行政書士トーラス総合法務事務所トーラス・フィナンシャルコンサルティング株式会社

東京証券取引所に対する行政処分検討

2020/10/22

10月19日の日本経済新聞は、金融庁が、東京証券取引所で発生したシステム障害を受け、東証に立ち入り検査を実施する方針を固めたと報じています。東証が金融庁の報告徴求命令に対し16日に提出した報告書を踏まえ、障害の原因や内部管理体制などについて詳しく確認するとしており、検査結果を精査したうえで業務改善命令を軸に行政処分を検討するとしています。

証券取引所は、金融商品取引法上、金融商品取引所と呼称されます。

証券会社等の金融商品取引業者や、銀行等の登録金融機関の業務においては、監督当局から報告徴求命令や臨店検査を受けたり、また、結果として業務改善命令や業務停止命令をうけることは普通に発生することです。

そのため実務上、コンプライアンス業務に携わる者は常に行政処分が頭の片隅にあります。

他方で、金融商品取引所に報告徴求命令が発出されたり、業務改善等の行政処分が行われるという話は、あまり聞きません。実際には、報告徴求命令くらいはよくあることなのかもしれませんが、市中の金融関連事業者にとっては、証券取引所は、金融庁と同じくらい当局に近い「お上」のような存在と認識されています。

しかしながら、東京証券取引所等の金融商品取引所も、実は、市中の金融機関と同じく、金融庁に監督されている事業者です。こうしたことがあると、その金融規制構造を改めて意識する機会になります。

金融商品取引法の条文を見ると、報告徴求命令は、金融商品取引法第151条に基づき出されるもののようです。また、立ち入り検査の権限も、同条に基づきます。「金融商品取引所の定款、業務規程、受託契約準則その他の規則若しくは取引の慣行又は業務の運営若しくは財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」には、金融庁は同法第153条の業務改善命令を発することができるとされています。

さらにいえば、同法152条第1項第1号では、一定の場合に、金融商品取引所に対して「一年以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命じ、その業務の変更若しくはその業務の一部の禁止を命じ、その役員の解任を命じ、又は定款その他の規則に定める必要な措置をとることを命ずる」ことができるとしているます。

また、同第2号も一定の場合には「十日以内の期間を定めて取引所金融商品市場における有価証券の売買若しくは市場デリバティブ取引の全部若しくは一部の停止を命じ、又は閣議の決定を経て、三月以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命ずること。」が可能としています。

条文を読む限り、今回の場合、これらの要件に該当するかは微妙だと思います。

とはいえ、制度上は金融庁は金融商品取引所に対して、取引停止の行政処分を命ずることができるということになります。とはいえ、現実的にはシステムダウンによる取引停止に対する行政処分が、業務停止命令というのは笑い話にもなりませんので、考えられないでしょう。

(報告の徴取及び検査)
第百五十一条 内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、金融商品取引所、その子会社、その商品取引参加者(第百十二条第二項又は第百十三条第二項の規定により取引資格を与えられた者をいう。以下同じ。)、当該金融商品取引所に上場されている有価証券の発行者又は当該金融商品取引所から業務の委託を受けた者(その者から委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。以下この条において同じ。)に対し当該金融商品取引所、当該子会社若しくは当該商品取引参加者の業務(当該商品取引参加者にあつては、その行う商品関連市場デリバティブ取引に関するものに限る。)若しくは財産に関し参考となるべき報告若しくは資料の提出を命じ、又は当該職員に当該金融商品取引所、当該子会社、当該商品取引参加者若しくは当該金融商品取引所から業務の委託を受けた者の業務(当該商品取引参加者にあつては、その行う商品関連市場デリバティブ取引に関するものに限る。)若しくは財産の状況若しくは帳簿書類その他の物件の検査(当該子会社又は当該金融商品取引所から業務の委託を受けた者にあつては、当該金融商品取引所の業務又は財産に関し必要な検査に限る。)をさせることができる。

(金融商品取引所に対する監督上の処分)
第百五十二条 内閣総理大臣は、金融商品取引所が次の各号のいずれかに該当する場合において、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、当該各号に定める処分をすることができる。
一 法令、法令に基づく行政官庁の処分、第八十七条の二第一項ただし書若しくは第八十七条の三第一項ただし書の認可に付した条件若しくは定款その他の規則に違反したとき、又は会員等若しくは当該金融商品取引所に上場されている有価証券の発行者が法令、法令に基づく行政官庁の処分若しくは当該金融商品取引所の定款、業務規程、受託契約準則その他の規則(以下この号において「法令等」という。)に違反し、若しくは定款その他の規則に定める取引の信義則に背反する行為をしたにもかかわらず、これらの者に対し法令等若しくは当該取引の信義則を遵守させるために、この法律、この法律に基づく命令若しくは定款その他の規則により認められた権能を行使せずその他必要な措置をとることを怠つたとき 第八十条第一項の免許を取り消し、一年以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命じ、その業務の変更若しくはその業務の一部の禁止を命じ、その役員の解任を命じ、又は定款その他の規則に定める必要な措置をとることを命ずること。
二 金融商品取引所の行為又はその開設する取引所金融商品市場における有価証券の売買若しくは市場デリバティブ取引の状況が公益又は投資者保護のため有害であると認めるとき 十日以内の期間を定めて取引所金融商品市場における有価証券の売買若しくは市場デリバティブ取引の全部若しくは一部の停止を命じ、又は閣議の決定を経て、三月以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命ずること。
三 第八十七条の二第一項ただし書の規定により認可を受けて行う業務が当該金融商品取引所の業務の公共性に対する信頼を損なうおそれ若しくは金融商品市場開設等業務(取引所金融商品市場の開設及びこれに附帯する業務をいう。次号において同じ。)の健全かつ適切な運営を損なうおそれがあると認めるとき、又は同項ただし書の認可に付した条件に違反したとき 同項ただし書の認可を取り消すこと。
四 第八十七条の三第一項ただし書の規定により認可を受けて保有する子会社の行為が当該金融商品取引所の業務の公共性に対する信頼を損なうおそれ若しくは当該金融商品取引所の金融商品市場開設等業務の健全かつ適切な運営を損なうおそれがあると認めるとき、又は同項ただし書の認可に付した条件に違反したとき 同項ただし書の認可を取り消すこと。
2 内閣総理大臣は、前項第一号の規定により業務の全部若しくは一部の停止、業務の変更若しくは業務の一部の禁止を命じ、又は定款その他の規則に定める必要な措置をとることを命じようとするときは、行政手続法第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。
3 第一項第二号の規定による処分については、審査請求をすることができない。

(業務改善命令)
第百五十三条 内閣総理大臣は、金融商品取引所の定款、業務規程、受託契約準則その他の規則若しくは取引の慣行又は業務の運営若しくは財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引所に対し、定款、業務規程、受託契約準則その他の規則又は取引の慣行の変更その他監督上必要な措置をとることを命ずることができる。この場合においては、行政手続法第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。

金融商品取引法

 

 

お気軽にお問い合わせください

お電話無料相談窓口 03-6434-7184 受付時間 : 9:00 -17:00  営業曜日 : 月〜金(除祝日)
メール無料相談窓口メールでのご相談はこちらをクリック