行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

金融商品取引業に関する休止及びM&A規制案等の公表

2022/04/28

令和4年4月22日、金融庁は「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)を公表しています。

これは、金融商品取引業のM&Aによる参入抑止規制に等しい内容であり、M&A業界の関係者の間ではインパクトを持って受け止められているようです。

休止等への行政処分

金融庁は、監督指針案で、いわゆるハコの状態の会社のM&Aを生む原因となってきた、長期間にわたって業務を休止する金融商品取引業者に対して、休止をする正当な理由がない限りは行政処分を積極的に発動することを打ち出しました。

従来より、とくに問題がある休止状態の金融商品取引業者に対しては、行政処分の可能性を示したうえでの自主廃業勧告が行われてきました。しかしながら、今後は、特に問題を起こしていない金融商品取引業者も含めて、休業状態の金融商品取引業者に対しては当局より強く廃業を迫られることになります。

休止状態である金融商品取引業者で、廃業しないことを希望する事業者は、早急に合理的な根拠に基づいた事業計画等を作成する必要があります。

Ⅲ-2 業務の適切性(共通編)
Ⅲ-2-15 長期に亘り業務を休止した場合等の監督上の対応について
(1) 金融商品取引業者が金融商品取引業を行うことができることとなった日から三月以内に業務(金融商品取引業者が二以上の種別の業務を行う場合は、その行ういずれか一の業務であっても対象となる。Ⅲ-2-15において同じ。)を開始しないとき、又は引き続き三月以上その業務を休止したときに該当するおそれがあると認められる場合は、当該金融商品取引業者の事業の実態を踏まえつつ、当該金融商品取引業者に対して、その正当性について、深度あるヒアリングや、必要に応じて金商法第 56 条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、速やかに理由を把握することとする。

(2) 上記の検証の結果、例えば、以下のような状況が認められた場合は、「正当な理由がない」ものと考えられる(ただし、これらは例示に過ぎず、当該例示に限られるものではない。)。
① 業務の開始又は再開するための事業計画等が合理的な根拠に基づいて作成されておらず、その見通しが立たないと認められる場合
② 引き続き三月以上業務を休止することにより、投資者に不測の損害が及ぶおそれがあると認められる場合

(3) 金融商品取引業者が正当な理由もなく業務を開始せず又は休止したと認められた場合には、金商法第 50 条第1項第1号の規定に基づく業務の休止に係る届出又は第 50 条の2第1項第2号の規定に基づく業務の廃止に係る届出(金融商品取引業者が二以上の種別の業務を行う場合におけるその行ういずれか一の業務の廃止については、第 31 条第4項の規定に基づく変更登録)の慫慂や、第 51 条の規定に基づく業務改善命令の発出を含め、必要な対応を行うものとする。更に、業務の開始又は再開が見込まれないことが明らかな場合等業務を開始せず又は休止することに正当な理由がなく、その改善も期待できない場合には金商法第 52 条の規定に基づく業務停止命令等の発出又は第 54 条の規定に基づく登録取消しの発出等の対応も検討するものとする。
改正監督指針案

買収による参入は新規登録と同様の審査へ

休止への規制強化に加えて、買収等による株主構成の重要な変更があった場合で、役員や重要な使用人の構成、事業内容、経営方針又は事業の決定方法等に重要な変更が生じ、又は生じるおそれがあると認められるときに該当する場合、すなわち買収に伴い人員や経営体制に大きな変化が予定されている場合には、新規の登録審査と同様に態勢を検証することとなりました。

これにより、いわゆる経営権の取得を目的とするM&Aでは、買収側に事実上新規登録と変わらない手続きが求められることになります。

もっとも、これはある意味当然のことであって、既に休止状態の第二種金融商品取引業の買収事例では、希望業務の開始にあたって新規審査とほぼ同等の審査が実施されています。今回、監督指針によりこれが明示されたことで、こうした事例に該当するM&Aの事例では、いずれも新規登録と同等の態勢を揃えて、同等の時間をかけて手続きを取る必要があることが、誰の眼にも明らかになりました。

(4)買収等による株主構成の重要な変更等
金融商品取引業者その他の者からの届出又は報告等により、金融商品取引業者又は当該金融商品取引業者を子会社とする持株会社((4)において「持株会社」という。)の買収等に伴い、当該金融商品取引業者若しくは持株会社の株主構成に重要な変更等が生じ、又は生じるおそれがあることを知った場合であって、当該金融商品取引業者若しくは持株会社の役員や重要な使用人の構成、事業内容、経営方針又は事業の決定方法等に重要な変更が生じ、又は生じるおそれがあると認められるときは、当該金融商品取引業者又は持株会社の事業の実態を踏まえつつ、深度あるヒアリングや、必要に応じて、金商法第 56 条の2第1項の規定に基づく報告を求めること等を通じて、事業の内容や業務執行体制等の変更の有無を把握し、業務を適切に遂行するための人的構成や体制が引き続き整備されているかについて登録審査と同様に検証することとする。
検証の結果、業務執行体制を含む適切な体制の確保等を図る必要があると認められる場合には、当該体制の確保に要する期間を勘案した一定の期限を付した上で、必要に応じて、金商法第 50 条第1項第1号の規定に基づく業務の休止に係る届出の慫慂や、体制整備を目的とした第 51 条の規定に基づく業務改善命令又は第 52 条の規定に基づく業務の全部又は一部停止命令を発出する等の対応を行う。
改正監督指針案

改正監督指針による影響

一般に、リビングデッドになっている金融商品取引業者は第二種金融商品取引業者が圧倒的に多く、維持コストの高い第一種金融商品取引業者や投資運用業者には休眠会社のような会社は殆ど見受けられません。また、投資助言・代理業者についても、第二種金融商品取引業者に比べればアクティブに営業活動をしている業者の比率がずっと高く、長期間にわたって休止状態の会社はそう多くはありません。

その割には、第二種金融商品取引業に対しては、いわゆる「カネ集め」業態の事業法人や、法人ですらない投資グループ等からの参入希望が多く、休止状態の第二種金融商品取引業者はこうした粗雑なM&Aの温床になってきました。

そもそも、今回の改正と関係なく、適切な内部管理態勢を構築できないリテラシーの資本が第二種金融商品取引業者を買収したところで、実際にはファンド業務は開始できません。

改正監督指針が厳密に適用されるようになれば、主に第二種金融商品取引業者を中心に金融商品取引業者数は大きく減少する可能性があります。

とはいえ、今回の規制案で、いわゆるハコのM&Aが抑止されることで、むしろ金融商品取引業者の持つ固有の事業価値、すなわちビジネスモデル価値や人的リソース等に着目したより健全なM&A市場が育つ可能性があります。

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