行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

暗号資産関連経済事件の摘発

2021/11/14

暗号資産関連の経済事件の摘発が相次いでいます。

11月10日には、高配当を得られると謳い、無登録で暗号資産(仮想通貨)ビットコインでの出資を勧誘したなどとして、警視庁生活経済課が、金融商品取引法違反(無登録営業)容疑で、投資グループの運営に関わっていた会社役員ら7人を逮捕したと報じられました。被害額は約650億円相当に上るとしており、暗号資産での出資を摘発したのは全国初と報じられています。

また、報道によれば、警視庁は9月に、仮想通貨「ワールドフレンドシップコイン」を無登録で販売したとして、出資者から計約8億7000万円を集めていたとされる会社の元代表ら計7人を資金決済法違反の疑いで摘発したほか、11月には大阪府警が、実際には価値のない独自の仮想通貨への投資を持ち掛け仮想通貨などをだまし取ったとして、男女6人を詐欺容疑で逮捕したとされています。

無登録営業の取締まり

2017年のいわゆる仮想通貨バブル当初は、暗号資産に関連する法令の未整備や、ビットコインを始めとする暗号資産価格の急激な上昇もあり、詐欺罪、資金決済法違反や金融商品取引法違反で立件される例はほとんどありませんでした。しかしながら、このところ、暗号資産関連の経済事件が立て続けに立件されていることで、急速に流れが変わってきました。

法令の未整備に関して言えば、金融商品取引法のファンド規制(金融商品取引法第2条第2項第5号及び第6項)では、金銭で出資金を受け入れる場合、規制対象になり、第二種金融商品取引業に登録をしなければいけません。しかしながら、暗号資産で出資金を受け入れる場合には、かつては、ファンド規制の対象外となり、暗号資産で出資を受け入れる場合には、登録許認可なしで自由にファンドを販売、組成することができるという、法律の抜け穴がありました。

これは、仮想通貨バブル当時から、早々に法令の不備として問題になりました。そのため、令和元年の金融商品取引法改正で、顧客が金銭に代えて暗号資産により出資・拠出するファンド(いわゆる集団投資スキーム持分)に関しては、ビットコイン等の暗号資産も、金銭に準ずるものとして扱い規制対象とすることになりました。

今回の摘発は、令和元年金融商品取引法改正があったからこそ実現したといえます。

ちなみに、財務局・金融庁は金融商品取引法違反(無登録営業)に関しては、専門の部署を設けて(関東財務局証券監督第2課)監視を行っているものの、暗号資産交換業の無登録営業に対しては、金融商品取引業の無登録営業ほどに綿密なモニタリングは行っておらず、暗号資産交換業の無登録営業への警告の件数は、金融商品取引業の無登録営業への警告件数に比べると、大幅に少なくなっています。

詐欺的取引業者の流れ

暗号資産の急激な価格上昇が、なぜ詐欺や金融商品取引法違反での立件を妨げていたかというと、いわゆる仮想通貨バブルが詐欺業者を想定外に儲けさせ、消費者被害を表面化させずに延命させる例が多かったからです。

かつて仮想通貨界隈は「オタクと輩」しかいないと揶揄されていましたが、これは必ずしも的外れな指摘ではありません。2011年施行の商品先物取引法改正により、いわゆるロコロンドン取引に商品先物取引業が必要となり、また、ロコロンドン取引を提供していた事業者には、商品先物取引業の許可が下りなかったことで、ロコロンドン取引を提供していた事業者はそれに代わる取引に流れました。

そうした、ロコロンドン取引に代わる投資商品には、二酸化炭素排出権取引や金地金取引等と並んで、仮想通貨があり、とりわけ比較的若い世代の経営者が経営する企業は、金融商品取引法等に基づく許認可登録が不要な取引として、暗号資産関連の詐欺的取引に流れる例が多く見られました。

仮想通貨バブルの神風

2010年代半ばの比較的早い時期には、消費者保護上相当に問題がある事業者が、仮想通貨関連ビジネスを多数手掛けているという状況にありました。しかし、今ではほぼ消滅した二酸化炭素排出権取引を行った事業者と違って、暗号資産関連取引を行った事業者には先見の明がありました。

それは、2017年のビットコインの急激な上昇により、詐欺的な取引が、いわば噓から出た実の状態となったからです。初めは、事実上の詐欺をするつもりだったはずが、投資家側が儲かってしまう事案がかなり出てきました。

例えば、仮想通貨バブル以前に販売された某社のオリジナル仮想通貨は、いわゆる悪徳商法の形態で販売され、それ自体はほぼ無価値に近いものでした。

しかしながら、その仮想通貨は、購入代金の何割かが、ビットコインの購入に充てられるという仕組みだったため、2017年のビットコインの価格の暴騰により、仮想通貨本体は無価値でも、裏付けとなるビットコインのおかげで、結果的には投資家が儲けることができました。この話は、業界でも語り草になっています。

正常化への道

現代では、仮想通貨バブル第二段とも言える状態にありますが、2017年と比べて市場原理は正常に働いており、総じてここまでおかしなことは生じていません。

暗号資産は、未だにグローバル・ステーブルコインや、分散型取引所等のホットな話題は存在します。しかしながら、マクロに見れば、ここからは、良くも悪くも「仮想通貨」が人々の日常に溶け込み、株式や債券等の伝統的なアセットクラスに融合していく過程となると見られています。

そうした中で、資金決済法違反や金融商品取引法違反が、法令の不備や捜査当局の知識不足を原因として、まともに立件されず、事実上何でもありで放置されてきた今までの状況は、大きな転機を迎えていると見るべきでしょう。

なお、余談ながら、世間にはアービトラージだの、裏取引だののくだらない無登録営業のポンジスキームが溢れています。個人的な感想として、詐欺で資金を集めている事業者は、その1割でも2割でも、集めた金でビットコインを買っておけば、おそらくロングスパンでは帳尻が合うのに、何故そうしないのか不思議に思っています。

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