行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

投資事業有限責任組合の外国株式等取得規制廃止

2023/03/10

令和5年1月23日付の日本経済新聞の報道によると、政府は、ベンチャーキャピタルやPEファンドのヴィークルとして利用されている投資事業有限責任組合(通称LPS)に関し、出資先を巡る一部規制を撤廃する方針のようです。

現在、投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項第11号で、投資事業有限責任組合が営むことができる外国株式等取得事業について「外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの」とされれています。

同法施行令第3条では「法第3条第1項第11号に掲げる事業については、同号の規定による取得の価額の合計額の総組合員の出資の総額に対する割合が100分の50に満たない範囲内において、組合契約の定めるところにより、行わなければならない。」とされており、出資額の半分未満しか外国株式等の取得を行うことができません。

報道では「これをなくして投資先選びの自由度を高め、国内ファンドに海外マネーを流入しやすくする。国内でスタートアップを育成しやすい環境づくりにつなげる」としています。

投資事業有限責任組合の利用

投資事業有限責任組合は、ベンチャーキャピタルやPEファンドのヴィークルとしては、出資者の分離課税が確保できること及び一般出資者の有限責任が担保できることを理由として、事実上のデフォルトの位置にあります。

しかしながら、投資事業有限責任組合は事業目的に制限があり、いわゆる事業型ファンド、不動産ファンド及びデリバティブ取引を目的とするファンドを組成することが基本的にできない(※)ことはもちろん、今回問題になっている外国株式等の取得事業も、ファンドの主たる業務として行うことができないことから、従来よりファンド組成の実務上の障害になっていました。

旧来の代替的スキーム

これに代わって民法上の組合や匿名組合を利用したり、民法組合又は外国法に基づく組合へのファンド・オブ・ファンズ形式にして多層化したり又は産業競争力強化法に基づく経済産業省の認定を取得して特例的に外国株式等の取得を主たる事業として行うことができるようにしたりといった、スキーム上の工夫は存在していました。

しかしながら、こうして努力を経てもなお、金融商品取引法に基づく投資運用業者等への行為規制である運用財産相互取引の禁止、少人数プロ向けファンドを採用する場合の適格機関投資家等特例業務該当性、産業競争力強化法を利用する場合における経済産業省認定の困難性等の様々な課題がありました。

※金銭の貸付けや金銭債権取得等の一部事業型ファンドは可能。不動産は担保権実行に伴う場合は取引可能。ヘッジの場合はデリバティブ取引も可能等の例外はありますが、ひとまずここではマイナー事例の議論は置いておきます。

法改正の見通し

報道では、投資事業有限責任組合契約に関する法律の改正案は2024年にも通常国会に提出されるとしています。

この法律は、平成10年制定の中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律が、平成17年に投資事業有限責任組合に関する法律に改められて従来と制度が大きく変わって以降は、他の法律の改正に平仄をあわせる程度の法改正が目立ち、あまり大きな制度変更はなかったのですが、法律本体を改正するということは、関連してこれを機に他の制度設計の細部にも変更が出てくるかもしれません。

投資事業有限責任組合は、投資運用業適格機関投資家等特例業務では利用頻度が非常に高いファンド・ヴィークルです。今後の法改正の動向が注目されるところです。

第二種金融商品取引業との関係

ちなみに事業型ファンド関連業務のみを行う第二種金融商品取引業者には、本改正はあまり関係ないといえます。事業型ファンドは、分離課税の対象にならない出資対象事業であることが殆どです。

資金業や金銭債権の取得など一部に投資事業有限責任組合の法定目的内の出資対象事業も存在するものの、法定監査のコスト等を考えると分離課税が確保できない出資対象事業で投資事業有限責任組合を採用するメリットが皆無に近いことから、事業型ファンドで投資事業有限責任組合を採用する事例はほぼ見ません。

第二種金融商品取引業で投資事業有限責任組合の売買等に関与するのは、基本的に投資運用業等の何らかの運用ライセンス又はその登録等の免除要件を満たすアセットマネージャーが自ら又は投資一任業者として存在する場合に限られると考えられます。

制度普及への行政努力

蛇足ながら、投資事業有限責任組合制度がここまで利用されているのは、制度としての使い勝手の良さはもちろんのこと、法律の所管官庁である経済産業省の長年に渡る多大な努力があると思います。

経済産業省のホームページには投資事業有限責任組合(LPS)制度についてとして、制度を詳しく解説する特集サイトが設けられています。

逐条解説、Q&Aはもちろんのこと、複数回にわたってモデル契約を示すなど、制度の利用促進のために継続的に行政的努力を続けています。我が国における投資事業有限責任組合の普及はこうした監督官庁の熱意に支えられている感じがします。

人為的制度

投資事業有限責任組合以外ののメジャーな投資ヴィークルである民法上の組合や商法上の匿名組合は、明治に出来た古い法律であるにも関わらず、民間の永年の努力による実務慣行の積み上げによりファンドヴィークルとしての位置を確かなものとしました。これらはある意味で下からの制度発展の歴史だったといえいます。

これに対して、産業政策に基づく立法により、民法上の組合から制度的に分岐した投資事業有限責任組合は、官主導の人為的ヴィークルであることにその歴史的成りたちの特徴があるといえます。

だからこそ今回の改正案のように、選択的産業政策を採る場合の政策実現手段として利用されるといえます。実際、同報道では「政府は27年度までにスタートアップへの年間投資額を現状の10倍超の10兆円規模に増やす⽬標を掲げる。その達成に向け外国資本を集めやすくする」と、法改正検討の政策的背景を明らかにしています。

追記(暗号資産投資)

令和5年9月16日付の日本経済新聞は、政府は、セキュリティートークンのみならず、LPSの投資対象に暗号資産やトークン(電子証票)を加えるとしています。報道によれば、政府は2024年にも投資事業有限責任組合法の改正案を国会に提出するとされています。

内容的に、金融監督当局というよりは、政府与党主導の改正案の印象を受けます。続報を待ちましょう。

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