行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

特定商取引法に基づく交付書面の電子化

2023/02/25

このページの目次
特商法の概略規制対象イメージ金融商品取引業と特商法有価証券自己募集と特商法特商法の書面交付義務と電子契約の関係

特商法の概略

特定商取引に関する法律(通称「特商法」)は、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘因販売取引、通信販売及び訪問購入などの特定の商取引の形態について、勧誘や説明に関するルールを定めた消費者庁(同庁発足時に経済産業省から移管。)が所管する法令です。

特商法は、タイトルだけでは何を規制する法律かわかりにくく、知名度が高い割に、規制対象となる業界の関係者以外には、その内容に関して詳しく知られていない特徴がある気がします。

他方で、訪販、エステ、美容、連鎖(MLM)などの一部の業界では、やっていいこと悪いことを決める、ほとんど憲法に近いような法律でもあります。

規制対象イメージ

「特商法」よりも、改正前の名称である「訪問販売法」(訪問販売等に関する法律)のほうが、具体的なイメージがはっきりします。蛇足ながら、犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)よりも、同法の改正前の名称である本人確認法(金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律)のほうが何のための法律なのか分かりやすいのとやや似ています。

網を広げすぎるとイメージがぼやけるということかと思います。本当のところは、「揉めやすい商売規制法(仮)」という名称にすればもっとわかりやすくなりますが、実際はそうもいきません。

金融商品取引業と特商法

特商法は、金融商品取引業者等や、適格機関投資家等特例業務届出者海外投資家等特例業務届出者等の、いわゆる金融ライセンスを保有する事業者の金融商品取引業務に関しては、適用されません(特定商取引に関する法律施行令別表2第5号)。

そのため金融商品取引業者等は、サービスや申込導線の構築において、同法を考慮する必要はありません。

投資助言・代理業者で、webサイトに特定商取引法に基づく表示と称して、通信販売業者に課せられる表示を、投資助言業務に関して行っている例を散見します。しかしこれは、法令理解の誤りであり、金融商品取引業務に関しては、特商法に基づく表示は不要です。

投資助言・代理業や電子申込型電子募集取扱業務においては、クーリングオフ制度は存在していますが、このクーリングオフは、特商法に基づく契約の申込みの撤回等ではなく、金融商品取引法に基づく独自のクーリングオフであり、特商法は関係ありません。

かつて、適格機関投資家等特例業務届出者には、特商法の適用があるとされ(国民生活センターのリリース)、クーリングオフや書面交付義務を負っていましたが、その後の法改正で明示的に適格機関投資家等特例業務届出者には特商法の適用がないことが示されています。

そのため、証券コンプライアンス実務では、特商法の存在感はほぼ皆無です。また、暗号資産交換業者や前払式支払手段発行者等の資金決済法関連業務や金融サービス仲介業等もこれと同様です。

有価証券自己募集と特商法

他方、金融商品取引業等の登録を受けずに、有価証券等の自己募集を行う事業者にとっては、金融商品取引業者の場合と異なり、特商法は検討が必要な法令となります。

平成28年の特定商取引法の改正で、指定権利制が特定権利制に改正されたことで、従来、規制の対象外であった、社債その他の金銭債権、株式会社の株式,合同会社,合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するものに関しても、特定商取引法が及ぶこととなりました。

よって、これらの有価証券等を自己私募又は自己募集する事業者で、特商法の規制対象となる販売態様にて取得勧誘を行う場合には、書面交付義務やクーリングオフ等の特定商取引法に基づく行為規制の規律に服することになります。

なお、信託受益権及び外国信託受益権を除く有価証券について、業として自己私募又は自己募集で取得させる行為を行う事業者は、無登録であっても、特商法に加え、金融サービスの提供に関する法律に基づき、金融商品販売業者等となりますので、同じく同法の規律にも服する必要がありますので注意が必要です。

特商法の書面交付義務と電子契約の関係

これらの有価証券の自己私募又は自己募集において、訪問販売や電話勧誘販売に該当するにもかかわらず、電子契約等と称してオンラインで投資者との契約を締結し、また概要書面や契約書面をPDF等により電磁的に交付している事業者を散見します。

これは、書面不交付に該当し、6カ月以下の懲役又は100万円以下の罰金又は又はこれを併科する罰則があります。特商法の恐ろしいところは、警察が立件の手がかりとして、まずは形式犯である特商法違反で逮捕をする場合があるので、上記のような勘違いによる電子化でも、本当に逮捕される可能性があることです。

令和3年の特定商取引法・預託法の改正において、契約書面等の交付に代えて、購入者等の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができるものとすることに係る改正規定が置かれたことを受け、消費者庁に設置された「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」において、契約書面等の電子化に関して議論が進められてきました。

令和4年10月6日付で同検討会から発表された「報告書」では、要件面でかなり厳しい承諾の手続きが定められており、事業者や報道機関からは落胆する声も聞かれます。

「承諾取得については、単に口頭やチェックボックス等の簡便な方法による了解ではなく、自筆署名や重要事項について理解の上で必要事項を入力する等、消費者の自覚が促され、記録が残る方法とすべきではないか」「書面並みの一覧性(=面積)を有する形で交付書面と同様の内容について表示可能な機器を、消費者自らが通常使用できるものとして有すること」等の要件が示されています。

登録制度等により事業者の質がある程度担保された金融商品取引業等と異なり、特商法の規制する分野は、それだけ消費者保護の必要性が高い業界なのだと思います。また、当事務所の関係する手続分野ではないので、消費者行政に口出しするつもりはありません。

しかし、後者の要件に関しては、スマートフォン社会でこれを厳密に求めることは、事実上、制度廃用に近い結果となる可能性があると考えられます。有価証券等の自己募集又は自己私募を行う事業者は、引き続き紙での書面交付義務が原則となる状況が続きそうな雰囲気となっています。

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