行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

有限責任事業組合のファンド

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有限責任事業組合のファンド利用ファンド規制はバスケットLLPのファンド利用実務使われない制度ファンドのGPとしての活用適格機関投資家等特例業務のGP


有限責任事業組合のファンド利用

有限責任事業組合(LLP)で資金集めをすれば、金融商品取引法の登録をする必要がないのではないかという質問を受けることがよくあります。しかしながら、有限責任事業組合は金融商品取引法第2条第2項第5号(同第6号でも外国の法令に基づく権利につき準用)の集団投資スキーム型ファンドの定義条項において、以下のように名指しで「ファンド」であると明記されています。

  • 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約、商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成十七年法律第四十号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
    イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
    ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)
    (略)

上記のイでは、出資対象事業に関与する場合として、金融商品取引法施行令第一条の三の二に定める「出資対象事業に係る業務執行がすべての出資者の同意を得て行われるもの(すべての出資者の同意を要しない旨の合意がされている場合において、当該業務執行の決定についてすべての出資者が同意をするか否かの意思を表示してその執行が行われるものであることを含む。)」であり、「出資者のすべてが出資対象事業に常時従事するか、特に専門的な能力であつて出資対象事業の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該出資対象事業に従事する」という条件が示されています。

これを満たさない限り、有限責任事業組合の形式であっても「ファンド」に該当するため、その出資の募集又は私募及び募集又は私募の取扱は、第二種金融商品取引業に該当し、その自己運用業務は投資運用業に該当することとなります。

さらに、有限責任事業組合法第一条の定めより、非営利型の有限責任事業組合の設立は認められないと考えられることから、上記ロの要件も満たすのは難しいものと考えられます。

そもそも有限責任事業組合法は、有限責任事業組合をファンド的に利用することを想定していません。同法の第十二条は、「組合の業務執行を決定するには、総組合員の同意によらなければならない。ただし、次に掲げる事項以外の事項の決定については、組合契約書において総組合員の同意を要しない旨の定めをすることを妨げない。一 重要な財産の処分及び譲受け、二 多額の借財」「2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事項のうち経済産業省令で定めるものについては、組合契約書において総組合員の同意を要しない旨の定めをすることを妨げない。ただし、その決定に要する組合員の同意を総組合員の三分の二未満とすることはできない。」と定めており、重要事項に関しては組合員の同意の取得を義務付けています。

また、同法第十三条では、「組合員は、前条の規定による決定に基づき、組合の業務を執行する権利を有し、義務を負う。」「2 組合員は、組合の業務執行の一部のみを委任することができる。」「3 組合員の組合の業務を執行する権利に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」と定めています。そのため、組合員は一般参加者であっても業務執行義務と権利を有しています。

そのため、出資するだけで事業に参加しないという組合員の参加の形態を、有限責任事業組合法は許容していません。有限責任事業組合を「ファンド」として使うのは、難しいと思います。

ファンド規制はバスケット

前掲の金融商品取引法の条文を読むと、「・・・その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利とあります。

よって、集団投資スキーム形式のファンドの定義は、匿名組合、投資事業組合、投資事業有限責任組合等の名称がついた契約に限るものでなく、「他人から出資を受けて、何らかの運用・事業をして、その成果を分配する権利一般」がファンドであるとしています。よって、有限責任事業組合だろうと、事業投資への出資だろうと、鉱山採掘権だろうと、定義に当てはまる限りは、金融商品取引法の規制する「ファンド」となり、勧誘するには第二種金融商品取引業の登録が必要になります。

そうなると、普通の会社の株式もファンドではないのかという疑問が浮かぶと思いますが、条文をよく見ると、「前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。」とあります。

株式、投資信託受益証券等の、金融商品取引法の別の項目で別途有価証券として記載がある有価証券に関しては、金融商品取引法第2条第2項第5項又は第6項の集団投資スキームには該当せず、それぞれ別途定める規制に服することになります。

LLPのファンド利用実務

法令上の問題点から、LLPをファンドヴィークルとして利用する例は、令和に入ってからほぼ見たことがありません。無登録業者の粗悪な潜脱スキームとして利用された例を少数見たことはありますが、登録業者のきちんとしたファンドスキームとしてはLLPは法的に無理があります。

さらに言えば、平成十年代の制度導入当初、日本版の構成員課税ヴィークルとして持て囃されたLLPですが、今では事業会社においてすら、その利用自体を殆ど見ることがなくなりました。

こうした実務者としての実感は、客観データとも合致しています。経済産業省のデータでは、LLPの設立件数は先細りになっており、徐々に「用いられない制度」に近づいています。


経済産業省資料

使われない制度

客観的に見て、分離課税が確保されたLLPには一定の経済合理性があると考えられます。広く用いられるいわゆるJVと類似した法的スキームとして、集団投資スキーム的な利用はさておき、実業を執り行う事業者にとっては有益な制度のはずですが、残念ながら今の状況では存在意義そのものが問われる状況になっています。

平成17年の新会社法の制定時、財界や経済産業省には、米国のようにLLC(合同会社)への選択的構成員課税が適用できないかという積極的論議がありました。

しかしながら、財務省にこれを否定された結果、経済産業省が、その対案として構成員課税が確保されたLLP法を通し、また、既存のLPS法を拡充したという歴史的経緯があります。

構成員課税(パススルー課税)の米国会社ヴィークルは、歴史的にはワイオミング州のLLCに始まって、現代ではデラウェア州のLLCの利用が一般的になっています。しかし、本邦では法人格を認めず、かつ、事業目的にも制限を設けるLPSヴィークルや、当事者参加を義務付けるLLPヴィークルにしか、パススルー課税を認めなかったことで、LLC(内国合同会社)の利用は低調です。

図らずも、官主導・制度論議主導の制度改正は、必ずしも常に規制当局の思ったような政策効果をもたらすものではないことの証明になった格好です。

ファンドのGPとしての活用

例外的に、有限責任事業組合がファンドビジネスに活用される場面があります。

それは、投資事業有限責任組合や投資事業組合等の構成員の分離課税の享受可能性があるヴィークルにおいて、無限責任組合員や業務執行組合員(通称「GP」と呼称されます。)が「個人」の場合には、いわゆるキャリードインタレストの考え方に基づき、GPに対する実質的な成功報酬を受ける個人に対する課税を、総合課税ではなく分離課税とする余地があるからです。

具体的には、利益に対してGP個人に対して出資割合を超えて分配される金銭を、GP個人への報酬ではなく傾斜的な分配金と認識する方法です。

それにより、一定の有価証券やデリバティブ取引を行うファンドでは、実質的なGP報酬である傾斜的な分配金を、総合課税(最高実効税率50%超)ではなく、分離課税(キャピタルゲイン課税。実効税率20%台前半)と整理することが税務上可能になります。

こうした考え方が、理論上妥当することは、以前より業界及び税務当局内で認識されていましたが、令和3年4月1日(以降の改訂含む。)において、金融庁が「キャリード・インタレストの税務上の取扱いに係る公表文」の形で明示しており、税務当局も同日付で「キャリード・インタレストを受け取る場合の所得税基本通達 36・37 共-19 の適用について(情報)」を公開しました。

ただし、単一又は複数の個人から構成されたGPが投資運用業の登録を受けることは現実的ではないことから、GPを個人とすることは主に適格機関投資家等特例業務を行う際に行われています。

また、この際、GPは原則として無限責任であることが問題になります。法令上、当該個人がファンドから生じる債務に対して無限責任を負っており、多額の運用資産をもとにレバレッジ取引をする場合には、GP個人が経済的に非常に高いリスクを負うことになります。

さらに、GPが複数の個人から構成される場合、それぞれの個人名義をファンドのGPとして表示することは、ファンド持分の取得勧誘やVC/PE業務での投資先事業者選定等の面でデメリットがあります。

適格機関投資家等特例業務のGP

上記のような問題をクリアするため、主に個人及び必要に応じて関係する法人のGPをもLLPの構成員として集約し、適格機関投資家等特例業務を行う主体を、対外的にLLPとする方法が存在します。

ただし、適格機関投資家等特例業務の届出者は法人又は個人である必要があり、現在では、組合名義による届出は許容されていません(但し、平成20年代前半まで複数の組合が適格機関投資家等特例業務の届出者として公表されていた時期もあります。)。

よって、LLPをGPとして届出する場合には、適格機関投資家等特例業務の届出の際に、LLPの名称と共に、その構成員たる個人又は法人を法的な届出主体として提出することになります。

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