行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

無登録海外FX業者の歴史

2022/12/10

証券取引等監視委員会は令和4年12月9日付の発表で、某個人に対する金融商品取引法違反行為に係る裁判所への禁止及び停止命令発出の申立てについて公表しています。

当事務所としては、悪意の無登録営業には、一切関わり合いになりたくないと思っているので、こちらで取り上げるのは気が進まない部分があります。

しかし、今週は他にこれといった本欄で取り上げるべき話題がないので、一般的かつ抽象的な法令の適用と歴史的経緯に絞って本件を解説します。

ラブアン法人無登録スキーム

本件では、被申立者らはマレーシアのタックスヘイブンであるラブアン法人名義で、無登録で外国為替証拠金取引を居住者に対して提供するとともに、顧客に、国内の合同会社名義の銀行口座に証拠金を送金させ、自動売買システムに基づき、自動的なFX取引を提供したとされています。

本件に該当する金融商品取引法違反行為としては、無登録で店頭デリバティブ取引を業として行うことだけではなく、投資運用業又は投資助言・代理業の無登録営業も同時に構成するのではないかと思います。

実際、こうした海外FXの事案で、第一種金融商品取引業だけではなく投資運用業の無登録営業を指摘された行政処分先例を知っています。しかし、本件は無登録で店頭デリバティブ取引を業として行うことのみが問題になったようです。

海外無登録業者の色々

証券取引等監視委員会のリリースでは、オフショア法人は「為替変動リスク回避のため、顧客から受けた注文と同じ数量の注文をカバー取引先に発注する(いわゆるカバー取引を行う)」と記載されています。これにより、本件はいわゆる特殊詐欺まがいの取引ではなく、一定程度の取引実態はあったことが伺えます。

無登録の海外FXもその中身は色々です。海外でライセンスを受けていて、一定程度に認知された金融グループが腹を括って、対日に絞って真面目(?)に無登録営業をしているケースもあれば、SNSやマッチングアプリを利用し、その内容的には特殊詐欺や国際ロマンス詐欺そのものであって、取引所自体が実在していないケースもあります。

15年くらい前には前者の比較的マトモな無登録業者が多く存在していました。

とくに、地中海に浮かぶ島国、マルタのライセンスは、一昔前にはEUの中で最もハードルが低く、その一方で欧州共通規制(MiFID/MiFID2)によりEU圏での営業が可能なので、対日で無登録営業をする業者に利用されていた時代がありました。

カリブの海賊

一般に、我が国では、規制及び税制上等の技術的な理由で、本店や関連会社を海外低税率国等に置く行為は低調です。

しかしながら、欧米の多国籍企業では、これはだいぶ前から普通のことであり一般に、グローバル企業がEU圏内において税務上のメリットを追求する場合、アイルランドが利用されることが多くなっています。これに対して、金融レギュレーションの緩さの面で、当時はマルタの方が利便性で上回っていました。

他方、日系の確信犯的な無登録業者は、当時から規制が機能している香港やシンガポールを避けつつ、業展開にはBVIやラブアン法人を利用する傾向がありました。とはいえ、当時の無登録業者は、海外ライセンスの有無を問わず、ある程度マトモに運営をしている、実態のある業者が多かった印象があります。

10年以上前には、こうした、ケイマン、BVI、バハマ、アンギラ等、カリブ海に位置することが多いオフショア法人を利用する規制回避や租税回避行為をする者を揶揄して、「現代版カリブの海賊」と揶揄する英字メディアもありました。

マトモな無登録業者がいなくなった

現在では外交ルートによるクロスボーダーの規制強化もあり、マルタはもちろんのこと、ケイマンやBVIですら、ライセンス業者が域外で無登録営業をすればただでは済まなくなっています。

従来、日本政府の力がなかなか及ばなかったとされる、バハマを始めとするカリブ海のマイナー・タックスヘイブンすら、金融庁の圧力により、傘下業者のライセンスを取り消した例を仄聞したことがあります。

なんでもありの昔ながらのスキームは、今ではセイシェル・モーリシャス、さらには西アフリカまで、jurisdiction (法管轄)が西遷しているとも聞きます。

なお、その場合、取引口座に証拠金をデポジットさせるための決済手段が問題になります。口座が開いても、Swiftコードのない銀行の口座には送金できません。アクワイアラが利用できなければカード決済も利用できないため、swiftやカード決済から切り離されたオフショア銀行の口座が開いたところで、ビジネスはほぼ何もできません。

このあたりも、規制が緩い昔は何でもありだったのですが、今では外国銀行はもちろんのこと、アクワイアラ(クレジット決済)ですら、マトモなライセンスを持っていないと利用できない傾向が強まっています。

そもそも内国のクレジットカード会社もまた、現在では、海外FX業者等(他にオンラインカジノ。バイナリーオプション等の業者も同様)への送金を規約で禁止するのが通常であり、考えの浅い者が裏で主導する外国無登録業者は、決済手段を封じられることにより、事実上干上がるのが一般的になっています。

オンラインカジノ、ブックメーカー及びgaming

更に歴史を紐解くと、海外FX及びそれに続く業態は、海外のオンラインカジノと似た歴史的な動きを辿っています。そもそも、海外FX業者の古手は、2006年のアメリカの「オンラインギャンブル禁止法」 (Unlawful Internet Gambling Enforcement Act)により、事業展開が困難になって干上がったオンラインカジノ業者が、FX業者に鞍替えしたという歴史的な経緯があります。

当時FX業者に鞍替えした古手のFX業者は、いまや海外市場のインデックス構成銘柄にまで成長した会社もあり、世界的な外国為替証拠金取引等の大手として、むしろ金融業界でのエスタブリッシュメントともいえる位置にまで成熟しつつあります。

また、バイナリーオプション取引やオンライン・ブックメーカー等の、FX業者の次発に位置付けられる業態も、当初はしょうもない詐欺業者が多かったものの、現代まで勝ち残った業者は今では英国等の先進国のgamingのライセンス(バイナリーオプション取引は本邦では金融先物取引ですが、国によってはgaming扱い。)を取得し、安定と成熟のフェーズに移行しつつあります。

さらにその次の流れである暗号資産交換業者には、金融庁の警告を受けたものの、ある程度マトモな業者は残っています。さらにはそれに続くDeFiやNFTのフィールドは、まだ有効な規制すら及ばない状況です。

とはいえ、FTX事件に先立って始まった、中長期的な暗号資産価格の低迷による中小暗号資産交換業者の業績不振を尻目に、直近において、過去に警告を受けた大手某社が対日参入に成功したあたり、暗号資産の取引所業態は、ほぼ出来上がりに近付いているのかもしれません。

いずれにせよ、そうしたカリブの海賊の中で、最もロートル産業に属する「オールド・エコノミー」であるFX業者には「マトモだけど無登録」というやんちゃな業者は、ほぼいなくなっている感じがします。

Aブック・Bブック

海外FX業者のうち、原則すべて取引をカバーする業者をAブックと呼称します。かかるカバー方法をSTP(Straight Through Processing)と呼びます。反対に、カバーをロクに取らずに取引を吞んでいる業者をBブックと呼称します。

本件は、資金流用は報じられていますが、実際にはその中間的な存在だったのかもしれません。実際、Aブックでも、通常のケースではすべての取引をカバー取引に出しているわけではありません。

顧客の売買注文を社内で売り買いを対等にぶつけてネットして、売り買いいずれかが過剰で足が出る注文を、カバー先に注文(カバー取引)しています。FX業者では、こうしたカバー取引の注文執行をある程度自動で行うものの、STPを標榜していても、なお判断者としてディーラーをも置くのが通常です。内部で注文をネットできるのにわざわざカバーするのは合理的ではありません。

一般に、多少のディーリングをしていたとしても、基本的にSTPを標榜する業者はマトモであって、一定以上の規模に育てば長持ちする傾向があります。他方、STPでも、2015年のスイスフランショックで吹き飛んだ真面目な業者も知っていますので、STPなら大丈夫という話でもありません。

インターバンク市場におけるカバー取引口座を開設にするには、今は知りませんが一昔には1行あたり、下手すれば千万円単位の費用が必要でした。それが難しければ、他のFX業者に取引口座を開設する方法もありますが、無登録業者では、内外のまともなFX業者で口座を開設することすらも容易ではなく、またスプレッド等の面でインターバンク市場でカバーを取る場合に比べて劣後するとされます。

また、インターバンクのカバー取引を避ける方法として、純粋なプリンシパル(PRC)ではなく、既存業者のホワイトラベルを利用して手間を軽減する方法もありますが、最近、FXのホワイトラベル・サービスの提供自体をあまり聞かなくなりました。

競争が煮詰まってスプレッドも狭くなり、もはやペイしないのでしょう。

なお、インターバンク市場でのカバー取引を実施できるかは、ライセンスを受けている地域も関係しています。日、米、EU、シンガポール、豪州等の信用ある地域と異なり、オフショアFX業者では、近年ではインターバンクでカバー取引をすること自体が難しくなっているとされます。

このあたりは、CSR(共通報告基準)の導入による国際的な税務当局の情報把握の強化や、FATFによる国際的な反マネーロンダリング及びテロ資金供与対策の防止とパラレルな話です。

世界的に、国際間の資金移動や金融ビジネス自体が年々難しくなっています。

21世紀ノスタルジア

2000年代半ば頃まで、香港やシンガポールのメジャーな商業銀行においても、本邦居住者が一時渡航やインターネットバンキングで、口座開設をすることが可能でした。

その時代には、ラブアン等に登記された無登録FX業者に居住者を自動売買等の取引につき、合理的に考えられない利回りを標榜しつつ、MLM・訪問販売等で誘引して、IB(イントロデューシング・ブローカー)として、香港・シンガポールにおける銀行口座に報酬を滞留させ、実質的に内国源泉所得にであるにもかかわらず、所得税又は法人税を納税しない、原始的な脱税スキームが大手を振っていました。

最近では、よほどの上客でないと新規で口座を開けないことはもちろん、既存の不稼働口座も順次クローズされて使えなくなっています。スイスやリュクスでも概ね状況は同じと聞きます。

また、登場当初は事実上規制の外側にあったpaypalやNeteller等の新興サービスも、本邦で登録するか撤退するかで、ほぼ規制の枠組みに取り込まれました。

とはいえ、外国業者の金融商品取引法の適用に関しては、外国銀行や外国証券会社等の伝統的業態に対する規制がデリバティブ業者等の他の業態に比べて緩やかです。

これは、主にインターネットの発展により、個人レベルでのクロスボーダー取引が増加したことを背景とした規制強化により、伝統的な業態よりも新興業態のほうがより厳しく取り締まりを受けているという時代性が影響しているとみられます。

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