行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

合同会社社員権の募集規制の施行

2022/09/13

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ニュース合同会社の社員権とは募集規制運用規制開示規制外国合同会社定款設計その他規制概要

ニュース

2022年9月12日付で、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等についてが発表されています。

本件は、証券取引等監視委員会からの建議を踏まえ、合同会社等の持分会社の社員権の発行者を原則として業務執行社員と位置付けることにより、使用人(従業員)による社員権の取得勧誘につき、第二種金融商品取引業の登録を必要とするものです。

例外的に当該権利が電子記録移転権利であって、有価証券投資を主としないものに関しては、合同会社等自体の自己私募又は自己募集が許容されますが、そもそも電子記録移転権利の自己私募又は自己募集は第二種金融商品取引業であり、また、実際にこれに該当するケースは現状ではあまり聞きません。

金融庁は「(1)当該合同会社の従業員等を形式的に業務執行社員とした場合や、(2)実態のない法人を合同会社の業務執行社員とし、その法人の従業員等を通じて取得勧誘を行う場合」のケースにつき、「形式的には業務執行社員とされている者による取得勧誘であっても、業務執行社員以外の者による取得勧誘に該当すると認められる場合もありうるものと考えられ、その場合における金融商品取引業登録の要否については、実態に照らして、個別事例ごとに実質的に判断されるべきものと考えられます。」(パブリックコメントNo3~5)としています。

法人の職務執行者による勧誘の適否、職務執行者登記のない業務執行社員の従業者の取得勧誘の適否に関しても、金融庁は「形式的には業務執行社員とされている者による取得勧誘であっても、業務執行社員以外の者による取得勧誘に該当すると認められる場合もありうるものと考えられ、その場合における金融商品取引業登録の要否については、実態に照らして、個別事例ごとに実質的に判断される」としており、明確な線引きを定めることを避けています。

本件の内閣府令は、昨日付けで公布されており、令和4年10月3日(月曜)から施行予定です。

※読み方が非常にややこしい条文でした。既報の理解を上記のように訂正します。

合同会社の社員権とは

合同会社の社員権とは、経済的には株券に似た権利であり、営利社団である合同会社の有限責任社員たる地位のことです。日常用語での「社員」とはまったく異なる概念であり、むしろ株式の一種と理解したほうがわかりやすいです。

合同会社は、会社法の定める日本における会社形態の1つであり、合資会社、合名会社と同じ持分会社に分類されます。合同会社の社員は、株式会社の株主と同様、会社の対外的な債務について有限責任となります。

株式会社は、いわゆる所有と経営の分離により、株主と取締役をそれぞれ別の人間が担うことを当然に想定していますが、合同会社では、所有と経営は一体となります。具体的な業務執行の定めは、定款自治により任意に別段に定めることはできるものの、業務執行や定款の変更は、本来の原則としては全員同意が必要になるなど、株式会社に比べていわば「人的な結合」を前提とした組織形態です。

金融商品取引法は、持分会社の社員権について、合同会社の社員権はその全般を有価証券としての規制対象としており、また、下記の一定の要件に該当する合資会社及び合同会社の社員権についても、合同会社と同様の扱いで金融商品取引法第2条第2項第3号に掲げる有価証券として規制しています(以下総称して「合同会社等」という。)。

(有価証券とみなされる合名会社又は合資会社の社員権)
第一条の二 法第二条第二項第三号に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 その社員の全てが次のいずれかに該当する合名会社の社員権
イ 株式会社
ロ 合同会社
二 その無限責任社員の全てが次のいずれかに該当する合資会社の社員権
イ 株式会社
ロ 合同会社

金融商品取引法施行令

募集規制

合同会社の社員権は、株式に似た性質を有すると説明しましたが、金融商品取引業法の業規制のかかり方も、株券に構造は類似しています。具体的には、合同会社等の社員権は、金融商品取引法上のみなし有価証券には位置付けられているものの、電子記録移転権利に該当しない合同会社等の社員権の私募及び募集は第二種金融商品取引業に該当しません。

他方、電子記録移転権利に該当する合同会社等の社員権の私募及び募集は第二種金融商品取引業の登録が必要になります。

電子記録移転権利かつ有価証券投資を主としない社員権に関しては、社員権の発行者は会社自身であり従業員を含む役職員の取得勧誘が可能です。また、電子記録移転権利で左記に該当しない社員権は、自己私募及び自己募集の主体たる発行者は業務執行社員です。ただし、電子記録移転権利の募集又は私募はいずれにせよ第二種金融商品取引業の登録が必要です。

また、これら電子記録移転権利の取扱い業務、すなわち発行者から委託を受けた取得勧誘は第一種金融商品取引業と位置付けられています。

電子記録移転権利ではない合同会社等の資金募集は、会社の業務執行社員であれば適法に私募及び募集を行うことができます。ただし、電子記録移転権利ではない合同会社等の資金募集であっても、従業員による取得勧誘は、令和4年の前掲の金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令改正で自己私募及び自己募集に該当しないものとされ、従業員の行為が第二種金融商品取引業に該当することになっています。

前記の通り電子記録移転権利である合同会社等の社員権の募集又は私募の取扱いは第一種金融商品取引業ですが、電子記録移転権利ではない合同会社等の社員権の募集又は私募の取扱いは第二種金融商品取引業です。

金融商品取引業者以外の第三者(原則として従業員を含む)に、社員権の取得勧誘を委託することは、当該第三者が金融商品取引業の無登録営業となり法令に違反します。勧誘を金融商品取引業者以外の他社や個人に委託することはできません。

運用規制

合同会社等の社員権で集めた資金を主として有価証券又はデリバティブ取引で運用する、いわゆる自己運用業務に関しては、投資運用業(15号業務)の規制対象外になっていることから、主として有価証券又はデリバティブ取引による会社財産の運用行為に関しては、金融商品取引業の登録を要しません。

ただし、合同会社等と外部のアセットマネージャーが投資一任契約を締結して、有価証券又はデリバティブ取引で運用する場合には、当該アセットマネージャーの行為は投資運用業(12号ロ業務)に該当しますので、いわゆるGKTKスキームで、外部にAMを置く運用スキームの場合、金融商品取引業者の介在が必須になります。

コモディティ投資を目的とする場合は、商品投資に係る事業の規制に関する法律に掲げる商品投資受益権に該当する可能性がありますので、商品投資顧問業許可の要否については留意が必要です。

開示規制

業規制とは別に、実務上は開示規制に関しても配慮が必要です。開示規制とは、一定以上の規模で資金集めをする場合には、例え自社の役職員による自己募集であっても、会社の内容や詳細をあらかじめ財務局に届出しなければならないという制度です。公募・私募の関係でも、499人までが私募とされており、また勧誘人数の判定も取得者ベースで行われます。

集めた資金を主として有価証券に投資する場合には内国有価証券投資事業権利等に該当するため、募集に該当する行為を行う場合には、有価証券届出書の提出等の開示義務を負います。

取得者ベースですので、不特定多数への勧誘やwebサイト開設等も原則として差し支えないと解されます。その点、何の知識もない専門家が、webマーケティング等の能動的マーケティングは行うことができないなどと関与先事業者に説明している例を散見します。

しかし、これは元本保証を禁ずる出資法違反スキームとの差異を理解できていなかったり、あるいは、声掛けベース判定で募集又は私募を区別する1項有価証券と、実取得者ベースで区別する2項有価証券の違いを理解しない誤った議論です。

無責任な専門家等に助力するつもりはありませんが、少なくとも客観的に正しい当該分野への規制内容は認識しておく必要があるでしょう。

外国合同会社

外国法に基づく合同会社(LLC)の募集及び開示に関する規制に関しては、金融商品取引法第2条第2項第4号で、「外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの」として合同会社等の社員権と同様の規制が敷かれています。

したがって、外国合同会社の社員権であっても、金融商品取引業の登録の要否や自己私募及び自己募集の主体に関する議論は国内合同会社等と同じです。かつては、いわゆるランドバンキングスキームにおいて、外国合同会社の社員権の自己私募との法的整理で私募が行われることがよくありました。

ただし「前号に掲げる権利の性質を有するもの」の解釈に関して慎重になる必要があります。単に外国法でLLC(Limited Liability Company)と名前がついているだけで、すなわち日本法の合同会社と同じ性質と断じることができるかは疑問です。

米国法のLLCはパススルー課税が認められますが、日本法の合同会社等は株式会社と同じく法人税が課税されます。そのため、LLCは経済的にはむしろ金融商品取引法第2条第2項第5号の集団投資スキームに原則該当する有限責任事業組合に類似するのではないかと考えることも可能です。

税務訴訟においてはニューヨーク州法のLLCにつき、法人格を肯定した判例(平成19年10月10日東京高裁)がありますが、あくまで租税法上の法人にあたるかが争われた事案です。そのため、LLC持分が合同会社社員権の性質を有しているかの判断においては、法人の名称だけでなく個別に法的な性質を吟味する必要があります。

なお私募外債の場合と同じく、会社法第818条に基づき、外国会社は日本で登記をしない限り日本において取引を継続してすることはできないことに留意が必要です。また会社法第821条に「日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない」との定めがあります。

いずれにせよ継続的に外国合同会社が国内で継続的に自己私募又は自己募集を行うには日本で外国法人として登記する必要があります。なお登記の際には「日本における同種の会社又は最も類似する会社の設立登記の登記事項に準ずる事項」等を登記することになっています。法務省のデータを見る限りは年間で50社~100社程度の外国合同会社が国内で登記をしているようです。

定款設計

定款上、出資者の議決権を完全に排除する場合、集団投資スキームに該当しうるとの見解が、平成27年11月27日に、国民生活センターから示されています。

持分及び配当設計において、払戻金が元本に固定されている場合には、出資法の禁ずる預り金に該当し、不特定多数を相手方とする場合、刑事罰があります。そのため、よくある「元本保証・月配当〇%」的なスキームは違法となります。

その他規制概要

合同会社を利用した投資スキームに関しては、行政機関からの複数の事例公表や判断先例があります。前記の国民生活センターの公表事例に加え、平成30年には証券取引等監視委員会が、某社に対する業務停止の申立事例で、金融庁は合同会社の実態がない場合には、集団投資スキームに該当するとの見解を明らかにしています。

平成29年12月1日からは、合同会社等の社員権等に対する新たな規制となる、改正特定商取引法が施行されました。これに伴い、一定の社債その他の金銭債権や、一定の株式会社の株式、合同会社、合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するものが新たに特定商取引法の規制対象に位置付けられています。

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