行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

令和5年度税制改正要望(暗号資産関連)

2022/09/02

金融庁は、同日付で令和5年の税制改正要望を公開しました。

その中で、「暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し〔経済産業省が共同要望〕」は、法人の暗号資産保有の際の税制上の事実上の優遇措置を求めるものであり、分離課税等のような明確な優遇と比べて見かけのインパクトは小さいですが、非常に意義の大きい改正案として注目されます。

暗号資産交換業者に対する当局のスタンスは、未だ保護育成よりも規制監督に対して、相対的に重要な軸足が置かれている状態です。そのため、投資者に対する投資促進のメッセージに繋がりかねない分離課税の導入等の明確な税制上の優遇措置は、現在まで一貫して避けられています。

暗号資産課税の現状

暗号資産の投資の利益に関しては、個人に対する所得税は雑所得として総合課税となり、所得に応じて最大税率55%となります。ただし、具体的な投資事業の規模や内容によって事業所得となる場合もあります。

これに対して、株式等の一定の有価証券の譲渡益は20.315%の分離課税であり、また、FX等の一定のデリバティブ取引も、その利益は20.315%の分離課税とされているなど、伝統的な金融商品の取引には一定の税制上の優遇がある場合が多いですが、金融庁や課税当局にとって、暗号資産はそこまで定着した金融商品ではないという認識なのだと思います。

また、法人が投資を行う場合には、暗号資産でも株式等でも、基本的に法人税の計算は損金、益金により所得計算が行われるため、税率の優遇等はなく、通常の事業活動で得られた所得にかかる税率と同じとなります(法人税実効税率29.74%(H30))。

続いて、暗号資産の値上がりにより含み益が発生した場合の課税を見てみましょう。

法人の含み益課税の廃止

暗号資産の購入後の値上がりにより発生した含み益は、個人の場合には原則として、所得税法上、 暗号資産の未実現の評価損益(含み損益)は認識されません。よって、購入したビットコイン等の価格が数倍になっても、実際にこれを売却したり、他の暗号資産と交換等をしない限り、税金は発生しません。

これに対しては法人の暗号資産の保有時の課税関係に関しては、平成31年の税制改正による明確化以降、原則として実際の売却益ではなく、含み益に課税されるとされています。

具体的には暗号資産が短期売買商品等に該当するため、ビットコインやイーサリアム等の活発に取引をされていて流通性のある市場暗号資産の評価損益は、以下の通り、その事業年度の法人の益金又は損金に算入するものとされています。

そのため法人が投資目的で暗号資産を長期間保有して、タイミングのいいときに売却をしてそのときに納税をしようとしても、税法上、毎事業年度の含み益に対して課税が発生するため、実際には売却利益が出ていない状態で法人税の納税を余儀なくされる問題がありました。

今回の税制改正の要望が通れば、法人による暗号資産の長期保有が現在よりも容易になります。長期保有者が増加することは、資産としての暗号資産価格の安定性に資することに繋がります。投資者にとって有利な改正案であるとともに、業界の健全な発展に資するものと評価できます。

2 内国法人が事業年度終了の時において有する短期売買商品等(暗号資産にあつては、活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものに限る。以下第四項までにおいて同じ。)については、時価法(事業年度終了の時において有する短期売買商品等をその種類又は銘柄(以下この項において「種類等」という。)の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、その時における価額として政令で定めるところにより計算した金額をもつて当該短期売買商品等のその時における評価額とする方法をいう。)により評価した金額(次項において「時価評価金額」という。)をもつて、その時における評価額とする。
3 内国法人が事業年度終了の時において短期売買商品等を有する場合(暗号資産にあつては、自己の計算において有する場合に限る。)には、当該短期売買商品等に係る評価益(当該短期売買商品等の時価評価金額が当該短期売買商品等のその時における帳簿価額(以下この項において「期末帳簿価額」という。)を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。次項において同じ。)又は評価損(当該短期売買商品等の期末帳簿価額が当該短期売買商品等の時価評価金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。次項において同じ。)は、第二十五条第一項(資産の評価益の益金不算入等)又は第三十三条第一項(資産の評価損の損金不算入等)の規定にかかわらず、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。

法人税法第61条第2項第3項

(時価評価をする暗号資産の範囲)
第百十八条の七 法第六十一条第二項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する政令で定めるものは、内国法人が有する暗号資産のうち次に掲げる要件の全てに該当するものとする。
一 継続的に売買の価格(他の暗号資産との交換の比率(次条第一項第四号において「交換比率」という。)を含む。以下この条及び同項第三号において「売買価格等」という。)の公表がされ、かつ、その公表がされる売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。
二 継続的に前号の売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
三 次に掲げる要件のいずれかに該当すること。
イ 第一号の売買価格等の公表が当該内国法人以外の者によりされていること。
ロ 前号の取引が主として当該内国法人により自己の計算において行われた取引でないこと。

法人税法施行令118条の7

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