけでは詳細までは読み取れません。

いずれにせよ、近年増加している外国ファンドへの投資を前提とするFoF運用を行う投資運用業者は、投資先のモニタリング態勢を綿密に構築する必要がありそうです。

投資一任報酬の減額

続いて「投資一任報酬の減額に係る内部管理態勢の不備」として、「投資一任報酬の減額に関するルールを定めておらず、当該減額が顧客に対する損失補てんや特別の利益提供に該当するか否かといった観点からの検証も行っていない上、減額の適切性等を判断するための証跡も入手していない状況が認められた」事例が掲載されています。

金融商品取引業者等が顧客から徴収する手数料等は、原則として同一条件の顧客に対しては同一であることが基本であり、これに反する取り決めをする場合には、禁止行為である損失補填、特別の利益の提供や業務方法書違反に該当しないか等、十分に法的な検討を行ったうえで行う必要があります。

これは、投資運用業に限らず金融商品取引業等では、どの業態も同じです。とくに投資助言・代理業者における投資顧問契約においては、助言報酬に関して類似する論点が頻繁に生じます。

利益相反管理態勢

利益相反管理に係る態勢不備に関しても指摘事項が掲載されています。「各ファンドマネージャーが組入れを行う有価証券の銘柄、単価、株数及び売買の別に係る予定が記載された情報に係るアクセス管理が適切に行われておらず、利益相反取引を防止する態勢が不十分な状況が認められた」とされていますが、これは結果的に弊害が生じたかどうかにかかわらず、「アクセス管理が適切に行われて」いないことそのものを問題視された指摘事項です。

認識の甘い金融商品取引業者から、法令等遵守に関して「問題が起きない限り大丈夫ではないのか」と質問されることがありますが、臨店検査や随時の監督部門によるモニタリング等、何らかの端緒で態勢不備が発見された場合、それによる具体的な弊害が生じていなくとも態勢不備のみを理由として行政処分の対象になることがあります。問題が起きなければ大丈夫という認識は通用しません。十分な注意が必要です。

投資法人にかかる業務

投資法人資産運用業に関しても、複数の指摘が公表されています。

投資法人が保有する物件に係る不適切な収益管理に関しては「当社が運用を行う投資法人が保有するホテル物件の大半は、当社のスポンサー関係者であるA社とその子会社(以下、A社等という)が賃借人及び運営管理会社となっているところ、A社等が運営管理している物件に関して、賃料算定の基礎となるGOP(業務粗利益)を適切に検証する態勢が構築されておらず、各物件で計上される費用項目の確認や検証等、物件の収益管理が適切に行われていなかった。そのため、従来は賃借人であるA社等が負担していた本部経費が、2年以上にわたり、当社の認識のないまま費用計上され、投資法人が得る賃料収入が減少していた。また、当社は途中で費用の増額について認識したものの、増額された費用の正当性等について確認、検討を行わなかった」としています。

内容的に、悪意があるというよりは単に杜撰な運用というだけに見えますが、証券取引等監視委員会は金融商品取引法第42条第2項の善管注意義務に違反するとしています。

続いて、投資法人が負担する費用に係る不適切な状況として、投資法人が負担する費用についての確認や検証が適切に行われていない状況を指摘しています。具体的には、「投資法人が取得した物件について、取得前から空調設備が故障していたことを取得後に認識したものの、売買契約書を踏まえた売主の認識や工事費用の負担について、確認や協議を行わなかった。また、当社のコンプライアンス委員会において、当該工事費用の負担について疑念が示されていたにも関わらず、議論や説明が徹底されず、放置された状態となっていた。さらに、当該物件の取得に際し、売買契約書に基づいて精算すべき修繕費用について、精算を看過し、本来売主が負担すべき費用を投資法人に負担させていた」ことを、内部管理態勢不備として指摘しています。

第二種金融商品取引業

第二種金融商品取引業のうち、貸付型ファンド(ソーシャルレンディング)業態に対しては、厳しい規制強化が行われてきました。今回の事例集でも、虚偽告知の指摘例が掲載されています。

具体的には「借換えのための貸付けを目的とした貸付型ファンドに関し、担保が機能しているとは言えない状況であったにもかかわらず、当該ファンドの募集ページにおいて、担保が設定されている旨を記載し、当該ファンドの出資持分の取得勧誘を行っていた。また、当社は、貸付型ファンドに関し、貸付先において資本欠損の状態にあったにもかかわらず、当該ファンドの募集ページにおいて、貸付先が資本欠損の状態にはない旨を記載し、当該ファンドの出資持分の取得勧誘を行っていた」として、担保の状況及び貸付先の財務状況に関し、虚偽の内容を告げて、当該ファンドの出資持分の取得勧誘を行っていたと指摘されています。

もっとも、本件は行政処分勧告が行われておらず、おそらくは結果的に投資者に対して多大な被害を与えるような帰結とはならなかったものと予想されます。

既報の通り、今年の令和5年証券モニタリング基本方針では「第二種金融商品取引業者による貸付型ファンドの取得勧誘に関しては、貸付先の情報開示やファンドの審査状況等についても検証を行う」旨が、今年の基本方針からは削除されています。

その他業態

投資助言・代理業に関しては、公表済みの虚偽告知及び著しく事実に相違する表示のみが取り上げられています。金融商品仲介業者に関しても、公表済みの無登録で集団投資スキーム持分の募集又は私募の取扱い等を行っている事案が掲載されています。

これは既に報じられているためにここでは取り上げません。

登録金融機関に関しては、指摘事案として「当社の営業員は、外貨建て債券に係る乗換え勧誘や、仕組債の勧誘において、顧客に対し、事実と相違する説明や、事実と異なるものと誤解させるような説明」をした虚偽又は誤解を生ぜしめるべき表示をする行為等及び仕組債の勧誘・説明態勢の不備として「投資経験のない顧客であってもほぼ全ての顧客に仕組債の勧誘・販売が可能な状況となっているなど、仕組債の勧誘・説明態勢に不備が認められた」事案が掲載されています。

地方銀行を中心とした登録金融機関における仕組債問題は再三報じられており、新鮮味が薄いので、同じくここでは取り上げません。

あわせて、無登録業者に対する公表済みの無登録業者等に対する裁判所への禁止命令等の申立て等に関しても掲載されています。

本事例集の全体を眺めると、やはり投資運用業者に対する指摘に、最も力点があるような印象を受けます。

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