行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

証券取引等監視委員会による業務の禁止及び停止申し立て

2022/07/01

証券取引等監視委員会の発表によると、令和4年6月28日、同委員会はイベント企画会社と同社の代表取締役に対し、金融商品取引法に基づく業務の禁止と停止を命じるよう東京地裁に申し立てました。

同申し立ての内容は、以下のようにオフショア積立保険(集団投資スキーム)の販売、社債の取扱い自動売買の海外FXの媒介、公募有価証券の無届募集と、金融商品取引法違反のいわば役満の内容です。

ア 無登録で、金商法第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利について、募集又は私募の取扱いを業として行うこと(詳細は下記2.⑴ア)
イ 無登録で、店頭デリバティブ取引(金商法第2条第22項第1号に掲げる取引に限る。)の媒介を業として行うこと(詳細は下記2.⑴イ)
ウ 無登録で、社債の募集又は私募の取扱いを業として行うこと(詳細は下記2.⑴ウ)
エ 有価証券届出書を提出することなく社債の募集を行い、届出の効力発生前にこれを取得させること(詳細は下記2.⑵)

証券取引等監視委員会HPより引用

証券取引等監視委員会は、金融商品取引法第192条で無登録業者や無届募集者に対して、こうした裁判所に業務の禁止及び停止申し立てをする権限を有しています。この権限は、かつては抜かずの刀、伝家の宝刀と呼ばれていましたが、現代では大規模な無登録業者に対しては積極的に活用されています。

今回も、同条文が活用された形になりました。こうした申立ての事案では、通常、先行して証券取引等監視委員会の臨店検査が実施される場合が多くなっています。証券取引等監視委員会は、無登録業者に対する立ち入り検査権限を有しているためです。

また、悪質な事案では、申し立てと別途、検察庁に対する刑事告発がなされる場合があります。すべての事案で逮捕者が出るわけではありませんが、とくに、行政当局の警告等を無視して無登録営業を執拗に行った事案では、刑事事件につながることが多くなっています。

(裁判所の禁止又は停止命令)
第百九十二条 裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、当該各号に定める行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
一 緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であるとき この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為
二 第二条第二項第五号若しくは第六号に掲げる権利又は同項第七号に掲げる権利(同項第五号又は第六号に掲げる権利と同様の経済的性質を有するものとして政令で定める権利に限る。)に関し出資され、又は拠出された金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行われる事業に係る業務執行が著しく適正を欠き、かつ、現に投資者の利益が著しく害されており、又は害されることが明白である場合において、投資者の損害の拡大を防止する緊急の必要があるとき これらの権利に係る同条第八項第七号から第九号までに掲げる行為
2 裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の事件は、被申立人の住所地又は第一項に規定する行為が行われ、若しくは行われようとする地の地方裁判所の管轄とする。
4 第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の定めるところによる。

金融商品取引法第192条

なお、今回の申し立てでは、証券取引等監視委員会は、「既存会員からの紹介等により集まった一般投資家を対象としたオンライン形式のセミナーやインターネット上の音声プラットフォームへの配信等を通じて、個別の資産形成に係る無料コンサルティングに案内し、そのコンサルティングの機会等を利用して、当該マネースクールに勧誘していました。」「その商品概要や利点等を解説する動画を会員に視聴させたり、説明資料を用いて商品の特徴や利点等を説明したりするなどの方法により、当該商品への出資の勧誘を行い、出資を希望した会員に対して契約締結やその後の事務手続に関するサポートを行っていた。」などとしています。

コロナ時代の利殖商法の特徴

こうした手法での利殖商品の販売は、非常に現代的であり注目されます。かつては、投資型の悪徳商法はMLM、訪問販売、テレアポ、キャッチ等の方法、すなわち対面でのセールスを前提とするものが主流で、非対面で悪徳商法を手掛ける業者は振込詐欺類似の者を除いてごく限られていました。

しかしながら、近年はオンラインサロン会員等として予め顧客を登録制としたうえで、動画配信やweb会議等で利殖商品を比較的若年層に販売するという形態が増加しています。

こうした流れの延長線上に今回の事案も存在しているといえます。

善悪のグラデーション

一般に、こうした事案では、商品提供側も金融商品取引業に関する職務的知識経験が薄く、法令違反の認識はあったとしても、商品そのものへの詐欺的悪意は持っていないケースもあります。

また、これと経済的には似たような業態でも、求められる一定の登録等を経て業務を行っていたり、または収益不動産やNFTなどの金融商品取引業登録がなくても販売できる商品に絞って適法に業務を行っている問題のない事業者も多数あります。

そのため、こうした会員制投資クラブ業態の善悪のグラデーションは段階的です。実際、会員、投資家側の消費者被害意識もあまり高くないケースが多く見られます。

もちろん、ほぼ完全に実態のない仮想通貨を高額で販売したり、確定利回りや合理的範囲を超える異常な利回りを謳うポンジスキームとしかいいようのない悪質性の強い事案も多々あるのは事実ですが、そうした事案は、昔ながらの対面型営業の事業者により多い印象はあります。

当然ながら、だからといって無登録営業を大目に見ろという話には全くならないのですが、近年の無登録営業の手法が変わってきているという点は、規制、取締の実務上は注目すべき傾向だと思います。

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