行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

不動産クラウドファンディングの実務手引書

2023/10/02

令和5年9月29日、国土交通省は、不動産クラウドファンディングに係る実務手引書を公表しました。同手引書は適切な電子取引業務の管理体制を実現するための具体的な対応例等を整理するものと位置付けられています。

同手引書は、直接的には金融商品取引業ではなく不動産特定共同事業に係る業務の手引きを記載したものです。しかし、不動産特定共同事業のうち一定の類型では、重畳適用にて、第二種金融商品取引業の業規制が関連してきます。

同手引書では「不特事業に該当するクラウドファンディングの類型」として「1 号事業者が自らインターネット上で投資家を勧誘する場合」、「1号事業者が2号事業者(クラウドファンディング業者)に投資家の勧誘を委託する場合」及び「特例事業において、4号事業者(クラウドファンディング業者)に投資家の勧誘を委託する場合」がモデルとして挙げられています。

そのうち4号事業者は不動産特定共同事業許可だけではなく第二種金融商品取引業の登録を受ける必要があります。

さらに、インターネットを利用するいわゆる「クラウドファンディング」の形で投資家の募集又は私募を行うには、第二種金融商品取引業者として追加的変更登録を経て電子申込型電子募集取扱業務を行う必要があり、また、法令及び自主規制団体規則に基づく追加的な行為規制に服します。そのため、不動産クラウドファンディングと金融商品取引業は、極めて密接な関係にあります。

本手引書の適用の射程範囲には金融庁も関連しますので、おそらく本手引書は金融庁での内容確認も経ていると思われます。

国土交通省「不動産クラウドファンディングに係る実務手引書」より引用

クラウドファンディングに求められる態勢

本手引書は、いわゆる「クラウドファンディング」に求められる態勢の水準を言語化したという意味で、不動産特定共同事業を行わない金融商品取引業者にとっても、また非常に意義深いものです。

第一種金融商品取引業及び第二種金融商品取引業に係る電子募集取扱業務やこれに類する自己募集スキームに求められる社内体制整備の基準は、長いこと明確化されておらず、行政当局や専門家、事業者の間に漠然と共有されているに過ぎない、いわゆる「ソフト・ロー」でした。

今回、証券監督当局ではなく、国土交通省の手にはよるものの、それが明示された意義は大きいです。また、具体的な内容は、不動産特定共同事業とは関係ない一般の金融商品取引業者が電子募集取扱業務を行おうと考えた場合における態勢整備に求められる水準とあまり差異がないと思われます。

組織整備等

組織体制、人員体制の検討については「システム及び事務の運用状況について、ログ等の記録を残」す必要があるとされた点が重要です。。

また「運用する部署における点検、又は当該部署以外の者による監査体制を整備する必要」があるされたことは「システムについて、定期的な点検または監査の実施や、運用状況およびリスクを評価・見直し・改善するための体制構築が求められ」るとされたことと併せて、システム監査を義務付けるという意味で重要です。従来よりシステム監査は、電子申込型電子募集取扱業務の登録等実務でも事実上は必須とされながら、明文化が行われていなかった規制です。

さらに「『電子情報処理組織の管理に係る責任者又はその重要な業務を担当する者』として、適切な知識・経験を有する者を配置する必要(P5)」があるのは、実務上当然ですが、『電子情報処理組織を取り扱う者』は、非開示契約等を締結し、教育及び訓練を行う必要(P5)」があるとさています。

人的構成

人的構成に関しては「電子情報処理組織の管理に係る責任者又はその重要な業務を担当する者」に求められる知識・経験として、IT企業、研究開発機関、銀行、又は類似業務を行う金融機関等において、システムエンジニアとしての業務経験が複数年ある者等が望ましい(P6)」と示されました。電子募集取扱業務でも、社内に知識経験のある担当者を設置する必要があることは以前より行政指導で明らかでしたが、これが改めて示された格好です。

「委託元となる事業者は、システム管理部門や上記経験者が不在であり新たに部門や人員を新設する場合、たとえ外部委託先が要件を満たす体制を保有するとしても、ガイドライン、本手引書、および手引書に記載する関連法令を十分に理解していることが重要(P6)」とある通り、元々、委託先丸投げで、社内に知識経験者がいない場合には、登録が難しいという実務をなぞったものといえます。

また、システム等の外部委託に関しては「外部委託する場合には、基本方針・取扱い規程の策定にあたり、外部委託先管理に係る規程を検討することも考えられ(P8)」るとしていますが、これは金融商品取引業では当たり前であって、金融商品取引業者等に関する総合的な監督指針で、委託先管理に関しては、既に細かい要件が定まっています。とはいえ「委託元がログ記録により委託先の誰がどのような作業を行ったか追えるようにする(P8)ことなど、従来はあまり議論のなかった要請も含まれています。

システム要件

システム要件として、「①アクセス者の識別及び認証、②適切なアクセス制御の実施、③アクセスの記録及び定期的な分析による不正アクセス等の検知及び分析、④外部からの不正アクセス又は不正ソフトウェアからの保護ができることは要件としておくことが必要」であることが明示されたことは重要です。

従来こうしたシステム要件は、非公式調査や自主規制団体ベースでの指導はさておき、公式な規制としては必要要件を具体的に明示することが避けられてきました。

また、同手引書は、多段階認証にも踏み込んでおり「複数経路による取引認証、可変式パスワード、電子証明書、生体認証などの固定式のID・パスワードのみに頼らない認証、ハードウェアトークン等でトランザクション署名を行うトランザクション認証を採用する等」が求められるとする一方で「操作ミスへの対策として入力した注文内容を顧客等が再度確認する画面を作成する必要」があるとして、かなり細かい部分まで仕様を指定しています。

多段階認証の導入は、金融商品取引業等の分野でも証券やFX等の業態では、事実上義務付けされている状況です。しかしながら、第二種金融商品取引業者に対しては、こうした細かい技術仕様に係る要求は、従来は具体的に行われてこなかった歴史的な経緯があります。

今回、同手引書が多段階認証の導入義務に踏み込んだことは、同手引書の重畳適用外の第二種金融商品取引業者に対しても義務的な多段階認証の導入を求める間接的な動きとして注目されます。

審査体制

審査体制に関しては、「審査に係る社内規則・マニュアルの整備、審査結果の公表」を求める他、営業部門と審査部門を分けるか、または営業従事者と管理部門責任者を兼任せず、営業担当から独立した体制を整備することが求められますとしています。

なおこちらでは①②は、選択的に記載されていますが、実務上、電子申込型電子募集取扱業務の審査では①②の重層的な審査態勢が求められ、かつ②層では弁護士や公認会計士等の利害関係を有しない中立的専門家が求められる傾向が強まっています。

国土交通省「不動産クラウドファンディングに係る実務手引書」より引用

また、同手引書では、審査に関して顧客等に提供すべき情報は下記の通りとされています。事業型ファンドや電子申込型電子募集取扱業務では、これと類似するものの、またこれとは若干異なる角度の審査項目が自主規制団体規則に定められています。

 審査項目について
★ (義務)ウェブサイト等で公開する等、適切な情報提供が必要な事項:
契約成立前書面への記載事項のうち重要と判断した事項、不動産特定共同事業者等と電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等の利害関係の状況
★ (努力義務)顧客等に対し開示が期待される情報:会計監査体制(小規模不特事業者)、財務状況に係るリスク評価、事業計画の内容についてのリスク評価、資金使途に関するリスク評価、過去 1 年以内の不特事業の状況、過去の行政処分の有無・内容、審査の結果明らかになった過去の投資家被害、その他当該不特事業者等の特徴や投資の際の留意点として重要と判断する事項
 審査結果等について
★(義務)ウェブサイト等で公開すべき情報:
審査の概要及び当該実施結果の概要、自己募集又は特例事業に係る自己募集の場合はその旨
★ (努力義務)ウェブサイト等での掲載等により公表することが期待される情報:
審査の内容(各審査項目の確認方法及びその確認結果)、当該審査の過程において把握した留意点及び当該審査の結果の判断に至る理由

クラウドファンディングを活用した不動産特定共同事業に係る実務手引書(P14)

金融商品取引業への準用

電子募集取扱業務を行うことを計画する事業者は、不動産特定共同事業許可の取得の有無に関わらず、本手引書の求める水準を準用して、態勢整備を検討する必要があると思います。

本手引書は、実際には従来から金融庁が求めてきた社内におけるシステム担当者の設置、知識経験を有する者の必要性、システム監査の必要性等、従来からクラウドファンディングやソーシャルレンディング事業者に求められていた具体的なシステムの要求水準を明確にまとめるものという印象があります。

なお、こうした指針が、金融庁ではなく国土交通省から示され、また直接的な適用の範囲外であっても実質的に関連するビジネスに規範を準用できることは、ファンド規制という行政分野が複数の官庁により所管されていることの、二重行政批判の反面での「メリット」を示すものともいえるかもしれません。

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